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 一連の騒動が一旦落ち着いた頃、仕事仲間は私についてのことを全て知っていた。しかし、いつものように接してくれたため、変に気を使わなくてもよくてホッとした。
 舞踏会が開かれる三日前、私が会場前の庭を掃除していると後ろから肩を叩かれた。振り返るとそこには姉が立っていた。

「あのね、今日は舞踏会の打ち合わせのためにここに来たの」
「そうだったんだ。ていうか、姉さんよく私の事見つけれたね」
「当たり前よ!私はあなたのお姉ちゃんなんだから!」

 失礼しちゃうわとぷりぷり怒る姉。しかし姉は浮かない顔をしていた。

「姉さん。何かあったの?」
「えっ、いや…その…」

 どうも様子が変だ。しばらくの沈黙の後、姉が口を開いた。

「…あのね、私本当はガルージュ王子よりも結婚したいくらい大好きな男性がいるの」
「!?」

 私は驚きが隠せなかった。
 まず数日前物心が着いてから初めて実の姉にあったというのにその姉の恋愛事情がこんなに複雑だとは知らなかった。

 姉の話をまとめるとこうだ。その男性というのは姉の通っている学校の同級生で、城下町の一等地に家を構えている貴族の息子らしい。2人とも愛し合っていたらしく、姉の結婚が決まって2人は離れ離れになってしまったそうだ。

「でも舞踏会は3日後だし、もう今更そんな無理だよ姉さん」
「やっぱりそうよね…私が我慢すれば丸く収まるのよね…」

 俯く姉の瞳には今にも零れそうなくらいの涙が浮かべられていた。
 
「ガルージュ王子はこの結婚を望んでいるのかしら…」
「うーん、どうだろう。でも国のためなら仕方ないのかもしれないね」
「やっぱり結婚となると自分の好きな人とするのが一番いいと思うの」
「それは私も同意見。でも私たちがなにか行動を起こしたところで何も変わらないと思う」

 長いお城生活をしてきた私はよく分かる。

「舞踏会の準備もほぼ終わってるし、もう引くに引けないよ」
「…そうよね」

 悲しそうな顔をする姉には同情するしか無かった。
 
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