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第五話「悪魔の手」
第三章「角にかけた誇り‼ レイガノン起つ‼」・③
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※ ※ ※
「・・・あの人・・・本当にクロを助けてくれるなんて・・・!」
透明な球体の中、純粋に驚きながらそう口にしていた。
思わず、胸が熱くなったのがわかる。
赤い怪獣がクロを圧倒し、絶体絶命のピンチになったその時・・・どこからともなく現れた黒人の男性が、怪獣の注意を引きつけ、遠ざけてくれたのだ。
乗っていたバイクは茜さんのものと同じだったし、制服こそ着ていないけどJAGDの人なんだろう。
・・・だからこそ、彼が言った言葉に・・・余計にびっくりしたのだ。
───今助けるぞ・・・ヴァニラスッッ‼
確かに、そう聴こえた。
僕らはクロが守った二人のすぐ前にいたから、聞き間違いではないと思う。
JAGDはジャガーノートを倒すための組織だ。
茜さんも、クロ・・・ヴァニラスの事は、最も危険視している存在だと言っていた。
・・・それなのに彼は、自分の仲間たちと同じように・・・クロを・・・ジャガーノートを、「助けた」のだ。
「・・・・・・あの茶色いの・・・一本角を助けようってのか」
彼の姿に心動かされたのは・・・僕だけではなかったらしい。
ずっとあぐらをかいて座っていたカノンが、立ち上がっていた。
「そう・・・みたいだね・・・」
言いながら、男性がバイクで走り去って行った方向を見つめる。
怒り狂った赤い怪獣・・・彼が「ヴォルキッド」と呼んでいたジャガーノートは、四つ足で這いながらバイクを追いかけていった。
「・・・ハンッ! ワケわかんねぇぜ・・・! あんな・・・あんなちっぽけな体でよ・・・すぐにおっ死んじまいそうなヤツが・・・どうして・・・・・・ッ!」
「理解出来ない事」を前に、歯を食いしばりながらカノンが呟く。
『───守りたいからだよ』
そこで・・・優しい声音が、頭の中に響いた。
『クロにさ、「どうして守るんだ」って聞いてたでしょ? ・・・あの子自身、まだ言葉に出来てないけど・・・結局は、そういう事なんだよ。きっと、今の人も一緒さ』
カノンの目の前にふわりと飛んで、宙空で静止する。
『自分よりか弱いから・・・その人と友だちになりたいから・・・その人の事が好きだから・・・その人の事が・・・・・・自分の全てより、大切だから・・・・・・』
そう言うと、シルフィは一度言葉を詰まらせた。
・・・今の表情は、よく見えなかったけど・・・初めて出逢った時にもしていた・・・ほんの少し、泣きそうな顔に見えた。
『理由なんて、何でもいいんだ。相手が許してくれるなら、「自分が守りたいから、守る」。それだけなんだ。・・・キミにはそう思う気持ち・・・本当にないのかな・・・?』
「ッ! ・・・・・・」
カノンは押し黙り・・・強く強く歯を食いしばって───
そして・・・答えた。
「・・・・・・どんだけ御託を並べようと・・・アタシの誇りは変わらねぇッ‼ アタシの誇りは・・・家族を守る事だッ‼ それだけは・・・絶対に変わりはしねぇッ‼」
そう叫ぶ彼女の姿に・・・自らが誇りと呼ぶもののため、誰よりも強く在ろうとする姿に・・・どこか、悲愴な影すら感じてしまう。
「・・・・・・けどよ」
と、そこでカノンはぷいと顔を背ける。
「・・・ここで一本角が死んじまったら・・・・・・アタシとの勝負がつけられねぇ。・・・そいつはつまんねぇってのは・・・確かだ」
「・・・カノン・・・!」
その意図を察して──思わず、感動で声が震えた。
「ンだァそのツラはッ! 勘違いすんじゃねぇ! ・・・あんな角ナシに負けるようなヤツと引き分けたなんて事になったら・・・アタシの角折れだからだッ‼」
「つ、角折れ・・・?」
・・・何となく、「名折れ」に該当する言葉なのはわかった。
『うふふふ~~素直じゃないなぁ~~?』
「アァン⁉ るっせェッ‼ とにかく一本角を引っ込めろッ‼」
カノンが吠える。ヒラヒラと舞うシルフィが、「はいは~い♪」と軽快な調子で返事をすると、オレンジ色の光が放たれる。
白煙を上げていたクロの巨体が光になって解けて、球体の中で再び「擬人態」の姿になった。
そこで、僕の身体の周囲にも光の粒子が発生する。今回はきちんとバリアを張ってくれたみたいだ。
舞い降りてきたクロをしっかりと抱き止める。
「クロッ! 大丈夫・・・⁉」
「ハァ・・・ハァ・・・ッ! は、ハヤトさん・・・私・・・まだ・・・痛ッ・・・うぅ・・・ッ!」
クロは息を切らしながら、苦悶の表情を浮かべている。
ガラムキングとの戦いの時のように血が溢れて止まらない・・・といった事はないが・・・
肌は人のそれからはかけ離れた程赤くなり、全身のネイビーの部分が、スライムのように熔けてきている。
「かろうじて人に似せた姿を保っている」という表現が正解だろうか・・・本当に痛々しく、見ているだけで涙が出そうだ。
『とりあえずボクの力で、身体の崩壊は食い止めてるから・・・安心して』
シルフィは彼女を安心させようと、優しく語りかける。
「ケッ! 情けねぇ!」
・・・優しい態度を取るのがニガテな娘は、刺々しい言葉を放った。
「か、カノンちゃん・・・わ、私・・・・・・」
「止められたって戦う」・・・そう言った手前、クロはカノンに何も言えない様子だった。
涙を必死に堪えている彼女に向かって・・・カノンはなおもぶっきらぼうに言い放つ。
「・・・・・・アタシに、情けねぇツラ見せてんじゃねぇ。おめぇはそこで大人しく寝てろ!」
そして──カノンはシルフィの方を向き、頷いた。
いじわるな笑みを引っ込めて、シルフィは胸の結晶から、再びオレンジ色の光を放つ──
すると、カノンの身体が・・・光に変わっていく。
「か、カノンちゃん・・・!」
クロが、目の前で起きている事の意味を理解して、思わず名前を呼んだ。
「・・・・・・そこで黙って見とけ。アタシが・・・あの角ナシをぶちのめすところをなッ‼」
そう言い残して・・・少女のシルエットは解け、真っ白な光へ変わる。
放物線を描いて飛ぶクロと違って、雷のようにジグザグと無軌道に曲がりながら進む輝きが、球体の外へと飛び出し──
赤い怪獣・・・ヴォルキッドを追いかけて行った。
「・・・あの人・・・本当にクロを助けてくれるなんて・・・!」
透明な球体の中、純粋に驚きながらそう口にしていた。
思わず、胸が熱くなったのがわかる。
赤い怪獣がクロを圧倒し、絶体絶命のピンチになったその時・・・どこからともなく現れた黒人の男性が、怪獣の注意を引きつけ、遠ざけてくれたのだ。
乗っていたバイクは茜さんのものと同じだったし、制服こそ着ていないけどJAGDの人なんだろう。
・・・だからこそ、彼が言った言葉に・・・余計にびっくりしたのだ。
───今助けるぞ・・・ヴァニラスッッ‼
確かに、そう聴こえた。
僕らはクロが守った二人のすぐ前にいたから、聞き間違いではないと思う。
JAGDはジャガーノートを倒すための組織だ。
茜さんも、クロ・・・ヴァニラスの事は、最も危険視している存在だと言っていた。
・・・それなのに彼は、自分の仲間たちと同じように・・・クロを・・・ジャガーノートを、「助けた」のだ。
「・・・・・・あの茶色いの・・・一本角を助けようってのか」
彼の姿に心動かされたのは・・・僕だけではなかったらしい。
ずっとあぐらをかいて座っていたカノンが、立ち上がっていた。
「そう・・・みたいだね・・・」
言いながら、男性がバイクで走り去って行った方向を見つめる。
怒り狂った赤い怪獣・・・彼が「ヴォルキッド」と呼んでいたジャガーノートは、四つ足で這いながらバイクを追いかけていった。
「・・・ハンッ! ワケわかんねぇぜ・・・! あんな・・・あんなちっぽけな体でよ・・・すぐにおっ死んじまいそうなヤツが・・・どうして・・・・・・ッ!」
「理解出来ない事」を前に、歯を食いしばりながらカノンが呟く。
『───守りたいからだよ』
そこで・・・優しい声音が、頭の中に響いた。
『クロにさ、「どうして守るんだ」って聞いてたでしょ? ・・・あの子自身、まだ言葉に出来てないけど・・・結局は、そういう事なんだよ。きっと、今の人も一緒さ』
カノンの目の前にふわりと飛んで、宙空で静止する。
『自分よりか弱いから・・・その人と友だちになりたいから・・・その人の事が好きだから・・・その人の事が・・・・・・自分の全てより、大切だから・・・・・・』
そう言うと、シルフィは一度言葉を詰まらせた。
・・・今の表情は、よく見えなかったけど・・・初めて出逢った時にもしていた・・・ほんの少し、泣きそうな顔に見えた。
『理由なんて、何でもいいんだ。相手が許してくれるなら、「自分が守りたいから、守る」。それだけなんだ。・・・キミにはそう思う気持ち・・・本当にないのかな・・・?』
「ッ! ・・・・・・」
カノンは押し黙り・・・強く強く歯を食いしばって───
そして・・・答えた。
「・・・・・・どんだけ御託を並べようと・・・アタシの誇りは変わらねぇッ‼ アタシの誇りは・・・家族を守る事だッ‼ それだけは・・・絶対に変わりはしねぇッ‼」
そう叫ぶ彼女の姿に・・・自らが誇りと呼ぶもののため、誰よりも強く在ろうとする姿に・・・どこか、悲愴な影すら感じてしまう。
「・・・・・・けどよ」
と、そこでカノンはぷいと顔を背ける。
「・・・ここで一本角が死んじまったら・・・・・・アタシとの勝負がつけられねぇ。・・・そいつはつまんねぇってのは・・・確かだ」
「・・・カノン・・・!」
その意図を察して──思わず、感動で声が震えた。
「ンだァそのツラはッ! 勘違いすんじゃねぇ! ・・・あんな角ナシに負けるようなヤツと引き分けたなんて事になったら・・・アタシの角折れだからだッ‼」
「つ、角折れ・・・?」
・・・何となく、「名折れ」に該当する言葉なのはわかった。
『うふふふ~~素直じゃないなぁ~~?』
「アァン⁉ るっせェッ‼ とにかく一本角を引っ込めろッ‼」
カノンが吠える。ヒラヒラと舞うシルフィが、「はいは~い♪」と軽快な調子で返事をすると、オレンジ色の光が放たれる。
白煙を上げていたクロの巨体が光になって解けて、球体の中で再び「擬人態」の姿になった。
そこで、僕の身体の周囲にも光の粒子が発生する。今回はきちんとバリアを張ってくれたみたいだ。
舞い降りてきたクロをしっかりと抱き止める。
「クロッ! 大丈夫・・・⁉」
「ハァ・・・ハァ・・・ッ! は、ハヤトさん・・・私・・・まだ・・・痛ッ・・・うぅ・・・ッ!」
クロは息を切らしながら、苦悶の表情を浮かべている。
ガラムキングとの戦いの時のように血が溢れて止まらない・・・といった事はないが・・・
肌は人のそれからはかけ離れた程赤くなり、全身のネイビーの部分が、スライムのように熔けてきている。
「かろうじて人に似せた姿を保っている」という表現が正解だろうか・・・本当に痛々しく、見ているだけで涙が出そうだ。
『とりあえずボクの力で、身体の崩壊は食い止めてるから・・・安心して』
シルフィは彼女を安心させようと、優しく語りかける。
「ケッ! 情けねぇ!」
・・・優しい態度を取るのがニガテな娘は、刺々しい言葉を放った。
「か、カノンちゃん・・・わ、私・・・・・・」
「止められたって戦う」・・・そう言った手前、クロはカノンに何も言えない様子だった。
涙を必死に堪えている彼女に向かって・・・カノンはなおもぶっきらぼうに言い放つ。
「・・・・・・アタシに、情けねぇツラ見せてんじゃねぇ。おめぇはそこで大人しく寝てろ!」
そして──カノンはシルフィの方を向き、頷いた。
いじわるな笑みを引っ込めて、シルフィは胸の結晶から、再びオレンジ色の光を放つ──
すると、カノンの身体が・・・光に変わっていく。
「か、カノンちゃん・・・!」
クロが、目の前で起きている事の意味を理解して、思わず名前を呼んだ。
「・・・・・・そこで黙って見とけ。アタシが・・・あの角ナシをぶちのめすところをなッ‼」
そう言い残して・・・少女のシルエットは解け、真っ白な光へ変わる。
放物線を描いて飛ぶクロと違って、雷のようにジグザグと無軌道に曲がりながら進む輝きが、球体の外へと飛び出し──
赤い怪獣・・・ヴォルキッドを追いかけて行った。
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