聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも

文字の大きさ
80 / 96
第6章

78.覚醒

しおりを挟む


「嘘、でしょ……?」

 セシルは目に飛び込んできた現実に思わず呟く。頭を鈍器で殴られたようにがんがんと痛む。目の前の光景を見てもその事実を受け入れられない。

 ディアボロスは胴が分断されているにも拘らず、その指をまるで長い剣のごとく伸ばしケントの胸を貫いている。刺し貫かれた傷から今も彼の血がどくどくと奴の指を伝って流れ落ちている。
 そして奴はゆっくりと分断されていた体を元通りに繋げる。
 ケントの意識は完全に絶たれている。その表情からは苦痛すら窺えず完全に生気が失われている。

「フン、ゴミが……。」

 そう言い放ちディアボロスはケントの体を持ち上げまるでゴミでも捨てるかのごとく投げ飛ばした。

「くっ!」

 すぐにそれに反応してハイノが動いた。ケントの体が投げ飛ばされたほうへ突進して腕を伸ばす。なんとかケントに届いて辛うじてその体を受け止めた。
 ハイノはディアボロスの所業に怒りを滲ませきっと奴を睨む。
 だがやはりケントの意識は失われたまま、ぐったりとその体をハイノの腕の中に横たえている。

「あ……あ……」

 言葉が出ない。目の前の現実を認められない。生気なく人形のように動かないその体がケントのものだと思いたくない。

「間に合えばいいのだが……」

 ハイノが急いでケントの口元にポーションを注ぐ。嚥下させるように喉を開きすぐに口を閉じさせる。ハイノがケントの様子を沈痛な面持ちで見守る。
 セシルは心の中で必死に叫ぶ。
 死なないで……お願い、お願い、お願い!

「無駄だ……。我の闇の力がその魂までも食らい尽くしている。お前もよく知っているだろう? 聖女よ」
「うるさい……うるさい、うるさい、うるさいっ……!」

 頭に血がのぼり何かが切れたのが分かる。セシルの目の前が真っ赤に染まる。ケント、ケント、ケント!


『お姉ちゃん、落ち着いて。僕の言葉を思い出して』


 ルーンの声が頭の中に響く。滾るほどに熱くなりかけていた頭が徐々に冷める。ルーン……。

『まずは魔力を最高にまで高めるんだ。悪魔に憑依された人間は常軌を逸した力を発揮する。でもお姉ちゃんにはもっと強力な友だちがいるよね』

 頭の中にルーンに教えてもらった言葉が蘇る。そうだ……。試したことはないけど可能性があるならやるしかない。自分はどうなっても構わない。

「シフ、ディー、サラ、ノーム、そしてウィル。皆の体をわたしに預けて!」

 すると5体の精霊たちが次々に現れる。

『分かったわ』
『ええよ』
『一緒にぶっ倒そうぜ!』
『いくよぉ』
『力になるのよぅ』

 5体の精霊がくるくるとセシルの周囲を取り巻く。そして虹のような光に変わったあと体に纏わり徐々に融合する。
 そのあと一瞬闘技場を包むほど眩く光り、セシルの全身が淡い虹色の光に包まれた。
 自分の身体能力、そして魔力が跳ね上がったのが分かる。体の細胞全てが生まれ変わったような感覚に包まれる。もう自分は人間ですらないのかもしれない。
 それでも構わない。ケントをあんな目にあわせたこの悪魔を絶対に絶対に許さない!

「ハイノさん、ワタルさん、ケントとエメリヒを連れてここからできるだけ離れて」

 2人に声をかけ避難を促す。今のセシルの心はディアボロスに対する激しい怒りはあるもののとても落ち着いている。
 これからこの闘技場を中心に、かなりの範囲に攻撃の余波が及ぶだろう。それに皆を巻き込む訳にはいかない。
 するとセシルの言葉を聞いたハイノがケントを抱えながら声をあげる。

「セシル、何を馬鹿なことをっ! お前を置いて逃げることなどできる訳ないだろう!」
「お願いです。わたしは大丈夫だから。ケントをどうかよろしくお願いします……」

 まだケントを諦めた訳じゃない。どうか彼を助けて……。
 そう願いながら徐々に体内の魔力を高める。精霊を憑依させた今、周囲の魔素を取り込む力もこれまでの比ではない。もしかして自分はもはや人間ではなく精霊そのものになってしまったのかもしれない。それでもいい。
 そんなセシルを見てハイノがようやく心を決めたようだ。

「……何という魔力だ。分かった、セシルに従おう。ワタル、エメリヒを頼む。セシル、死ぬなよ」
「しかし、師匠……!」
「ワタル、時間が無い。今の状況では我々は足手纏いになるだけだ」
「っ……! 分かりました……」
「ありがとう、2人とも。ケントをよろしくお願いします」

 ハイノに促され、悔しそうにしながらもワタルはエメリヒを抱え上げた。どうやら納得してくれたようだ。
 セシルは大きく頷き2人にケントとエメリヒを託す。そしてハイノがケントを、ワタルがエメリヒを抱えて闘技場を立ち去るべく足を踏み出そうとした。
 そのとき突然ディアボロスが声をあげる。

「そのまま逃がすと思うのか!」

 突然ディアボロスがハイノたちに向かって片手をかざし掌から闇の刃を放った。刃は彼らへ向かってその命を削らんと牙を剥く。
 セシルはそれを感知しすぐさま左手を足元の地面に着けた。すると精霊の力によりセシルの手元から彼らの前まで地面が棘状に伸びていく。そして闘技場を遥かに超える高さで大きく隆起し、闇の刃の弾道を遮った。
 刃は彼らに届くことなく隆起した地面の壁にぶつかって消滅する。

「すまん、セシル!」
「大丈夫です、行ってください!」

 セシルの言葉を受けハイノたちは再び走り始め、そのまま闘技場を出ていった。上手く退避してくれたのを確認して安堵する。そしてディアボロスのほうへ向き直りその姿を見据える。
 奴はあっさりと自分の攻撃を遮られたことで自尊心を傷つけられたのだろう。あからさまに激昂し憎悪の眼差しをセシルへ向けてきた。

「そうか……。やはり先にお前を殺さねばならないということか。いいだろう、順番が変わるだけだ。お前を殺してから他の人間全てを殺してやる」
「そんなことはさせない。もうお前なんかに誰も傷つけさせはしない」

 セシルは再び地上に降り立ったディアボロスと向き合い、必ず倒すと決意を新たにした。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...