恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第六話・プロローグ

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◆プロローグ


「わぁっ! 流れ星だ!」

 ───今夜もまた、夢を見ている。

「ねぇ知ってる? 流れ星って、隕石なんだよ!」

『へぇ、そうなの』

 ・・・いや。むしろ今夜については、「ようやく見れた」という表現が正しいだろうか。

 梅雨真っ盛り・・・高温多湿な海辺の夜は、寝苦しいったらない。

「夜空の星って、ずーっと昔の光が届いてるんだよ!」

『へぇ、そうなの』

 カノンが来てから一ヶ月、クロが来てからは二ヶ月が経った。

 色々とトラブルの絶えない毎日だけど・・・カナダでの一件の後は、怪獣との戦いもなく、平穏な日々が続いていた。

「ちょっとハヤト! その話、前にも聞いたわよ!」

 幼いアカネさんの声が聴こえて、ふと、最近会えていない事を思い出す。

 最後に会ったのはモンゴルで・・・

 いや、向こうはこっちを・・・顔を合わせたのは、うちで朝ごはんを食べてもらった時が最後か。

 ・・・真面目なアカネさんの事だから、あの時言ってた「今度お返しをさせて欲しい」って言葉も本気だろう。

「アカネちゃんには確かに話したけど・・・」

「ハヤトの話にはバリエーションがないのよね! いっつも星の話ばっかだし」

 忙しい人だし、無闇に連絡するのもな・・・と、電話をためらっているのが現状だ。

 ・・・やっぱりこっちから連絡した方がいいのかな・・・?

 でも、JAGDって軍隊だし、普通に電話とかして良いのかな・・・?

 ・・・なんて、ついつい二の足を踏んでしまう。

「あはは・・・ごめんねアカネちゃん・・・」

「男ならすぐ謝らないっ!」

 そんな内心を見透かされたかのように、夢の中の僕はアカネさんに叱責されてしまう。

 記憶を失くしていようがいまいが、当時から力関係が変わっていない気がする・・・。

「もうっ! ハヤトにはしっかりしてもらわないと困るんだからっ! 私の・・・その・・・」

「私の・・・なに・・・?」

「なっ、何でもないったら!」

 ぷいと顔を背けてしまうアカネさん・・・いや、「アカネちゃん」を見て・・・

 うじうじしていると、今の彼女にもこうしてそっぽ向かれてしまうな・・・と思い直す。

 明日の昼頃にでも、次の休みを聞いてみよう。そう心に決めた。

「・・・この星のどれかが、お母さんなのかな」

「・・・そうね。きっとそうよ」

 「アカネちゃん」の優しい声色が、神の視点でその光景を見ている僕にも届く。

 決心が、少し強くなった・・・気がした。

『お母さんに、会いたい?』

 女性の声が聴こえて、夢の終わりが近い事を察する。

 もう少しで──いつものように目が覚めて───


<──し───だれ───きこ────>

 ・・・・・・? なんだ・・・?

 今・・・雑音ノイズのようなものが聴こえたような・・・?

 クロやアカネさんの時とは違う、取るに足らない違和感だと──聞き流そうとして──

<───もしも~し? 誰か~? 誰か聴こえるかしら~?>

 次は──もっと明瞭に。

 雑音ではなく・・・「声」として、僕の意識に届いた。

 また夢が変わった・・・っ⁉ こ、この声は一体・・・⁉

<・・・! そこのあなた、聴こえてるわね? ようやく反応してくれる子がいたわ>

 そこで、声が・・・

 な、何が起きてるんだ・・・⁉

 夢の中では、僕は声も出せないはず・・・

<この星の子たち、みんなないかしら? これだけ呼びかけて返事してもらえないとさすがの私も寂しかったから、正直助かったわ>

 「この星の子たち」という表現に、強烈な違和感を覚える。

 この「声」の正体は・・・一体何なんだ・・・⁉

<あら。混乱させちゃってるみたいね。ごめんなさい。とにかく、一度そっちに行くわ。私の方の事情も説明したいし>

「うん。会いたい──会いたいよ」

 まるで返事をするようなタイミングで、夢の中の僕がいつもの台詞を吐く。

 ちょっ、ちょっと待って‼ いきなり来るって言われても・・・!

<遠慮しなくていいわ。に会えるんだから光栄に思いなさい♪>

 まるで王様のような事を言いながら、勝手に話を進めてしまう。

 ・・・いや、この声は女性のそれに聴こえるから・・・「女王様」の方が表現としては正しいだろうか。

『そのためなら、何でもする?』

「うん! もう一度・・・お母さんに会えるなら!」

 そうこうしてるうちに、夢の終わりは目前まで迫っていた。

<・・・っと、見つけた♪ あなたの家のすぐ横、珍しい形の建物が並んでるわね? ちょうどいいわ。あそこの輪になってる建物で待ち合わせしましょう>

 「声」が、強引に約束を取り付ける。こっちの事情はお構いなしのようだ。

『そう。それじゃあ、目を閉じて──』

 幼い僕が目を閉じると、僕の意識もつられて閉じていく。

 ちょっと待ってってば‼ そんな声も上げられずに──意識が──消えていって──


「ハヤトさんっ‼」

 そして──クロの焦った声で、目が覚めた。

 橙の瞳が不安に揺れて、表情は困惑し切っている。

「だ、大丈夫だよクロ・・・ちょっと・・・夢が変だっただけで・・・」

「ちっ、違うんです!」

 安心させようとして、すぐさま否定される。

 今度は僕が困惑する番だったが──続けて告げられたクロの言葉に、一撃で目が覚めた。


「か、怪獣のニオイが・・・ここに近づいて来てるんですっ‼」


 思わず頭が真っ白になる──が、逡巡している時間はない・・・!

「し、シルフィ!」

『なぁに~? もぉ~・・・折角気持ちよく寝てたのにぃ・・・』

 何もない空間から光る粒子が現れ──妖精の姿を形作る。

 ・・・この緊急事態に、あくびをしながら、だ。

「た、大変なんだ! ここに怪獣が近づいてるって──」

<ちょっと。「怪獣」とはご挨拶じゃない。せめて「怪蝶」と言って欲しいものだわ>

 そこで──夢の中でも聴いた・・・あの「声」が、耳に届いた。

 シルフィのそれとは違い、頭の中に響いてくるものではない。れっきとした「声」だ。

「は、ハヤトさん・・・今の・・・声は・・・?」

 どうやら、クロにも聴こえていたらしい。
 何が起きているのかはわからないけど・・・今のが夢で聴いた「声」と同じなら──!

「クロ! 行こうっ!」

 寝癖を直す時間も惜しい。寝間着のジャージ姿のまま、玄関へ走る。

 傘立てから二本引き抜き、クロにも渡す。扉をくぐると、真夜中の雨は本降りになっていた。

 道路の上は薄く冠水し、排水溝には滝のように雨水が流れ込んでいる。

 すぐ横を向いて──隣の敷地内にある「輪になってる建物」・・・観覧車へ、目を向ける。

<うーん・・・雲が邪魔ね。少しわよ>

「えっ──?」

 「声」がそう言うと、観覧車の上空・・・真っ黒の天井に──ぽっかりと、大きな穴が開いた。

 まるで、

 ・・・そして・・・月の光に照らされて───が、天より舞い降りた。





「・・・あれ・・・は・・・・・・」

 呟きながら・・・知らぬ間に、傘を手放していた。

 雨は、降ってこない。

 突如として現れた巨大な蝶は、左右で色の違う翼をはためかせ、観覧車の上へ着地する。

 翼と同じ二色の瞳が、ゆっくりと、こちらを向いた。


<───はじめまして。会えて嬉しいわ、ハヤト>


 呆然と立ち尽くす僕の名を──柔らかな「声」が、呼んだ────



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