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22、城の地下道
第226話 罪人の墓場
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日が傾き、薄いもやのように空を覆った雲が薄紫色に色を変え、その輝きが次第に暗く落ちて行く。
ぽつりぽつりと時々道行く人は近くの村へ向かう人だろうか。
城下町で買い物を済ませたのか、荷物の多い人も多い。
ガーラントが空を見上げ、腰に手をやりあらためて麻の布で巻いた剣を外套の中に隠した。
大きめの外套はザレルの物だ。
最近滅多に着なくなったらしい古い物ではあるが、やはり上位の騎士長の物は気が引ける。
遠慮したのにブルースは、リリスが出してきた他のコートに平気で袖を通し自分にも押しつけてきた。
まったく不作法な奴だとため息が出る。
びょうと風が鳴り、馬車の周りの木が一斉にサワサワと揺れ、肌にひんやりと寒気が走る。
馬車は普段使用人が使う質素なもので、森の入り口の目立たない場所に止めたのだが、御者台には顔や装束を見せないようにすっぽりと外套を羽織るパドルーが眼だけを出して睨みをきかせている。それが気になるのか、通行人が怪訝な顔で見て過ぎ去っていった。
街と反対の城の裏側に広がる森は、城の周囲半分を覆うものだ。
それはとても深く、背の高い木や景色など目印も見通せないほどの木で覆われているので、慣れていないと迷うほどだ。
自然を利用した守りとも言えるだろう。
バサッ バサッバサッ
突然頭上に羽音が鳴り、見上げると普段は見慣れないグレーの大きな鳥が近くに降りた。
しばらくすると、その方角から忍んで顔を頭巾から垂れた紗で隠した白装束の男が姿を現す。
彼、古の火の神官であったと言うホムラは、姿を変えるのがミスリルとしての力なのだろうかとガーラントは思う。
祭事を滞りなく行う事が仕事の地や水の神殿の神官とは、彼ら火の神官は少し違うような気がする。
彼は足音も立てず、ガーラントを一瞥もする事もなく馬車へとサッと乗り込む。
なんとも不気味な物だとため息をつき、馬車の入り口に立って周囲を警戒しつつ中の会話に耳を立てた。
「申し訳ありません、お疲れでございました。
で、様子はいかがでございましょうか?」
馬車の中から、ホムラに気を使う少年の声が密やかにこぼれる。
眷族であれば気を使うことなど不要だろうが、声の主リリスはホムラ達にまだ火の巫子とは認められていない。
ガーラントはやや不服そうに大きく息を吸って静かに吐いた。
薄暗く狭い馬車の荷台にはリリスを奥に、両側にはブルースにグレンとゴウカが座している。
ホムラが入るとリリスは小さく呪を唱えて手の中に灯りをともし、ふわりと宙に浮かせた。
「便利ですな。」
何気なくブルースが顎をさする。
伸びた髭がザリザリと心地が悪い。
しかしホムラは小さく息を吐いて首を振り、グレンの横に座った。
「灯りなど無用」
「あれ?やっぱり」
リリスがパチンと指を鳴らして灯りを消す。
しかしホムラは腕を組み、しつこく首を振ってわかってないといったそぶりを見せた。
「隠密行動に魔導など相手に場所を知らせるような物。
やはり下卑た生まれの者にはわからぬ事よ。」
「申し訳ございません。
でも……だって、あなたがホムラ様だって、暗くてわからないんだもの。」
ブッと外からガーラントの吹き出す声が聞こえる。
返す言葉も無くホムラが顔を上げると、他の神官達はすでに顔の前垂れはほとんど上げたまま素顔をさらしている。
ぐるりと見回すと、皆が口を押さえて笑いをこらえていた。
「言い訳など見苦しい、だから生まれが知れる!」
バッと顔の前垂れを跳ね上げる。
獣の目をしたホムラの顔が現れ、リリスがにっこり微笑んだ。
「確かに、ホムラ様」
ゴホン、不服そうにホムラが一つ咳払いして馬車の窓から外をうかがう。
「そのような事より、森を通って身を隠しながら行かれるならば頃合いではないのか?
城下の見回りは先ほど終わった、次の見回りまで間がある。
丁度夜の番と交代のようだ、今なら多少派手に動いても目立たぬであろう。」
「承知しました、では今一度話し合ったこと、ここに着ての情報の整理を。
目的地は……城の近くにある古の罪人の墓場、となっております。
エリン様によれば、城や町の方からは一本道が通っているようですが、かなり荒れているようです。
ただし、草丈が他よりやや低いとのことですので、半年に一度程度に草刈りがあるのでございましょう。
城下の見回りは小道の入り口まではあります。
で、我らは森側から入る事としますが、仮に見つかりましたら馬車をこの表の道まで走らせてくださるそうですので、ここまで突破願います。」
「見回りと鉢合わせにならぬ事を祈るか。」
「まあ、見回りも騒ぎになれば飛び出してこられましょう。
その辺は個々の対応で。
あと、騎士の方は出来るだけ城の方を切るのはお控えください。
目くらましは私とミスリルの方にお任せを。」
「承知した。ただし、地下では逃げ場が無い、剣を抜くのも致したが無い。
騒ぎにならんことを祈る。」
リリスが頷き、広げていた目的地の墓場までの地図をたたんでカバンにしまい、それをたすきにかける。
立ち上がりかけて、ブルースが顎の無精髭をザリザリ鳴らした。
ぽつりぽつりと時々道行く人は近くの村へ向かう人だろうか。
城下町で買い物を済ませたのか、荷物の多い人も多い。
ガーラントが空を見上げ、腰に手をやりあらためて麻の布で巻いた剣を外套の中に隠した。
大きめの外套はザレルの物だ。
最近滅多に着なくなったらしい古い物ではあるが、やはり上位の騎士長の物は気が引ける。
遠慮したのにブルースは、リリスが出してきた他のコートに平気で袖を通し自分にも押しつけてきた。
まったく不作法な奴だとため息が出る。
びょうと風が鳴り、馬車の周りの木が一斉にサワサワと揺れ、肌にひんやりと寒気が走る。
馬車は普段使用人が使う質素なもので、森の入り口の目立たない場所に止めたのだが、御者台には顔や装束を見せないようにすっぽりと外套を羽織るパドルーが眼だけを出して睨みをきかせている。それが気になるのか、通行人が怪訝な顔で見て過ぎ去っていった。
街と反対の城の裏側に広がる森は、城の周囲半分を覆うものだ。
それはとても深く、背の高い木や景色など目印も見通せないほどの木で覆われているので、慣れていないと迷うほどだ。
自然を利用した守りとも言えるだろう。
バサッ バサッバサッ
突然頭上に羽音が鳴り、見上げると普段は見慣れないグレーの大きな鳥が近くに降りた。
しばらくすると、その方角から忍んで顔を頭巾から垂れた紗で隠した白装束の男が姿を現す。
彼、古の火の神官であったと言うホムラは、姿を変えるのがミスリルとしての力なのだろうかとガーラントは思う。
祭事を滞りなく行う事が仕事の地や水の神殿の神官とは、彼ら火の神官は少し違うような気がする。
彼は足音も立てず、ガーラントを一瞥もする事もなく馬車へとサッと乗り込む。
なんとも不気味な物だとため息をつき、馬車の入り口に立って周囲を警戒しつつ中の会話に耳を立てた。
「申し訳ありません、お疲れでございました。
で、様子はいかがでございましょうか?」
馬車の中から、ホムラに気を使う少年の声が密やかにこぼれる。
眷族であれば気を使うことなど不要だろうが、声の主リリスはホムラ達にまだ火の巫子とは認められていない。
ガーラントはやや不服そうに大きく息を吸って静かに吐いた。
薄暗く狭い馬車の荷台にはリリスを奥に、両側にはブルースにグレンとゴウカが座している。
ホムラが入るとリリスは小さく呪を唱えて手の中に灯りをともし、ふわりと宙に浮かせた。
「便利ですな。」
何気なくブルースが顎をさする。
伸びた髭がザリザリと心地が悪い。
しかしホムラは小さく息を吐いて首を振り、グレンの横に座った。
「灯りなど無用」
「あれ?やっぱり」
リリスがパチンと指を鳴らして灯りを消す。
しかしホムラは腕を組み、しつこく首を振ってわかってないといったそぶりを見せた。
「隠密行動に魔導など相手に場所を知らせるような物。
やはり下卑た生まれの者にはわからぬ事よ。」
「申し訳ございません。
でも……だって、あなたがホムラ様だって、暗くてわからないんだもの。」
ブッと外からガーラントの吹き出す声が聞こえる。
返す言葉も無くホムラが顔を上げると、他の神官達はすでに顔の前垂れはほとんど上げたまま素顔をさらしている。
ぐるりと見回すと、皆が口を押さえて笑いをこらえていた。
「言い訳など見苦しい、だから生まれが知れる!」
バッと顔の前垂れを跳ね上げる。
獣の目をしたホムラの顔が現れ、リリスがにっこり微笑んだ。
「確かに、ホムラ様」
ゴホン、不服そうにホムラが一つ咳払いして馬車の窓から外をうかがう。
「そのような事より、森を通って身を隠しながら行かれるならば頃合いではないのか?
城下の見回りは先ほど終わった、次の見回りまで間がある。
丁度夜の番と交代のようだ、今なら多少派手に動いても目立たぬであろう。」
「承知しました、では今一度話し合ったこと、ここに着ての情報の整理を。
目的地は……城の近くにある古の罪人の墓場、となっております。
エリン様によれば、城や町の方からは一本道が通っているようですが、かなり荒れているようです。
ただし、草丈が他よりやや低いとのことですので、半年に一度程度に草刈りがあるのでございましょう。
城下の見回りは小道の入り口まではあります。
で、我らは森側から入る事としますが、仮に見つかりましたら馬車をこの表の道まで走らせてくださるそうですので、ここまで突破願います。」
「見回りと鉢合わせにならぬ事を祈るか。」
「まあ、見回りも騒ぎになれば飛び出してこられましょう。
その辺は個々の対応で。
あと、騎士の方は出来るだけ城の方を切るのはお控えください。
目くらましは私とミスリルの方にお任せを。」
「承知した。ただし、地下では逃げ場が無い、剣を抜くのも致したが無い。
騒ぎにならんことを祈る。」
リリスが頷き、広げていた目的地の墓場までの地図をたたんでカバンにしまい、それをたすきにかける。
立ち上がりかけて、ブルースが顎の無精髭をザリザリ鳴らした。
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