147 / 325
第六話「狙われた翼 前編」
第三章「死神」・①
しおりを挟む◆第三章「死神」
「───ザムル・・・アトラ・・・?」
その名を聞いたのは、ほんの数分前・・・。
血相を変えたティータが、僕の袖をぎゅっと掴んできた時の事だった。
「・・・えぇ。アトラナ星人の造った「資源回収用機械生命体」・・・ザムルアトラ。前に言った、私を3日間も追い回してくれた厄介な鉄屑よ・・・!」
・・・「アトラナ星人」に「機械生命体」・・・事も無げに口にされた単語に躓き、それが一体何なのかを聞き返そうとして───
「それが今、横須賀基地で暴れてるの! 確かに倒したはずだったのに・・・!」
思わず、押し黙る。
彼女の様子からして、真実だろう。
横須賀基地はまさに目と鼻の先・・・どうやら、詳しく事情を聞いている時間はなさそうだ。
「ザムルアトラは、君を追って来た・・・って事・・・?」
「・・・間違いないわ。此処を直接襲ってこないところを見るに、私の居場所を探し当てたと言うよりは、「最後に私が観測された場所」を襲撃したという事なんでしょうけど・・・私が居ない事を知れば、次に狙われるのはサイクラーノ島か・・・すぐそこの観覧車ね」
白いオペラグローブ越しに、小さな拳が強く強く握られる。
「アレは、「獲物」を何処までも追い続けるように造られているの。おまけに、完全に破壊されない限りは、金属を食べる事で無限に身体を再生する事も出来る・・・・・・最悪のマシーンよ」
「マシーン」が何かを食べるという事が想像しづらいけど・・・さっきは「機械生命体」って言ってたし・・・きっとザムルアトラは、地球人の想像するマシーンやロボットとは、全く違うモノなんだろう。
「・・・! ・・・まずい・・・!」
と、そこでティータが夜の海を睨む。
視線を追いかけると、チカ、チカ・・・と、遠くで二、三の光が瞬いたのが見えた。
「・・・これは、私の失態だわ。・・・シルフィ!」
鋭い眼差しが、僕の顔のすぐ横を射抜いた。
『・・・やろうとしてる事はわかるけど、止めておいた方が良いんじゃない?』
呼ばれるままに姿を見せたシルフィは──意外にも、なだめるように話しかける。
『キミの身体・・・限界が近いでしょ? 少し休んだだけで、本調子には程遠い。力を抑えてるんだから、ボクにだって判るよ』
「! そ、そうなの・・・⁉」
問いかけながら顔を向けると・・・いつもは恥ずかしいくらいに真っ直ぐに見つめてくる瞳が、気まずそうに逸らされる。
「・・・それでも、これは私の責任。私が始末をつけるべきよ」
ティータは瞼をぎゅっと閉じた後、こちらへ向き直る。
「・・・アレの身体は、既に完全回復を果たしてる。・・・つまり、もう犠牲が出ているって事よ。これじゃあ・・・私がこの星を滅ぼしに来たようなものだわ」
「なっ⁉ そんな事は───」
咄嗟に否定しようとしたところで、背後からどたどたと慌ただしい足音が聴こえてくる。
「はっ、ハヤトさん! と、突然・・・いつもと全然違う怪獣のニオイが・・・!」
「とっとと手ぇ離しやがれ一本角! 熱いんだよッ!」
カノンが怒りのままに吠え、跳び上がったクロが悲鳴を上げながら慌てて手を離した。
クロもまた、ザムルアトラの存在に気付き、寝ていたカノンを起こして連れてきた・・・と言ったところだろう。
二人の様子を見て、ティータはいよいよ覚悟を決めた様子だ。
「・・・時間がない。シルフィ、嫌だと言うなら・・・無理矢理封印を破ってでも私は行くわ」
彼女の顔は、本気だ。
小さな体躯から、息を飲む程の気迫が発せられる。
固い決意を宿した双眸が──生命を慈しみ、いつも笑顔を絶やさない彼女の・・・本来の姿を、否応なく思い出させた。
『・・・わかった。でも、無理はしないでよ?』
「・・・えぇ。勿論よ」
答えるまでの・・・一瞬の間が、どうしようもなく怖くなってしまう。
───しかし、引き止めるにはもう遅かった。
ティータの身体が光に包まれ、背中についた翼が大きく開かれる。
「・・・・・・行くわ!」
彼女の身体は、白く輝く光の翼そのものとなり、宙へ舞い上がる。
そして──翼は、残光の尾を引いて、弾丸のように夜の海を切り裂いて飛んで行った。
「・・・え、えぇっと・・・?」
状況が飲み込めていないクロは、あたふたとしながら、ティータの飛び去って行った方向と僕とを交互に見る。
一方、その隣で縁側に胡座をかいているカノンは、不機嫌そうな顔のまま、夜の海だけをじっと睨んでいた。
「・・・実は、ティータが倒したはずの追手が生きていて、すぐそこで暴れているみたいで・・・彼女は、戦いに行ったんだ。「自分の責任だ」って言って」
「っ‼ ・・・そう・・・だったんですか・・・」
クロが目を伏せる。ティータの事が心配なんだろう。・・・気持ちは、僕も一緒だった。
「・・・シルフィ」
『はいはい。今回は近所だから、すぐにでも連れてってあげるよ』
名前を呼んだだけで、言いたい事を察してくれたみたいだ。
「しょうがないなぁ」と言いたげないつも通りの表情が、張り詰めた心を少しほぐしてくれる。
「ハヤトさん・・・! 私も・・・行きたいです・・・! ティータちゃんが戦ってるなら・・・お留守番は・・・いや・・・です・・・っ!」
ぎゅっと結んだ両の拳が、意思の強さを感じさせる。
無言で頷き、シルフィに合図をしようとして──
「待ちな」
カノンの声が、それを遮る。
「アタシも連れてけ」
「・・・へっ?」
そして、心底意外な台詞が、彼女の口から飛び出した。
あまりに予想外すぎて、間抜けな声がひとりでに零れる。
僕の隣に来たクロも、同じ心境のようで、目をぱちくりさせていた。
「・・・・・・オイ! とっとと行くぞ!」
ぽかんとしたままの僕たちを、しかめっ面のカノンが怒鳴りつける。
「ご、ごめん・・・シルフィ、お願い!」
立ち止まった原因に急かされつつ、シルフィに合図をする。
オレンジ色の光と共に、透明な球体が僕らを包むと・・・そのままゆっくりと視点が上昇していく。
夜の海を足下に見ながら、ティータの飛んで行った方角へ。
「・・・! あれは・・・!」
すると、数分と経たずに「目的地」が見えてくる。
地元のニュースでもよく見る、横須賀基地の「空母」・・・
その甲板から、たくさんの火の手が上がり、真っ暗な海を照らしていた。
と、そこで──真っ黒い爆煙を纏いながら、薄鈍色の巨大な影が現れる。
鋭く尖った両腕に、四本の足。
身体の後方には、拡大したカビのように毛羽立った質感の球体。
全身に点在する半透明の部分からヴァイオレットの光を放ち、金属同士を擦り合わせた時のような耳障りな声を上げている──巨大な、「鋼鉄の昆虫」。
「あれが・・・・・・ザムルアトラ・・・っ‼」
ひと目見て、そうだとわかった。
・・・同じ鋼鉄の身体を持っていても、初めてクロを見た時は、「鎧を着た犬」だと思ったのを覚えている。・・・だけど、あれはクロとは違う。
あれは・・・流れる血の一滴まで冷たい。
そう確信させる何かが、その凶悪な鉄の塊には有った。
空母の甲板を四つの足で踏み鳴らし、肉を突き刺し切り裂くための腕を振るう・・・宇宙から来た、ティータの「追手」。
「・・・は、ハヤトさん・・・っ!」
クロも、その不気味な姿に感じる所があったのだろう。僕の袖を掴んだ指は、震えていた。
「! ハネムシ・・・!」
カノンが、ぽつりと呟く。
彼女の視線の先には、雲間から除く月光を透かしながら、夜空を裂いて飛ぶ巨大な二色の翼があった。
ザムルアトラを警戒するように、空母の周囲を旋回している。
その動きを目で追っていると、こちらから甲板を挟んだ向こう側に、ダークグレイの戦艦が空母と並走しているのに気付いた。
海上に見えている部分には、見覚えがある。
「ギアーラと戦った時にいた潜水艦・・・?」
あの時はクロの戦いを見守るのに必死だったから記憶が曖昧だけど、恐らく間違いない。
もしかしすると・・・あそこにはアカネさんが───
<クキカカカッッ‼ キククカカカカカカカッッ‼>
思考を、ザムルアトラの大声が遮った。
応えるように、空中を旋回していたティータも翼を翻し、甲板の上の巨体へと突進する。
・・・彼女の身体は、疲れ切っている。あのシルフィが引き止める程に。
飄々として気付かせなかっただけで、今なお彼女の限界は近いのかも知れない。
それでもなお・・・ティータは戦う。
獰猛なる「追手」をこの星に招き入れてしまった責任を感じ、その始末をつけるために。
「・・・・・・無理しないでね、ティータ・・・」
無意識に、拳を強く握りながら・・・そう呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
