恋するジャガーノート

まふゆとら

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第七話「狙われた翼 後編」

 第三章「相対」・⑤

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<キキキキイイイィィッッ‼>

 苦しげにも聴こえる金属音と共に、次はクロの左腕に鋼線が巻き付く。

 一瞬、動きが止まるが・・・クロは力任せに左腕を引き寄せると、鋼線を鋭い牙で噛みちぎった。

 そして、何事もなかったかのように、再び腕を装甲へ突き入れる。

 ・・・そうか。あの激しさは、一刻も早くオラティオンを助けてあげたいから・・・一刻も早く、ティータの願いを叶えてあげたいからこその、必死さの現れなんだ。

<ミギギギギ・・・ッ! ミギャアアアアア・・・ッッ‼>

 そんな彼女の思いに応えるかのように、オラティオンが少しずつ身を乗り出す。

 ティータが放ち続けている鱗粉の影響なのか・・・

 頭にかぶせられていた仮面も剥がれ始め、鋏が突き刺さったままだった左腕も、自身の力でその拘束から逃れようとしている。

 ・・・・・・きっと、この場にいる誰一人欠けても、ここまで来れなかった。

<クキカカカカキイイィィカカカッッ‼ カカカカカカアアア────ッッ‼>

 クロ、カノン、ティータ、シルフィ・・・それに、アカネさんと、JAGDの人たち・・・

 成り行きとは言え、皆が一つの目的のために協力したからこそ・・・戦えたんだ。

<ミイィ・・・‼ ミャゴオオォォォッッ‼>

 ザムルアトラの呪縛から完全に解き放たれ──オラティオンが、遂に自分の脚で大地を踏みしめた。

 追いすがるように放たれた鋼線を、ネイビーの腕が掴んで引き戻す。

 そして────決着の刻が、訪れた。

<グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ‼>

 全身を剥がされ、スクラップ同然になったザムルアトラの横腹と肩口とに、クロが腕を突き入れる。

 容赦なく、その中身を鷲掴みにすると──そのまま、

<ギッ───────────>

 バチン!と無数の配線が激しく弾ける音と共に・・・鉄の悪魔は再び二つに裂かれ───

 完全に、その動きを止めた。


       ※  ※  ※


『や、やった・・・のか・・・?』

 最初に口を開いたのは、竜ヶ谷少尉だった。

 No.007が、スナックの袋でも破くかのようにNo.013の体を引き裂いてみせ・・・紫色の眼光がその灯火を消しても・・・しばらく、誰も何も言えなかった。

 ───私達は、遂に成し遂げたのだと・・・そんな実感が、すぐには湧いてこなかった。

『・・・な、No.013の高エネルギー反応・・・完全に消滅・・・!』

 次いで、松戸少尉の震えた声がオープンチャンネルに響く。

『勝ったんです・・・! 勝ったんですよ皆さん・・・‼ やったんですっ‼』

 ・・・が、それでも誰も返事をしない事に痺れを切らし、少尉が必死に勝利を訴えてくる。

 そこでようやく・・・どこかしみじみと、皆も勝利の余韻を噛み締め始めた。

『やった・・・! やったんですね・・・‼』

『今夜は祝勝パーティですね、キリュウ隊長』

『・・・・・・完全勝利』

 口々に、明るい声が飛び交う。

 形だけでも、その騒々しさを注意しようとして──

『ミナサァンッ! 本当ニ! 本当ニ・・・オ疲レ様デシタ!』

 突然、オープンチャンネルに老人の声が飛び込んでくる。

 あまりに急な事だったので反応が遅れたが、これは・・・ワンダーマン氏の声だ。

「ワンダーマン支局長・・・! 労いのお言葉、ありがとうございます」

 ・・・正直、状況が状況だけに彼の存在を失念していた・・・が、続く松戸少尉の言葉が、そんな私の考えが失礼千万だったという事を告げてくる。

『隊長、報告が遅れましたが・・・テイラー大佐に取り次いでくださったのは、ワンダーマン支局長だったんです』

「・・・! なんと・・・そうでしたか・・・!」

 いくらNo.011に借りのあるとはいえ、いくらなんでも話が早すぎると思っていたが・・・そういう事だったのか。

 内心で、己の浅慮を恥じた。

『マァマァ! ワタシはミナサンと違ッテ、直接ジャガーノートとは戦エマセンカラ・・・ジブンに出来ル事クライは、ヤリタカッタ・・・ソレダケデス』

 顔は見えなくとも、あの柔和な微笑みを浮かべている事が判る。

 本当に私は・・・素晴らしいチームに巡り合う事が出来た。

<・・・アカネ>

 感慨に耽る前に、整備課にNo.013の残骸回収の指示を出そうとして・・・No.011の声が鼓膜を震わせた。

 既にこの感覚に慣れてしまったのが微妙に癪だが、今更無視するわけにもいかず、仏頂面のまま白磁の巨体に顔を向けた。

<・・・本当に、迷惑をかけたわね。ありがとう。貴女たちがいなかったら、こうしてこの子を助ける事は出来なかったわ>

「フン・・・」

 突然の殊勝な態度に毒気を抜かれそうになるが・・・あくまで、私はJAGDの隊長。

 ケダモノと余計な馴れ合いをするわけにもいかない。

 ホルスターから銃を抜き、No.011に向ける。

「今回は偶然利害が一致しただけだ。いずれ貴様らが人類に牙を剥く時が来れば・・・この私が、必ず殲滅してくれる。その日まで、せいぜい大人しくしているんだな」

 もちろん、ポーズだ。それにこの考えも、どうせ読まれているのだろう。

 ・・・だが、向こうの好意に唾を吐いてでも・・・通さなければならない筋もあるのだ。

<ふふっ・・・素直じゃないんだから。・・・でも、そうね>

 不意に声が途切れ、思案するような間があった。

<少なくとも、私は絶対に大丈夫とは言えないわ。現に───>

 そう言いかけて───No.011の触覚が、ピクリと動いたのが見えた。

<───この波は・・・・・・まさか────ッ‼>

 二色の視線の先を追うと・・・体を穴だらけにされ、鉄屑と化したはずのNo.013・・・

 その最も大きな残骸から、ぼんやりと紫の光が漏れ出しているのが見えた。

<───全員ッ‼ 伏せて・・・ッ‼>

 瞬時に、突風が巻き起こり──目にも止まらぬ速さで移動したNo.011は、No.013の残骸を抱えて、海上へと飛翔した。

 「何のためにそんな事をしたのか」に気付いた時には・・・既に、その翼は遠く──

 白磁の巨体が羽撃くと、あっという間に雲の上に消える。そして、ほんの数秒後・・・

 空の彼方で、突然昼が訪れたのかと錯覚するような眩い光が弾けた。

 遅れて訪れた大轟音が、鼓膜越しに脳を揺らし・・・最後に、その衝撃に押しやられ、薄紫の雲が晴れていく。

「・・・・・・やはり・・・No.013が自爆したのか・・・‼」

 再び、自分の浅慮を恥じた。

 あれ程のオーバーテクノロジーを詰め込んだロボットだ・・・

 その機密を隠すために、最後はああなる事くらい、少し考えれば判る事だったはずだ・・・!

 もし、No.011が気づかなければ・・・ジャガーノートたちはともかく、この場にいた人間は全員消し飛んでいた事だろう。

 貸しを作ったままで終われると思っていたのだが・・・最後の最後に、まんまと助けられてしまったらしい。

 暗い海の向こう側で、大きな水柱が上がったのが見えた。

 おそらく、No.013の爆発をもろに受けたNo.011が落下したのだ。

 ・・・・・・ジャガノートに対してこんな事を思うなど、JAGDの隊長失格かも知れないが・・・今ヤツに死なれては、あまりにも後味が悪すぎる。

「・・・松戸少尉、No.011の高エネルギー反応は───」

『た、隊長ッッ!』

 生死を確認しようとして、少尉の声に遮られる。

『なっ、No.011の・・・高エネルギー反応が・・・・・・』

 視界の中央──真っ黒な地平線から・・・赤い光が、顔を出した。

『変化していきますッッ‼』

 ・・・・・・あぁ・・・クソッ。

 せっかく・・・せっかく、「最高」の結果を掴みかけたというのに・・・・・・ッ‼


<ギュロロロロロロロロオオオオオォォォッッッ‼>
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