婚約破棄のその先は

フジ

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番外編

ルーブル家当主

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全てわたしが悪いというのか。




三男は、死にかけで産まれてきた。
長男次男と男児続きで、妻が女の子を切望し、3人目を孕んだ。男児特徴のお腹の出っ張りは無く、つわりも軽いことから、もしかして女の子ではないか、と密かに期待もした。

男の子が産まれたと聞いて、落胆したといえば嘘になる。

また産声をあげることが遅くなり、鳴いても上の2人と違って、弱々しい声だと産婆から聞いた。

その時の胸中は、こんな弱い息子は必要ない、という思いだった。
後継は長男次男と困っておらず、正直、三男は手に余る。

「まぁ、産まれてきたのは仕方ない、ゲイツの下にでもつけるかー。」
と、産まれたばかりの三男の顔も見ずに、仕事に戻った。





ダダーーーン!と銃声がして、ギャアギャア、と鳥の鳴く声が響き渡る。
「お父様ー!」
長男のゲイツ、次男のマイクが2人とも獲物を持って走ってきた。
「おお、仕留めたか、流石だ」
しゃがみこみ頭を撫でると、2人はお父様のご指導のお陰です!と屈託無く笑った。
この2人は大きくなった、と感心していると、ふと三男のユーリはどこだと頭をよぎった。
「ユーリはどこだ?」
「あいつなら、母様と一緒にいる!」
マイクが、指差した。
「あいつ、可哀想だからしねーって言うんだよ、おっかしーの」
とゲイツはもう一回行ってくる、と銃を片手に茂みに入る。
マイクもすぐにそれを追いかけ、すぐに銃声が響いた。


周りを見渡すと三男のユーリは茂みに少しもたつき、母親に手を引いてもらっていた。

その時、もや、としたものが胸をよぎった。

最初は明瞭活発な兄達と比べて、比較的大人しいユーリにそんなものか、と思っただけだった。


しかしいつからか兄達とは違う、慎重派なユーリにイラつきを覚え始めた。兄達とは年齢も経験も違うため、仕事や勉学の覚えのスピードが違うと頭では分かっている。
だが、感情では割り切れていなかった。
いつも母の後にくっつき離れないあやつは、私が話しかけても怯え会話もままならなかった。

兄の代わりにもならないやつになんか期待なんかするはずもなかった。



クラベル家に、娘に子供を紹介してほしい、と連絡が来た時は鼻で笑った。

クラベル家長女は我が儘だと聞いていたがココまで堕ちたかー。

そんな子供と仲良くしている、と評判が立てば、我が家も落ちるかー。
しかし、クラベル家とはしていかなければいけない。

ゲイツやマイクは勉強や私の仕事の手伝いがあるけれど…

じゃないか。


その時にはもう三男がどこでなにをしているのか、ということに興味がなかった。
執事に三男の様子を尋ねると、少し驚かれた後、家庭教師をつけて勉強をしている、とのことだった。

ゲイツ様やマイク様のようにお声を掛けてあげれば喜ばれますよ、と言われたが忙しい、で片付けた。
差し出がましいことを、と執事が下がろうとしたので、まてよ、と思い返し、引き止めた。

「ユーリを今すぐ呼べ、それと、あやつの家庭教師はやめさせろ」
「ですが、とても楽しみにー」
「はやく行け」
執事が申し訳ありません、と頭を下げて、部屋から出て行く。

その様子に、心の中に確かにモヤ…としたものが浮かぶも、仕事に専念した。

なにが悪い、ユーリも仕事を頼まれ喜ぶだろう。


これを代わりにクラベル家に何を交渉しようか、それを考えて、もうユーリのことは頭になかった。




ーそして、事故がおこる。



我が子が叩かれ過ぎて目の前で失神するのを今でも思い出す。

ーとうさま、とうさまー

くるな、お前には失望した

ーとうさま、僕を

何も話すな、役立たずのお前の声も聞きたくない
お前と話すとイライラが止まらないんだ


ーとうさま、なぜぼくを愛してくださらないのですか



ハッと目を醒ますと、そこは自室で、夜中だった。
「何故今あの時のことをー」

最近良くあの時のことを夢見る。

昔、クラベル家の娘を怪我させた時のことだ。あの時から我が家とクラベル家の立場が逆転してしまった。
我が家より格下のクラベル家に頭が上がらない状況にしたあやつへの憤りが蘇り、握った拳を膝に打ち付けた。
三男を愛せないなんてとうの昔から気付いている。
向こうからも特別、父と慕ってくれたわけでもない。

「なぜ、今になって、愛してくれと言ってくるんだ」

その日の夜は長く感じた。





ヴァルファン家の当主が怒りをひめた目でわたしを見ているのを、どこか遠くに感じていた。


我が家はもう、

我が家がクラベル家と共に、王家の金に手を出していることが知られ、妻に離縁された。
長男と次男は妻の元へ行き、何故か三男が、我が家に残り、仕事を手伝っていた。
いずれ手を引くつもりだったと弁解しても聞く耳を持たない妻に苛立ち、私は荒れに荒れて、夜の稼業に力を入れた。
表の仕事を三男が仕切っていると知り三男に問い詰めた時にあやつは哀れみを微かに見せ、裏の仕事をやめて下さい、と静かに決意した目で訴えかけてきた。


ー腹が立った

今の今まで我が家を盛り立ててきたのは誰だと思っている!
お前を育てたのは誰だと思っている!!




お前を、…お前が愛するヴァルファン家の娘と婚約させたのは誰だと思っている!!!





そしてその時はやってきた。

わたしがしてきた悪行をつらつらと兵が並べ立てていた。これから私は断罪されるのだろう。
使用人の1人もいない、誰もいないこんな家のために。

私は、いったい、何のために、していたんだろうか。

怒りは感じず、何やら気味の悪いものがこみ上げてくる。



当分みなかった、メイド服の女が飛び込んできて、私の胸は乱れた。


息子がヴァルファン家に行ってるなんて知らない。

息が整わず、はやる気持ちで口から言葉が出てくる。


やめろ、連れて行くな、あやつと私は関係ないんだ。


関係ない、私とは何も関係ないんだ!


関係ない、関係ない!と叫んでいると、途中で殴られた。言葉にならない想いが喉をえぐる。


他に言葉が出てこない。


ーあやつは関係ない
だから、









目の前でに、血溜まりに倒れている息子がいる。顔に布を置かれても起き上がる様子がないことや、ピクリともしない身体に、もう治療が必要ないことだと分かる。
それでも、と、医師を怒鳴りつけそうになる。

ー何を、思うんだ、わたしは。

死んでいるなんて一目見て分かる。

「馬鹿者めー」

何故私を見捨てなかった。

お前を愛せなかったわたしなんかに構わず妻について行けば死なずに済んだはずだ。


ーいや、何度も言った。執事を通して。

それなのにお前は、首を縦には降らなかった。

こんなわたしを父と呼び、父様の力になりたいから、とー。



込み上げてくるくるこの激情は何だ。



頬をとめどなく流れるものは何だ。



馬鹿者めー。



と、もう一度呟き、今度は、誰にも聞こえなかった。










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