恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第三章「死神」・①

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◆第三章「死神」


「───ザムル・・・アトラ・・・?」

 その名を聞いたのは、ほんの数分前・・・。

 血相を変えたティータが、僕の袖をぎゅっと掴んできた時の事だった。

「・・・えぇ。アトラナ星人の造った「資源回収用機械生命体」・・・ザムルアトラ。前に言った、私を3日間も追い回してくれた厄介な鉄屑よ・・・!」

 ・・・「アトラナ星人」に「機械生命体」・・・事も無げに口にされた単語に躓き、それが一体何なのかを聞き返そうとして───

「それが今、横須賀基地で暴れてるの! 確かに倒したはずだったのに・・・!」

 思わず、押し黙る。

 彼女の様子からして、真実だろう。

 横須賀基地はまさに目と鼻の先・・・どうやら、詳しく事情を聞いている時間はなさそうだ。

「ザムルアトラは、君を追って来た・・・って事・・・?」

「・・・間違いないわ。此処を直接襲ってこないところを見るに、私の居場所を探し当てたと言うよりは、「最後に私が観測された場所」を襲撃したという事なんでしょうけど・・・私が居ない事を知れば、次に狙われるのはサイクラーノ島か・・・すぐそこの観覧車ね」

 白いオペラグローブ越しに、小さな拳が強く強く握られる。

「アレは、「獲物」を何処までも追い続けるように造られているの。おまけに、完全に破壊されない限りは、金属を食べる事で無限に身体を再生する事も出来る・・・・・・最悪のマシーンよ」

 「マシーン」が何かを食べるという事が想像しづらいけど・・・さっきは「機械生命体」って言ってたし・・・きっとザムルアトラは、地球人ぼくたちの想像するマシーンやロボットとは、全く違うモノなんだろう。

「・・・! ・・・まずい・・・!」

 と、そこでティータが夜の海を睨む。

 視線を追いかけると、チカ、チカ・・・と、遠くで二、三の光が瞬いたのが見えた。

「・・・これは、私の失態だわ。・・・シルフィ!」

 鋭い眼差しが、僕の顔のすぐ横を射抜いた。

『・・・やろうとしてる事はわかるけど、止めておいた方が良いんじゃない?』

 呼ばれるままに姿を見せたシルフィは──意外にも、なだめるように話しかける。

『キミの身体・・・限界が近いでしょ? 少し休んだだけで、本調子には程遠い。力を抑えてるんだから、ボクにだって判るよ』

「! そ、そうなの・・・⁉」

 問いかけながら顔を向けると・・・いつもは恥ずかしいくらいに真っ直ぐに見つめてくる瞳が、気まずそうに逸らされる。

「・・・それでも、これは私の責任。私が始末をつけるべきよ」

 ティータは瞼をぎゅっと閉じた後、こちらへ向き直る。

「・・・アレの身体は、既に完全回復を果たしてる。・・・つまり、って事よ。これじゃあ・・・私がこの星を滅ぼしに来たようなものだわ」

「なっ⁉ そんな事は───」

 咄嗟に否定しようとしたところで、背後からどたどたと慌ただしい足音が聴こえてくる。

「はっ、ハヤトさん! と、突然・・・いつもと全然違う怪獣のニオイが・・・!」

「とっとと手ぇ離しやがれ一本角! 熱いんだよッ!」

 カノンが怒りのままに吠え、跳び上がったクロが悲鳴を上げながら慌てて手を離した。

 クロもまた、ザムルアトラの存在に気付き、寝ていたカノンを起こして連れてきた・・・と言ったところだろう。

 二人の様子を見て、ティータはいよいよ覚悟を決めた様子だ。

「・・・時間がない。シルフィ、嫌だと言うなら・・・無理矢理封印を破ってでも私は行くわ」

 彼女の顔は、本気だ。

 小さな体躯から、息を飲む程の気迫が発せられる。

 固い決意を宿した双眸が──生命を慈しみ、いつも笑顔を絶やさない彼女の・・・姿を、否応なく思い出させた。

『・・・わかった。でも、無理はしないでよ?』

「・・・えぇ。勿論よ」

 答えるまでの・・・一瞬のが、どうしようもなく怖くなってしまう。

 ───しかし、引き止めるにはもう遅かった。

 ティータの身体が光に包まれ、背中についた翼が大きく開かれる。

「・・・・・・行くわ!」

 彼女の身体は、白く輝く光の翼そのものとなり、宙へ舞い上がる。

 そして──翼は、残光の尾を引いて、弾丸のように夜の海を切り裂いて飛んで行った。

「・・・え、えぇっと・・・?」

 状況が飲み込めていないクロは、あたふたとしながら、ティータの飛び去って行った方向と僕とを交互に見る。

 一方、その隣で縁側に胡座をかいているカノンは、不機嫌そうな顔のまま、夜の海だけをじっと睨んでいた。

「・・・実は、ティータが倒したはずの追手が生きていて、すぐそこで暴れているみたいで・・・彼女は、戦いに行ったんだ。「自分の責任だ」って言って」

「っ‼ ・・・そう・・・だったんですか・・・」

 クロが目を伏せる。ティータの事が心配なんだろう。・・・気持ちは、僕も一緒だった。

「・・・シルフィ」

『はいはい。今回は近所だから、すぐにでも連れてってあげるよ』

 名前を呼んだだけで、言いたい事を察してくれたみたいだ。

 「しょうがないなぁ」と言いたげないつも通りの表情が、張り詰めた心を少しほぐしてくれる。

「ハヤトさん・・・! 私も・・・行きたいです・・・! ティータちゃんが戦ってるなら・・・お留守番は・・・いや・・・です・・・っ!」

 ぎゅっと結んだ両の拳が、意思の強さを感じさせる。

 無言で頷き、シルフィに合図をしようとして──

「待ちな」

 カノンの声が、それを遮る。

「アタシも連れてけ」

「・・・へっ?」

 そして、心底意外な台詞が、彼女の口から飛び出した。

 あまりに予想外すぎて、間抜けな声がひとりでに零れる。

 僕の隣に来たクロも、同じ心境のようで、目をぱちくりさせていた。

「・・・・・・オイ! とっとと行くぞ!」

 ぽかんとしたままの僕たちを、しかめっ面のカノンが怒鳴りつける。

「ご、ごめん・・・シルフィ、お願い!」

 立ち止まったに急かされつつ、シルフィに合図をする。

 オレンジ色の光と共に、透明な球体が僕らを包むと・・・そのままゆっくりと視点が上昇していく。

 夜の海を足下に見ながら、ティータの飛んで行った方角へ。

「・・・! あれは・・・!」

 すると、数分と経たずに「目的地」が見えてくる。

 地元のニュースでもよく見る、横須賀基地の「空母」・・・

 その甲板から、たくさんの火の手が上がり、真っ暗な海を照らしていた。

 と、そこで──真っ黒い爆煙を纏いながら、薄鈍色うすにびいろの巨大な影が現れる。

 鋭く尖った両腕に、四本の足。

 身体の後方には、拡大したカビのように毛羽立った質感の球体。

 全身に点在する半透明の部分からヴァイオレットの光を放ち、金属同士を擦り合わせた時のような耳障りな声を上げている──巨大な、「鋼鉄の昆虫」。

「あれが・・・・・・ザムルアトラ・・・っ‼」

 ひと目見て、そうだとわかった。

 ・・・同じ鋼鉄の身体を持っていても、初めてクロを見た時は、「鎧を着た犬」だと思ったのを覚えている。・・・だけど、あれはクロとは違う。

 あれは・・・

 そう確信させる何かが、その凶悪な鉄の塊には有った。

 空母の甲板を四つの足で踏み鳴らし、肉を突き刺し切り裂くための腕を振るう・・・宇宙から来た、ティータの「追手」。

「・・・は、ハヤトさん・・・っ!」

 クロも、その不気味な姿に感じる所があったのだろう。僕の袖を掴んだ指は、震えていた。

「! ハネムシ・・・!」

 カノンが、ぽつりと呟く。

 彼女の視線の先には、雲間から除く月光を透かしながら、夜空を裂いて飛ぶ巨大な二色の翼があった。

 ザムルアトラを警戒するように、空母の周囲を旋回している。

 その動きを目で追っていると、こちらから甲板を挟んだ向こう側に、ダークグレイの戦艦が空母と並走しているのに気付いた。

 海上に見えている部分には、見覚えがある。

「ギアーラと戦った時にいた潜水艦・・・?」

 あの時はクロの戦いを見守るのに必死だったから記憶が曖昧だけど、恐らく間違いない。

 もしかしすると・・・あそこにはアカネさんが───

<クキカカカッッ‼ キククカカカカカカカッッ‼>

 思考を、ザムルアトラの大声が遮った。

 応えるように、空中を旋回していたティータも翼を翻し、甲板の上の巨体へと突進する。

 ・・・彼女の身体は、疲れ切っている。あのシルフィが引き止める程に。

 飄々として気付かせなかっただけで、今なお彼女の限界は近いのかも知れない。

 それでもなお・・・ティータは戦う。

 獰猛なる「追手」をこの星に招き入れてしまった責任を感じ、その始末をつけるために。

「・・・・・・無理しないでね、ティータ・・・」

 無意識に、拳を強く握りながら・・・そう呟いた。

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