赤い髪のリリス 戦いの風

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2,アトラーナ

16、小鳥のヨーコ

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ピイイイイルルル!!

バサッバサッ!

突然、小さな瑠璃色の鳥が飛んできてキアンの頭をつついた。

「ワアッ!何だ、この鳥は!」

「王子!風よ!リム・ラ・ファーン!鳥を鎮めよ!」

ビョウと風が巻いて、鳥をグルグルと回した。

「キャア!」

悲鳴を上げて目を回し、落ちる鳥をリリスが受け止める。
キアンが目を丸くして、それを覗き込んだ。

「キャアって言ったぞ、この鳥!」

「そのようで……」

「王子!いかがされました!」

騒ぎを聞いて兵が次々声を上げ、王子の元へと駆けつける。

「いや、なんでもない。下がって良い。」

「その鳥が何か?こちらで処分いたしましょう。」

ピー!ピー!ピー!

リリスの手の中で、驚いてバタバタ暴れる。
やがて隠れるように、羽ばたいてその肩に留まった。

「兵は持ち場に戻れ、大丈夫だ。さあリリス部屋へ戻ろうか。」

そそくさと部屋に戻ると、ゼブラがお茶の用意をして待っている。

「おや?綺麗な鳥ですね。いかがなさいました?」

「うん、これは…………そうだな、ゼブラはここにいて良い。」

人払いしてすべてのドアと窓を閉め、テーブルに鳥を降ろした。

「ヨーコ様ですね。」

リリスがため息をついて、椅子にかけるキアンに視線を送る。

「まさか!」

「さすが、私だってよくわかったわね。
ねえ、水くれない?まだ鳥に慣れなくってノド乾いちゃったわ。」

「鳥がしゃべった?!王子これはいかがなさいました?」

「あ、ああ、とにかくゼブラ、水を皿に。」

ゼブラが持ってきた皿の水を飲む鳥だが、これがなかなか飲みにくい。
ゴクゴク飲めないのは何とも歯がゆい。四苦八苦して飲んでいると、横からキアンが覗き込んだ。

「鳥とは考えたな。久しぶりだヨーコ、元気だったか?」

「ふう、そーね普通に元気よ。キアンもちょっとはいい男になったじゃない?
腹もへこんだし。クッククッ」

誉められ、赤い顔でキアンが腹をさする。

「これは毎日剣と体術の練習やらされて減ったんだ。
基礎からやるのは大変だったぞ。
おかげでちょっとムキムキだ。惚れたか?」

「バーカ!あたしはリリス一筋なの!」

「なんだ河原はどうした?別れたのか?
リリスは相変わらずチビでナヨッとして、少しも男らしくないがどこがいいのだ?」

「あ!」

ふと思い出し、ピンと顔を上げキアンの鼻先を突いた。

「いたっ!何をする無礼者!」

「あんたさっき、リリスにすっごく悪いこと考えてたでしょ!鬼みたいな顔してさ!」

ドキッ!

キアンが慌ててゴシゴシ顔をこすり、向かいに立つリリスをそうっと上目遣いで見上げる。
リリスはニッコリ、見通しているような顔だ。

「ま、いろいろあるのだ。お前こそ何しに来た。」

「あら、ご挨拶ね。」

「リリスは明日から国境のレナントへ一軍の魔導師として行くことになっている。
何があるかわからん使命だ。」

ビクッとリリスの手が震えた。

やはり、早々に話しが来たのか。あのゲールの言葉が耳に響き、魔導師達の冷たい言葉が思い出された。

「私が……そんな大それたお仕事を。」

「恐かったらやめてもいいんだぞ、僕が話を付けてやる。」

そんなこと、到底無理なのだがハンストしても。

「いえ、私でよろしいのでしたら喜んで。
アトラーナのために、働いて参ります。」

あっさりした返事に、思わずキアンがリリスの手を取った。

「お前はわかってないからそんな簡単に引き受けるんだ。
隣国から使者が来るのだ、悪くすればそのまま戦争だぞ。死んじゃうかも知れないんだ。」

「私はまだ死ねません、戦争など起こさせないためなら私は何でもやります。」

「お前1人の力でなにができる。危なくなったら飛んで逃げろ。僕が許す。」

知らず、キアンの声が震える。
見つめるその目が、うるんでふせた。
それ程、危険なことなのだろう。

「はい。」

リリスは静かに胸の中で覚悟を固めながら、その涙にあらためて忠誠を誓った。

「王子のために働いて参ります。どうか良い結果をお待ち下さい。」

「ピー!私も行く!リリスに付いていくわ!」

ヨーコ鳥が、鼻息荒く羽ばたいてリリスの肩に留まった。

「いいえ、ヨーコ様はどうか王子のおそばに。
あなたは今の王子にこそ必要な方です。レナントには母上がいらっしゃいます。私は1人ではありません。」

「でも……」

バターーン!

いきなりドアが開き、ビョウと風が部屋を吹き荒れた。

「わしが共に行く。」

フェリアがドアに、仁王立ちで立っている。
両脇には兵が、騎士長の子供に手を焼いている様子だった。

「無礼な、私はお前を呼んでいないぞ。」

キアンが驚いて振り返り、怒って叫んだ。
リリスが慌ててフェリアに駆け寄る。

「どうかお許しを!
師の……セフィーリア様のお子様で、生まれたばかりですのでまだ何もわかっておいでではないのです。
さ、フェリア様お部屋に戻りましょう。」

「イヤじゃ!わしはリリスがうんと言うまで引き下がらん!」

ジタバタと駄々をこねる様子にリリスが困り果てていると、ヌッと大きな手がフェリアの襟首を掴み部屋から引きずり出した。

「礼儀をしらんうちは、城に上げるべきではなかったようだな。お転婆め。」

「お父ちゃま!離せ!」

ジタバタと暴れる娘をポイと部下に放り、ザレルが王子に一礼した。

「娘が失礼を。」

「いや、良い。ザレルも心配事が増えるな。」

「……フフ、まったくでございますな。」

キアンの思ってもいなかった心遣いに、ニヤリと笑う。そして許しを得て、リリスを部屋の外へと呼んだ。



「リリス、話しは聞いたか?」

「あ……はい。レナントへの出発は?」

「明日の朝だ。お前のことは私の部下にも頼んでおいた。
ガーラントという騎士だが、見た目で人を差別するような者ではない、心配はいらん。
塔にも一応挨拶を済ませよ。」

「はい、承知いたしました。」

「同行できんのが心残りではあるが、お前にはこれを。
私が持っている剣では一番軽くお前にも扱いやすかろう。」

そう言って、一振りの剣をリリスに手渡した。

「必要になったら、迷わず使うのだ。必ず帰ってこい。
こんなことならお前には無理矢理でも剣を教えておくべきだった。一生の不覚だ。」

「はい。……ザレル様は相変わらず心配性ですね。」

「当たり前だ、親が子の心配をせずして何とする。何かあっても必ず生き延びよ。」

クスッと笑うリリスの頭をポンと撫で、大きな手でギュッと抱きしめてくれた。
大きな手、本当に心から安心出来る手。

「行って、来ます。」

「うむ、セフィーリアによろしくな。
俺は人選と雑事で忙しい、見送りに行けぬが許せよ。また会う時を楽しみに待つ。」

ザレルがくしゃくしゃとリリスの頭をなで、あとにする。
その大きな背中を見送りながら、リリスは小さくささやいた。


「いつかきっと……ザレル様をお父上と呼ぶことの許される日が来ますように……」


自分に野心があるというなら、今は魔導師として城に認められ、ザレルの養子になること。
それだけしか浮かばない。
身分を越えて本当の家族を手に入れたい。
自分の家族は、セフィーリアとザレル、そしてフェリアなのだ。

召使いではなく、あなた達の子供になりたい。
その為にも働いて参ります。

リリスは剣を抱きしめ、目を閉じて誓った。
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