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再会編
7.敵か味方か
しおりを挟む翌日の朝ダイニングでクラウディアと食事をしたときに昨夜のことを尋ねられた。それはそうだろう。ジークハルトと酒を飲んでいたのに気がついたら自室で寝ていたのだから。
「昨夜いつの間にか自分の部屋で休んでいたのですがどうも記憶があやふやなのです」
「ああ、君と一緒に飲んでいたら酔いが回っていつのまにか寝てしまったんだ。だから君を抱きかかえて部屋へ運ばせてもらったんだよ」
「まあ、ジークハルト様が私を?」
なんだかクラウディアが頬を染めている。喜んでいただけて何よりだ。
彼女にはジークハルトに対してそこまでの警戒心はないようである。そのことを不自然に感じる。
なぜなら屋敷の中でこそ自由だが塀のことも含め外の警備は厳重だし、自分を捕らえたときの計画も用意周到だ。その事実がどうにもクラウディアの無防備さと重ならない。
そしてジークハルトは、丁度そのとき自分を観察するような視線を送る者がいることに気づくことはなかった。
食事を終え私室でしばらく時間を置いたあと針金を携帯し裏庭へ向かうことにする。だがこのまま向かえば例のごとくデリアがついてくるだろう。
結局今のところこれらの道具を置いてくれた人物が誰かは分かっていない。デリアかヘラのどちらかだとは思うのだが。
流石にデリアの目の前で裏口の南京錠を解錠するわけにもいかないだろう。どうしたものか。
「バルコニーから出るか。ここは3階だしいけるだろう」
バルコニーの柵を越え下の階の僅かな段差を利用し外壁を伝い降りる。こんなことをしたのは幼い時以来だ。
そのまま裏庭へ向かい裏口の鉄の扉へ近づく。
だがその時誰かが遠くから近づいてくる気配がした。扉を解錠しようとしていることがばれるとまずい。ここから離れなくては。
「ジークハルト様。お部屋にいらっしゃらないからお探ししました」
「ヘラ……」
近づいてきていたのは侍女のヘラだった。彼女は三つ編みを揺らしながらこちらへ歩いてきていた。いつも無表情な彼女がいつになく穏やかな笑みを浮かべる。
屋敷の裏の角を曲がった辺りで声をかけられた。
「こちらにいらっしゃったのですね。庭に何か興味がおありですか?」
「いや、そういうわけでもないが一日部屋に閉じこもるのも気が滅入るのでこうして散歩をしているんだよ」
「デリアもつけずに?」
ああ、まあそうくるよな。まあ適当にごまかすか。
「一人になりたいときもあるんだよ。そうしないときちんとクラウディアと向き合えないからな」
「そうですか……。こうしてお一人で歩き回るのは危ないですよ。誰が狙っているかも分かりませんし」
もしや心配してくれているのか? 短剣や針金を置いていてくれたのはヘラなのか?
「もしかして君なのか……?」
「……ええ、そうですわ。あ」
ヘラが地面の窪みに足を嵌らせ転びかける。咄嗟に彼女に駆け寄りその体を支え転倒を防いだ。
「大丈夫か?」
「……ありがとうございます」
そのときだった。突然物陰から誰かが飛び出してきて背後からヘラの背中を突き飛ばした。彼女はその衝撃でそのまま地面に転倒する。
ジークハルトが後ろを振り返ると、そこには剣をすらりと抜いて切っ先をヘラへ向けて冷然と見下ろすデリアがいた。
「デリア……?」
「……」
ジークハルトの問いかけを黙殺しデリアは無表情でヘラを見下ろす。ヘラがそんな彼女に怯えその顔を凝視する。
「おい、何をするんだ! 剣を収めろ!」
それを聞いて切っ先をこちらへ向けジークハルトを牽制したあと、すかさず剣の柄頭をヘラの首の後ろへ打ちつける。
その衝撃でヘラは意識を失い倒れ込む。そしてすかさずデリアはヘラを手持ちの縄で拘束した。
「おい……。なぜこんなことを?」
「……」
彼女が黙ったままうつ伏せに倒れるヘラの体を起こすとその下から注射器が出てきた。
「……いったいなぜこんな物が!?」
「不用心ですね、貴方は」
デリアが淡々と話す。
この注射器はヘラの体の下から出てきた。ということはこれは彼女が準備したものなのか? 彼女はこれをジークハルトに使おうとしていた?
その事実に混乱する。先程までヘラが自分の味方だと信用しかけていた。
「これは麻痺薬でしょう」
デリアはそう言うとそれを拾い上げヘラに注射する。そして彼女の顔を覗き込み意識の有無を確認したあと剣を収めた。そのままジークハルトの手を引っ張りその場から少し離れた所まで連れていく。
デリアの掌は柔らかく剣ダコもない。とても傭兵の手とは思えない。そしてその感触と温かさにジークハルトは激しい衝撃を受ける。
これは……この感じは……。
「君は……フローラか?」
ジークハルトの言葉を聞き立ち止まるとデリアはこちらへ振り返った。
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