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15、謁見
第155話 最後の機会
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レスラカーンは、すでに部屋に戻り服を部屋着に替えて、ライアと茶を飲んでいた。
先ほど賢者の2人と話しをしてきたが、火の神殿の再興を許すかどうかと直結する話しなだけに、宰相の目も厳しく、巫子を許すかは難しい判断だという話しだった。
だが、精霊と共に歩むことこそアトラーナの道であると言う考え、つまり原点回帰を訴えるレスラカーンの気持ちは重々わかってくれたと思う。
次世代を担うレスラカーンがそれを真摯に考えていることは喜ばしいと、非常にいい雰囲気で語ることができた。
やがて、ドアをノックして許しを得て入ってきた男に、レスラカーンはニッコリ笑って手を差し出した。
「キリル、少し足音が乱れているね。
疲れてるのかい?」
「は、いえ。」
男はひざまずいて戸惑いながらも、うやうやしくその手を取り、両手で包み込むようにして額に当てる。
それが、昔からこのミスリルである男の、レスラカーンに対しての挨拶だった。
「父上様にはひと言申し上げておきましたが……これでよろしいのでございますか?」
「うん、いいんだよ。僕の仕事は一通り終わったから、これで謹慎受けてもお前が気に病むことはないよ。
キリル、今まで黙っててくれてありがとう。
あとでわかって父を裏切ったようなことになるよりも、先にわかっていた方がいい。
父は賢者や長老に釘を刺すだろうけど、そのあとに判断するのは彼らたちの問題だ。
皆がそろって火の神殿の再興を良しとしないのならば、アトラーナはここまでだと思う。」
「あまりご無理をなさらないで下さい。
父上様が、部屋に来るようにと仰せでございます。」
「わかった、じゃあ怒られに行ってくるよ。
キリル、他に動きはあるかい?
僕に話してもいい範囲で、気になることがあったら教えてくれるかい?」
キリルは父サラカーンのミスリルだ。
だが、父はミスリルを他の貴族たちと同様に昔から蔑視している。
それを小さい頃から耳にしながらも、レスラカーンは彼を兄のように慕って良くこっそりと川遊びなどに連れて行って貰った。
キリルもレスラカーンを、サラカーンと同様に……もしかすればそれ以上に密かに忠誠を誓っている。
先ほどの挨拶も、彼にとっては親愛の情を表す物だ。
父のサラカーンは、彼の名さえろくに口にすることもなかった。
少し考え、キリルがレスラカーンの側に寄る。
そして声をひそめ、彼の耳にひっそりとささやいた。
「これは我ら、ミスリルのみが知ることでございます。
先日フレアゴート様が、ミスリルの村を訪れになりました。」
「それで?」
「我らの村には昔火の神殿の神官だったミスリルが、火の神殿の再興の日のために密かに数百年の時を眠っておられます。
フレアゴート様が、それを起こしに見えたそうです。」
「それは……どういうことか?」
「彼らは一度起きると再び眠りにつくことはできません。寿命をまっとうすれば、火の神殿の教えはそこで途切れましょう。
火の神殿の復活には、絶対必要な方々です。」
レスラカーンの表情が硬くなった。
それは、フレアゴート自身もこれが最後の機会と思ったのだろう。
つまり、これを逃したらあきらめると言う事か。
彼にとってリリスは最後の希望、もうきっと待つ事に疲れてしまったに違いない。
これでアトラーナは、これを逃すと少なくとも火の精霊王から見捨てられてしまう恐れも出てきた。
元々彼を先に見限ったのは人間の方だ。
神殿の無い彼に留める物はなにもない。
風の精霊女王とて同じだろう。
リリス次第では彼らがこの地に留まる意味は消えてしまう。
精霊達が居を移すと、このアトラーナはどうなる?
精霊の聖地でなくなった小国が、近隣の国に蹂躙され消滅する事もあり得ないことではない。
レスラカーンの背を、冷たい物が走った。
「我らも、……試されているのだ。彼ら精霊に……そして、これがその最後の機会だと。
アトラーナが精霊の聖地である意味を、父や伯父上はお考えにならねばならぬ。
リリス殿を守っているミスリルは誰かいるのか?」
「いえ、同族にはおりません。
ですがあの方とは別の魔導師殿の気配を感じます。
恐らくは別の場所から、水鏡でお守りになっているのかと。」
「守っているのか、狙っているのか……騎士だけでは心配だ、キリルの信頼置ける者を一人回して貰えないだろうか。
……できるかな?」
「承知、お任せ下さいませ。弟を1人配置します。」
その言葉に、ライアが横から顔を出した。
「なりません、恐らくはキリル殿はお父上様から別の命をお受けになっているはず。
それ次第では、ご兄弟で相対する命となりましょう。
お父上様はリリス殿を疎ましく思っておいででございます。」
「だからだよライア。私は父からあの子を護りたい。」
レスラカーンも、それはわかっている。
しかし、それでも……だからこそ父にあの子を殺させたくないのだ。
キリルはその意を汲んで、小さくうなずいた。
「どうぞお構いなく。我ら一族は重々承知しております。
我が弟はまだ主を得ておりません。
私の元で修行中の身、それでよろしければ。」
「ありがとう、頼むよ。
ライア、私は恐らく父に謹慎を言いつけられると思う。
お前もきっと、一時的に僕の側近から外されるかもしれない。
もしそうなったら、先ほどの情報をリリス殿と魔導師のルーク殿にも伝えてくれ。
魔導師は必ずルーク殿だけに。城内は誰が火の神殿再興に賛同しているのかわかりかねる状態だ。極力注意してくれ。」
「承知しました。必ずお伝えします。」
レスラカーンが立ち上がり、ライアが杖を渡して手を取る。
彼の見えない美しい瞳が、真っ直ぐに前を向く。
そして意を決めたように微笑んだ。
「さあ、では宰相殿の元へ参ろうか。」
ライアにも、キリルにもわかっている。
彼はひっそりと、国を背負って戦っているのだと。
先ほど賢者の2人と話しをしてきたが、火の神殿の再興を許すかどうかと直結する話しなだけに、宰相の目も厳しく、巫子を許すかは難しい判断だという話しだった。
だが、精霊と共に歩むことこそアトラーナの道であると言う考え、つまり原点回帰を訴えるレスラカーンの気持ちは重々わかってくれたと思う。
次世代を担うレスラカーンがそれを真摯に考えていることは喜ばしいと、非常にいい雰囲気で語ることができた。
やがて、ドアをノックして許しを得て入ってきた男に、レスラカーンはニッコリ笑って手を差し出した。
「キリル、少し足音が乱れているね。
疲れてるのかい?」
「は、いえ。」
男はひざまずいて戸惑いながらも、うやうやしくその手を取り、両手で包み込むようにして額に当てる。
それが、昔からこのミスリルである男の、レスラカーンに対しての挨拶だった。
「父上様にはひと言申し上げておきましたが……これでよろしいのでございますか?」
「うん、いいんだよ。僕の仕事は一通り終わったから、これで謹慎受けてもお前が気に病むことはないよ。
キリル、今まで黙っててくれてありがとう。
あとでわかって父を裏切ったようなことになるよりも、先にわかっていた方がいい。
父は賢者や長老に釘を刺すだろうけど、そのあとに判断するのは彼らたちの問題だ。
皆がそろって火の神殿の再興を良しとしないのならば、アトラーナはここまでだと思う。」
「あまりご無理をなさらないで下さい。
父上様が、部屋に来るようにと仰せでございます。」
「わかった、じゃあ怒られに行ってくるよ。
キリル、他に動きはあるかい?
僕に話してもいい範囲で、気になることがあったら教えてくれるかい?」
キリルは父サラカーンのミスリルだ。
だが、父はミスリルを他の貴族たちと同様に昔から蔑視している。
それを小さい頃から耳にしながらも、レスラカーンは彼を兄のように慕って良くこっそりと川遊びなどに連れて行って貰った。
キリルもレスラカーンを、サラカーンと同様に……もしかすればそれ以上に密かに忠誠を誓っている。
先ほどの挨拶も、彼にとっては親愛の情を表す物だ。
父のサラカーンは、彼の名さえろくに口にすることもなかった。
少し考え、キリルがレスラカーンの側に寄る。
そして声をひそめ、彼の耳にひっそりとささやいた。
「これは我ら、ミスリルのみが知ることでございます。
先日フレアゴート様が、ミスリルの村を訪れになりました。」
「それで?」
「我らの村には昔火の神殿の神官だったミスリルが、火の神殿の再興の日のために密かに数百年の時を眠っておられます。
フレアゴート様が、それを起こしに見えたそうです。」
「それは……どういうことか?」
「彼らは一度起きると再び眠りにつくことはできません。寿命をまっとうすれば、火の神殿の教えはそこで途切れましょう。
火の神殿の復活には、絶対必要な方々です。」
レスラカーンの表情が硬くなった。
それは、フレアゴート自身もこれが最後の機会と思ったのだろう。
つまり、これを逃したらあきらめると言う事か。
彼にとってリリスは最後の希望、もうきっと待つ事に疲れてしまったに違いない。
これでアトラーナは、これを逃すと少なくとも火の精霊王から見捨てられてしまう恐れも出てきた。
元々彼を先に見限ったのは人間の方だ。
神殿の無い彼に留める物はなにもない。
風の精霊女王とて同じだろう。
リリス次第では彼らがこの地に留まる意味は消えてしまう。
精霊達が居を移すと、このアトラーナはどうなる?
精霊の聖地でなくなった小国が、近隣の国に蹂躙され消滅する事もあり得ないことではない。
レスラカーンの背を、冷たい物が走った。
「我らも、……試されているのだ。彼ら精霊に……そして、これがその最後の機会だと。
アトラーナが精霊の聖地である意味を、父や伯父上はお考えにならねばならぬ。
リリス殿を守っているミスリルは誰かいるのか?」
「いえ、同族にはおりません。
ですがあの方とは別の魔導師殿の気配を感じます。
恐らくは別の場所から、水鏡でお守りになっているのかと。」
「守っているのか、狙っているのか……騎士だけでは心配だ、キリルの信頼置ける者を一人回して貰えないだろうか。
……できるかな?」
「承知、お任せ下さいませ。弟を1人配置します。」
その言葉に、ライアが横から顔を出した。
「なりません、恐らくはキリル殿はお父上様から別の命をお受けになっているはず。
それ次第では、ご兄弟で相対する命となりましょう。
お父上様はリリス殿を疎ましく思っておいででございます。」
「だからだよライア。私は父からあの子を護りたい。」
レスラカーンも、それはわかっている。
しかし、それでも……だからこそ父にあの子を殺させたくないのだ。
キリルはその意を汲んで、小さくうなずいた。
「どうぞお構いなく。我ら一族は重々承知しております。
我が弟はまだ主を得ておりません。
私の元で修行中の身、それでよろしければ。」
「ありがとう、頼むよ。
ライア、私は恐らく父に謹慎を言いつけられると思う。
お前もきっと、一時的に僕の側近から外されるかもしれない。
もしそうなったら、先ほどの情報をリリス殿と魔導師のルーク殿にも伝えてくれ。
魔導師は必ずルーク殿だけに。城内は誰が火の神殿再興に賛同しているのかわかりかねる状態だ。極力注意してくれ。」
「承知しました。必ずお伝えします。」
レスラカーンが立ち上がり、ライアが杖を渡して手を取る。
彼の見えない美しい瞳が、真っ直ぐに前を向く。
そして意を決めたように微笑んだ。
「さあ、では宰相殿の元へ参ろうか。」
ライアにも、キリルにもわかっている。
彼はひっそりと、国を背負って戦っているのだと。
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