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第七話「狙われた翼 後編」
第三章「相対」・③
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そして、今────
<ギギギ・・・ッ‼ ギギャアアアアアアアッッ‼>
No.012の口内から「砲口」がせり出て、正面のNo.009へ向けられる。
この距離で先程のように光線同士が衝突すれば、真正面に立つNo.012が粒子の奔流をもろに受けて消し飛ぶ事になる。
・・・ただ、No.009は角だけがバリアに守られていなかったと中尉が言っていた。当たり所によっては、黒焦げになるのはNo.009という事も有り得る。
───詰まる所、撃たせた瞬間に・・・どちらかが死ぬ・・・!
<キキキキキイイィィィィ────>
そして、甲高い駆動音と共に、紫色の光がその輝きを増していき──
『オルアァァッ‼ 食らいやがれってんだよッ‼』
───同時に、稲妻に似た軌道を取る光線が、No.013の体に直撃する。
<ギギギャアアア──カカカカカ───カカッッッ⁉>
「砲口」に集中していた光は、水色の稲妻に切り裂かれて飛沫と化し、ふわりと消え失せた。
枯れた叫びと金属音の不協和音が止み・・・・・・一瞬の静けさが訪れる。
<────グオオオオオオオオオッッッ‼>
静寂を破ったのは、No.007の咆哮だった。
突進してきた勢いそのまま、No.013の右腕を掴むと──
カニの足でも手折るように、力任せに鋏の根元から関節を引きちぎった。
<キキキキキイイイィィィィィィッッ‼>
次いでNo.007は、No.012の掌を支えたまま、刺さっている鋏を掴んで引っこ抜いた。
鋏につられて、その表面から植物の根のように張っていた紫の鋼線も、ぶちぶちと音を立てて掌から剥がれていく。
「───テリオ! 「メイザー・ブラスター」だ‼」
『了解・・・シークエンスを省略します。両輪ロック、固定装置セット──』
ガイドが始まるのと同時に、リアボックスの両側に付いた長方形のパーツを取り外し、分解。
急いで砲身を組み立て、既に展開されていた担架アームに乱暴に乗せる。
『メイザー粒子、充填中──』
「ハウンド3はそのままヤツを足止めしろ! ハウンド2! 「特殊鋼弾頭魚雷」用意‼」
テリオのガイド音声を聞き流しながら、隊員たちに指示を飛ばす。
<グルァァァアアアアアアアア‼>
見れば、<アルミラージ>のメイザー光線に誘発されたのか、No.009の体からも水色の光が迸り、No.013の全身に伝導っていた。
期せずして、ヤツを縛り付けに出来ている!
このチャンス・・・無駄にしてなるものか・・・ッ‼
『チェンバー内、正常加圧中 ──』
「<サンダーバード>を!」
発射シークエンスの途中で指示するのは酷かとも思ったが、応えてくれたようだ。
ダークグレイのドローンが、素早い動きでメイザー・ブラスターの射線上に飛来する。
『最終セーフティ、解除───マスター、撃てます』
グリップを握る両手に力を込め、大地をしっかりと踏みしめて、砲身を支える。
一つ、息を吐き─── 引き金を引く。狙いは・・・ここだッ!
<ギギギギギャアアアアアアアアッッッ‼>
<サンダーバード>の歪曲フィールドによって逸らされた一条の光線は──No.012の両翼の先端にある宝石を同時に撃ち抜き、粉々に砕いた。
・・・狙い通りにいって、少しほっとする。
No.012には悪いが、一番狙いやすい「加速器」はあの2つだったのだ。
『・・・転職希望?』
『せからしかっ‼』
オープンチャンネルに、ユーリャ少尉の軽口と、苛立ちながら返す竜ヶ谷少尉の声が飛び交った。
・・・竜ヶ谷少尉なら、指の付け根の宝石5つ抜きくらいはしてみせただろう。
<・・・! グオオオオオオッッ‼>
そこで、No.007に動きがあった。No.013の腕から手を離し、糸疣の方へ近づく。
大きく右腕を振りかぶると───握った拳を、紫色の球体に叩き込んだ。
「! こちらの狙いに気付いたのか・・・!」
平時であれば、その知能の高さに舌打ちの一つでもしているところだが・・・今は好都合だ。
荒々しい咆哮と共に何度も拳が打ち込まれ、球体は粉々に砕ける。
そして、休む間もなく、次の球体へ──。こちらも負けてはいられない。後方にいるNo.011に声をかける。
「昆虫! 今から特殊な魚雷を撃つ! それを操って───」
<私が心を読めるの忘れたのかしら? いつでも来なさい!>
・・・やれやれ。便利なのか、厄介なのか・・・。
中尉に発射を指示すると、「特殊鋼弾頭魚雷」が、上向きに発射される。
空中での推進力を持たない魚雷は、当然射出と同時に重力に従って落下するが───
<キュルルルルル───ッ!>
唄うような響きとともに、3発の魚雷が赤い光に包まれ宙を舞う。
今のNo.013に、迎撃する余力はなく──No.005由来の特殊鋼と爆発の威力は、一撃で球体を破壊せしめた。
<クキカカカカカアアアアアアァァァッッッ‼ キキキキキイイイィィィィィッッッ‼>
体中を散々破壊され、怒りの一つでも湧いてきたのか・・・今までで一番大きな金属音が鳴り響く。
刹那、全身から例の金属の「煙」が噴出され、メイザー光線が霧散した。
煙幕に紛れて、No.013が後退する。No.007も一度距離を取った。
No.009は・・・何やらキョロキョロと首を忙しなく振っている。・・・ヤツだけ落ち着きがないな。
<キキキキキキキキイィィィ────クキカカッ⁉>
そして、何度目かになるかわからない紫色の発光が始まって──その光量は増す事なく、紫の粒子が周囲に散っていった。
球体があった穴から、キラキラと粒子だけが吹き出している。
どうやら、テリオの作戦は成功だったようだ。
『・・・隊長! 一つ報告したい事が!』
オープンチャンネルに皆の快哉が飛び交う中、柵山少尉の声が耳に届いた。
『No.013の残骸から回収したナノマシンのうち、用途が不明だった最後の一つの正体が判ったんです! 昨夜から、本局の研究課と協力して解析を進めていたんですが・・・今、向こうから連絡がありました!』
「そうか・・・! ・・・それで、あれは一体何だったんだ?」
聞き返すと・・・心を落ち着かせるためか、一度息を吐く音が聞こえた。
『・・・あのナノマシンは、生物の中に入り込んで、その体内で何かの物質を培養させるためのもののようなんです。・・・おそらく、その物質こそ、あの荷電粒子砲に使う紫の「粒子」ではないかと思われます』
「・・・・・・成程な」
オープンチャンネルが、一斉に静まり返った。
最低最悪のロボットだとは思っていたが・・・まさか生物の体を粒子貯蓄槽に使うなどと、誰が想像出来ただろうか。
・・・だが同時に、納得は出来る。
先程糸疣を破壊した直後、溢れ出た家畜たちに慌てて鋼線を挿していたのは、体液ごと培養した粒子を取り込むためだったのだ。
『また、検証結果によれば、このナノマシンは宿主の神経系に作用して、常に麻痺したような状態にさせる事も判りました! No.012も、おそらくその影響で・・・』
生物を麻痺させる作用・・・テリオと話していた、No.013の目的が「捕獲」であるという推論が、現実味を帯びてくる。
・・・しかし、だとすれば・・・
No.012をあそこから救出するには、体内に打ち込まれたナノマシンを排斥しなければならない・・・という事か?
それは・・・あまりにも・・・・・・
<──アカネ! 悪いけど、話は勝手に視させてもらったわ!>
まさかジャガノート相手に透析するわけにも・・・などと考えていたところで、No.011の声がヘルメット越しに鼓膜を震わせた。
<私に考えがあるの。リスクはあるけど・・・あの子自身に賭けてみるわ・・・!>
「一体何を!」と言いかけて──突如、ヤツの右の複眼が、蒼く輝き始める。
・・・赤い光は散々見たが、もう片方が光ったのは初めて見た。
同時に、右の翼も同じ光に包まれ・・・
No.011が翼を羽撃かせると、蒼玉に似た輝きを持つ粉塵が舞って、夜空を薙ぐ蒼の波が生まれた。
『・・・・・・綺麗・・・』
誰もがその光景に目を奪われ・・・無口なユーリャ少尉ですら、思わず言葉を漏らした。
何をしでかすつもりか知らないが──今は、ヤツに任せるしかない・・・か。
一抹の悔しさを感じながら、隊員たちに待機を指示した。
<ギギギ・・・ッ‼ ギギャアアアアアアアッッ‼>
No.012の口内から「砲口」がせり出て、正面のNo.009へ向けられる。
この距離で先程のように光線同士が衝突すれば、真正面に立つNo.012が粒子の奔流をもろに受けて消し飛ぶ事になる。
・・・ただ、No.009は角だけがバリアに守られていなかったと中尉が言っていた。当たり所によっては、黒焦げになるのはNo.009という事も有り得る。
───詰まる所、撃たせた瞬間に・・・どちらかが死ぬ・・・!
<キキキキキイイィィィィ────>
そして、甲高い駆動音と共に、紫色の光がその輝きを増していき──
『オルアァァッ‼ 食らいやがれってんだよッ‼』
───同時に、稲妻に似た軌道を取る光線が、No.013の体に直撃する。
<ギギギャアアア──カカカカカ───カカッッッ⁉>
「砲口」に集中していた光は、水色の稲妻に切り裂かれて飛沫と化し、ふわりと消え失せた。
枯れた叫びと金属音の不協和音が止み・・・・・・一瞬の静けさが訪れる。
<────グオオオオオオオオオッッッ‼>
静寂を破ったのは、No.007の咆哮だった。
突進してきた勢いそのまま、No.013の右腕を掴むと──
カニの足でも手折るように、力任せに鋏の根元から関節を引きちぎった。
<キキキキキイイイィィィィィィッッ‼>
次いでNo.007は、No.012の掌を支えたまま、刺さっている鋏を掴んで引っこ抜いた。
鋏につられて、その表面から植物の根のように張っていた紫の鋼線も、ぶちぶちと音を立てて掌から剥がれていく。
「───テリオ! 「メイザー・ブラスター」だ‼」
『了解・・・シークエンスを省略します。両輪ロック、固定装置セット──』
ガイドが始まるのと同時に、リアボックスの両側に付いた長方形のパーツを取り外し、分解。
急いで砲身を組み立て、既に展開されていた担架アームに乱暴に乗せる。
『メイザー粒子、充填中──』
「ハウンド3はそのままヤツを足止めしろ! ハウンド2! 「特殊鋼弾頭魚雷」用意‼」
テリオのガイド音声を聞き流しながら、隊員たちに指示を飛ばす。
<グルァァァアアアアアアアア‼>
見れば、<アルミラージ>のメイザー光線に誘発されたのか、No.009の体からも水色の光が迸り、No.013の全身に伝導っていた。
期せずして、ヤツを縛り付けに出来ている!
このチャンス・・・無駄にしてなるものか・・・ッ‼
『チェンバー内、正常加圧中 ──』
「<サンダーバード>を!」
発射シークエンスの途中で指示するのは酷かとも思ったが、応えてくれたようだ。
ダークグレイのドローンが、素早い動きでメイザー・ブラスターの射線上に飛来する。
『最終セーフティ、解除───マスター、撃てます』
グリップを握る両手に力を込め、大地をしっかりと踏みしめて、砲身を支える。
一つ、息を吐き─── 引き金を引く。狙いは・・・ここだッ!
<ギギギギギャアアアアアアアアッッッ‼>
<サンダーバード>の歪曲フィールドによって逸らされた一条の光線は──No.012の両翼の先端にある宝石を同時に撃ち抜き、粉々に砕いた。
・・・狙い通りにいって、少しほっとする。
No.012には悪いが、一番狙いやすい「加速器」はあの2つだったのだ。
『・・・転職希望?』
『せからしかっ‼』
オープンチャンネルに、ユーリャ少尉の軽口と、苛立ちながら返す竜ヶ谷少尉の声が飛び交った。
・・・竜ヶ谷少尉なら、指の付け根の宝石5つ抜きくらいはしてみせただろう。
<・・・! グオオオオオオッッ‼>
そこで、No.007に動きがあった。No.013の腕から手を離し、糸疣の方へ近づく。
大きく右腕を振りかぶると───握った拳を、紫色の球体に叩き込んだ。
「! こちらの狙いに気付いたのか・・・!」
平時であれば、その知能の高さに舌打ちの一つでもしているところだが・・・今は好都合だ。
荒々しい咆哮と共に何度も拳が打ち込まれ、球体は粉々に砕ける。
そして、休む間もなく、次の球体へ──。こちらも負けてはいられない。後方にいるNo.011に声をかける。
「昆虫! 今から特殊な魚雷を撃つ! それを操って───」
<私が心を読めるの忘れたのかしら? いつでも来なさい!>
・・・やれやれ。便利なのか、厄介なのか・・・。
中尉に発射を指示すると、「特殊鋼弾頭魚雷」が、上向きに発射される。
空中での推進力を持たない魚雷は、当然射出と同時に重力に従って落下するが───
<キュルルルルル───ッ!>
唄うような響きとともに、3発の魚雷が赤い光に包まれ宙を舞う。
今のNo.013に、迎撃する余力はなく──No.005由来の特殊鋼と爆発の威力は、一撃で球体を破壊せしめた。
<クキカカカカカアアアアアアァァァッッッ‼ キキキキキイイイィィィィィッッッ‼>
体中を散々破壊され、怒りの一つでも湧いてきたのか・・・今までで一番大きな金属音が鳴り響く。
刹那、全身から例の金属の「煙」が噴出され、メイザー光線が霧散した。
煙幕に紛れて、No.013が後退する。No.007も一度距離を取った。
No.009は・・・何やらキョロキョロと首を忙しなく振っている。・・・ヤツだけ落ち着きがないな。
<キキキキキキキキイィィィ────クキカカッ⁉>
そして、何度目かになるかわからない紫色の発光が始まって──その光量は増す事なく、紫の粒子が周囲に散っていった。
球体があった穴から、キラキラと粒子だけが吹き出している。
どうやら、テリオの作戦は成功だったようだ。
『・・・隊長! 一つ報告したい事が!』
オープンチャンネルに皆の快哉が飛び交う中、柵山少尉の声が耳に届いた。
『No.013の残骸から回収したナノマシンのうち、用途が不明だった最後の一つの正体が判ったんです! 昨夜から、本局の研究課と協力して解析を進めていたんですが・・・今、向こうから連絡がありました!』
「そうか・・・! ・・・それで、あれは一体何だったんだ?」
聞き返すと・・・心を落ち着かせるためか、一度息を吐く音が聞こえた。
『・・・あのナノマシンは、生物の中に入り込んで、その体内で何かの物質を培養させるためのもののようなんです。・・・おそらく、その物質こそ、あの荷電粒子砲に使う紫の「粒子」ではないかと思われます』
「・・・・・・成程な」
オープンチャンネルが、一斉に静まり返った。
最低最悪のロボットだとは思っていたが・・・まさか生物の体を粒子貯蓄槽に使うなどと、誰が想像出来ただろうか。
・・・だが同時に、納得は出来る。
先程糸疣を破壊した直後、溢れ出た家畜たちに慌てて鋼線を挿していたのは、体液ごと培養した粒子を取り込むためだったのだ。
『また、検証結果によれば、このナノマシンは宿主の神経系に作用して、常に麻痺したような状態にさせる事も判りました! No.012も、おそらくその影響で・・・』
生物を麻痺させる作用・・・テリオと話していた、No.013の目的が「捕獲」であるという推論が、現実味を帯びてくる。
・・・しかし、だとすれば・・・
No.012をあそこから救出するには、体内に打ち込まれたナノマシンを排斥しなければならない・・・という事か?
それは・・・あまりにも・・・・・・
<──アカネ! 悪いけど、話は勝手に視させてもらったわ!>
まさかジャガノート相手に透析するわけにも・・・などと考えていたところで、No.011の声がヘルメット越しに鼓膜を震わせた。
<私に考えがあるの。リスクはあるけど・・・あの子自身に賭けてみるわ・・・!>
「一体何を!」と言いかけて──突如、ヤツの右の複眼が、蒼く輝き始める。
・・・赤い光は散々見たが、もう片方が光ったのは初めて見た。
同時に、右の翼も同じ光に包まれ・・・
No.011が翼を羽撃かせると、蒼玉に似た輝きを持つ粉塵が舞って、夜空を薙ぐ蒼の波が生まれた。
『・・・・・・綺麗・・・』
誰もがその光景に目を奪われ・・・無口なユーリャ少尉ですら、思わず言葉を漏らした。
何をしでかすつもりか知らないが──今は、ヤツに任せるしかない・・・か。
一抹の悔しさを感じながら、隊員たちに待機を指示した。
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