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追跡者

特別な馬

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サトミが指示したポイントで別れ、サトミは森の方角へ走り、ダンクは真っ直ぐ岩山へと向かう。
一人になって走りながら、サトミがベンに話しかけた。

「ベンよ!」

走っていたベンが顔を上げて、少しスピードを落とし小走りになった。
首を振って、何だという合図をする。

「ベン、お前は怖いと言わないな。」

「怖い、しらん!」

ブルブル鼻を鳴らし、フンと息を吐いた。

「あははは!しらんか~!俺とお前は似ているな。
怖い物知らずのいい相棒だ!」

「ふん!御主人様と言え!」

ベンは楽しそうに軽快に走る。
これから戦いに行くと知っているのかわからない。
死ぬかもしれないとは思っていないのだろう。
サトミが前に広がるグレーの曇り空に声を上げる。

「ベンよ!お前との付き合いは短かかったが、俺にとっては長い。
お前は俺の家族だ。
でも、俺はお前まで完全に守ることは出来ないだろう。
俺はこれまで、作戦の完遂のために沢山の馬を見殺しにした。
良く聞け!ビッグベン!

死ぬのがイヤなら、俺を降ろせ。

選ぶのは今だ!

お前には意思を表すすべがある、自由に選ぶ権利がある。」

ベンがスピードを落とす。
そして歩き始め、

そして立ち止まった。

意味がわかったかどうかはわからない。
ベンは頭が良いようで、小さな子供ほどの知能しか無い。
馬は走れなければ、生きる意味の大半を失う。
生き残っても、走れなければ多くが処分される。
ベンはそこまで考えないだろう。

だが、ベンはサトミの相棒だ。
自分の意思を語るなら、それに任せようと思った。
サトミは無言で返事を待つ。
ベンがブルブルと首を振って、そして振り返り顔を上げる。

「ニンジン100本だ!!付き合ってやる!」

「ははっ!1000本とか言えよ!」

「数は100まで。御主人様と呼べ!
御主人様は特別だから!」

「そうか……」

思った通りの返事に、目を閉じる。

そうか……それでいいならそれを尊重する。
俺はそれで、お前を失う事になっても後悔しないだろう。

「よし!行こう、御主人様よ!死んでも覚えといてやるよ!」

「お前もな!」

ビッグベンがまた走り始める。
サトミがベンのたてがみを撫で、感触を覚えるように首を撫でた。

たとえまた新しい馬を得ても、お前は特別だ。
でも、お前を守ると俺に隙が出来る。
俺の命にお前を犠牲にするほどの価値があるのかわからない。
それは、考えても答えは無いことだ。

サトミが、苦々しい顔で手綱を握りしめる。
左手で胸をかきむしるように、ジャケットを鷲掴みした。
エンプティの顔を思い出すのも忌々しい。

「あんな……クソ野郎のために…………」

サトミの顔が鋭く、暗く、恐ろしいまでに影を落として行く。
心が沈み、頭がキリキリと冴え渡る。
全身が、ざわざわと毛が逆立つように高揚する。
この、感覚。

「殺られる前に殺るしかない。
俺はまた、この一時をタナトスのスラッシャーに戻ろう。

俺を……この俺を引き戻したこの罪、貴様を俺は許さねえ。
貴様は雪で切られることを望むだろう。
だが、貴様は雪で切られる資格さえ失った。
絶望しろ、そして死ね。」





ダンクが岩山を目指す。
本当に、サトミの推理は当たっているのかわからない。
エリザベスを近くの木に繋ぎ、Mk17を肩に担ぐ。
ハンドガンのマガジンを確認して山を登りはじめた。
できるだけ岩棚から見えないように、静かに死角を上る。
サトミの姿はもう見えない。

あいつはどんな人生を歩いてきたのか、俺は少し同情的だったけど、そんな生やさしいものじゃ無いことが良くわかった。

15であの切れ方は尋常じゃ無い。

俺はそこまで考えられないし、命がかかることに、こうだと言い切れる自信も無い。
友達は普通に友達だし、隙あらば殺そうという奴を友達と言える自信も無い。
まして追われて命狙われるほど重要人物でも無かった。
全部命がけで、一時の油断も無いとかすべてが規格外だ。
規格外過ぎて、あいつは本当に軍にいた方が自然なのかもしれない。

いや、もう考えるのはやめだ。
俺は今ミッション遂行中だ。
てっぺんにいる奴を殺すか生かすか、俺に任された。

あれ??

ちょっと待てよ?
俺は相手一人だが、あいつは何人相手にするんだ?
いや、もういいや、それでも普通にやっちゃうんだろう。
俺はとにかく、あいつのサポートに回る。
一人でも減らせばいい。それでいいや。

岩山は思ったよりゴツゴツと岩が出っ張って、足場が多く上りやすい。
ただ、それだけ落ちたらサヨナラと思う。

静かに、静かに。

息を整え、頂上が近くなるほど慎重に進む。
本当にいるのかわからないけど、山頂前で止まってじっと耳を澄ます。


「…………はい、了解しました……はい……」


ザッと血が下がった。
サトミの読みは、超正解だった。
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