復縁マニュアル

シルビア

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プロローグ

別れ話

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 「不満があるんだったら、別れるか?」

 たけるは、試すように電話で淡々と話した。

 健の悪い癖だ。相手を試すような行動を取ってしまう。
 本当は、そんなこと微塵も思っていない。
 ただ、確かめたかっただけ。本当に。確かめたかっただけ。

 「わ…別れる…ッ」

 電話の奥から、意を決した声でのぞみが言った。

 「え…?別れる…の?いい…の?」

 健は唖然として、何が起きたのか一瞬頭が真っ白になった。

 「いや、ちょっと…それはやめとこ…」

 まずい。健は、焦りを見せないように、大したことなかったかのように、誤魔化そうとした。
 追い詰めすぎたかと、健は思った。

 「他に好きな人ができた…だから…ごめん…」

 希は、苦しそうに言った。

 「いやいやいや、俺実は結婚も本気で考えてたし、俺も別れるなんてつい言ってしまってごめん。俺のこと好きじゃなくなったわけじゃないんでしょ?好きな人って誰?いつから?」

 健は、血の気が引くのを感じた。身体が重い。胸が苦しい。何故、何故と思いながら必死に希に問いかけた。

 「職場の人…昨日電話で喧嘩したやろ。私の目が真っ赤なのに気付いた同僚が、心配して声をかけてくれて…それで相談に乗ってもらって…」

 希は、静かに答えた。

 「もう付き合ってるの?」

 健は、それしか言葉が無かった。

 「俺だったら希ちゃんを泣かせない。見てて辛い。初めて会った時から気になっていた。って言われた…」

  希は、そう話した。

 「もう付き合うってことじゃん…もうやったの…?」

 絶望、絶望、絶望。健の声は、絶望、悔しさ、その男への嫉妬心、色々な感情が混じり震えていた。

 「やった訳無いやん!何言ってるの?」

 希が、呆れた声で言った。

 「だから、もう別れたい…」

 希が、続けてそう告げた。

 「待ってくれ、ホンマに無理なん?ホンマに?2年半付き合ってきて楽しいこともあったやん!俺も悪い所直すから!別れようなんて本心じゃ無かったから!つい言ってしまっただけやから!」

 必死だった。健は祈るように言った。

 「ホンマにごめん…ホンマに申し訳ない…昔の健の方が好きだった。冷めてしまったんだ。あんなに大好きだったのに、どうして冷めちゃったんだろう…」

 希は申し訳なさそうに言った。しかし、心なしか新しい恋が待っているからか、どこかすっきりしたような、そして吹っ切れたような話し方だった。

 「…ッ」

 健は、もう声にならなかった。

 「ごめん、もう遅いし、明日も仕事があるから切るね、今までありがとう。健も幸せになって。」

 希は、そう言い残して電話を切った。

 健は、希と二人で築いてきた二人だけの世界。それを、知らない他人に壊された。その恐怖と絶望で押しつぶされそうだった。

 安易に別れようと言ったりして、傷つけて、試すような言動を繰り返してきて女々しかったし、いつかはこうなって当然か…と今までの自分の繰り返してきた行動を悔いた。

 それは、胸が痛くて痛くて、いつ終わるのか分からない、苦しい日々の始まりだった。
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