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第五話「悪魔の手」
第三章「角にかけた誇り‼ レイガノン起つ‼」・④
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※ ※ ※
「今日は厄日だな・・・ッ!」
舌打ちしながら、ハンドルを切る。
数秒と経たずに、たった今私が居た所へ真っ赤な閃光が落ちて、アスファルトを熔岩弾が弾き飛ばす。
<ガギィィィィイイイアアアアアアアッッ‼>
すぐ背後から聴こえる「悪魔」の叫び声に、背筋が粟立つ。
先程までの冷徹なガンマンのような佇まいは何処へやら・・・
その豹変ぶりに苦笑いしつつ、フルスロットルで左右に振れて、狙いを定めさせないようにしながら車道を飛ばす。
とりあえず引き離す事には成功したようだが、そろそろ次の手を考えなければならない。
このまま車道を行こうものなら、あっと言う間に人里に着いてしまう。
ヤツを倒すための方法を探らなければ・・・。老人から聞いた、「小さな火山」という言葉を思い出す。
・・・火山・・・熱・・・熔岩・・・岩石・・・・・・。
「ッ! そうだ・・・ッ!」
要素を因数分解するうちに、一つの案が思い浮かぶ。
ヴァニラスがそうしようとしたように、ヤツを海・・・あるいは、大量の水の中に入れるのだ。
熱せられた岩石が急激に温度を下げると、剛性が高まる代わりに靭性は低下する・・・つまり、構造的に割れやすくなるのだ。
身体が溶け出していない所を見るに、ヴァニラスの時と違って水蒸気爆発の危険性は低いだろう。
「ニードル・シューター」の威力でも、小さなヒビを入れる事には成功した。
身体が脆くなった状態なら、勝ち目も生まれるかもしれない。
「海は遠いが・・・湖ならあったな・・・!」
成功しても、そこからヤツを完全に破壊するにはカナダ支局の応援が必要だが・・・何とかやってみよう・・・!
しかし、思いがけずに閃いた光明に──油断してしまったらしい。
湖の方へハンドルを切ろうと振り向いたところで──ヴォルキッドの尻尾の「銃口」と、目が合った。
「まずい・・・っ!」
回避運動が間に合わない! このスピードで車体から飛び降りれば、即死だ!
必死に生き残る選択肢を探そうとした刹那──勝手に車体が横に移動した。
「うおぉっ⁉」
ハンドルをしっかりと握って、車体に付いていく。
直撃を免れ、熔岩弾は背後に着弾した。
「自律運転による自動回避機能までついているのか・・・⁉」
乗っているマシンのあまりのオーバーテクノロジーぶりに参りかけるが、助かった。
と、そこで──追ってくるヴォルキッドの後ろ・・・車道に隣接した森の中に、「稲妻」が落ちたのが見えた。
・・・いや、待て・・・どうして今・・・「稲妻」が・・・?
次いで、ハンドルが大きく揺れ始める。
スピードの出し過ぎで車体にガタが来たのかと思ったが・・・違う。
地面自体が、揺れているんだ──‼
「お次はなんだ・・・⁉」
震動と共に・・・森の木々が、何者かに薙ぎ倒されていくのがわかった。
幹の倒れ裂ける音がどんどん近くなり──
そして──赤く燃える森から、黒光りする二本の槍が飛び出して来た!
<グルアアアアアァァァァァァァッッッ‼>
<ガギイイィィアアアアアッッッ⁉>
ヴォルキッドの赤い巨体が──横から飛び出してきた巨大な恐竜の突進を受けて吹っ飛ばされる。
唐突に現れた乱入者の存在に頭が混乱するが・・・その姿には、見覚えがあった。
「巨大な二本の角に、緑の鱗・・・No.009──レイガノンかッ⁉」
隊長に観せられた、この<ヘルハウンド>のレコーダーに残っていたという映像を思い出す。
つい一昨日、ゴビ砂漠で観測されたジャガーノートが、何故カナダに・・・⁉
全くの同種がたったいま偶然出現したという推論は、いくらなんでも乱暴過ぎる。
No.009は、ヴァニラスと戦闘し、同時に姿を消したと隊長から聞いたが・・・
「・・・さっきの稲妻は・・・まさか・・・」
どこか既視感を覚えたあの「稲妻」は・・・ヴァニラスが出現する時の、あの光と同じ・・・?
<グルアアアアアァァァァァァァッ‼>
そんな数々の疑問を吹き飛ばすように、雷鳴のような咆哮が鼓膜を震わせた。
慌てて車体を横にしながらスライドブレーキで急停止する。
見ると、レイガノンは跳ね飛ばしたヴォルキッドを追って、森の中へと再び突進して行った。
「計画は台無しだが・・・この状況を利用しない手はない・・・!」
バイクを回頭させ、再びアクセルを回す。車道から下りて、木々の間を走る──。
少し行った所で、既に聞き慣れてしまった爆発音が耳に届いた。
ヴォルキッドが熔岩弾で応戦しているようだ。視界の端が赤く光る。
レイガノンは、ヴァニラスと違って、鋼鉄製の身体というわけではなさそうだ。
灼熱の弾丸を喰らえば、ひとたまりもないのではないか──不安に駆られるが、そんな予想は早々に裏切られた。
<ルアァァァアッッ‼>
飛来した熔岩弾がその皮膚を焦がそうとした瞬間──
レイガノンの鱗の表面で、水色の光が弾け、まるでバリヤーのように攻撃から身を守った。
「あれは・・・メイザー光線ッ⁉」
見覚えのある色彩・・・あの軌道・・・間違いない・・・!
No.004以外にもあの粒子を使うジャガーノートが存在したとは驚きだ。
しかもレイガノンは、その力を防御に使っている・・・角からメイザー光線を発射するだけだったNo.004には見られなかった使い方だ。
方法論としては、爆発反応装甲に近いだろうか。
<ガギィィィィイイイイイイッッ‼>
ヴォルキッドは、攻撃を無力化された事を知り、見るからに苛立ちを募らせていた。
そして、怒りを発散させるかのように──
再び二本足で立ち上がると、両腕を広げて、その全ての「銃口」から熔岩弾を乱射し始めたのである。
「なんて事を・・・!」
瞬く間に、森は更なる炎に包まれた。幼い頃に慣れ親しんだ景色が、蹂躙されていく・・・。
<グルアアアアアァァァァァッッ‼>
しかしそんな自棄っぱちの攻撃も、レイガノンには通用しない。
水色の光線が空を焦がし、その身体に近づく全ての熔岩弾を弾き落としてしまった。
そして・・・レイガノンは、右の前肢で地面を掻き始める。同時に、その呼吸のペースもどんどん短くなっていく。
間違いない・・・! 再び突進を仕掛けるつもりだ・・・!
<ガギイイィィィィッッ‼>
敵もそれを察したのか、苦し紛れに・・・最も目立つ二本の角に向かって熔岩弾を放った。
ヴォルキッドが焦っている・・・!
憎き悪魔が、敵わない相手を前にあたふたする姿に胸が空く思いがしたが──長くは続かなかった。
<ルオオォォッ‼>
熔岩弾が──角に、命中した。メイザー光線の壁が発動する気配は・・・ない。
「なっ・・・⁉ 角の部分にはバリアが無いのか・・・っ⁉」
よりによって一番目立つ所の防御が手薄とは・・・思わず開いた口が塞がらなくなる。
ヴォルキッドは、攻撃を角に集中し始めた。レイガノンはたじろぎ、突進する姿勢が取れなくなってしまう。
このまま攻撃を受け続ければ、先に倒れるのは・・・レイガノンの方だ。
──何故、あのジャガーノートがヴォルキッドと戦おうとしているのかはわからない。
しかし・・・目の前で熔岩弾の攻撃を受けながらも、必死に立ち向かおうとするレイガノンの姿に・・・どこか、先程のヴァニラスと同じものを感じてしまう。
「何とか・・・ヴォルキッドを倒す方法はないのか・・・ッ‼」
血が滲む程に拳を握り締め、頭を絞る。
だが、考えろと念じる程に・・・答えが遠ざかっていく気がして──
思わず、己の無力に涙しそうになった──その時。
『────もう怖気づいたのか、中尉』
<ヘルハウンド>の車体から──聞き慣れた声が、耳に届いた。
「きっ・・・キリュウ・・・隊長・・・ッ⁉」
「今日は厄日だな・・・ッ!」
舌打ちしながら、ハンドルを切る。
数秒と経たずに、たった今私が居た所へ真っ赤な閃光が落ちて、アスファルトを熔岩弾が弾き飛ばす。
<ガギィィィィイイイアアアアアアアッッ‼>
すぐ背後から聴こえる「悪魔」の叫び声に、背筋が粟立つ。
先程までの冷徹なガンマンのような佇まいは何処へやら・・・
その豹変ぶりに苦笑いしつつ、フルスロットルで左右に振れて、狙いを定めさせないようにしながら車道を飛ばす。
とりあえず引き離す事には成功したようだが、そろそろ次の手を考えなければならない。
このまま車道を行こうものなら、あっと言う間に人里に着いてしまう。
ヤツを倒すための方法を探らなければ・・・。老人から聞いた、「小さな火山」という言葉を思い出す。
・・・火山・・・熱・・・熔岩・・・岩石・・・・・・。
「ッ! そうだ・・・ッ!」
要素を因数分解するうちに、一つの案が思い浮かぶ。
ヴァニラスがそうしようとしたように、ヤツを海・・・あるいは、大量の水の中に入れるのだ。
熱せられた岩石が急激に温度を下げると、剛性が高まる代わりに靭性は低下する・・・つまり、構造的に割れやすくなるのだ。
身体が溶け出していない所を見るに、ヴァニラスの時と違って水蒸気爆発の危険性は低いだろう。
「ニードル・シューター」の威力でも、小さなヒビを入れる事には成功した。
身体が脆くなった状態なら、勝ち目も生まれるかもしれない。
「海は遠いが・・・湖ならあったな・・・!」
成功しても、そこからヤツを完全に破壊するにはカナダ支局の応援が必要だが・・・何とかやってみよう・・・!
しかし、思いがけずに閃いた光明に──油断してしまったらしい。
湖の方へハンドルを切ろうと振り向いたところで──ヴォルキッドの尻尾の「銃口」と、目が合った。
「まずい・・・っ!」
回避運動が間に合わない! このスピードで車体から飛び降りれば、即死だ!
必死に生き残る選択肢を探そうとした刹那──勝手に車体が横に移動した。
「うおぉっ⁉」
ハンドルをしっかりと握って、車体に付いていく。
直撃を免れ、熔岩弾は背後に着弾した。
「自律運転による自動回避機能までついているのか・・・⁉」
乗っているマシンのあまりのオーバーテクノロジーぶりに参りかけるが、助かった。
と、そこで──追ってくるヴォルキッドの後ろ・・・車道に隣接した森の中に、「稲妻」が落ちたのが見えた。
・・・いや、待て・・・どうして今・・・「稲妻」が・・・?
次いで、ハンドルが大きく揺れ始める。
スピードの出し過ぎで車体にガタが来たのかと思ったが・・・違う。
地面自体が、揺れているんだ──‼
「お次はなんだ・・・⁉」
震動と共に・・・森の木々が、何者かに薙ぎ倒されていくのがわかった。
幹の倒れ裂ける音がどんどん近くなり──
そして──赤く燃える森から、黒光りする二本の槍が飛び出して来た!
<グルアアアアアァァァァァァァッッッ‼>
<ガギイイィィアアアアアッッッ⁉>
ヴォルキッドの赤い巨体が──横から飛び出してきた巨大な恐竜の突進を受けて吹っ飛ばされる。
唐突に現れた乱入者の存在に頭が混乱するが・・・その姿には、見覚えがあった。
「巨大な二本の角に、緑の鱗・・・No.009──レイガノンかッ⁉」
隊長に観せられた、この<ヘルハウンド>のレコーダーに残っていたという映像を思い出す。
つい一昨日、ゴビ砂漠で観測されたジャガーノートが、何故カナダに・・・⁉
全くの同種がたったいま偶然出現したという推論は、いくらなんでも乱暴過ぎる。
No.009は、ヴァニラスと戦闘し、同時に姿を消したと隊長から聞いたが・・・
「・・・さっきの稲妻は・・・まさか・・・」
どこか既視感を覚えたあの「稲妻」は・・・ヴァニラスが出現する時の、あの光と同じ・・・?
<グルアアアアアァァァァァァァッ‼>
そんな数々の疑問を吹き飛ばすように、雷鳴のような咆哮が鼓膜を震わせた。
慌てて車体を横にしながらスライドブレーキで急停止する。
見ると、レイガノンは跳ね飛ばしたヴォルキッドを追って、森の中へと再び突進して行った。
「計画は台無しだが・・・この状況を利用しない手はない・・・!」
バイクを回頭させ、再びアクセルを回す。車道から下りて、木々の間を走る──。
少し行った所で、既に聞き慣れてしまった爆発音が耳に届いた。
ヴォルキッドが熔岩弾で応戦しているようだ。視界の端が赤く光る。
レイガノンは、ヴァニラスと違って、鋼鉄製の身体というわけではなさそうだ。
灼熱の弾丸を喰らえば、ひとたまりもないのではないか──不安に駆られるが、そんな予想は早々に裏切られた。
<ルアァァァアッッ‼>
飛来した熔岩弾がその皮膚を焦がそうとした瞬間──
レイガノンの鱗の表面で、水色の光が弾け、まるでバリヤーのように攻撃から身を守った。
「あれは・・・メイザー光線ッ⁉」
見覚えのある色彩・・・あの軌道・・・間違いない・・・!
No.004以外にもあの粒子を使うジャガーノートが存在したとは驚きだ。
しかもレイガノンは、その力を防御に使っている・・・角からメイザー光線を発射するだけだったNo.004には見られなかった使い方だ。
方法論としては、爆発反応装甲に近いだろうか。
<ガギィィィィイイイイイイッッ‼>
ヴォルキッドは、攻撃を無力化された事を知り、見るからに苛立ちを募らせていた。
そして、怒りを発散させるかのように──
再び二本足で立ち上がると、両腕を広げて、その全ての「銃口」から熔岩弾を乱射し始めたのである。
「なんて事を・・・!」
瞬く間に、森は更なる炎に包まれた。幼い頃に慣れ親しんだ景色が、蹂躙されていく・・・。
<グルアアアアアァァァァァッッ‼>
しかしそんな自棄っぱちの攻撃も、レイガノンには通用しない。
水色の光線が空を焦がし、その身体に近づく全ての熔岩弾を弾き落としてしまった。
そして・・・レイガノンは、右の前肢で地面を掻き始める。同時に、その呼吸のペースもどんどん短くなっていく。
間違いない・・・! 再び突進を仕掛けるつもりだ・・・!
<ガギイイィィィィッッ‼>
敵もそれを察したのか、苦し紛れに・・・最も目立つ二本の角に向かって熔岩弾を放った。
ヴォルキッドが焦っている・・・!
憎き悪魔が、敵わない相手を前にあたふたする姿に胸が空く思いがしたが──長くは続かなかった。
<ルオオォォッ‼>
熔岩弾が──角に、命中した。メイザー光線の壁が発動する気配は・・・ない。
「なっ・・・⁉ 角の部分にはバリアが無いのか・・・っ⁉」
よりによって一番目立つ所の防御が手薄とは・・・思わず開いた口が塞がらなくなる。
ヴォルキッドは、攻撃を角に集中し始めた。レイガノンはたじろぎ、突進する姿勢が取れなくなってしまう。
このまま攻撃を受け続ければ、先に倒れるのは・・・レイガノンの方だ。
──何故、あのジャガーノートがヴォルキッドと戦おうとしているのかはわからない。
しかし・・・目の前で熔岩弾の攻撃を受けながらも、必死に立ち向かおうとするレイガノンの姿に・・・どこか、先程のヴァニラスと同じものを感じてしまう。
「何とか・・・ヴォルキッドを倒す方法はないのか・・・ッ‼」
血が滲む程に拳を握り締め、頭を絞る。
だが、考えろと念じる程に・・・答えが遠ざかっていく気がして──
思わず、己の無力に涙しそうになった──その時。
『────もう怖気づいたのか、中尉』
<ヘルハウンド>の車体から──聞き慣れた声が、耳に届いた。
「きっ・・・キリュウ・・・隊長・・・ッ⁉」
応援ありがとうございます!
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