恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十話「運命の宿敵 後編」

 第三章 「雷王対雷王‼ 誇りをかけた戦い‼」・④

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       ※  ※  ※


<───ッ⁉>

 嫌な感覚が、突如として背筋を撫ぜた。

 外部からの「波」ではない、私のうちから発した悪寒・・・・・・今のは、一体・・・?

<ガアアァァッ‼ ガアアアァァッッ‼>

 と、不慣れな感触に意識を持っていかれた次の瞬間、右手からガラムが襲いかかってくる。

<しまっ───>

<ウオオオオオオォォォッッ‼>

 黒い爪の先が、私の肩に触れる寸前・・・雄叫びと共に割り込んで来たクロが、ガラムを空中で蹴り飛ばしてくれた。

 ・・・間一髪だったわね。

<ティータちゃん! 大丈夫ですかっ⁉>

<・・・えぇ。ありがとう・・・お陰で怪我一つないわ>

 クロにお礼を言いつつ、深く自省する。

 まだまだ戦いは終わりそうにないっていうのに、集中を切らしてちゃダメよね。

 ・・・たとえ今のが、何か悪い事が起こる予兆だったのだとしても・・・・・・

<クロ! もう少しだけ、私を守ってくれるかしら?>

<はいっ! 判りました!>

 頼もしい返事を受けて、「視界」を少し離れた位置にまで広げる。

 ガラムたちの群れの中・・・銃声と共に、いくつかの見慣れた「波」が視えた。

  「チクショウ・・・! こいつぁキリがねぇぜ・・・!」

  「総員ッ、何とか堪えるんだ! ここで食い止めなければ、民間人に被害が出る!」

 竜ヶ谷と、いつもアカネの隣にいるマクスウェル・・・だったかしら。あの二人ね。

 彼らの他に、オリカガミと戦った時にいた落合も視えたところで──同時に、既に怪我をしている子がいる事に気が付く。

 ・・・どうやら、状況は芳しくなさそうね。

 私がすぐ近くにいたにも関わらずJAGDの子に死なれちゃったら、アカネに申し訳が立たないし・・・何より、私自身が納得いかないわ。

 直接力を貸せないなりに、少し負担を減らすくらいはしてあげなくちゃ。

<ほら──鬼さんこちら、よっ!>

 竜ヶ谷たちが相手取っている群れの後方に、ガラムの鳴き声を再現した「波」を発生させる。

 通用するかは、正直賭けだったけれど・・・・・・

<ガアアァッ! ガアアッ! ガアアアァァッ!>

 ・・・どうやら、上手くいったみたいね。

 群れの4分の1くらいの個体が、こちらへ駆け出してくるのが視えた。

<ありがとう、クロ。もう大丈夫よ>

<はい! それじゃあ行ってきますっ! ──ウオオオオオオオオォォッ‼>

 クロは再び咆哮して、ガラムの群れの中へと勇んで突っ込んでいく。

 私もまた、周囲を警戒しながら、クロのサポートに回った。

 ・・・意識を戦いに集中しつつも、やっぱりさっきの嫌な感覚が気にかかる。

 今すぐカノンの所に向かいたい気持ちもあるけれど・・・このままガラムたちを放っておけば、ハヤトの仲間たちが・・・あの子の帰る場所が失われてしまう事だって有り得る。

 「止り木」の枝葉を守る者として、それだけは絶対に阻止しなくちゃならない。

 ・・・だからこそ、今は・・・カノンがどんなに辛い悩みと向き合う事になっていたとしても、あるいは、どんな強敵と戦う事になっていたとしても───


 ハヤトなら、きっとあの子を助けてくれると・・・そう信じるしかない。

 ・・・・・・あの時、私にそうしてくれたように。


<それまでは──私たちがハヤトの帰る場所を守らなくちゃ・・・ねっ!>

 クロを背後から襲おうとしたガラムを地面に叩き付けながら・・・心の中で、祈る。

 無事でいるのよ・・・カノン・・・・・・!
 

       ※  ※  ※


「まずはガラジンガーを引き付ける! ハウンド3はヤツの右手に回り込め!」

『『アイ・マムッ!』』

 揃った声が返ってきた後、<ファフニール>の車体からガコン!と大きな音が鳴る。

 左右のユニットに隠された車輪と共に、コックピット後部にある「高速駆動用ホイール」が展開された音だ。

 車高とほぼ同等の大きさを持つそれは、<ファフニール>の巨体を持ち上げてキャタピラを浮かせ、車輪と高速駆動用ホイールだけを接地させた状態にする。

『飛ばすよバーグちんっ!』

『いつでもどうぞ!』

 グプタ少尉が返事をしたのと同時・・・エンジンが唸り、高速駆動ホイールが急速に回転して砂塵を巻き上げると──<ファフニール>は瞬時に加速し、わずか数秒で所定の位置に到着してみせた。

 聞きしに勝る性能に内心感嘆しつつ・・・ヘルメットに左手をあてて、叫ぶ。

「よし──行くぞッ! 作戦開始ッ‼」





 こちらも全速力で飛ばし、ガラジンガーを挟み込むような位置取りをする。

 放っておいてもヤツらは喧嘩を続行するだろうが・・・今ガラジンガーに後退されると、横転している<ドラゴネット>が圧し潰されかねない。

 故に・・・意識をこちらへ向けてもらう必要があるわけだ。

「テリオ! バック走行しつつミサイル発射だ! 残り全弾ブチ込め‼」

 前方に躍り出たところで、テリオに指示を出す。

 振り返ると、立ち上がったガラジンガーの正面が初めて視界に入るが・・・「見ない方が良かった」というのが正直な感想だった。

 硬質な外殻に守られている背面とは違って、首から腹にかけてはオレンジ色のぶよぶよとした質感の体組織が張り付いている。

 生々しい光沢を帯びたそれはまさに内臓そのもののようで、グロテスクな印象を受けた。

『了解しました。カウントします。5、4──』

 気分が沈んだところで、<ヘルハウンド>の車体が指示通りに急旋回し、両輪が逆回転に切り替わった。

 すかさず左手をハンドルから離し、ヘルメットの側面に当てる。

「ハウンド3! こちらの攻撃が着弾次第、順次砲撃を開始しろ!」

 二人からの返事は、ミサイルの発射音にかき消された。

<シュルルルルル───シャアアァッ⁉>

 白煙の尾を引く小型ミサイルは、目前の敵へ威嚇を続けるガラジンガーの「本当の頭部」に命中する。

 自分と同じデカブツと戦う時ならともかく、我々人類からすれば何とも狙いやすい所に脳天を付けてくれたものだ。

<ルシャアアアアアアア・・・・・・ッ!>

 ヤツにとっては蚊に刺された程度のダメージかも知れないが、攻撃された事に対して明確に反応を示してはしている。

 ・・・しかし、底部の頭が左右に振れるだけで、こちらを認識しているようには見えない。

「・・・が小さすぎてこちらに気付けないのか?」

『可能性はありますね。ここは<ファフニール>にお任せしては?』

 平時であれば敵に認識されず攻撃し放題という有り難いシチュエーションながら、今この時に限っては気付いてもらわねば困る。

 テリオに促されるように反対側の<ファフニール>へ目を向けると、ちょうど左右のユニットに収納された兵装を展開している所だった。

 「万能特殊装甲車両」を謳う<ファフニール>の設計思想は、「相対するジャガーノートの大小を問わず、単騎で敵を殲滅、または撹乱する事にある」・・・とはサラの弁。

 先般ガラムを蜂の巣にした「ロボットアーム・マシンガン」に対して、たった今展開が完了した64口径127ミリ連装砲──「ジャイアント・キラー」は、その名の通り巨大ジャガーノート戦を想定した装備だ。

 ・・・既製品の艦載砲を横に2つ並べただけのものだが。

『展開完了───砲撃開始します!』

 操縦はカルガー少尉、火器管制はグプタ少尉の役割らしい。お手並み拝見といこう。

 一度足を止め、状況の観察に務めることにする。

『1から4番まで左右交互に発射、着弾位置を観測します』

 高速駆動ホイールを収納した<ファフニール>は、すかさず砲撃を開始した。

 ドン‼と丹田はらを震わせる音が連続でした後、ガラジンガーの首の根元あたりで爆発が一つ起きる。

 続いて、再びの炸裂音──次は右腕に着弾する。

<ルシャアアアアアアアッッ‼>

 すると・・・先程とは打って変わって、ガラジンガーは明確に方向転換した。

 確実に、<ファフニール>をこの場における「敵」として認識したのだろう。

『やっぱり足場が悪い・・・機体の制御プログラムを修正します! カルガー少尉っ!』

『あいあ~~い! 時間稼ぎは任しといて~っ!』

 どうやらグプタ少尉は、戦闘中にプログラムを書き換える離れ業をやってのける気らしい。

 一方のカルガー少尉も当然のように提案を受け入れ、砲撃を続けながらバック走行を開始する。

『うらうら~‼ どうした~⁉ ついてきなさいっての~~‼』

 ・・・わざわざ大袈裟に蛇行して、相手を煽りながら、だ。

 キャタピラであれをやってのける運転技術の高さはユーリャ少尉に負けず劣らずながら・・・やはりカルガー少尉は如何せん緊張感に欠けるところがあるな・・・・・・

<ギャオオオオオロロロロロロロロッ!>

 と、そこで、敵の出方を伺っていたガラカータナが動き出した。

 踏み出すのと同時に左腕の鞭を振るい、ガラジンガーの体を思い切り打ち据える。

<シャアアアッ⁉ ルシャアアアアアアアッッ‼>

 足下の敵に気を取られていたガラジンガーはその攻撃をもろに受けて立ち止まり、ガラジンガーが距離を詰めて来た分だけ、自身も退がろうとしていた。

「まずい・・・っ! ハウンド3! ガラジンガーを引き付けろ‼」

『アイ・・・マムッ! 修正完了! 集中砲撃します!』

 プログラムをセットし直したグプタ少尉が、間髪入れずにガラジンガーを狙い撃ちする。

 ・・・しかし、砲弾は命中しているにも関わらず──外殻より柔らかそうに見える内臓のような部位ですら、大きな傷を負っているようには見えなかった。

 今更ながらやはり・・・ジャガーノートの生命力と防御力は常軌を逸している。
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