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第三話「進化する生命」
第二章「地底世界の王」・③
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※ ※ ※
「ハヤトさん・・・あの白いのって、船・・・ですか・・・?」
「そうだよ! さおりちゃんのお父さんが乗ってたのよりもっと小さいけどね」
「船にも・・・色々あるんですね・・・」
そう呟くクロの視線は、先程からずっと、海だけに夢中だった。
初めて「すかドリ」の遊具を見た時も、テレビを観ている時もそうだけど、クロは好奇心旺盛な上に、集中力がすごい。
おまけに学習能力も高いから、今でこそ中身は子どもだけど、いずれは僕なんかよりずっと頭が良くなるんじゃないか・・・なんて予感もしている。
「あの飛んでいるのが・・・カモメ・・・でしょうか? テレビで観ました・・・」
「う~ん半分正解! 多分あれはウミネコだね」
「ウミネコ・・・? 初めて、聞きました・・・」
「カモメの仲間なんだ。カモメは冬にしかいないから、この時期にいるのはウミネコだね」
外に出ても(そこまで)おかしくない格好に着替えたクロを連れて──僕たちは、初めて出会った砂浜に来ていた。
道中、すれ違う人から必死に身を隠そうと僕の後ろに隠れながら──もちろん前から見たら思い切りはみ出てたとは思うけど──
何とか辿り着いた後・・・ぼんやりと白い地べたに座って、並んで海を眺めていた。
気付けば影も長くなっている。今日は何だか色々あったなぁ。
「・・・ハヤトさん」
「うん?」
名前を呼ばれて向き直ると、目が合った。
・・・落ち着いた時にこんなに近くで見つめ合った事なんてなかったから、思わずドキッとしてしまった。
その中身が体長50メートルの怪獣で、シルフィが力を封印した偽りの身体だとは知っていても・・・まつ毛長いなぁ、鼻高いなぁ・・・なんて、間抜けな感想を抱いてしまう。
「・・・ありがとうございます」
「えっ?」
・・・・・・さっきから僕、まともな返事ができてないな。
「えっと・・・嬉しい事をしてもらえたら・・・ありがとう・・・ですよね? 今日は・・・おさんぽしてもらえたお陰で・・・ウミネコを、初めて知りました・・・嬉しかったので・・・ハヤトさんに、ありがとうございます・・・です」
そういって、クロが薄く微笑む。眼鏡の奥で、持ち上がった頬が橙の瞳を半分隠した。
「・・・そっか。どういたしまして。今度からは、もっと色んな所に行ってみようか」
「! はい・・・! おさんぽ、たくさんしたい・・・です・・・!」
次は、目をキラキラ輝かせて身を乗り出してきた。
クロは笑顔が増えただけじゃなくて、表情豊かになって来た気がする。
泣き虫なのは変わらないけど・・・。
そんな事を思っていたら、ぎゅっと結んだ拳はそのまま、彼女は再び海の方を向く。
「色んな事を・・・もっと知ったら・・・いつか私の記憶も・・・戻るかも・・・知れないです・・・!」
僕が思っている以上に、彼女の意志は強いようだった。
自分の過去に──いや、それ以上に自分自身に、向き合おうとする意志が・・・。
「それじゃあ・・・何か、新しく思い出したりした?」
試しに聞いてみると、笑顔が曇り、ふるふると首を振られる。
「そっか・・・初めて会ったここに来たら、何か思い出すかなぁと思ったんだけど・・・」
「ごめんなさい・・・ハヤトさんの顔を、何となく・・・見た・・・のは覚えてるんですけど・・・私がきちんと覚えてるのは・・・倉庫の中で・・・起きた時からで・・・」
謝る必要なんて──と言いかけて、ふと、同じようなセリフを最近聞いたのを思い出す。
・・・・・・あぁ・・・そうか・・・。さっきの桐生さんは、きっとこんな思いをしてたんだ。
力になりたいけど、結果が伴わなくて──
誰の責任でもないけど、自分の無力感だけが心にのしかかって──
・・・・・・本当に、悪いことをしちゃったな・・・僕・・・・・・。
「あっ・・・違いますよね・・・! ごめんなさい、じゃなくて・・・ありがとう、ですよね・・・!」
「ッ!」
クロが何気なく言った一言に、胸を打たれる。
「ハヤトさんが・・・私のために、してくれたから・・・ありがとう、です・・・!」
・・・どうして僕・・・そんな簡単で・・・一番必要だった言葉が、出てこなかったんだろう。
桐生さんと二人で・・・めちゃくちゃ緊張してたのは事実だけど・・・
たった一つショックだっただけで、頭が真っ白になっちゃって───
「・・・・・・あぁ~~~~ッ‼」
「ひぅっ⁉」
勢いよく立ち上がった。驚いたクロが小さな悲鳴を上げる。
言葉にならない声を上げながら波打ち際まで走ると、思い切り息を吸って──
「僕のぉ───っ‼ バカヤロぉ───っっ‼」
大声で、海に叫んだ。きっとクロはぽかんとしてるだろう。
「クロ──っ! ありがとぉ──っ!」
「えっ⁉ あ、はい・・・!」
ついでにもう一つ叫んでおいた。スッキリしたところで、元いた場所に戻る。
『ふふっ・・・それやってるハヤト、久々だね?』
戻りしな、そんな声が頭の中に響いた。
あぁそっか。自分ひとりでやる儀式だったけど、この妖精には見られてたのか。
・・・そう思うと、途端に昔の事が恥ずかしくなってきた・・・っと、だめだめ! 今は気持ちをリセットしたんだから!
ぽかんとしているクロの隣に腰掛けて、顔も見ずに話し始める。
「今みたいに・・・自分の事、嫌なやつだー! って思ったら、ここでああするようにしてるんだ。僕・・・誰かに愚痴ったりするの、苦手でさ」
クロが聞いてくれてる雰囲気を感じて、話を続けた。
・・・クロには、こうして胸の裡を打ち明けたり出来るんだな、と思いながら。
「実はさっきね・・・僕も失くしちゃった記憶を取り戻そうと思って・・・昔の僕を知ってるかも知れない人に会いに行ったんだ」
「昔の・・・ハヤトさん・・・」
僕も知らない僕のこと。
たった1年分覚えていないだけなのに、どれだけ苦しかったか・・・クロにはきっと、それが伝わっていると思う。
「結局、何も思い出せなくて・・・いつも見てる夢の話までしたけど、それも予想と違って向こうには心当たりがなくて・・・へこんじゃったんだ、僕。明るいのだけが取り柄なのに、さ」
あはは、と笑ってみせるけど、クロはもう泣きそうだった。
だから──というわけじゃなく、あくまで心から、自然に浮かんだ言葉を口にする。
「でもたった今、クロのおかげで気付けたんだ! へこんでる暇なんかないぞ、って!」
今度は僕が、握り拳を作る番だった。
「当時の僕はどうだったとか、二人でどんな時間を過ごしたのかとか・・・その人に色々聞いたり、もっとやれる事があったんだよなぁ・・・って。自分を守るためのごめんなさいばっかりで、ありがとうの一つも言えなかったんだ! 十年前のともだちに会いに来てくれたばかりか・・・失くした記憶を思い出す手伝いまでしてくれたのに・・・・・・」
「ハヤトさん・・・」
「・・・・・・僕は、半端だったんだ。だから決めたよ! クロみたいに、自分の過去にきちんと向き合う覚悟を持って──前に進まなきゃって!」
「前に、進む・・・」
「うん。クロが前に言ってたように、怖くても、痛くても、苦しくても・・・自分の事を知るために、ね!」
「っ! ・・・はいっ!」
今一度、目が合う。沈みかけた太陽に照らされて、クロの瞳がキラリと光ったように見えた。
『・・・ボクは反対だなぁ~。痛いのも苦しいのもヤだも~ん』
と、綺麗に締まりそうな所でまた余計な一言が聴こえてくる。
「あのねぇ・・・せっかく人が頑張ろうとしてるのにこのふわふわ妖精ときたら・・・」
『・・・・・・今が良いなら・・・それで良いと思うけどなぁ、ボクは』
口をとがらせて、目を逸らされてしまう。
・・・時々、シルフィがわからなくなる。いや、わかってる事の方が少ないんだけど。
・・・シルフィは、僕の過去を知っているんだろうか。
知っているのに教えてくれないなら・・・それはどうしてなんだろう。
まぁきっと、彼女なりの理由が・・・いや、「使命」があるんだろうな、とは思っている。
それでも──シルフィが何も教えてくれなくたって、諦めるわけにはいかない。
クロを見習って、少しでも前へ進まなくちゃ!
そのためにも、桐生さんにもう一度会って──まず謝って──それから──ってしまった!
・・・桐生さんの連絡先聞くの忘れてた・・・!
「や、やっちゃった・・・どうしよう・・・・・・」
「?」
自分の至らなさに、目眩すら覚える。どうしたものかと知恵を絞ろうとした所で、スマートフォンの振動が、SNSアプリの通知を報せた。
「ん? ・・・ハルからだ」
グループに、「すげぇ動画上がってるぞ!」と動画サイトのURLが貼られていた。
動画のタイトルは───「【ガチ動画】恐竜の生き残り⁉」。
「う、うさんくさぁ・・・」
ハルがこの手の動画に騙されて大騒ぎしては、結局何もなかった・・・というパターンは最早恒例だ。
ついでに僕あてに送ろうとしたであろうHなサイトのURLをグループに送信してしまう凡ミスも。
・・・いや、僕にとっては間違いなく親友なんだけどね・・・?
「・・・あれ?」
既読スルーは可哀想だし、なんてコメント返そうかな・・・と考えていたら、「私も今見てるけどこれはマジっぽいよ!」とみーちゃんから追加のコメントが。
彼女がノるなんて珍しい・・・そう思って、興味本位で動画のサムネイルをタップしてみる。
「ハヤトさん・・・手に持って、触っている・・・その、薄い・・・箱はなんですか・・・?」
「あぁ、これはスマートフォンって言って・・・ええっと・・・遠くの人と話したり出来るんだよ!」
「なるほど・・・! すごいです・・・! シルフィさんみたいです・・・!」
『・・・あれ? ボクいまバカにされた?』
クロの純粋さにはシルフィも勝てないのか、と思わず吹き出しそうになった所で、動画が再生される。
最初は急いでカメラを起動していたのか画面が上下に激しく揺れており、撮影者と思われる男の声も小声な上に慌てふためいているようで言葉になっていない。
しかし、ほんの数秒間だけきっちりとその「恐竜」とやらに焦点が合う。
後ろ姿だが、昔観た恐竜映画の知識だと・・・「ラプトル」だっただろうか。
「小型の恐竜」と聞くと一番に想像されるような体型で、イボイボの生えた茶色い身体に尻尾まである。
だが一番目立つのは、見るからに硬そうな黒光りする頭だ。
まるでヘルメットでも被っているようで、頭突きが得意そうなパキ・・・何とかという恐竜を彷彿とさせる。
「う~ん・・・よく出来たCGって言われるとそうとも見えるし・・・」
首を傾げた直後、突然再生が止まり、「動画が削除されました」との表示が出てくる。
「あれ・・・? ニセモノだってバレでもしたのかな?」
「・・・ハヤトさん・・・っ!」
そこで、僕の羽織ったジャケットの裾をぎゅっと掴むクロに気付いた。
「だ、大丈夫だよクロ、今のは───」
『・・・ハヤト』
頭の中で聴こえた声に、いつものからかうような響きがない事を感じ取る。
「まさか・・・」
──クロの時もそうだったけど、この間、怪獣にヘリが落とされたあの事件も──エンジンの故障が原因だったという説明があっただけで、多くは報道されなかった。
明らかに、「怪獣の存在を隠したがっている」何者かがいる。
そして・・・たった今削除されてしまったこの動画・・・アップされた時間を見ると、ほんの十分前。
そのままスマートフォンで検索をかけてみると、早くも無断でコピーしたと覚しき動画が大量にアップされていたが、そのどれもが既に削除されている。
情報の元を辿っていくと、撮影されたのは埼玉県・秩父の山の中らしい事がわかった。
「クロ、さっきの観て、嫌な感じ・・・した?」
一応、念を押してみる。深刻な表情は変わらないまま、首を縦に振られた。
『これは・・・ヒーローの出番かな~?』
・・・気を抜くとすぐおちゃらけるのがこの妖精のダメなところだ。
クロに何でもかんでも首を突っ込ませるのは気が引ける・・・
けど、このまま不安な気持ちを引きずるより・・・何が起こっているのか、一度現場を見てみた方が良いのかも知れない。
「よし! ・・・僕らに出来る事があるかはわからないけど、行ってみよう!」
「はい・・・っ!」
目で合図すると、「やれやれ」というジェスチャーが見えた後、シルフィの胸の結晶がオレンジ色の光を放ち始める。
クロと僕はどちらからともなく眼を閉じ───そして、夕暮れの砂浜から人の姿が消えた。
「ハヤトさん・・・あの白いのって、船・・・ですか・・・?」
「そうだよ! さおりちゃんのお父さんが乗ってたのよりもっと小さいけどね」
「船にも・・・色々あるんですね・・・」
そう呟くクロの視線は、先程からずっと、海だけに夢中だった。
初めて「すかドリ」の遊具を見た時も、テレビを観ている時もそうだけど、クロは好奇心旺盛な上に、集中力がすごい。
おまけに学習能力も高いから、今でこそ中身は子どもだけど、いずれは僕なんかよりずっと頭が良くなるんじゃないか・・・なんて予感もしている。
「あの飛んでいるのが・・・カモメ・・・でしょうか? テレビで観ました・・・」
「う~ん半分正解! 多分あれはウミネコだね」
「ウミネコ・・・? 初めて、聞きました・・・」
「カモメの仲間なんだ。カモメは冬にしかいないから、この時期にいるのはウミネコだね」
外に出ても(そこまで)おかしくない格好に着替えたクロを連れて──僕たちは、初めて出会った砂浜に来ていた。
道中、すれ違う人から必死に身を隠そうと僕の後ろに隠れながら──もちろん前から見たら思い切りはみ出てたとは思うけど──
何とか辿り着いた後・・・ぼんやりと白い地べたに座って、並んで海を眺めていた。
気付けば影も長くなっている。今日は何だか色々あったなぁ。
「・・・ハヤトさん」
「うん?」
名前を呼ばれて向き直ると、目が合った。
・・・落ち着いた時にこんなに近くで見つめ合った事なんてなかったから、思わずドキッとしてしまった。
その中身が体長50メートルの怪獣で、シルフィが力を封印した偽りの身体だとは知っていても・・・まつ毛長いなぁ、鼻高いなぁ・・・なんて、間抜けな感想を抱いてしまう。
「・・・ありがとうございます」
「えっ?」
・・・・・・さっきから僕、まともな返事ができてないな。
「えっと・・・嬉しい事をしてもらえたら・・・ありがとう・・・ですよね? 今日は・・・おさんぽしてもらえたお陰で・・・ウミネコを、初めて知りました・・・嬉しかったので・・・ハヤトさんに、ありがとうございます・・・です」
そういって、クロが薄く微笑む。眼鏡の奥で、持ち上がった頬が橙の瞳を半分隠した。
「・・・そっか。どういたしまして。今度からは、もっと色んな所に行ってみようか」
「! はい・・・! おさんぽ、たくさんしたい・・・です・・・!」
次は、目をキラキラ輝かせて身を乗り出してきた。
クロは笑顔が増えただけじゃなくて、表情豊かになって来た気がする。
泣き虫なのは変わらないけど・・・。
そんな事を思っていたら、ぎゅっと結んだ拳はそのまま、彼女は再び海の方を向く。
「色んな事を・・・もっと知ったら・・・いつか私の記憶も・・・戻るかも・・・知れないです・・・!」
僕が思っている以上に、彼女の意志は強いようだった。
自分の過去に──いや、それ以上に自分自身に、向き合おうとする意志が・・・。
「それじゃあ・・・何か、新しく思い出したりした?」
試しに聞いてみると、笑顔が曇り、ふるふると首を振られる。
「そっか・・・初めて会ったここに来たら、何か思い出すかなぁと思ったんだけど・・・」
「ごめんなさい・・・ハヤトさんの顔を、何となく・・・見た・・・のは覚えてるんですけど・・・私がきちんと覚えてるのは・・・倉庫の中で・・・起きた時からで・・・」
謝る必要なんて──と言いかけて、ふと、同じようなセリフを最近聞いたのを思い出す。
・・・・・・あぁ・・・そうか・・・。さっきの桐生さんは、きっとこんな思いをしてたんだ。
力になりたいけど、結果が伴わなくて──
誰の責任でもないけど、自分の無力感だけが心にのしかかって──
・・・・・・本当に、悪いことをしちゃったな・・・僕・・・・・・。
「あっ・・・違いますよね・・・! ごめんなさい、じゃなくて・・・ありがとう、ですよね・・・!」
「ッ!」
クロが何気なく言った一言に、胸を打たれる。
「ハヤトさんが・・・私のために、してくれたから・・・ありがとう、です・・・!」
・・・どうして僕・・・そんな簡単で・・・一番必要だった言葉が、出てこなかったんだろう。
桐生さんと二人で・・・めちゃくちゃ緊張してたのは事実だけど・・・
たった一つショックだっただけで、頭が真っ白になっちゃって───
「・・・・・・あぁ~~~~ッ‼」
「ひぅっ⁉」
勢いよく立ち上がった。驚いたクロが小さな悲鳴を上げる。
言葉にならない声を上げながら波打ち際まで走ると、思い切り息を吸って──
「僕のぉ───っ‼ バカヤロぉ───っっ‼」
大声で、海に叫んだ。きっとクロはぽかんとしてるだろう。
「クロ──っ! ありがとぉ──っ!」
「えっ⁉ あ、はい・・・!」
ついでにもう一つ叫んでおいた。スッキリしたところで、元いた場所に戻る。
『ふふっ・・・それやってるハヤト、久々だね?』
戻りしな、そんな声が頭の中に響いた。
あぁそっか。自分ひとりでやる儀式だったけど、この妖精には見られてたのか。
・・・そう思うと、途端に昔の事が恥ずかしくなってきた・・・っと、だめだめ! 今は気持ちをリセットしたんだから!
ぽかんとしているクロの隣に腰掛けて、顔も見ずに話し始める。
「今みたいに・・・自分の事、嫌なやつだー! って思ったら、ここでああするようにしてるんだ。僕・・・誰かに愚痴ったりするの、苦手でさ」
クロが聞いてくれてる雰囲気を感じて、話を続けた。
・・・クロには、こうして胸の裡を打ち明けたり出来るんだな、と思いながら。
「実はさっきね・・・僕も失くしちゃった記憶を取り戻そうと思って・・・昔の僕を知ってるかも知れない人に会いに行ったんだ」
「昔の・・・ハヤトさん・・・」
僕も知らない僕のこと。
たった1年分覚えていないだけなのに、どれだけ苦しかったか・・・クロにはきっと、それが伝わっていると思う。
「結局、何も思い出せなくて・・・いつも見てる夢の話までしたけど、それも予想と違って向こうには心当たりがなくて・・・へこんじゃったんだ、僕。明るいのだけが取り柄なのに、さ」
あはは、と笑ってみせるけど、クロはもう泣きそうだった。
だから──というわけじゃなく、あくまで心から、自然に浮かんだ言葉を口にする。
「でもたった今、クロのおかげで気付けたんだ! へこんでる暇なんかないぞ、って!」
今度は僕が、握り拳を作る番だった。
「当時の僕はどうだったとか、二人でどんな時間を過ごしたのかとか・・・その人に色々聞いたり、もっとやれる事があったんだよなぁ・・・って。自分を守るためのごめんなさいばっかりで、ありがとうの一つも言えなかったんだ! 十年前のともだちに会いに来てくれたばかりか・・・失くした記憶を思い出す手伝いまでしてくれたのに・・・・・・」
「ハヤトさん・・・」
「・・・・・・僕は、半端だったんだ。だから決めたよ! クロみたいに、自分の過去にきちんと向き合う覚悟を持って──前に進まなきゃって!」
「前に、進む・・・」
「うん。クロが前に言ってたように、怖くても、痛くても、苦しくても・・・自分の事を知るために、ね!」
「っ! ・・・はいっ!」
今一度、目が合う。沈みかけた太陽に照らされて、クロの瞳がキラリと光ったように見えた。
『・・・ボクは反対だなぁ~。痛いのも苦しいのもヤだも~ん』
と、綺麗に締まりそうな所でまた余計な一言が聴こえてくる。
「あのねぇ・・・せっかく人が頑張ろうとしてるのにこのふわふわ妖精ときたら・・・」
『・・・・・・今が良いなら・・・それで良いと思うけどなぁ、ボクは』
口をとがらせて、目を逸らされてしまう。
・・・時々、シルフィがわからなくなる。いや、わかってる事の方が少ないんだけど。
・・・シルフィは、僕の過去を知っているんだろうか。
知っているのに教えてくれないなら・・・それはどうしてなんだろう。
まぁきっと、彼女なりの理由が・・・いや、「使命」があるんだろうな、とは思っている。
それでも──シルフィが何も教えてくれなくたって、諦めるわけにはいかない。
クロを見習って、少しでも前へ進まなくちゃ!
そのためにも、桐生さんにもう一度会って──まず謝って──それから──ってしまった!
・・・桐生さんの連絡先聞くの忘れてた・・・!
「や、やっちゃった・・・どうしよう・・・・・・」
「?」
自分の至らなさに、目眩すら覚える。どうしたものかと知恵を絞ろうとした所で、スマートフォンの振動が、SNSアプリの通知を報せた。
「ん? ・・・ハルからだ」
グループに、「すげぇ動画上がってるぞ!」と動画サイトのURLが貼られていた。
動画のタイトルは───「【ガチ動画】恐竜の生き残り⁉」。
「う、うさんくさぁ・・・」
ハルがこの手の動画に騙されて大騒ぎしては、結局何もなかった・・・というパターンは最早恒例だ。
ついでに僕あてに送ろうとしたであろうHなサイトのURLをグループに送信してしまう凡ミスも。
・・・いや、僕にとっては間違いなく親友なんだけどね・・・?
「・・・あれ?」
既読スルーは可哀想だし、なんてコメント返そうかな・・・と考えていたら、「私も今見てるけどこれはマジっぽいよ!」とみーちゃんから追加のコメントが。
彼女がノるなんて珍しい・・・そう思って、興味本位で動画のサムネイルをタップしてみる。
「ハヤトさん・・・手に持って、触っている・・・その、薄い・・・箱はなんですか・・・?」
「あぁ、これはスマートフォンって言って・・・ええっと・・・遠くの人と話したり出来るんだよ!」
「なるほど・・・! すごいです・・・! シルフィさんみたいです・・・!」
『・・・あれ? ボクいまバカにされた?』
クロの純粋さにはシルフィも勝てないのか、と思わず吹き出しそうになった所で、動画が再生される。
最初は急いでカメラを起動していたのか画面が上下に激しく揺れており、撮影者と思われる男の声も小声な上に慌てふためいているようで言葉になっていない。
しかし、ほんの数秒間だけきっちりとその「恐竜」とやらに焦点が合う。
後ろ姿だが、昔観た恐竜映画の知識だと・・・「ラプトル」だっただろうか。
「小型の恐竜」と聞くと一番に想像されるような体型で、イボイボの生えた茶色い身体に尻尾まである。
だが一番目立つのは、見るからに硬そうな黒光りする頭だ。
まるでヘルメットでも被っているようで、頭突きが得意そうなパキ・・・何とかという恐竜を彷彿とさせる。
「う~ん・・・よく出来たCGって言われるとそうとも見えるし・・・」
首を傾げた直後、突然再生が止まり、「動画が削除されました」との表示が出てくる。
「あれ・・・? ニセモノだってバレでもしたのかな?」
「・・・ハヤトさん・・・っ!」
そこで、僕の羽織ったジャケットの裾をぎゅっと掴むクロに気付いた。
「だ、大丈夫だよクロ、今のは───」
『・・・ハヤト』
頭の中で聴こえた声に、いつものからかうような響きがない事を感じ取る。
「まさか・・・」
──クロの時もそうだったけど、この間、怪獣にヘリが落とされたあの事件も──エンジンの故障が原因だったという説明があっただけで、多くは報道されなかった。
明らかに、「怪獣の存在を隠したがっている」何者かがいる。
そして・・・たった今削除されてしまったこの動画・・・アップされた時間を見ると、ほんの十分前。
そのままスマートフォンで検索をかけてみると、早くも無断でコピーしたと覚しき動画が大量にアップされていたが、そのどれもが既に削除されている。
情報の元を辿っていくと、撮影されたのは埼玉県・秩父の山の中らしい事がわかった。
「クロ、さっきの観て、嫌な感じ・・・した?」
一応、念を押してみる。深刻な表情は変わらないまま、首を縦に振られた。
『これは・・・ヒーローの出番かな~?』
・・・気を抜くとすぐおちゃらけるのがこの妖精のダメなところだ。
クロに何でもかんでも首を突っ込ませるのは気が引ける・・・
けど、このまま不安な気持ちを引きずるより・・・何が起こっているのか、一度現場を見てみた方が良いのかも知れない。
「よし! ・・・僕らに出来る事があるかはわからないけど、行ってみよう!」
「はい・・・っ!」
目で合図すると、「やれやれ」というジェスチャーが見えた後、シルフィの胸の結晶がオレンジ色の光を放ち始める。
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