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22、城の地下道
第230話 夜の暗闇、森の中
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日も暮れて、しっとりした柔らかな風が吹き木々がざわめく。
何も目印が無く、星が瞬きはじめた空しか見えないうっそうとした森の中、ホムラは迷いも無く真っ直ぐに先頭を歩いて皆の案内役を担う。
足下が次第に見えなくなり、小さな手提げランプ一つで足下を照らすがこの多勢で歩くにはいまいち見えにくい。
松明は目立ちすぎて、とっさに隠れるには都合が悪いのだ。
「やれやれ、ここに火の巫子様がいるのに、ちっとも明るくなりゃしねえ。
シールの実の油に水でも入ってるんじゃないのかね?
こんな事ならろうそくランプ3つばかり持ってくるんだった。
魔導が使えないなら、やっぱり松明たいまつに火を付けるかい?」
腰に松明は2本ある。
「松明は目立つ、目をこらすんだな。」
わかってるんだがねとブルースが、ため息交じりでランプをのぞき込む。
この世界の人間には慣れた灯りだが、ランプは金属の箱の一部が透明度の低いガラス越しにぼんやり灯がともる作りで、リリスの魔導の灯りを知るとどうにも暗くてイライラする。
森の中、木の根に足を取られて時々転びそうになって、事の前にケガでもしたら馬鹿馬鹿しい。
魔導を使うなと言う神官達を、恨めしく思って横目でにらんだ。
「我らは夜目が利くゆえ、ランプは貴方らで使えばよい。」
「はっ!そうですかい、俺たちは夜目が利かない普通の人間だ。
あんた達の時代はどうか知らんが、残念ながらいまだ灯りと言えばろうそくランプかシールの実の油ランプぐらいだ。
しかし明るい携帯のろうそくランプはせいぜい1時間、油ランプは長く使えはするがこの通り火が弱く暗い。
足下ぐらいしか見えん。
よほど松明でも持った方が明るい。」
言っても仕方ないが愚痴も出る。
明るい夜の存在など、灯りを沢山ともした酒場くらいだ。
この世界、日が暮れたら一杯飲んで、さっさと寝るのが一番だ。
「火の精霊がおらぬ世の儚きことよ……」
グレンがつぶやき、暗い空を仰ぐ。
「星明かりもない森の中ではせんなきこと、リリス殿、魔導を使うがよろしい。
火の精霊もおらぬ世では、森に火が付けば大火になろう。
たとえあなたでも精霊もおらぬでは火を操ることも敵いますまい。
……この森にあなたが足を踏み入れた時点で、すでに城の魔導師には知れておりましょう。
出てこないことを見ると、静観する気かと。」
城の方角に目をやる。
ルークに敵対心など見えなかった。
彼ならば、森まで見通すことなど容易なことだろう。
「承知しました、お許しが出たのでブルース様、愚痴はお控えなさいませ。」
笑ってリリスが、ポッといつもの光の球を浮かべる。
ボンヤリとした灯りは周囲を優しく照らし、リリスが目立たぬよう足下をと命令すると、2,3に小さく散って地面をポンポン飛び跳ねた。
「おやおや、なるほど、こう言う技も隠しておいでか。助かった。」
「私の旅は昼夜問わずでしたから、遊びですよ。
子供の頃は家でも夜、沢山飛ばして遊んでたのですが、それがますます魔物説に拍車をかけたわけで。
私も村人には相当嫌われてしまいました。」
昔を思い出して苦笑する。
夜の灯火は心を澄ませ、色々なことが浮かんでは消える。
「なるほど、腕を磨くほど嫌われる。
我ら騎士にも言えること、ちょいと強くなれば狂戦士だと後ろ指指される。
強い者には強い者の悩みがありますからなあ。」
腕を組み、うんうんとブルースがさもわかった風にうなずく。
ガーラントが苦笑して、鼻で笑った。
ずいぶんと進んだところで、先方の木の間から一瞬緑色の小さな光がキラリと光った。
「何か見えなかったか?」ブルースがサッと立ち止まり、剣に手を置く。
「墓で先に待つミスリルだ。
緑は異常のない合図と聞いた。」
「聞いた……って、そうエリン殿と決めたでしょう。
ホムラ殿ももう少し……」
「ふん」
ホムラの投げやりな物言いに、ずっと黙っていたゴウカがとうとう呆れて囁いた。
ホムラは働きはするが、皆と少しも馴染もうとしない。
当てに出来るのか出来ないのか、ここへも率先して付いてきたクセにとんだ頑固者だ。
首を振り、ため息をつくゴウカが気まずそうにリリスの顔をチラリと見る。
リリスはゴウカと顔を合わせ、キュッと肩をすぼめてクスクス笑っていた。
可愛い人だと、ゴウカはリリスに微笑み返す。
まだ出会って短いのに、すでに付き合いが長いような安心感がある。
「ホムラ殿は昔からこうなのですよ。
でも、我らの中でも一番頼りになります。
リリサレーン様の一番の側近だったんですよ。」
「ゴウカ、余計なことを話すな。」
「やっぱりお強いのですね!それは安心。
実は皆様には来て頂けるのかと、心配しておりました。
なにしろこっそり忍び込むのですし。
高貴な神官の皆様には、とてもとても、こんなことお願いが出来ませんもの。」
「そ、それは……我ら神官、巫子殿の行くところへはたとえ地下であろうとですね……」
慌てるゴウカにプッとブルースが吹き出した。
自分もまあ、リリスにはあっという間に引き込まれた口だ。
この子には不思議な魅力がある。
まさか自分がガルシアを離れて構わないと思うなど、考えもしなかったのだ。
「お待ちを、誰か来ます。」
グレンに言われて、リリスが光の球を散じた。
木に隠れようにも、気配が掴めずどこから来るのかわからない。
そっと身をかがめ、息を殺して動かない。
「リリス様、エリンです。」
小さく声がして、月の光が差し込み、仮面の青年が音も無く姿を現した。
何も目印が無く、星が瞬きはじめた空しか見えないうっそうとした森の中、ホムラは迷いも無く真っ直ぐに先頭を歩いて皆の案内役を担う。
足下が次第に見えなくなり、小さな手提げランプ一つで足下を照らすがこの多勢で歩くにはいまいち見えにくい。
松明は目立ちすぎて、とっさに隠れるには都合が悪いのだ。
「やれやれ、ここに火の巫子様がいるのに、ちっとも明るくなりゃしねえ。
シールの実の油に水でも入ってるんじゃないのかね?
こんな事ならろうそくランプ3つばかり持ってくるんだった。
魔導が使えないなら、やっぱり松明たいまつに火を付けるかい?」
腰に松明は2本ある。
「松明は目立つ、目をこらすんだな。」
わかってるんだがねとブルースが、ため息交じりでランプをのぞき込む。
この世界の人間には慣れた灯りだが、ランプは金属の箱の一部が透明度の低いガラス越しにぼんやり灯がともる作りで、リリスの魔導の灯りを知るとどうにも暗くてイライラする。
森の中、木の根に足を取られて時々転びそうになって、事の前にケガでもしたら馬鹿馬鹿しい。
魔導を使うなと言う神官達を、恨めしく思って横目でにらんだ。
「我らは夜目が利くゆえ、ランプは貴方らで使えばよい。」
「はっ!そうですかい、俺たちは夜目が利かない普通の人間だ。
あんた達の時代はどうか知らんが、残念ながらいまだ灯りと言えばろうそくランプかシールの実の油ランプぐらいだ。
しかし明るい携帯のろうそくランプはせいぜい1時間、油ランプは長く使えはするがこの通り火が弱く暗い。
足下ぐらいしか見えん。
よほど松明でも持った方が明るい。」
言っても仕方ないが愚痴も出る。
明るい夜の存在など、灯りを沢山ともした酒場くらいだ。
この世界、日が暮れたら一杯飲んで、さっさと寝るのが一番だ。
「火の精霊がおらぬ世の儚きことよ……」
グレンがつぶやき、暗い空を仰ぐ。
「星明かりもない森の中ではせんなきこと、リリス殿、魔導を使うがよろしい。
火の精霊もおらぬ世では、森に火が付けば大火になろう。
たとえあなたでも精霊もおらぬでは火を操ることも敵いますまい。
……この森にあなたが足を踏み入れた時点で、すでに城の魔導師には知れておりましょう。
出てこないことを見ると、静観する気かと。」
城の方角に目をやる。
ルークに敵対心など見えなかった。
彼ならば、森まで見通すことなど容易なことだろう。
「承知しました、お許しが出たのでブルース様、愚痴はお控えなさいませ。」
笑ってリリスが、ポッといつもの光の球を浮かべる。
ボンヤリとした灯りは周囲を優しく照らし、リリスが目立たぬよう足下をと命令すると、2,3に小さく散って地面をポンポン飛び跳ねた。
「おやおや、なるほど、こう言う技も隠しておいでか。助かった。」
「私の旅は昼夜問わずでしたから、遊びですよ。
子供の頃は家でも夜、沢山飛ばして遊んでたのですが、それがますます魔物説に拍車をかけたわけで。
私も村人には相当嫌われてしまいました。」
昔を思い出して苦笑する。
夜の灯火は心を澄ませ、色々なことが浮かんでは消える。
「なるほど、腕を磨くほど嫌われる。
我ら騎士にも言えること、ちょいと強くなれば狂戦士だと後ろ指指される。
強い者には強い者の悩みがありますからなあ。」
腕を組み、うんうんとブルースがさもわかった風にうなずく。
ガーラントが苦笑して、鼻で笑った。
ずいぶんと進んだところで、先方の木の間から一瞬緑色の小さな光がキラリと光った。
「何か見えなかったか?」ブルースがサッと立ち止まり、剣に手を置く。
「墓で先に待つミスリルだ。
緑は異常のない合図と聞いた。」
「聞いた……って、そうエリン殿と決めたでしょう。
ホムラ殿ももう少し……」
「ふん」
ホムラの投げやりな物言いに、ずっと黙っていたゴウカがとうとう呆れて囁いた。
ホムラは働きはするが、皆と少しも馴染もうとしない。
当てに出来るのか出来ないのか、ここへも率先して付いてきたクセにとんだ頑固者だ。
首を振り、ため息をつくゴウカが気まずそうにリリスの顔をチラリと見る。
リリスはゴウカと顔を合わせ、キュッと肩をすぼめてクスクス笑っていた。
可愛い人だと、ゴウカはリリスに微笑み返す。
まだ出会って短いのに、すでに付き合いが長いような安心感がある。
「ホムラ殿は昔からこうなのですよ。
でも、我らの中でも一番頼りになります。
リリサレーン様の一番の側近だったんですよ。」
「ゴウカ、余計なことを話すな。」
「やっぱりお強いのですね!それは安心。
実は皆様には来て頂けるのかと、心配しておりました。
なにしろこっそり忍び込むのですし。
高貴な神官の皆様には、とてもとても、こんなことお願いが出来ませんもの。」
「そ、それは……我ら神官、巫子殿の行くところへはたとえ地下であろうとですね……」
慌てるゴウカにプッとブルースが吹き出した。
自分もまあ、リリスにはあっという間に引き込まれた口だ。
この子には不思議な魅力がある。
まさか自分がガルシアを離れて構わないと思うなど、考えもしなかったのだ。
「お待ちを、誰か来ます。」
グレンに言われて、リリスが光の球を散じた。
木に隠れようにも、気配が掴めずどこから来るのかわからない。
そっと身をかがめ、息を殺して動かない。
「リリス様、エリンです。」
小さく声がして、月の光が差し込み、仮面の青年が音も無く姿を現した。
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