赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
184 / 303
17、地底のイスカ村

第182話 地脈のるつぼ

しおりを挟む
長のあとを付いて進むと、岩壁が途切れ、城の中庭ほどの開けた場所に出た。
それはほとんどを青緑に輝きを放つ池のような物で占めているが、岩を削って作られた淵から覗くと透明で深さが知れない。
奥にはわき出す水源のような裂け目がポッカリと口を開け、何か言いしれぬ緑の輝きを放っている。
普段はその水源の穴を覆うように下げるのだろう、紗が半分上に巻き上げられていた。

「地下にあのような木や作物が育つのは不思議であったろう?
すべてここから水を引き、地のお力を受けて実をならせておる。
この水源が、ただの水ではとてもあのように豊かな畑は出来ぬ。
この泉はわれらの糧、命の水でもあるのじゃ。」

「飲み水でもあるのですか?」

「いや、これは我らが飲むには強すぎる。
病の時は長老に薄めて貰った物を薬としていただくが、飲み水は別にあるよ。」

老人が進む泉の横には少しひらけた場所があり、壁際に木で小さな社が建ててある。
泉を中から見渡す為なのか、泉に面した部分には壁もなく布が巻き上げられ梁に紐で結んである。
中は一段高い板間に絨毯が敷き詰めてあり、石段に草履があるのを見ると、靴を脱いで上がるようだ。
アトラーナでは珍しい。
大きく開いてある入り口の両側にはかがり火が焚いてあり、それが中まで穏やかに照らしていた。

長のあとを付いて、社のあがり口で靴を脱ぎ上に上がる。
中の床には、一目でベスレムの物とわかる青地に白い百合の紋が織り込まれている緻密な文様の絨毯が敷き詰めてあり、恐ろしく手がかかっているだろうそれは恐らく領主から送られた物だろう。
正面にある祭壇は地の神殿にあった物に酷似して、ここが地の聖地だと言う事は容易にわかった。

「こちらには、ヴァシュラム様がおいでになられるのですか?」

「いや、ここは彼の方のために立てられたような物じゃ。ヴァシュラム様の大切なお方のためにな。
我らにとっても、その方のおかげであの村があるような物。生活の基盤を作って下さった恩人なのじゃ。」

彼の方とは誰なのか気にもなったが、自分が知らない人なのかもしれない。
リリスも深く詮索するつもりもない。
長がリリスに絨毯の中央に座るよう指示したのでそこに正座して座る。
ガーラントたちは、その後ろにあぐらをかいて座した。
長が祭壇の横にリリスの方を向いて座ると、どこかで鈴がチリンと鳴る。
やがて隣の部屋から、長い黒髪を後ろで束ねた、白い着物を着た20代ほどの若い女が杖をついて現れ、随分長いすそをズルズルと引きずりながら祭壇の前に座した。

「リリス殿、お初にお目にかかります。
私はこの村の長老であり、ここの守であり、遠見の予言を司る者。
あなたの事は、お生まれの時より存じております。」

「長老様ですか?」

どう見ても若い。
だが、ついている杖は、足でも悪いのか魔導師の杖とも違う普通の杖だ。

「若く見えましょうが、私はこの村の最長老です。
ここは地脈のるつぼ。
ここに長期間お仕えする事は、地脈の影響を受け続ける事でございます。一見不老長寿にも見えますが、巫子でもない私はこの村を出ると早く老いて死ぬ事でしょう。
すでに最近ではこの社を離れ、村の畑を見に行く事も辛くなってきております。」

「じゃあ、巫子なら大丈夫なのですか?」

若い姿の長老は、穏やかに微笑みうなずく。
優しい顔が、とても落ちついて年齢を感じさせた。

「リリス殿、あなたもですよ。
神霊である精霊王と寝食を共にする事はそう言う事です。
だから、精霊王は人間達に影響が少ないよう用無きときは神殿を留守になさるのです。
でも、あなた様はほとんどを共に過ごされていらっしゃる。あの方の弟子の方々も、あの家にいる一時はいくぶんゆっくりと年を重ねる事となる事でしょうが、あの家を出るとその反動はわずかでも必ず出ると言えましょう。」

「あっ、確かに長くいらしたお弟子様は、独り立ちなさってすぐに髪が白くなったと仰っておりました。」

へえ~とブルースが後ろで声を上げた。
リリスもそう言う事は初めて聞く。
アトラーナの巫子は長命だと聞くが、それが原因なのかと改めてうなずいた。

「すると、リリス殿はこれから背が伸びる可能性もあるという訳か。良かったですな。」

「えっ!」

リリスが思わず、期待満面で長老を見る。
が、長老は目が合うと、ニッコリ笑って思わず目をそらす。
プッとブルースが吹き出し、リリスは真っ赤な顔でプウッとむくれて彼を睨んだ。
クスクスと長老が笑う。
そしてリリスに静かに問いかけた。

「お可愛い方ですね、まだ年若い火の巫子殿。
あなたはご苦労なさいましたが、出生をお知りになってもお変わりない。
しかしそのご苦労を思えば、それは出来過ぎた無欲とも見える。
欲は身を滅ぼすときもある。でも、欲があるから人は動く。
つまり、あなたは決して無欲ではない。
あなたは今、何を欲して何のために動いておいででございますか?」

リリスがキョトンとして、ニッコリ笑う。
それは少し前の自分にはとても難しい問いで、今の自分にはとても簡単な問いかけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...