赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
197 / 303
18、キアナルーサの変化

第195話 新、魔導師の仮の塔

しおりを挟む
夜の酒場の喧噪の中、笑い声の間からヒソヒソと話し声が聞こえる。
ここ、城下町の酒場には、城に務める者が仕事帰りに立ち寄る事が多い。
またこう言う場所にも息抜きに、身分の高い者や顔を知られたくない者がフードで顔を隠してくることも珍しくは無い。
隣り合って言葉を交わすことはあっても、互いに詮索しないことは暗黙のルールだ。

黒いローブに身を包み、顔も見えないその男は会話もせずひっそりと酒を口にしながら、ヒソヒソ声に耳を傾ける。

「……随分大慌てで……で、…箝口令だぜ。」

「あの声、夜だったし……て、城下の奴らみんな聞いて……」

「あれってつまり、……王子の兄弟ってどっちが上なんだ?」

「……箝口令だぜ?まさか本当の世継ぎは………」

「そうとしか考えられないさ、みんなそう思って……」

「あの王子じゃな……赤い髪の子見たか?ずいぶんとしっかりした……」

酒場の噂はすでにフレアゴートが最後に言い放った言葉で持ちきりだ。


『王妃ヨ!トウノ昔ニ捨テタあの子を今更何とする!
抗うすべもない乳飲み子を、お前たちは平気でうち捨て命さえ奪おうとした!』


これを聞いた噂を好む人々が、何を指しているのかを詮索するのは容易なことだ。

なんと言うことを言ってくれたと、激怒するサラカーンがどれだけ箝口令を敷いても、火の神の叫びは胸に響いて聞き漏らそうはずも無い。
男はもう十分だと思ったのか、まだ酒の残るグラスを置いてテーブルに酒代を置き、滑るように歩いて酒場を出た。
左右を見渡し、人気の無い路地へと入る。
次の瞬間、男の姿はかき消えてポッと小さな赤い火が浮かび、風に吹かれて消えてしまった。


テーブルの上の大きく燃え上がっていたろうそくの火が、小さくしぼんで風に揺れる。
それに手をかざして精神を集中していた城の魔導師ルークは、我に返って息をついた。
魔導師の塔崩壊後、ゲールから長を引き継いだ彼は、塔全ての魔導師たちに塔崩壊の責任を取らせ下城を申しつけると宣言し、全ての魔導師たちを解雇してしまった。
そして短期間で目を付けていた魔導師達を呼び寄せ、城の一角にとりあえず仮の魔導師の塔の部屋を設置し、ようやく落ちついたところだ。
先日訪れたリリスの事は、シャラナに任せて個人的には会っていない。
なぜかあの時、彼はこの部屋から一歩も出ず、魔導でずっと彼の姿を追って見ていた。

「やはり、あの声は城下まで響いたか。
フレア様にも困った物よ、サラカーン様が怒り狂って何をされるか先読みにも苦労する。」

クスッと苦笑して人の気配に振り向く。

「どうぞ」

ノックの音が聞こえる前に、ルークがドアに向けて言った。
そのドアを開けもせず、杖を持った若い男がドアを通り抜けて入ってくる。

「長殿、街に行くなら声をかけてくれればいいのに。僕だってたまには酒場に行ってみたい。」

ルークが大きく首を振ってため息をつく。
彼はいつもドアを開けずに通り抜けるので、プライバシー皆無だ。

「ニード、ドアは開けて入れ。」

「連れて行ってくれたら、ちゃんと開けて入ったさ。ちぇっ」

不機嫌そうに舌打ちながら、向かいの椅子にドスンと腰かける。
そして呪を唱え、床を杖でコンと叩いた。

それで部屋の中が閉じられた空間となったわけだが、ニードの術はそれを感じさせない。
それを見ていないと、気がつかない事さえある。
ごく自然に空間を閉じ、息をするように強力な結界を作る。
地の魔導師ニードは、まだ18才だが若くして結界を作る天才と言えた。
だが、それほどの天才がこれまで魔導師の塔に呼ばれることはなかった。
それは、彼の若さとこの不作法さが、塔の魔導師にふさわしくないとゲールに不興を買っていたためだ。

だが、ルークは能力を優先した。
水の魔導師シャラナも同じだ。
シャラナは生まれが問題だった。くだらない。
親が妾だと、何が悪いという。子に親を選ぶことは出来ない。

シャラナはしかし、その母親がしっかりした人だった。
自分と同じ道を歩ませたくないと、幼少の頃に彼女を水の神殿に預けたのだ。
妾の子は妾になりやすい。
それだけはと子を大切にした母心を、ゲールはわかってくれなかった。
彼女は、生活の為に妾をするしか無かった母親を大切にしている。
今では母親は彼女の支援で一人、水の神殿の近くの村に暮らしていた。

本当に、ルークにとっては、そんな物にこだわるのも馬鹿馬鹿しいほどくだらないことだ。
ルークはゲールの弟子だが、師のそういうところは心底嫌いだった。

「心底だ。心底嫌いだ、あんな奴。」

「は?俺?」

「違う!俺が大っ嫌いな奴がこう、モヤモヤモヤッと頭の中に沸いて出たんだ!
あーイラッとした!」

「なんでそんな嫌いなのに、師に選ぶんだかなあ。俺にはさっぱり、はー、さっぱり。」

やれやれと首を振る。
するとルークが、急に胸を張って彼に誇らしげに言った。

「そりゃ決まってるさ、出世への早道だからな。
見ろよ、シリウスのルーク様は、最年少で魔導師の塔の長になったぞ。」

するとニードが、死んだような目で「わー、凄いや」と棒読みしてパチパチ手を叩く。
彼は昔から気が合う少ない友の一人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

処理中です...