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第1章
3.森を抜けよう
しおりを挟む家の周りの結界を越えた。いよいよ旅立ちのときだ。
朝だけど魔の森は鬱蒼としていて暗い。魔物や獣、そして鳥の声があちこちから聞こえてくる。わたしにとってはしょっちゅう狩りに来ているからいつもの光景だけどね。
出発前におばあちゃんから貰った地図を開いて見てみる。森の南側にザイルの街への道がある。ここを目指せばいいんだね。
まだ午前中だけど暗くなるまでになるべく距離を稼ぎたい。よし、少し足早に歩こう。
あっ、ローズマリーみっけ! ローズマリーは薬草の一種でお肉の下味に使うと臭みが消えて美味しいんだよね。ちょっと摘んでいこう。
採取したローズマリーをぽいぽいとアイテムバッグへ放り込んでいく。
さらにそれから1時間ほど歩いた。食料はなるべく現地調達しようと思っていたから最低限しか持ってきていない。野営するまではなるべく立ち止まりたくなかったので歩きながら持ってきたパンを口にする。
少し歩いたあと探知魔法で周囲を探ってみる。すると南西30メートルのところに魔物がいるのが分かった。
気配を消して様子を窺いつつそっとその標的に近づいていく。遠目に確認したのは体長5メートルほどもある、上半身が鳥で下半身が獣の形をした魔物、グリフォンだ。
「あれは……グリフォンか。今日の晩ごはんにしよう!」
『何か手伝う~?』
「ありがとう、シフ。大丈夫だよ! あのくらいだったら剣だけでも倒せるよ」
飛んで逃げられてしまうと面倒くさいので、気づかれないように背後からの不意打ちを狙うことにする。
剣を抜き標的の背後から音を消してゆっくりと接近する。あと5メートルという所まで近づいたところで勢いよく飛び上がった。そして剣を左から右に振り抜き横一文字にグリフォンの首を刈り取る。
『ギィッ!』
首を取る一瞬だけ悲鳴を上げたがグリフォンはゆっくりとその巨大な体を横たえた。
食べるためなの。ごめんね。セシルはグリフォンに心の中で合掌する。
倒したグリフォンをその場で捌く。
羽根と爪と嘴、そして魔石は売れそうだから一応バッグに入れておこう。お金は全く持ってないから売れるものは取っておかないとね。
血抜きは洗浄魔法で済ませて骨と内臓はあとで焼却しよう。いらない部位は焼却しておかないと血の匂いで他の魔物が来てしまうからね。
そうして捌いた肉を部位ごとに小分けにしてアイテムバッグに入れていく。これだけあれば数日分の食糧は大丈夫かな。
わたしは飲み水を出したり火を起こしたりといったことは全て魔法で済ませてしまう。だから要らないものを焼却するのも魔法を使う。
森に火が移るといけないので廃棄するものの周囲に小さな結界を張った。その結界の中で魔法で高熱の炎を起こして焼却する。
「よし、今日の晩ごはんが確保できたぁ!」
そうしてときどき襲いかかってくる魔物を倒しながら再び歩く。そして日が傾き始めるまでひたすら南を目指した。
「そろそろ野営の準備をしよう」
今は夕方の5時くらいだろうか。まだ明るいものの準備をしている間に暗くなってしまうだろう。野営の準備は早めに始めないとね。
森の中に少しだけ開けた草地を見つけた。そこに半径5メートルほどのドーム状の結界を張る。そして枯れ枝を集めて魔法で火を起こす。よし、焚火ができた。
焚火から少し離れた所にテントを張ってグリフォンのお肉の下拵えを始める。さっき採ったローズマリーを細かく風魔法で乾燥させて刻む。それを捌いて開いたグリフォンの肉に塩と一緒にすり込む。そうして下味をつけた肉に串を刺して焚火で炙りながら、バッグから持ってきたパンを取り出す。
「んんーっ、いい匂い! 途中でローズマリーを見つけたのはラッキーだったなぁ」
『ね~ね~、セシル。人間の町に着いたらなんか楽しいことあるかな?』
突然精霊たちが現れた。風の精霊シフが楽しそうに町のことを尋ねてきた。
「わたしもまだ町へ行ったことないからどんな所なのか想像もつかないよ」
わたしも楽しみなんだよね。おばあちゃん以外の人に会えるから。
『俺は今日なんかちょっと退屈だったぞ! 明日は俺に魔物を倒させろ!』
「サラが暴れると森に火が付いちゃうから駄目だよ」
サラが退屈しているみたいだけど森で火魔法を使うと危ないんだよね。森は木や草に火が付きやすくて延長しちゃうからね。
『明日はうちが獲物狩ったげるからまかせ~な』
『ウトウト』
水の精霊ディーがやる気満々だ。だけど土の精霊ノームはちょっと転寝しているみたい。
「んじゃ、明日はディーにお任せします! お、そろそろお肉焼けたみたい」
焼けたお肉からとても美味しそうな匂いが漂う。その匂いでお腹がグゥ~と鳴った。
パンを齧りながら、焼けたお肉に齧り付く。お肉はジューシーですごく美味しかった。
初めて一人で食べる晩ごはんはシフたちがいてもやっぱり寂しい。おばあちゃんはもうご飯食べたかな。今頃何してるかなぁ……。
わたしは胸に湧いてくる寂寥感を感じないように上空を仰ぐ。
すると木々に囲まれてそんなに広くはない夜空にたくさんの星が散らばっているのが見えた。とても綺麗だった。
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