なんでもいい

榊 海獺(さかき らっこ)

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マドンナというよりドロンジョ

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僕の恋路は青山先輩によって妨害される。


僕の地元に、青山マリアという先輩が居た。フィリピンとのハーフで、なかなか整った顔立ちをしている人だった。身長が高くスタイルも抜群で、俗に言うボン・キュッ・ボンの少年達には刺激が強すぎる、非常にグラマラスな先輩だった。

青山先輩は僕の1つ上の先輩だった。僕が初めて青山先輩と出会ったのは、小学5年生の時のクラブ活動、美術クラブでのことだった。当時僕には、同じ美術クラブに好きな女の子が居た。そのことを1番に嗅ぎつけた青山先輩は、あの手この手で揶揄ってきた。
「〇〇ちゃんのこと好きなんでしょ?告っちゃえよ。」
「男なんだからさっさと言っちゃえよ。」
ね。面倒臭い先輩でしょ?
青山先輩は僕の1つ上。つまり先に卒業してしまう。散々揶揄って散らかして居なくなってしまった。そのことで安心した僕は残りの小学校生活を謳歌し、中学生になった。


中学に入ると僕は陸上部に入った。そしてそこでも好きな子が出来た。陸上部は3年生が6人、2年生が2人、1年生が6人の割と少人数?の部活だった。3年生が卒業してまもなく、2年生2人も受験を理由に退部した。上級生が居なくなり、ここから好きな子と素敵な部活ライフが始まる。そう思っていた。しかしながら、このタイミングで3年生が1人入部して来た。それが、まさかの青山先輩だった。

当時僕は親父に買ってもらったMDプレイヤーを常に鞄に忍ばせていた。好きな女の子と一緒に音楽を聴きたいが為に。好きな子の好きなオレンジレンジのアルバムを入れたMDを持って。そのことに誰より先に気付いたのは青山先輩だった。
「わぁ。オレンジレンジじゃん。私″花″好きなんだよね。聴いていい?」
もう、頷くしかなかった。うん。一曲だよね。すぐ終わるしいいか。そう思いながら、隣で身体を揺らしながら曲を聴く青山先輩を眺めた。相変わらず整った顔立ちをしていた。
MDウォークマンが返ってきた時には、充電がすっからかんになっていた。なにしてん。


秋になり、酉の市のシーズンが来た。僕はクラスメイトの男女4人と行くことになっていた。待ち合わせて歩き始める。5分経過。目の前から見慣れた顔が歩いてくる。青山先輩だった。バレないように顔を伏せたが、時既に遅し。
「何してんの?」
当然のことのように話しかけてくる。
「友達と酉の市にきました。」
「へー。そうなんだ。女の子も居るんだ。」
「はい。まぁ、そうですね。」
なんだか嫌な予感がした。
「ねぇちょっと来て。」
そう言うと青山先輩は、僕の腕を引っ張って歩き出そうとする。
「ちょっと待ってください。どこ行くんですか?」
一緒に来ていた友達が、心配そうに視線を投げる。青山先輩は僕を友達から引き離し、人気のない路地に僕を連れ込んだ。
「ねぇ。私と付き合ってよ。」
「え。」
「今ここで決めて。」
「すいません。他に好きな子が居ます。」
突然の出来事だった。青山先輩から告白された。そして、僕は勢いよく振ってしまった。藤川球児の火の玉ストレートのようなど真ん中ストレートの告白を、タイロン・ウッズばりの豪快なスイングで振ってしまった。
僕の返答を聞いた青山先輩は、寂しそうな顔をして去って行った。僕はその姿を見ているのが辛くて、目を背けながら友達の元へ戻った。

それからというもの、青山先輩との絡みは無くなった。いつの間にか部活にも来なくなっていた。ルックス・スタイルは学校のマドンナになり得る人だった。もしかしたら、高校ではマドンナに成れたのかもしれない。ミスコンだって出れたかもしれない。しかしながら、当時の僕の目には完全にドロンジョが映っていた。僕の恋路を邪魔するドロンジョ。



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