恋するジャガーノート

まふゆとら

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第七話「狙われた翼 後編」

 第三章「相対」・④

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       ※  ※  ※


 「美しい」──そうとしか形容できない光景が、戦場の只中に在った。

 ティータの右瞳の輝きに合わせて翼から舞い上がった蒼い光の粒は、巻き起こる風に乗って絢爛なドレスのように彼女を包んでいる。

<───クロ! カノン! 一度離れて頂戴!>

 しかし・・・当の本人からは、そんなうっとりとした気分を遮るような声が放たれた。

<体内に入れないように注意して! この鱗粉は、生物の生命力を著しく活性化させる・・・場合によっては毒にもなるの!>

 綺麗な花には何とやら・・・だろうか。

 あの蒼い光にも危険な側面があると知ると、途端に恐ろしく、同時により蠱惑的にも感じてしまう。

<活性化の影響で、少し寿命が縮んじゃう可能性はあるけど・・・あの子のもつ免疫力が、ナノマシンを体外に排出するよう働いてくれる事を祈るしかない!>

 叫びながら、ティータが今一度大きく翼をはためかせると──

 蒼い光の波が、オラティオンに向かって降り注いでいく。

 同時にザムルアトラも鱗粉を浴びている事になるけど・・・さっきの説明からして、ロボット相手には、良くも悪くも効果はないはずだ。

<ギギギャアッ・・・! ギギギギ・・・ミギャアッ・・・‼ ミギギギャアアァ・・・ッッ‼>

 最初は、枯れた悲鳴・・・しかし途中から、かよわい叫びが混じり始める。

 すると・・・目の前で、不可思議な現象が起こった。

「・・・! お、オラティオンの手が・・・っ!」

 先程クロが鋏を抜いた掌が、光の奔流に包まれると──その中央に空いていた傷口が、みるみるうちに塞がり始めたのである。

『これが生命力の活性化・・・凄い力だね』

 いつもはどこか余裕のある態度を見せるシルフィも、驚きを隠せずにいる。

 時間をかけて治っていくはずの傷が、蕾が開花する様子を映したタイムラプス映像のようにあっという間に元通りになっていく様は、奇跡としか言い表しようがない。

<ミギギギ・・・ッ! ギギャアァァ・・・ッ! ミギャアアアッッ‼>

 そして、動きがあったのは手だけではない。

 必死な鳴き声と共に、オラティオンは拘束から逃れようと、全身を振り乱し始めたのだ。

「やった・・・! いいぞ・・・‼」

 ついつい、ガッツポーズをしてしまう───が、事はそう上手くいかない。

<キイイィィィィッッ! クキカカッカアアアァァァッッ‼>

 人質が逃げ出そうとして、反射的にだろう。

 ザムルアトラの体中から紫の鋼線が無数に飛び出し、先程クロにそうしたようにオラティオンの全身をぐるぐる巻きにしてしまった。

<オオオオオオ────ッ!>

 だが──気を取られていたその隙を、クロは見逃さなかった。

 接近しながら、全身に真っ赤な模様を浮かび上がらせる。

 まだオラティオンが捕まったままなのに、ライジングフィストを──⁉

 一瞬困惑するが、真っ赤な模様は・・・クロの掌ではなく、右前腕のに集まっていく。

「あれは・・・⁉」

<グオオオオオオオオオオオッッッ‼>

 そして、ザムルアトラの横につけると・・・掌を上、ヒレを下に向けたまま、右腕を引き──

 まるでアッパーを打ち込むように、腕全体をブン!と振り上げた。

 排熱口から漏れる白い光が、縦一文字に空を斬る。

<クキキキキキイイイィィィィイイイッッ⁉>

 炎熱を纏った前腕のヒレは、鋼鉄を灼き斬る刃となって──

 ザムルアトラの体躯の中央・・・胴体部分を、前後に一刀両断した。

「あんな技を・・・! すごいよ! クロっ!」

 昨夜、島での戦いの中で見せた、ヒレを使った攻撃の応用だろう。

『やるね、クロ。さしづめ、ライジングブレード・・・ってところかな』

 相手に熱を伝えて内部から破壊するライジングフィストと違って、あの技・・・ライジングブレードは、とにかく切り裂くことに特化してるんだ!

 ・・・最初はただ自分を苦しめるだけだった熱を・・・こんなにも自在に使い分けられるようになったんだね・・・!

<クキキキキキ───‼>

 しかし・・・ザムルアトラも、簡単に終わるつもりはないようだ。

 切り離された糸疣が、後脚のみを使って歩き、後退したかと思うと──足の裏から、噴煙を出し始めた。

 体の一部だけでも動ける事に驚いたけど・・・あの様子は、間違いない。

 昨夜と同じく、また宇宙へ逃げるつもりだ!

<グルアアアアアアアアァァァッッ‼>

 次は逃さない!とばかりに、それに気付いたカノンが全速力で突進を仕掛ける。

 ・・・だが、既に糸疣は宙に浮き始めていた。

 あと少し、間に合わない・・・!

 歯噛みした、その刹那───

「下部ジェット噴射! 艦首を上げて「エレクトリック・アンカー」をブチ込めッッ‼」

 アカネさんの力強い指示が、僕の耳にまで聴こえてきた。

 同時に、糸疣の後方──海中から、ダークグレイの潜水艦が勢いよく飛び出してくる。

 そして立て続けに、その艦首から鎖に繋がれた「いかり」が射出された!

 撃ち出された「錨」が糸疣に到達すると、同時に展開されたツメが突き刺さり、「錨」を固定する。

 潜水艦と糸疣とが鎖を介して繋がれ、飛び立とうとする巨大な球体はその戒めによって高度を上げる事が出来なくなる。

<グルアアアアアアアアアアアアアッッ‼>

 そして、その少しのが、勝負を分けた。

 駆けてきた二本の角は、糸疣の分厚い装甲をいとも簡単に貫いて串刺しにし──

 直後、カノンの両眼が水色の光を放ち始める。

「巻き込まれるぞ‼ アンカーをパージしろ‼」

 アカネさんが叫ぶ。潜水艦が、即座に鎖を手放す・・・その一瞬が過ぎ去った後───

<キキキキキイイイィィィィィ───────ッッッ‼>

 地上から天に向かってはしる稲妻が、鋼鉄の糸疣に水色の裂傷を穿ち、最後に、断末魔のような金属音が響き渡ると──

 巨大な球体と後脚は、木っ端微塵に弾け飛んだ。

「よし・・・っ!」

 思わず声が漏れてしまったが、戦いはまだ終わっていない。

 慌てて視線を向けると・・・クロは、ザムルアトラの背面に取り付いていた。

<グオオオオオオッッ‼>

 咆哮に合わせて、ネイビーの両腕に、真っ赤な裂け目が入った。クロが苦悶の表情を見せる。

 ・・・あれは、カノンとの戦いで見せた、筋力を強化する技だ。

 あまりにも痛々しいから、やって欲しくはなかったけど・・・でも。今の状況で、クロが必要だと判断したんだ・・・!

<グオオオオオオオオオオオオオ───ッッ‼>

 クロは強化した筋力を以て、ザムルアトラの装甲に勢いよく手を

<キカカカカッ! クキキキキキキ・・・ッッ!>

 そして──グシャ!と、何かが潰れる音がした直後・・・

 クロの剛腕は、鷲掴みにした装甲の内部を引き抜き、後ろへ放り投げたのである。 

<グオオオオオオオオオッッ‼>

 だが、それだけでクロの攻撃が止む事はない。

 まるでザムルアトラの体に、両腕で鉄の装甲を掻き分け、剥がし、一心不乱に引きちぎっていく。

 今まで見てきた中でも・・・最も激しく、最も荒々しい姿・・・。

 全身から迸る殺気は、近づいただけで身が灼かれそうだ。

『・・・一見、見境なく暴れてるように感じるけど・・・クロは、きちんと考えてるよ』

 絶句してしまっていた僕の緊張をほぐすように、シルフィの声が頭に響いた。

『あれは、ザムルアトラの体積を減らしているんだ。・・・現に、ほら』

 促されるまま目を向けると──オラティオンの体が、徐々にザムルアトラの拘束から脱しつつあるのが見えた。

 ・・・クロは・・・本当に、目まぐるしく成長してるんだね・・・。
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