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第2章
20.ギルドの依頼
しおりを挟む道中特に何事もなく昼には無事にザイルの町に到着した。
そんなに長い期間ではなかったはずなのにもう随分この町を離れていた気がする。ようやくソフィーにも会えるなぁ。
マリーを引いているセシルにケントが教えてくれた。
「セシル、俺がハヤテ号を預けてる宿なら馬房がついてるからマリーも預かってもらえるぞ」
おお、それは嬉しい。ソフィーの家に居る間マリーをどこに置いておこうって悩んでたんだよね。もし預かってくれるなら助かるなぁ。
「僕、ソフィーの所にお世話になってるから宿泊はしないんだけど、その宿って馬だけでも預かってくれるかな?」
「そうだなあ、一応聞いてみるか」
セシルはケントの案内でハヤテ号を預けている宿屋へやってきた。
「おっちゃん、今日からまた宿泊世話になりたいんだけど部屋開いてる?」
「空いてるけど1人部屋でいいのかい? 連れがいるみたいだけど」
宿屋の主人がちらっとセシルの方を見てケントに尋ねる。
「1人部屋でいいよ。この子はこの町の住民に世話になってるから。それと悪いんだけど俺の馬と別にもう1頭追加でこの子の馬を預かってくれない?」
彼が宿屋の主人に馬だけを預けられないか尋ねてくれた。
「馬だけなら1日銀貨2枚で預かってもいいよ。本当は駄目だけどケンちゃんの知り合いならしゃあないね」
「ケンちゃん!?」
思わず吹き出してしまう。ぷぷ、ケンちゃんって可愛い。
ケントはそれを見て「なんだよ」と頭を掻いて顔を背ける。
「おじさん、ありがとうございます。名前はマリーです! よろしくお願いします」
「おや、あんたマリーっていうのか。男かと思ったよ。すまんね」
「いや、マリーは馬の名前です。ごめんなさい……」
「ぶはっ!」
今度はケントに思いっきり笑われてしまう。そんなケントを見てぷーっと頬を膨らます。
そんなに笑わなくていいじゃん。ここにお世話になるんだから名前言わないとって思ったんだよー。
「それじゃ馬を繋がせてもらいます。えと、これ前払いです。とりあえず一週間分」
バッグから取り出し宿屋の主人に銀貨14枚を支払う。
「あいよ。馬が寂しがるからちょこちょこ顔見せてやんなよ」
「はい!」
宿屋を出てマリーを繋ぎに馬房に行く。するとケントがデレデレしながら馬房に繋がれていたうちの一頭の馬に話しかけ始める。
「ハヤテ号、元気だったか~? 俺はお前に会えなくて寂しかったぞ~」
「ブルルルル」
どうやらケントが鼻を撫でて擦り擦りしているのがハヤテ号らしい。ハヤテ号も甘えているようで彼に会えて嬉しそうだ。
ちょうどハヤテ号の隣が空いていたのでそこにマリーを繋ぐ。そしてマリーの首を摩って優しく話しかけた。
「マリー、しばらくここで大人しくしててね。ちょくちょく会いに来るからね。ハヤテ号も仲良くしてあげてね」
そう言うとケントもマリーの鼻を撫でて話しかける。
「マリー、ハヤテ号をよろしくな。ハヤテ号、俺より早く彼女作るんじゃねーぞ」
「ブルルルル」
ハヤテ号が鼻を鳴らした。
「そうか、お前いい奴だな」
「えっ、ハヤテ号なんて言ったの?」
そう尋ねるとケントがにっと笑って答えた。
「俺が幸せになるまで彼女を作るなんてとんでもないと」
「へえ、ハヤテ号すごく主人思いなんだねー」
「ブル」
ハヤテ号がジト目でケントのことを見ていたような気がするのはきっと気のせいだろう。
宿屋に馬を預けたあとケントと一緒に冒険者ギルドへ護衛の完了報告に来た。
カウンターには受付嬢のレーナがいつものように凛と立っている。ケントはマルコさんに認めのサインをもらった護衛の依頼書をレーナに提出した。
「護衛を無事に完了しました」
「しばらくお待ちください。……確かに承りました。こちらが報酬になります。ご確認ください」
レーナは依頼書のサインが本物であることを確認したあと報酬の大銀貨10枚を渡してくれた。それをケントが受け取った。そしてギルドの入口へ向かおうとした。
「ちょっと待ってください」
突然レーナがセシルたちを引き留めた。どうしたんだろう?
「ケントさん、セシルさん、貴方たちにお願いしたいことがあるのですがお話を聞いていただけませんか?」
「聞くのは構いませんが……依頼……ですか?」
ケントが尋ねるとレーナは困り切った顔で右手を頬に当てて頷き話し始める。
「まだ正式な依頼ではないのですが冒険者の救出をお願いしたいのです。実は昨日3人の冒険者パーティがこの街から西に2キロほど離れた所にある『石花のダンジョン』へ向かったのですが……」
レーナは困ったような顔で溜息を吐いて話を続けた。
「そのうちの一人が戻ってきたのです。ところがひどい怪我で『ダンジョンに残してきた仲間を助けてくれ』と言って意識を失いそのまま昏睡状態になってしまいました。その方は所持していたギルドカードの情報からフランツさんというDランクの冒険者だと分かりました」
「……そのフランツさんは大丈夫なんですか?」
ケントがレーナに尋ねる。
彼の表情に険しい色が現れる。どうしたんだろう?
それにしてもレーナの話はただ事ではない。一体石花のダンジョンで何が起こったんだろうか。
「……何とも言えません。今ギルドで休ませていて、治癒士に魔法で処置をしてもらいましたがかなり衰弱しているようで、意識はまだ回復していません」
「そうですか……」
ケントはそれを聞いて少し俯くと何やら考え込んでいるようだ。さらにレーナが話を続ける。
「うちのギルドは基本冒険者の危機を知らされたら規約で放置はできないのです。冒険者との相互扶助の関係を大切にするというのがうちのギルドの方針でして」
「ふむ……」
「ですから当ギルドからの依頼、ということでケントさんとセシルさんの腕を見込んでお願いしたいのです。報酬はお二人で大銀貨10枚でいかがでしょうか?」
「……なぜ俺達なんですか?」
ケントが尋ねるとレーナはちらっとセシルを見て答える。
「まずそちらのセシルさんはこれまでの戦闘記録と護衛を含めた依頼完了記録でEランクを飛ばしてDランクに昇級確定です。それに……とても強いのを見たことがありますから」
それを聞いてケントが、お前目立ってるじゃねーか、と言わんばかりの呆れ顔でセシルを見る。そんな彼の顔を見て左手を顔の前でぶんぶんと左右に振って「違う」と無言で否定する。そしてレーナはさらに話を続ける。
「そしてケントさん、貴方もこれまでの活動を見せていただいて信頼に足る人物だとギルドマスターから判断されました。貴方たちが戻られたら護衛の結果次第では救出の依頼をするようにと指示されております。ケントさんの場合は昇級審査が合格ですので昇級試験さえ通ればCランク昇級になります」
「それは光栄だね」
ケントがにっと笑って答える。レーナは更に話を続ける。
「以上の理由からギルドの総意として貴方たちに依頼をさせていただきたいということになりました。それで……どうでしょうか? 依頼を受けていただけますか?」
「セシル、どうする?」
ケントに聞かれて依頼について考える。
レーナは強いと言ってくれたけれどもうあのときのようには戦えない。
でも救助を待っている人がいるならぜひ助けたいと思う。セシルにとって助けを求める人がいたらどんな場合でも助けないという選択肢はないのだ。
「ケントさえよければ僕はその人たちを助けたい」
「よし、決まりだな。ではレーナさん、その依頼を受けます」
「ありがとうございます。ただ情報不足で申しわけないのですが救出対象が『石花のダンジョン』にいるということしか分かっていません」
「分かりました。今日は俺達もレーフェンから帰ってきたばかりで万全じゃないし時間も今から出発するには遅いですから、ダンジョンに向かうのは明日の朝ということでいいですか?」
「承知しました。そのようにギルドマスターに伝えます」
レーナは深くお辞儀をしたあとセシルのカードを受け取ってDランクに上げてくれた。ケントは救出依頼が終わったら昇級試験を受けることになる。
彼女の話が終わったあとケントと一緒にギルドを後にした。
ケントは宿へ戻った。そしてセシルはソフィーの家へ戻る。ベンノはまだ仕事から帰っていなかったがソフィーは家で掃除をしていた。
彼女はセシルの姿を見るや大きく目を見開いてぱあっと笑いセシルの手を取って喜んだ。
セシルもそんなソフィーの手を取って二人で繋いだ手を上下にぶんぶん振って喜び合う。
「セシル、お帰り~!」
「ただいま、ソフィー!」
しばらくするとベンノも帰ってきて久しぶりに3人で楽しく食事をした。
ケントと一緒にチームを組むことになったことや、レーフェンの町がどんなだったとか、マリーを買ったこととかいろんなことを話す。二人とも驚いたり笑ったりして話を聞いてくれた。
翌朝ギルドからの依頼を果たすために再びソフィーの家を出た。
ケントと冒険者ギルドの前で待ち合わせて会った。
そしてハヤテ号にギルドで借りた荷馬車を繋ぎ、セシルはマリーに乗ってダンジョンへ向かうべくザイルの町を出た。
石花のダンジョンへの道中馬に乗ったままケントと話す。
「よく眠れたか?」
「うん、眠れたよ。でも昨日は遅くまでお喋りしちゃった」
「随分その親子と仲がいいんだな」
「うん、すごくいい人たちなんだ」
自分の中で大切な人がどんどん増えてきているのがすごく嬉しかった。ケントにそう言ったら「よかったな」と笑って言ってくれた。
今から向かうダンジョンに入るのは初めてだ。だからただの洞穴と何が違うのか分からない。
目的地へ向かいながらケントに尋ねた。
「ねえ、ケントはダンジョンには入ったことがあるの?」
「ああ、何回かあるよ」
「地上と何が違うの?」
「そうだな、俺も最初は不思議だと思ったんだが……」
ケントがダンジョンについてセシルに分かりやすく説明してくれた。
地上と違いダンジョン内では魔物が倒されると死体は残らずに霧のように消え、ドロップ品というアイテムのみが残る。
そしてある程度進むとボスと呼ばれる、それまでの階層の魔物よりも強い魔物が最奥に出現する。
ボスは通常の魔物と違って徘徊せずドロップ品も通常よりいいものが出る。
いくら倒されてもダンジョンの魔物はある程度時間が経つと自然に沸いて、再び徘徊を始める。
基本ダンジョンの魔物が地上に出てくることはない。
以上がケントに聞いたダンジョンの特徴だ。他にもダンジョンごとにそれぞれ特徴があるらしい。
その話を聞いて、棲家と魔物が同化しちゃってるのがダンジョンなのかなと考える。なんかダンジョンって生きてるみたいだ。
しばらく走らせたあとようやく『石花のダンジョン』に到着する。ケントと一緒にダンジョンの側に生えている樹木に馬と荷馬車を括りつけた。
ダンジョンは切り立った崖の下の岩場の壁にぽっかりと口を開けていた。入口の大きさは5メートル四方くらいだろうか。
初めてのダンジョンを目の前にしてその雰囲気に飲まれてぽかーんとしているとケントが笑って声をかける。
「それじゃ、セシル。早速ダンジョンへ行こうか!」
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