婚約破棄の後は不幸な少年と幸せに

フジ

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あれから、もう一枚もう一枚とねだられ、心臓が壊れそうになりながら口に運んでいる。さっきまで着けていたきついコルセットを外したはずなのに、もう息が上がっていた。

「も、むりぃ」
「でも、いろんな種類作ってくれたんでしょ?」
全部食べないとね、とぺろりと舌を出すアランに、いいぞーもっとやれー!とミラが後押しする。
セバスはいつのまにか写真をバシャバシャ撮ってるし、ジェーンはまだまだクッキーはありますわ、と追加を持って来ていた。

ちょっと、まって!もう無理、無理だってば!
もう!アランも指についたクッキーの粉を舐めないでー!

いやでも、甘さ控えめでも、こんなに食べるアラン初めて見たし、もしかして…

「お腹、空いてたの?」
かなり本気で聞いたのに、もー!なんで笑うのよ!ミラとジェーン!また鼻血!
セバスは尊いって呟かないで!

「そう…そうなんだよ、もう僕お腹ペコペコ…クッキーじゃ足りなくなってきそう」

急にアランが髪をかきあげたと思うと、無害そうな無垢な顔で隣に座り、手首を掴んで来た。
身体が近付き、自然と後ろへ下がってしまう。ソファのヘリに追い詰められて、アランで顔に影ができる。

「え、ちょ、ちょっと、近い、近くない?」
「そんなことないよ?大丈夫、僕に任せて」
「待って待って、何が何が??アラン、アランー!」

アランが私の手を引くから胸に飛び込んでしまい、その硬い胸板に一瞬、現状を忘れてしまう。

「あ、ぅ」

優しい手つきで髪をすかれ、後ろに撫でつけられ、右肩があらわになったところに口付けられる。
(や、やだぁっ)
ぞくっと、何かが背中に走り、口から吐息が漏れた。
それがまた引き金になったのか、もう一度、もう一度とキスされる。身体が熱くなっていき、このままどうなってしまうのだろうと身体がすくむ。

「やだよ、アラン、?」

やだ、なんかアラン変だ!こんなこと今までされたことなかったのにっ、セバスっ!ミラ、ジェーン!クッキー片付けてる場合じゃないよ!

だめ、なんかもうだめっー!

頭が真っ白にーー。声が、でそうー



急にアランが体を離し、執事達もパパッと私の着衣を整えた。

え、何がー。と思ったら、すぐに分かった。


「フィーリア!!!泣いてないかい??!あのお馬鹿王子めっ!」

お父様達が飛び込んできたのだ。



「うっうっう…」
私とアランは横並びになって、目の前のソファで泣いているお父様とお母様を見た。
「ま、まさかあのお馬鹿があんな所で婚約破棄を言い出すとはっ」
顔を赤くして、ブルブルと思い出したように怒るお父様だけど、ふわふわとした髪と髭が迫力を打ち消している。
隣でふふふ、と笑って冷めた紅茶を飲んでいるお母様もふぅ、とため息をついていた。
メイドが熱いのを入れ直します!と慌てていたけれど、今は熱いのをちびちび飲みたくない気分なの、お酒を一気に煽りたい気分…と笑っていた。

お父様とお母様は一見ふわふわして見えるだろうけれど、政治の中ではやり手として扱われている。だから家同士の絆を深めるために王子との婚約が幼い頃に上がったのだ。
私のことを大切にしてくれている2人は政略結婚に反対で、婚約を断固拒否していたが、王家からの、もとい王様からの猛プッシュで話が進められた。

幼い頃は、押し切られてごめんよ、王様によくよくお願いしておいたからね。幸せになるんだよ、と良く寝る前に言われたものだ。
その私を思う気持ちが伝わってきて、それだけですごく嫌だった婚約も少しだけ前向きに考えることができた。

まぁ前向きって言っても、後ろ向きの前向きだけどね。私達から断れないなら、向こうから断らせてやろう、と。それは余談だけど、そんな2人も王子に対してすごく怒っているのだろう。


「お馬鹿なアーディ様はあの後すぐに王様に引きずり降ろされて、みんなの目の前で王位継承権を一旦取りやめられていたわ」

当たり前ね、とお母様が鼻で笑った。こんな黒いお母様は初めて見る。
でもまさか王様は王子に甘いから、今回のことも許すのかと思ってたけどー。まさか王位継承権を取りやめるなんてー。


「《堪忍袋の尾が切れまくったわい!こんな馬鹿息子は今後の外交も任せられん!》って言っておったわ」

「それで、アーディ王子は…」

「騒いでいたけど会場から叩き出されていたわね」

あの化粧の派手な女の子はどうなったのだろうか?
アーディは最後に、私に嫉妬して欲しかったって言ってたけど…それって、あの女の子の気持ちを利用したってことじゃない。
本当そーゆー所無理。でもその女も女なのかな、私という王家から認められた婚約者がいるってわかっていて、王子の側に居たんだから。

それが顔に出てたのか、あの女は王家侮辱罪で捕まったと教えてくれた。家も取り潰されるらしい。
そんな悲惨な目に合うなんて思ってもみなかったでしょうね。きっと王子もその女を拒みもしなかっただろうしー。


「なんだか私以外は全員大変そうね」

ジェーンに入れてもらった熱い紅茶を飲みながら、そっと幸せを噛み締めた。


でも、その私の言葉に、皆が目を剥いた。それぞれ口を開こうとして、視線が交錯する。そして皆が思っていることをお母様が代弁した。

「貴女が1番の当事者なんだから!」



「あれ?そうだっけ?」


おかしいな、私すっごく幸せなのにー。

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