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第六話「狙われた翼 前編」
第三章「死神」・⑤
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「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ッ!」
それと時を同じくして・・・
先程解けた光の粒子が、球体の中で再び寄り集まり、華奢な少女の形を為し──息を切らしながら、力なく倒れ込んだ。
「危ないっ!」
慌てて寄り添い、倒れる身体を抱き止めた。
普段の飄々とした姿からは想像もできない程に、彼女は・・・疲れ切っていた。
「ハァ・・・ハァ・・・わ、悪いわね・・・ハヤト・・・」
「・・・今は喋っちゃダメだ。少しでも休んで」
まさに、満身創痍。・・・それでも、この娘は生きている。
この腕の中で、途切れ途切れでも呼吸をし、かろうじてでも瞼を開けて・・・生きたまま、帰って来てくれた。
それだけでも・・・今は、嬉しかった。
<カクカカカ・・・キクキキキキキ・・・・・・‼>
安堵したのも束の間──
突如として立ち塞がった障壁を前にして、ザムルアトラは巨大な両腕を振り上げ、目の前の敵を威嚇する。
ティータと戦っていた時には判らなかったけど・・・クロと比べてみると・・・その大きさに驚かされる。
尻尾がないから全長はクロとほとんど変わらないけど、体高は70メートル程あるだろうか。
<グルルルルルルル・・・!>
敵の頭部を見据えて威嚇するクロが、見上げるような恰好になっている。
「ハァ・・・ハァ・・・気をつけて・・・アレは、珍しいものなら何でも捕まえたがるはず・・・貴女も・・・例外じゃないわ・・・!」
ティータが必死に言葉を紡ぐと、クロがこちらに振り返り、こくんと頷く。
そして・・・クロが、上体を前に倒していく。
いつもと同じように、前傾姿勢になって敵に突進するつもりだ!
・・・と、固唾を飲んで見守っていると──彼女は、意外な行動に出る。
<グオォ・・・・・・>
上体をそのまま倒し切って膝を付き、鋭い爪を──地面に突き刺したのだ。
「・・・? 一体何を・・・」
そう思った途端、ネイビーの身体に、真っ赤なラインが浮かび上がる。
暗闇に包まれた空間にあって、煌々と照るその光は、肩を伝い、腕を通り──両手に到達すると、白がかった十本の爪を、赤く輝かせた。
「・・・? カノンとの戦いの時にやった、低温のライジングフィスト・・・?」
「・・・いや、違ぇ・・・! あれは・・・角ナシの技だ‼」
そこで、後ろからカノンの驚く声が耳に届く。
弾かれたように視線を向けると・・・クロの両手から伝わった熱が、地面をも赤熱させているのが見えた。
そして・・・クロが両手を引き抜くと──
その手の中には、カノンの言う通り、火山の怪獣・ヴォルキッドが放っていたような、「熔岩弾」があったのだ。
<グオオオオオオオオォォッッ‼>
再び、クロが吠えると──右腕を思い切り振りかぶり、その手に握られた熔岩弾を、対峙するザムルアトラへと投げつけた。
<キキキッ! カカカクカカカカカッ!>
危険を察知して、鋼鉄の昆虫は四本の足を器用に動かしながら地面を蹴り、攻撃を躱す。
・・・が、しかし、その隙を見逃さず、クロはすかさず駆け出した。
砂埃を上げながら、自分より大きな相手へと怯む事なく飛び掛かり、一気に距離を詰める。
クロが地面を踏みしめる度に、がらんどうの古ぼけた建物たちが、戦慄くように震えた。
<オオオオオォォォォッ‼>
そして、二度目の投擲──狙いは敵の顔面だ。
ザムルアトラは一度逸らした姿勢を戻しきれず、両腕で頭部をかばった。
熔岩弾は防がれ、頭部への直撃は為らなかったけど──代わりに腕を上げた事で、敵の下半身ががら空きになる。
「行けぇ──っ!」
無意識のうちに、叫んでいた。
応えるように、クロが勢いそのままに地面を滑りながら、身体を反転──
尻尾を振り乱し、ザムルアトラの二本の前脚を、纏めて打ち払った。
<クキキキカカッ・・・・・・‼>
攻撃を食らった関節から火花を散らし、鋼鉄の巨体がバランスを崩して、前のめりに倒れかかる。
クロはこの機を逃さず、更に敵の懐へ入り込んだ。
<グオオオオオオオォォッッ‼>
左手を前に掲げ、半身に構えて左脚を踏み出す。
後方に引いていた右腕を勢いよく前に出しながら──前腕の外殻にある三角形のヒレを、敵の身体に押し付けて振り抜いた!
<キキキキィィィィイイイイッッ‼>
腹部を切り裂かれ、機械の身体から派手に火花が散った。ザムルアトラの内部から、悲鳴のような駆動音が漏れる。
間違いなく、ダメージを与えてる・・・!
「すごいや・・・クロ・・・!」
あのヒレは、普段排熱口として使ってる部分だけど・・・あんな使い方が出来るなんて・・・!
『クロ・・・やっぱり・・・どんどん成長してる・・・』
シルフィの呟きが聞こえる。
彼女は、クロを見守るような・・・そして同時に、どこか張り詰めたような・・・とても複雑な表情で、球体の外を見つめていた。
シルフィの真意が判らず、声をかけようとして──
<キクカカカカッッッ‼>
ゴオオ! と、耳をつんざく爆音が聴こえて、思考が遮られる。
ザムルアトラは、飛行する時に使っていた足裏からのジェット噴射で、後方へと無理やりに跳躍・・・
後退し、クロから距離を取った。
そして、流れるように首元の「補給装置」を起動させ、発射した。
「っ! あれが来る・・・!」
四つの塊が、クロに向かって真っ直ぐに飛んでくる。
ティータと同じ速度で飛行する弾丸を、クロが躱せるわけがない──!
どう対処したら・・・とパニックになりかけるが・・・クロは意外にも、躱す素振りすら見せずに、真っ直ぐにザムルアトラへと突進して行った。
クロの動きに合わせて、「補給装置」は細かくガスを噴射させて軌道を曲げ、ネイビーの巨体へ殺到する。
そして、数秒と経たず──四つの弾丸が、その身体に突き刺さった。
<オオォォ・・・ッ‼>
鋭い牙の合間から、声が漏れる。このままじゃまずい・・・!
そう思った、次の瞬間──
『・・・! 成程・・・』
再びクロの身体に、真っ赤なラインが浮かび上がると・・・
模様は四つに分かれて、自分の身体に突き刺さった弾丸へと向かっていった。
──そこで僕も、シルフィと同じ気付きに至る。
伝わるだけで、瞬く間に地面を熔岩に変えてしまう程の熱エネルギーが、金属製の機械に流し込まれればどうなるか──答えは明白だ。
「補給装置」は、その役目を果たす前に──伝わってきた超高熱によってオーバーヒートを起こし、火花を放ちながら呆気なく爆散した。
<グオオオオオオ───ッッ‼>
体表で起こった四つの爆発も、その歩みを阻む程の威力ではない。
ザムルアトラは悔しがるかのように長い首を振り乱し、クロの方を睨みつけた。
「よし・・・! この調子なら・・・!」
カナダでの戦いの時・・・同じ高熱を武器とするヴォルキッドとは、能力の相性が悪かった。
だけど・・・今回はむしろ、相性が良いんじゃないだろうか。
同じ鋼鉄の身体という共通点はあっても、敵は機械で、クロはその弱点とも言える高熱を今まで以上に使いこなし始めている。
最後まで油断は禁物だけど、こないだの戦いに比べれば──
そんな甘い考えが浮かんだところで・・・
僕の腕に体重を預けたままのティータが、満身創痍の身体に鞭打って、絞り出すかのように・・・言葉を紡いだ。
「気をつけて・・・クロ・・・! アレにはまだ・・・最悪の武器が残っているわ・・・!」
「えっ・・・?」
冷水を浴びせかけられたかのような感覚が、僕の頭に訪れる。
それと時を同じくして・・・
先程解けた光の粒子が、球体の中で再び寄り集まり、華奢な少女の形を為し──息を切らしながら、力なく倒れ込んだ。
「危ないっ!」
慌てて寄り添い、倒れる身体を抱き止めた。
普段の飄々とした姿からは想像もできない程に、彼女は・・・疲れ切っていた。
「ハァ・・・ハァ・・・わ、悪いわね・・・ハヤト・・・」
「・・・今は喋っちゃダメだ。少しでも休んで」
まさに、満身創痍。・・・それでも、この娘は生きている。
この腕の中で、途切れ途切れでも呼吸をし、かろうじてでも瞼を開けて・・・生きたまま、帰って来てくれた。
それだけでも・・・今は、嬉しかった。
<カクカカカ・・・キクキキキキキ・・・・・・‼>
安堵したのも束の間──
突如として立ち塞がった障壁を前にして、ザムルアトラは巨大な両腕を振り上げ、目の前の敵を威嚇する。
ティータと戦っていた時には判らなかったけど・・・クロと比べてみると・・・その大きさに驚かされる。
尻尾がないから全長はクロとほとんど変わらないけど、体高は70メートル程あるだろうか。
<グルルルルルルル・・・!>
敵の頭部を見据えて威嚇するクロが、見上げるような恰好になっている。
「ハァ・・・ハァ・・・気をつけて・・・アレは、珍しいものなら何でも捕まえたがるはず・・・貴女も・・・例外じゃないわ・・・!」
ティータが必死に言葉を紡ぐと、クロがこちらに振り返り、こくんと頷く。
そして・・・クロが、上体を前に倒していく。
いつもと同じように、前傾姿勢になって敵に突進するつもりだ!
・・・と、固唾を飲んで見守っていると──彼女は、意外な行動に出る。
<グオォ・・・・・・>
上体をそのまま倒し切って膝を付き、鋭い爪を──地面に突き刺したのだ。
「・・・? 一体何を・・・」
そう思った途端、ネイビーの身体に、真っ赤なラインが浮かび上がる。
暗闇に包まれた空間にあって、煌々と照るその光は、肩を伝い、腕を通り──両手に到達すると、白がかった十本の爪を、赤く輝かせた。
「・・・? カノンとの戦いの時にやった、低温のライジングフィスト・・・?」
「・・・いや、違ぇ・・・! あれは・・・角ナシの技だ‼」
そこで、後ろからカノンの驚く声が耳に届く。
弾かれたように視線を向けると・・・クロの両手から伝わった熱が、地面をも赤熱させているのが見えた。
そして・・・クロが両手を引き抜くと──
その手の中には、カノンの言う通り、火山の怪獣・ヴォルキッドが放っていたような、「熔岩弾」があったのだ。
<グオオオオオオオオォォッッ‼>
再び、クロが吠えると──右腕を思い切り振りかぶり、その手に握られた熔岩弾を、対峙するザムルアトラへと投げつけた。
<キキキッ! カカカクカカカカカッ!>
危険を察知して、鋼鉄の昆虫は四本の足を器用に動かしながら地面を蹴り、攻撃を躱す。
・・・が、しかし、その隙を見逃さず、クロはすかさず駆け出した。
砂埃を上げながら、自分より大きな相手へと怯む事なく飛び掛かり、一気に距離を詰める。
クロが地面を踏みしめる度に、がらんどうの古ぼけた建物たちが、戦慄くように震えた。
<オオオオオォォォォッ‼>
そして、二度目の投擲──狙いは敵の顔面だ。
ザムルアトラは一度逸らした姿勢を戻しきれず、両腕で頭部をかばった。
熔岩弾は防がれ、頭部への直撃は為らなかったけど──代わりに腕を上げた事で、敵の下半身ががら空きになる。
「行けぇ──っ!」
無意識のうちに、叫んでいた。
応えるように、クロが勢いそのままに地面を滑りながら、身体を反転──
尻尾を振り乱し、ザムルアトラの二本の前脚を、纏めて打ち払った。
<クキキキカカッ・・・・・・‼>
攻撃を食らった関節から火花を散らし、鋼鉄の巨体がバランスを崩して、前のめりに倒れかかる。
クロはこの機を逃さず、更に敵の懐へ入り込んだ。
<グオオオオオオオォォッッ‼>
左手を前に掲げ、半身に構えて左脚を踏み出す。
後方に引いていた右腕を勢いよく前に出しながら──前腕の外殻にある三角形のヒレを、敵の身体に押し付けて振り抜いた!
<キキキキィィィィイイイイッッ‼>
腹部を切り裂かれ、機械の身体から派手に火花が散った。ザムルアトラの内部から、悲鳴のような駆動音が漏れる。
間違いなく、ダメージを与えてる・・・!
「すごいや・・・クロ・・・!」
あのヒレは、普段排熱口として使ってる部分だけど・・・あんな使い方が出来るなんて・・・!
『クロ・・・やっぱり・・・どんどん成長してる・・・』
シルフィの呟きが聞こえる。
彼女は、クロを見守るような・・・そして同時に、どこか張り詰めたような・・・とても複雑な表情で、球体の外を見つめていた。
シルフィの真意が判らず、声をかけようとして──
<キクカカカカッッッ‼>
ゴオオ! と、耳をつんざく爆音が聴こえて、思考が遮られる。
ザムルアトラは、飛行する時に使っていた足裏からのジェット噴射で、後方へと無理やりに跳躍・・・
後退し、クロから距離を取った。
そして、流れるように首元の「補給装置」を起動させ、発射した。
「っ! あれが来る・・・!」
四つの塊が、クロに向かって真っ直ぐに飛んでくる。
ティータと同じ速度で飛行する弾丸を、クロが躱せるわけがない──!
どう対処したら・・・とパニックになりかけるが・・・クロは意外にも、躱す素振りすら見せずに、真っ直ぐにザムルアトラへと突進して行った。
クロの動きに合わせて、「補給装置」は細かくガスを噴射させて軌道を曲げ、ネイビーの巨体へ殺到する。
そして、数秒と経たず──四つの弾丸が、その身体に突き刺さった。
<オオォォ・・・ッ‼>
鋭い牙の合間から、声が漏れる。このままじゃまずい・・・!
そう思った、次の瞬間──
『・・・! 成程・・・』
再びクロの身体に、真っ赤なラインが浮かび上がると・・・
模様は四つに分かれて、自分の身体に突き刺さった弾丸へと向かっていった。
──そこで僕も、シルフィと同じ気付きに至る。
伝わるだけで、瞬く間に地面を熔岩に変えてしまう程の熱エネルギーが、金属製の機械に流し込まれればどうなるか──答えは明白だ。
「補給装置」は、その役目を果たす前に──伝わってきた超高熱によってオーバーヒートを起こし、火花を放ちながら呆気なく爆散した。
<グオオオオオオ───ッッ‼>
体表で起こった四つの爆発も、その歩みを阻む程の威力ではない。
ザムルアトラは悔しがるかのように長い首を振り乱し、クロの方を睨みつけた。
「よし・・・! この調子なら・・・!」
カナダでの戦いの時・・・同じ高熱を武器とするヴォルキッドとは、能力の相性が悪かった。
だけど・・・今回はむしろ、相性が良いんじゃないだろうか。
同じ鋼鉄の身体という共通点はあっても、敵は機械で、クロはその弱点とも言える高熱を今まで以上に使いこなし始めている。
最後まで油断は禁物だけど、こないだの戦いに比べれば──
そんな甘い考えが浮かんだところで・・・
僕の腕に体重を預けたままのティータが、満身創痍の身体に鞭打って、絞り出すかのように・・・言葉を紡いだ。
「気をつけて・・・クロ・・・! アレにはまだ・・・最悪の武器が残っているわ・・・!」
「えっ・・・?」
冷水を浴びせかけられたかのような感覚が、僕の頭に訪れる。
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