恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第二章「刺客」・⑧

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 作戦司令室に、張り詰めた空気が訪れ・・・全員が、口を噤んだ。

 ロナルド・レーガンの艦上には、まだ多数の人間が残っている。

 攻撃を外せば、国際問題に発展する可能性すらある。

 ・・・あまりにも、リスクの大きいミッションだ。
 だがそれでも──不思議と、彼が外すイメージは湧かなかった。

 そして、ほんの数秒・・・・・・耳が痛い程の沈黙があって───

「───今ッ‼」

 新たな戦闘機が犠牲になる前に───

 爆煙の中を突っ切った巨大な影を、少尉は見逃さなかった。

 第三艦砲が火を噴き・・・見えざる敵に、精確に砲弾が命中した。

<キキキキッ───コキカクキカカカカカ────>

 ──と、そこで・・・外部マイクが、金属同士の擦れ合う、耳障りな駆動音を拾った。

 ロナルド・レーガンの艦体が軋む音かとも思ったが──違う。

「今のは・・・鳴き声・・・か・・・?」

 ・・・そんな馬鹿馬鹿しい感想が口をついて出るくらいに・・・その音は、だった。

「た、隊長! あれをっ!」

 柵山少尉の叫びで、我に返る。

 モニターに映っていたのは──何もないはずの空間から、突如として浮かび上がる、巨大なシルエット。

 敵の光学迷彩が、解かれていく── 

「・・・なっ・・・何だ・・・こいつは・・・⁉」

 ───そして、遂に正体を見せたの姿は・・・あまりにも、異質だった。

 強いて似ている生物を挙げるなら、カマキリ・・・だろうか。

 鎌状の両腕を振り上げている様子や、顔の造りはカマキリのそれに近いが・・・太くて長い首はムカデか何かのようで、後ろ脚だけが大きい所はバッタを想起させる。

 一際目立つ、身体の後ろ側に付いている巨大な「球体」は、クモの糸疣いといぼか、オーストラリアの砂漠に生息しているミツツボアリの腹のようで・・・

 色々な昆虫の特徴がぐちゃぐちゃに融合したような・・・気味の悪い見た目をしている。

 ・・・だが、そんな事よりも、驚くべきは──

 その身体が、見るからに鋼鉄で出来ていて──そして・・・その関節の内部に「鋼線」が見える事だろう。

  同じく鉄の身体を持つNo.007とも、決定的に違う───

「コイツは生物じゃない・・・・・・ロボットだ・・・ッ‼」

<クキカカカッ‼ コキキキキカカカカカカッ‼>

 再び、不気味な駆動音が鳴り響く。

 そこで、一拍遅れて──「高エネルギー反応探知」の警告音が作戦司令室のスピーカーを揺らした。

 ・・・生物ではないが・・・ヤツもまたジャガーノートという事か・・・!

「竜ヶ谷少尉! よく狙って撃て! ヤツを海の中に叩き込───」

<アカネッ‼ 下がって‼>

「ッ⁉」

 竜ヶ谷少尉に指示を飛ばそうとした直後──

 突然、聴き慣れない声が鼓膜を打った。
 
 ・・・次いでそれが、聴き慣れなくとも、声だったのを思い出す。

「まさか・・・・・・No.011かッ⁉」

 声に出したのと、ほぼ同時──

 モニターの端で白い光が弾けて、粒子の奔流が巨大な翼へと変わり・・・

 やがて、翼長150メートルの巨大な蝶々の姿を為した。

 再びの、警告音アラート──。作戦司令室が、困惑に包まれた。

「貴様・・・ッ‼ 邪魔をするな‼」

 で、デスクに拳を振り下ろしながら、怒りのままに叫ぶ。

<ごめんなさい・・・でも、アレはまだ・・・人類ひとの手に負えるような代物じゃないわ>

 No.011が、空母の周囲を旋回するように飛び回り、新たなジャガーノート・・・No.013の注意を引き付けようとしている。

 対するNo.013は、長い首を自在に動かし、その二色の翼を視界に捉え続けていた。

<それにアレは──私が連れてきてしまった───私の敵よ>

「何・・・⁉ どういう事───」

<キキキキキ───ッッ‼ カカカッ‼ クキカカカカカッッ‼>

 大音量の駆動音が、耳をつんざく。

 ・・・眼の前のコイツは、ロボットのはずだが・・・しかし、今の鳴き声は・・・

 まるで・・・悦んでいるかのように聴こえた。

<とにかく、近くにいる船と一緒に離れて! アレは私が引き離すわ!>

 No.011が、焦っている・・・。
 声は、如何にNo.013が危険な存在であるかを物語っていると言えるだろう。

<キクキキ・・・ッ! クキカキキキ・・・ッ‼>

 そこで、No.013の身体に、異変が起きる。

 全身に点在する大小様々な紫の水晶のような部分が、ぼんやりと光を放ったかと思うと──

 身体の後部にある糸疣に亀裂が入り、バキバキと音を立てながら花弁の如く開いていく

 すると、その中から・・・が、いくつか転がり出てくる。

「・・・あ、あれは・・・・・・ッ‼」

 一際大きなモノにカメラをズームさせると・・・それが何であるかを知り、戦慄した。

 空母の飛行甲板に打ち捨てられたそれは──No.004メイザの・・・ミイラだった。





 その周囲にあるのも、牛や馬といった動物のミイラだ。

 例の家畜が消えたというニュースは・・・ヤツの仕業だったのか・・・・・・‼

<クキカカカッッ‼ キククカカカカカカカッッ‼>

 鋭く光る鎌を振り上げ──No.013が、四本の脚で地面を蹴る。

 相対あいたいして、No.011も空中で身体を翻し、敵に向かって突進していく。

 未知のジャガーノート同士の戦いが・・・今、始まろうとしていた───


              ~第三章へつづく~
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