恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第一章「来訪」・①

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◆第一章「来訪」


「───さて、私からは以上だ。何か質問はあるか」

 司令室のデスクを見回すと、竜ヶ谷少尉が手を上げていた。

「えーっと・・・詰まる所、俺らの出番はありそうですかね?」

「・・・隊長の私が口にするのははばかられるが・・・私達に出番が回って来るのは、オーストラリア支局が壊滅した時だろうな」

 背にしたメインモニタに、ちらりと視線を向ける。

 そこに映し出された世界地図の下部・・・オーストラリア近海からフィリピン海までが、赤く塗り潰されていた。

 これは、先日観測された「2体目のNo.006ギアーラ」の出現予想海域だ。

「海棲ジャガーノートへの有効戦力を持つのは、環太平洋域では<モビィ・ディックⅡ>を有する極東支局とオーストラリア支局だけだ。No.006が相手なら、半端な潜水艦ではヤツのオモチャにされるのが関の山だろう」

 「君たちも承知の通りな」と付け加えると、疲れた頷きが返ってきた。

 唯一現場に居なかった松戸少尉だけが、困った顔で笑っている。

 癪な話だが、ヤツを人類のみの力で倒せるかどうかは、いまだ未知数だ。

 我々が戦ったあの時も・・・No.007ヴァニラスが現れなければ、海の藻屑になっていたのはこちらの方だっただろう。

「・・・あぁそうそう。言い忘れていたが、そんな事情もあって、<モビィ・ディックⅡ>の出撃所要時間短縮のための訓練を行う事にする。日時は未定だ」

「・・・つまり、抜き打ち?」

「鋭いが、今のは判っても口に出さないのが正解だったな、ユーリャ少尉」

 少尉が無表情のまま肩をすくめる。色素の薄い金髪がつられて揺れた。

「他に質問がなければミーティングはここまでとする! 当直交代のタイミングで引き止めて悪かったな。各自、持ち場に戻ってくれ」

 そう告げると、隣に立つマクスウェル中尉の号令で、部下全員が敬礼する。

 私が答礼し、改めて、深夜のミーティングはお開きとなった。

「・・・キリュウ隊長。少しだけよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

 直後、中尉に呼び止められる。

「No.006にも関係する話なのですが・・・例の件、考えて頂けませんでしょうか・・・?」

「・・・またその話か・・・」

 薄々そうだろうなとは思っていたが、彼もなかなか頑固な男だ。

 部下からの意見には積極的に耳を傾けたいが・・・内容が内容だけに、ついつい溜め息が出てしまう。

「中尉・・・何度も言うが、あの話は・・・」

 ・・・と、そこまで言いかけて、視線に気付いて振り返ると──同時に顔を背けた8つの瞳が見えた。

 竜ヶ谷少尉が、下手くそな口笛を吹いている。

 ・・・余程私に怒鳴られたいようだな・・・ッ!

「貴様ら! 見世物じゃな───」

 拳を握り締めながら、一喝しようとした、その刹那──


<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>


 けたたましい警告音アラートが、司令室のスピーカーを揺らした。

「・・・い、いくらなんでも訓練するのが早すぎるんじゃ・・・?」

 肩をびくりと震わせた柵山少尉が、小声で呟く。

「───馬鹿者! 訓練ではないッ! ジャガーノートだッ‼」

 声を張ると、瞬時に全員が動き出した。

 柵山少尉と松戸少尉はコンソールへ、竜ヶ谷少尉とユーリャ少尉はガンラックへと駆け出す。

 ・・・普段からこれくらい真面目にしていれば、私もいちいち怒鳴らずに済むんだがな。

「松戸少尉! ジャガーノートの位置は?」

 第一種戦闘配置の通達を中尉に任せ、松戸少尉に話しかける。

「はいっ! 海上観測機によると、場所はこの基地から東へ200キ・・・・・・?」

 途中で少尉が言い淀み──次の瞬間、目を剥いた。

「違う・・・どんどん近づいて・・・これは・・・このジャガーノート・・・とっ、飛んでいます‼ 飛行速度は・・・ま、毎時約2400キロッッ⁉」

「マッハ2で飛行する生物だとッ⁉」

 司令室に緊張が走ったのが判った。

 戦闘機を落とすジャガーノートの次は、戦闘機並みの速さで飛ぶジャガーノートとは・・・‼

「も、目的地は・・・こ、ここです! 横須賀です‼ 真っ直ぐ向かって来て・・・と、到達まであと300秒ありません‼」

 ・・・寝耳に水とはこの事か。とにかく、今できる最善を行うしかない・・・‼

「松戸少尉は自衛隊及び在日米軍に至急協力要請! 残りは全員<モビィ・ディックⅡ>に乗り込め! 発進はマクスウェル中尉が指示! 私は地上から状況を確認しつつ指揮する‼」

「「「「「アイ・マムッ‼」」」」」

 松戸少尉を司令室に残して、部下たちが司令室の出入り口に駆け込んでいく。

 ヘルメットを引っ掴んで被ると、話しかける前に右耳から声がした。

『──マスター。こちらはいつでも出撃可能です』

「第四垂直昇降門リフトゲートから上がって来い」

 小声で指示しながら、私も司令室を後にする。

 出撃用通路への直通エレベーターに乗り込んだところで、松戸少尉から続報が入った。

『ジャガーノートの目的地は、この基地から2キロの地点・・・「よこすかドリームランド」と推測されます! 到達まであと200秒!』

「何ッ⁉」

 「よこすかドリームランド」だと──⁉

 ハヤトが・・・! ハヤトが危ない・・・ッ‼

「テリオッ‼ 急げッ‼」

『──お待たせしました。今、エレベーターの前です』

 エレベーターの外から聴こえるワイヤロープの駆動音が、どこか遠い。

 ・・・・・・落ち着け。落ち着くんだ桐生茜・・・。

 取り乱すな・・・誰よりも冷静に、沈着に・・・今の私は、JAGD極東支局の機動部隊隊長なんだ・・・!

 拳を強く、強く握って──暴れる心臓を抑え込み、乱れた呼吸を整える。

 ポン、と軽い音が鳴って、扉が開くと・・・目の前に、ダークグレイの車体が待ち構えていた。

「・・・・・・出撃るぞ・・・ッ!」
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