赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
232 / 303
22、城の地下道

第230話 夜の暗闇、森の中

しおりを挟む
日も暮れて、しっとりした柔らかな風が吹き木々がざわめく。
何も目印が無く、星が瞬きはじめた空しか見えないうっそうとした森の中、ホムラは迷いも無く真っ直ぐに先頭を歩いて皆の案内役を担う。
足下が次第に見えなくなり、小さな手提げランプ一つで足下を照らすがこの多勢で歩くにはいまいち見えにくい。
松明は目立ちすぎて、とっさに隠れるには都合が悪いのだ。

「やれやれ、ここに火の巫子様がいるのに、ちっとも明るくなりゃしねえ。
シールの実の油に水でも入ってるんじゃないのかね?
こんな事ならろうそくランプ3つばかり持ってくるんだった。
魔導が使えないなら、やっぱり松明たいまつに火を付けるかい?」

腰に松明は2本ある。

「松明は目立つ、目をこらすんだな。」

わかってるんだがねとブルースが、ため息交じりでランプをのぞき込む。
この世界の人間には慣れた灯りだが、ランプは金属の箱の一部が透明度の低いガラス越しにぼんやり灯がともる作りで、リリスの魔導の灯りを知るとどうにも暗くてイライラする。
森の中、木の根に足を取られて時々転びそうになって、事の前にケガでもしたら馬鹿馬鹿しい。
魔導を使うなと言う神官達を、恨めしく思って横目でにらんだ。

「我らは夜目が利くゆえ、ランプは貴方らで使えばよい。」

「はっ!そうですかい、俺たちは夜目が利かない普通の人間だ。
あんた達の時代はどうか知らんが、残念ながらいまだ灯りと言えばろうそくランプかシールの実の油ランプぐらいだ。
しかし明るい携帯のろうそくランプはせいぜい1時間、油ランプは長く使えはするがこの通り火が弱く暗い。
足下ぐらいしか見えん。
よほど松明でも持った方が明るい。」

言っても仕方ないが愚痴も出る。
明るい夜の存在など、灯りを沢山ともした酒場くらいだ。
この世界、日が暮れたら一杯飲んで、さっさと寝るのが一番だ。

「火の精霊がおらぬ世の儚きはかなきことよ……」

グレンがつぶやき、暗い空を仰ぐ。

「星明かりもない森の中ではせんなきこと、リリス殿、魔導を使うがよろしい。
火の精霊もおらぬ世では、森に火が付けば大火になろう。
たとえあなたでも精霊もおらぬでは火を操ることも敵いますまい。
……この森にあなたが足を踏み入れた時点で、すでに城の魔導師には知れておりましょう。
出てこないことを見ると、静観する気かと。」

城の方角に目をやる。
ルークに敵対心など見えなかった。
彼ならば、森まで見通すことなど容易なことだろう。

「承知しました、お許しが出たのでブルース様、愚痴はお控えなさいませ。」

笑ってリリスが、ポッといつもの光の球を浮かべる。
ボンヤリとした灯りは周囲を優しく照らし、リリスが目立たぬよう足下をと命令すると、2,3に小さく散って地面をポンポン飛び跳ねた。

「おやおや、なるほど、こう言う技も隠しておいでか。助かった。」

「私の旅は昼夜問わずでしたから、遊びですよ。
子供の頃は家でも夜、沢山飛ばして遊んでたのですが、それがますます魔物説に拍車をかけたわけで。
私も村人には相当嫌われてしまいました。」

昔を思い出して苦笑する。
夜の灯火は心を澄ませ、色々なことが浮かんでは消える。

「なるほど、腕を磨くほど嫌われる。
我ら騎士にも言えること、ちょいと強くなれば狂戦士だと後ろ指指される。
強い者には強い者の悩みがありますからなあ。」

腕を組み、うんうんとブルースがさもわかった風にうなずく。
ガーラントが苦笑して、鼻で笑った。



ずいぶんと進んだところで、先方の木の間から一瞬緑色の小さな光がキラリと光った。

「何か見えなかったか?」ブルースがサッと立ち止まり、剣に手を置く。

「墓で先に待つミスリルだ。
緑は異常のない合図と聞いた。」

「聞いた……って、そうエリン殿と決めたでしょう。
ホムラ殿ももう少し……」

「ふん」

ホムラの投げやりな物言いに、ずっと黙っていたゴウカがとうとう呆れて囁いた。
ホムラは働きはするが、皆と少しも馴染もうとしない。
当てに出来るのか出来ないのか、ここへも率先して付いてきたクセにとんだ頑固者だ。
首を振り、ため息をつくゴウカが気まずそうにリリスの顔をチラリと見る。
リリスはゴウカと顔を合わせ、キュッと肩をすぼめてクスクス笑っていた。
可愛い人だと、ゴウカはリリスに微笑み返す。
まだ出会って短いのに、すでに付き合いが長いような安心感がある。

「ホムラ殿は昔からこうなのですよ。
でも、我らの中でも一番頼りになります。
リリサレーン様の一番の側近だったんですよ。」

「ゴウカ、余計なことを話すな。」

「やっぱりお強いのですね!それは安心。
実は皆様には来て頂けるのかと、心配しておりました。
なにしろこっそり忍び込むのですし。
高貴な神官の皆様には、とてもとても、こんなことお願いが出来ませんもの。」

「そ、それは……我ら神官、巫子殿の行くところへはたとえ地下であろうとですね……」

慌てるゴウカにプッとブルースが吹き出した。
自分もまあ、リリスにはあっという間に引き込まれた口だ。
この子には不思議な魅力がある。
まさか自分がガルシアを離れて構わないと思うなど、考えもしなかったのだ。

「お待ちを、誰か来ます。」

グレンに言われて、リリスが光の球を散じた。
木に隠れようにも、気配が掴めずどこから来るのかわからない。
そっと身をかがめ、息を殺して動かない。

「リリス様、エリンです。」

小さく声がして、月の光が差し込み、仮面の青年が音も無く姿を現した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

処理中です...