赤い髪のリリス 戦いの風

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2,アトラーナ

10、魔導師の塔

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風の精霊が、リリスにまとわりついて彼の不安な心を解きほぐす。
ホッと息をつき顔を上げると、4人の魔導師が並ぶ奥に、1人の老人が腰掛けていた。
それは魔道師の塔の長ゲール。先の旅立ちの時挨拶に上がったが、ベールの向こうで顔はほとんど見えなかった。

「これが、2度目だな風よ。」

「は、はい。お久しぶりでございます。」

慌てて膝を付き床に伏せる。
横にいる魔導師が、カツンと杖で床を鳴らし強い口調で言った。

「先の旅では、勤めを果たしたか?」

「はい、未熟な為に王子にご迷惑もおかけしましたが、おかげをもちま……」

「お前は本当に勤めを果たしたのか?!」

横にいた中年の少し太った魔導師に言葉を遮られ、ドキリとリリスの身体がすくんだ。

なんと返せばいいのかわからない。
無事に帰っただけでは許されないのだろうか。
確かに王子を危険にさらしたことは……

「この騒ぎは何だ。
フレアゴート殿はお前にある話しを告げたはず。その言葉を聞き、お前はどう思ったのか?」

ビクッとリリスが顔を上げた。
全員が険しい顔を向け、リリスを冷たく見下ろす。
彼らは何を言っているのか、あの崖から飛び降りた時の記憶が蘇る。

「わ……私は……」

「お主にかせられた真の旅の目的は、フレア殿に会ってお前にもわかったはず。
そうであれば、何故果たさなかった。
フレア様が語るなら、そうなのであろう。だが、お前はその姿で何を考えるのか。
フレア様が語るのを良いことに、心に野心が芽生えたか?
この城を騒がせる事態、お主が引き起こしたと知るがいい。」

「野心など、とんでもございません。」

「王には赤い髪の子など存在しない。王の長子はキアナルーサ様のみ。
ラグンベルク公をそそのかしたのはお前か?」

「いいえ、いいえ、私は一切口外しておりません。」

「元より、国の平安のために仕えるべき魔導師自ら国を乱すなどあってはならないこと。
それは魔導師として力があるからこそ、最優先されねばならない。
アトラーナでは、リリサレーンの前例があるからこそ厳守されなければならないのだ。」

そうしなければ、魔導師の存在自体が危ぶまれてしまう。
恐れられる存在だからこそ、謙虚さが必要なのだ。

「お前は何だ、お前は風の魔導師である前になんなのだ。」

苦々しい顔で、一番背の高い魔導師がかすれた声で問いつめる。
リリスはギュッと手を握りしめ、うつむいて今まで何度語っただろうその言葉を彼らにも繰り返した。

「私は……親無し子で……慈悲深いセフィーリア様に育てて頂いた……ただの召使いでございます。」

ああ……たとえ長子であっても、不要のレッテルを貼られた自分はなんと惨めな。
同じ腹から生まれ出て、色の違いでこうも人生が変わってしまうなんて。

『お前は、私の子だよ』

セフィーリアの、母の声が浮かび彼を支えた。

母上、母上どうか助けて下さい。

ふと、一人の魔導師が、彼に短剣を差し出す。
訳がわからず受け取ったリリスが、次の言葉でその剣を落とした。

「自害せよ。お前も国を思うなら、勤めを果たせ。お前はこの国には不要だ。」

思わず立ち上がり数歩下がる彼を、ルークが支えた。
足が震え、全身を冷たい物が走り身体がすくむ。
並んだ魔導師達皆が期待するそれは、自分のこれからの事ではない。
ただ、現状を乱す自分の存在を消し去ってしまうことでしかないということか。
しかしリリスはグッと足に力を入れて踏みしめ、一つ深呼吸して身を正した。

「いいえ……私の勤めは生きてこそ果たされる物。生まれのことは過去のこと、その為に自ら命を絶つことはいたしません。
今の私は身分の低い孤児の召使い。
ですが魔導師なのです。
私は生きてこの国のために働きたい。死んで良いと神がお許しになるその時まで。」

びょう!

一陣の風が、部屋を吹き荒れた。

リリスの身体がフワリと浮いて、彼の背を押す。
気付かぬうちに、涙があふれていた。
でも、彼の目は強く輝き、意志の強さを表している。
沢山の精霊が彼の力になり、ほのかに光が身体を覆っていた。

なんという、精霊を惹きつける力。
やはり、この少年はリリサレーンの再来か。

座した魔道師長のゲールが、眉をひそめ立ち上がった。

「風の覚悟はわかった。では、お前にはこの騒ぎを収める手があるのか。」

「ベスレムへ、説得に。」

「それはならん。
お前の接触は、公のお立場を更に悪くするであろう。
公はフレア様と懇意になることで浮き足立っておられる。
うわさがこれ以上アトラーナを乱すことになれば、たとえどこにいようと魔導師の塔自らお前を抹殺する。」

それは、またベスレムとフレア様の関係を悪い方へ誤解させてしまうのか。
リリスがどうした物かと唇をかむ。
ザレルはどんな考えで私を呼び寄せたのか……

『王子のもとに忠誠を持って仕えて欲しい』

ザレルはそう言った。
忠誠を。
まず、自分は信頼されなければならない。
リリスがキッと顔を上げ、胸に手を当てる。

「では、私は王子に忠誠を誓い、心から尽くすのみでございます。他になにもありません。」

透き通った声が、部屋にひびき一同が目をむく。
死ねと言われ、心折れそうになりながらもなお、前を見据えるこの強さ。
柔らかい見た目と違う、鋼のような……

この、聡明さがラグンベルク公には惜しいのだ。

ゲールが目を細め、一つ息をついた。

「よい、風の息子。
辛いことにもなお風によどみなく、真っ直ぐに涼やかな風を送ることの出来るお主なら、今のアトラーナを救う王子の助けとなるだろう。」

「ありがとうございます。」

ゲールの穏やかな言葉に、リリスが涙を拭いて頭を下げた。
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