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第四章 消えた喫茶店⑦
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凛は、少しだけ息を吸った。
「……もし」
自分でも驚くくらい、大きな声を出していた。
「もし、ですけど」
女性が顔を上げる。
「一日だけでも、さくらカフェを、もう一度開いてみませんか」
「え?」
横で、由梨が「出た」と言わんばかりに眉を上げる。
「り、りん!? いきなりハードル高くない!?」
「だ、だって……」
凛は、自分でも驚いていた。
何を言っているんだろう、自分は。
でも、言葉は止まらない。
「このまま『幽霊チラシでしたすみません』で終わらせるの、なんかイヤで……」
自分でも言いながら、足が震えているのが分かる。
けれど、言ってしまった言葉は戻せない。
女性は、じっと凛を見つめていた。
その目には、驚きと――少しの戸惑いが浮かんでいた。
「場所なら、集会所があります」
凛は、一気に言葉を続けた。
「団地の掲示板でちゃんと告知すれば、勘違いも減ると思います」
「集会所カフェ……」
女性は、ぽつりと呟いた。
その声には、どこか夢を見ているような響きがあった。
「そんなこと、できるのかしら」
「できるように、します」
凛が、いつになく真剣な目で言う。
団地の管理人見習いは、「できないことをできるようにする」係なのだ。
……と、最近うすうす気づいてきた。
由梨が、小さくため息をついた。
「仕方ないなぁ……」
「ご、ごめん、勝手に話進めちゃって」
凛が慌てて振り返ると、由梨は笑っていた。
「違うよ。言ってくれて、ありがと」
由梨は、凛の肩を軽く叩いた。
「正直、あたしも、もう一回食べてみたいもん。さくらカフェのホットケーキ」
「いつ食べたの?」
「小さい頃。……あたし、たぶん、あのお店で一番うるさかった客だと思う」
女性が、ぱちりと目をまたたいた。
「もしかして……いつも弟くんと一緒に来てた、あの子?」
「覚えてます?」
「覚えてるわよ。小さいのに、いつもナポリタン大盛りを完食してくれた子」
「うわ、黒歴史……!」
由梨が頭を抱える。
凛は、思わず吹き出した。
その瞬間、空気が少しだけ軽くなった気がした。
「でもね、すごく嬉しかったのよ。おいしそうに食べてくれるんだもの」
女性は、笑った。
それは、きっと――。
この人の人生の中の、ひとつの「光った瞬間」なのだろう。
閉店も、後悔も、全部ひっくるめて。
「やってよかった」と思えるようになれたら――その日はきっと、今より少し楽になる。
女性は、しばらくチラシを見つめ、指先でその縁をなぞり――。
そして、ぽつりと言った。
「……一日だけ、やってみようかしら」
その声は、小さかった。
けれど、確かだった。
「身体もそんなに昔みたいには動かないし、メニューもきっと減っちゃうけど」
「十分です」
凛は即答した。
女性は、少し驚いたように凛を見た。
そして――微笑んだ。
「じゃあ、日程と場所、調整しないとね」
由梨が、すでにメモ帳を取り出している。
手が早い。
「お千代さん、集会所、空いてます?」
振り返ると、いつの間にかお千代がクリーニング店の入口に立っていた。
どうせ最初から全部聞いていたのだろう。
「管理人特権でなんとかするわ」
お千代が、さらっと言う。
「その代わり、準備はあんたたち二人で頑張りなさい」
「ですよねー!」
凛と由梨の声がハモった。
「……もし」
自分でも驚くくらい、大きな声を出していた。
「もし、ですけど」
女性が顔を上げる。
「一日だけでも、さくらカフェを、もう一度開いてみませんか」
「え?」
横で、由梨が「出た」と言わんばかりに眉を上げる。
「り、りん!? いきなりハードル高くない!?」
「だ、だって……」
凛は、自分でも驚いていた。
何を言っているんだろう、自分は。
でも、言葉は止まらない。
「このまま『幽霊チラシでしたすみません』で終わらせるの、なんかイヤで……」
自分でも言いながら、足が震えているのが分かる。
けれど、言ってしまった言葉は戻せない。
女性は、じっと凛を見つめていた。
その目には、驚きと――少しの戸惑いが浮かんでいた。
「場所なら、集会所があります」
凛は、一気に言葉を続けた。
「団地の掲示板でちゃんと告知すれば、勘違いも減ると思います」
「集会所カフェ……」
女性は、ぽつりと呟いた。
その声には、どこか夢を見ているような響きがあった。
「そんなこと、できるのかしら」
「できるように、します」
凛が、いつになく真剣な目で言う。
団地の管理人見習いは、「できないことをできるようにする」係なのだ。
……と、最近うすうす気づいてきた。
由梨が、小さくため息をついた。
「仕方ないなぁ……」
「ご、ごめん、勝手に話進めちゃって」
凛が慌てて振り返ると、由梨は笑っていた。
「違うよ。言ってくれて、ありがと」
由梨は、凛の肩を軽く叩いた。
「正直、あたしも、もう一回食べてみたいもん。さくらカフェのホットケーキ」
「いつ食べたの?」
「小さい頃。……あたし、たぶん、あのお店で一番うるさかった客だと思う」
女性が、ぱちりと目をまたたいた。
「もしかして……いつも弟くんと一緒に来てた、あの子?」
「覚えてます?」
「覚えてるわよ。小さいのに、いつもナポリタン大盛りを完食してくれた子」
「うわ、黒歴史……!」
由梨が頭を抱える。
凛は、思わず吹き出した。
その瞬間、空気が少しだけ軽くなった気がした。
「でもね、すごく嬉しかったのよ。おいしそうに食べてくれるんだもの」
女性は、笑った。
それは、きっと――。
この人の人生の中の、ひとつの「光った瞬間」なのだろう。
閉店も、後悔も、全部ひっくるめて。
「やってよかった」と思えるようになれたら――その日はきっと、今より少し楽になる。
女性は、しばらくチラシを見つめ、指先でその縁をなぞり――。
そして、ぽつりと言った。
「……一日だけ、やってみようかしら」
その声は、小さかった。
けれど、確かだった。
「身体もそんなに昔みたいには動かないし、メニューもきっと減っちゃうけど」
「十分です」
凛は即答した。
女性は、少し驚いたように凛を見た。
そして――微笑んだ。
「じゃあ、日程と場所、調整しないとね」
由梨が、すでにメモ帳を取り出している。
手が早い。
「お千代さん、集会所、空いてます?」
振り返ると、いつの間にかお千代がクリーニング店の入口に立っていた。
どうせ最初から全部聞いていたのだろう。
「管理人特権でなんとかするわ」
お千代が、さらっと言う。
「その代わり、準備はあんたたち二人で頑張りなさい」
「ですよねー!」
凛と由梨の声がハモった。
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