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第6章
72.フィーアの困惑 <フィーア視点>
しおりを挟む「なんだこれは……。」
フィーアはヌルにケントの暗殺を中断するよう言い渡され王都へ戻ってきていた。そして来てみれば目の前に広がっているのは凄惨な光景だった。
多くの人間が傷を負い倒れている。こと切れている者も大勢いるようだ。
「まるで地獄だな。」
地獄を見てきた自分が言うのも変な話だが目の前の光景はそれを超える。
ふと見ると少し先で12、3才くらいの少女が3体の悪鬼から逃げているのが見えた。俺には関係ないが……。
そういえばセシルとかいうあの少女も同じくらいの年だったか……。
『ギャアアァ!』
「お、おじさん……。」
気がついたら動いていた。俺は少女の前に立ち、腰の小太刀を抜いて二刀で目の前の悪鬼を斬る。あと2匹。
他の2匹もすぐに襲いかかってきた。飛びかかってくるのをカウンターで斬りつける。2匹同時に息の根を止める。1匹1匹はたいして強くもないな。ゴブリンより少し強いくらいか。
「おじさん、ありがとう……。」
未だ震えの止まらぬ少女が気丈にも礼を言ってきた。
「……お前の家は?」
「私の家はゴブリンに扉も窓も破られて……父さんと母さんは私を先に逃がしたけどまだ残ってると思うの。見にいってくる!」
少女が自宅へ向かおうとするのを制止する。俺は何をやっているんだ。放っておけばいいものを。
「止めておけ。行けば両親がお前を逃がした意味がなくなる。」
「だけどっ……!」
チッ。面倒くさいやつだ。無理矢理安全な所へ連れていくか。
「お父さん……お母さん……。うっうっ。」
両手で顔を覆って泣き出した。ああ、もう。
「家はどこだ。」
「この先です……。」
少女が涙を拭いながら答える。しょうがない、ここに置いていく訳にもいかんから連れていくか。
「行くぞ。」
「えっ、あっ。」
彼女を抱えて走り出す。片手しか使えんな。
家へ向かっている間にもそこら中から湧き出る悪鬼を斬り倒しながら進む。
「ここです。」
少女が一軒の家を指さして告げる。
「お前は俺の後ろに居ろ。だが何を見ても後悔するなよ。」
家の扉を開ける。床中にガラスの破片が散乱している。中には誰もいない。死体もない。外へ逃げたか?
「誰もいない。避難したんじゃないか。」
「そうですか……。」
広場の方へ向かってみるか。
再び彼女を抱え広場へ向かって歩き始めた。すると前方で男女が襲われているのが見える。
「くそっ、きりがないな。」
彼女を抱えたまま襲っている悪鬼どもを斬り払う。
「お父さん、お母さん!?」
「ああっ! マーヤ、よく無事でっ!」
涙を流しながら3人が抱き合っている。よもや彼女の両親が生きているとは思わなかった。
「お前を逃がした後に何とか私たちも逃げ切ったんだ。皆城へ避難しているらしい。だがお前を置いていく訳にもいかないから探していたんだ……。」
「父さん……!」
なるほどな。だが悠長にしてる場合じゃないぞ。
「行くぞ。ついてこい。」
「あ、貴方が娘を助けてくださったんですね。ありがとうございます!」
母親が涙を流しながら礼を言ってきた。やめてくれ。
彼女の言葉を無視して城のほうへ歩く。
(くそっ、またか。一体何なんだこいつらは。)
目の前にはまたもや悪鬼どもが人間を追いかけている。再び小太刀を抜き目の前の悪鬼を斬りつける。
「どいつもこいつも、死にたくなきゃついてこい。」
「「「ありがとうございます!」」」
俺は暗殺者だ。多くの標的をこの世から消してきた。にも拘らずどうしてこんなことになった……。
なぜかもう俺の後ろには10人以上の都民がついてきていた。
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