22 / 303
3、国境の町レナントへ
21、花の香り
しおりを挟む
翌日早朝、一行は簡単な食事を済ませ朝もやの中を早々に出発した。
リリスは揺れる馬車の中で、傷に癒しの呪文を送る。
昨夜川の水で洗っている時、水の精霊が癒やしてくれたおかげで、一応傷は開かず出血も止まっている。
「どう?」
「はい、激しく動かさなかったら開くことはないでしょう。
レナントに着いたら、お医者様に縫って頂いた方がいいのかもしれませんが。」
「また痛い目に遭うねえ。もう、あのバカ戦士!」
「ふふ、そうですね。縫ってる間、ワンワン泣き叫んだらつついて下さい。
さて、朝を迎えたばかりですが、少し休みましょう。」
昨夜よく眠れなかったので、眠れる時に仮眠した方がいいと思う。
馬車はひどい揺れの上に腕にも痛みがあるが、横になるとやはり疲れがあるのかリリスはすぐに眠ってしまった。
一行は森のレナントへ続く山道を、早足で列を成して進んで行く。
この山を越えると、レナントの中心部はもうすぐだ。
高台にある城も見えてくるだろう。
しかし、しばらくしてずいぶん進んだところで先頭を進む一行の案内人が、いつもと違った印象に次第に首をかしげる。
朝もやがどんどん濃くなり、何度も同じ場所を回っているような気がするのだ。
歩みが遅くなり、前後の馬が寄ってざわついた。
「リリス、何か様子がおかしいよ。」
ヨーコにつつかれて眠い目をこすり、リリスが目を覚ました。
「なに……?なんでしょうか?」
「何か、同じとこグルグル回ってるんじゃないかって。」
「同じところを?」
道はあって無いようなものだ。わだちもなくただ歩きやすい開けている場所を進み、所々にある道しるべを見つけては間違いの無いことに安心する。
こんな多人数での移動は、山を知る道案内は必ず同行する。
だから道を違えるのは珍しいのだ。
ヨーコがリリスの肩に留まり、馬車から身を乗り出す彼と一緒に辺りを見回す。
何か、いいようのない甘い香りが漂って、クンクン鼻を立て、思い出したようにリリスは横を行く戦士に叫んだ。
「戦士様!魔物の花に惑わされております!風を呼びますので風に向かって風上へ走って下さい!」
「なに?!それは確かか?」
「この香り、ラベンナという方向を狂わせる花の香りです。東の国の魔術師が目くらましに使うと聞いたことがあります!お早く!」
「あいわかった!皆、魔導師がいるかもしれん!注意せよーーっ!!」」
叫びながら戦士が樹の間を走り、先頭へと急ぐ。
「ヨーコ様、風を呼びますから飛ばされぬよう馬車の中でお待ち下さい。」
「わかった。リリス!気をつけて!」
リリスは馬車の中を走り、ミュー馬を操る御者の横に立って両手を高く掲げる。
「風よ!風よ!我が声を聞け!
レナントの風よ!この地に漂う、我らを惑わせし花の香をすみやかに消し、迷いし我らの行くべき道を指し示せ!
フィード・フェナ・ファルファ!
フィード・レン・ラナファルト!」
リリスの手から風が巻き起こり、遠くから風の音が近づいてきた。
ゴォォォォオオオオオ!!
「頭を下げよ!風が来るぞ!」
ビョオオオオ!!
「うおっ!」
どこからか声が上がり、それと同時に突風が右斜めから吹き荒れた。
あれほど濃かったもやが晴れ、山道をはずれているのが目に見える。
「風上に向かって走るぞ!」
「おお!風上へ!」
「おお!」
声が上がり、一気に馬たちが走り出す。
しかし回りの木がグニャリと動き、馬や兵士達を絡め取った。
「な!なんだこれは!」
「うおお!」
剣を振り、木を切ろうとする手にもツタが巻いてくる。
リリスの乗る馬車にもそのツルははい回り、隣にいる御者の男を捕まえリリスの足に這い上がってきた。
「なんだこりゃあ!ひいっ、た、助けてくれ!」
御者の男が思わず恐怖にリリスの袖を掴む。
リリスは構わず手で印を結び、呪文を詠唱しながら微動だにしない。
とうとう袖が肩から裂け、男はようやくそこで手を離した。
「……ラクレル・レン・ルーナ、命を育む大地の王、ヴァシュラムドーンの精を受けし木々の精霊よ、心鎮め我が声を聞け。我が名は風のリリス。
ラクレル・レン・ラーナ、よこしまな者の声より解放され、静粛なる世界の元に大いなる抱擁を持って我らを見守りたまえ。
ヴァシュラ・セラ・レ・ルーン!我が声を持って、静粛なる者よ解放されよ!」
ザアアア………
突風が吹いて森をゆらし、急激に伸びたツタが急に力を失い地に落ちた。
兵達がそれを振り払い、急いで開けた道へと出る。
「助かった!」横で小さく震えていた御者も、あわてて馬を走らせる。
まだ、まだだ。
術者が近くにいる!
リリスは動き始めた馬車の御者台の上に立ち、術者の姿を探した。
リリスは揺れる馬車の中で、傷に癒しの呪文を送る。
昨夜川の水で洗っている時、水の精霊が癒やしてくれたおかげで、一応傷は開かず出血も止まっている。
「どう?」
「はい、激しく動かさなかったら開くことはないでしょう。
レナントに着いたら、お医者様に縫って頂いた方がいいのかもしれませんが。」
「また痛い目に遭うねえ。もう、あのバカ戦士!」
「ふふ、そうですね。縫ってる間、ワンワン泣き叫んだらつついて下さい。
さて、朝を迎えたばかりですが、少し休みましょう。」
昨夜よく眠れなかったので、眠れる時に仮眠した方がいいと思う。
馬車はひどい揺れの上に腕にも痛みがあるが、横になるとやはり疲れがあるのかリリスはすぐに眠ってしまった。
一行は森のレナントへ続く山道を、早足で列を成して進んで行く。
この山を越えると、レナントの中心部はもうすぐだ。
高台にある城も見えてくるだろう。
しかし、しばらくしてずいぶん進んだところで先頭を進む一行の案内人が、いつもと違った印象に次第に首をかしげる。
朝もやがどんどん濃くなり、何度も同じ場所を回っているような気がするのだ。
歩みが遅くなり、前後の馬が寄ってざわついた。
「リリス、何か様子がおかしいよ。」
ヨーコにつつかれて眠い目をこすり、リリスが目を覚ました。
「なに……?なんでしょうか?」
「何か、同じとこグルグル回ってるんじゃないかって。」
「同じところを?」
道はあって無いようなものだ。わだちもなくただ歩きやすい開けている場所を進み、所々にある道しるべを見つけては間違いの無いことに安心する。
こんな多人数での移動は、山を知る道案内は必ず同行する。
だから道を違えるのは珍しいのだ。
ヨーコがリリスの肩に留まり、馬車から身を乗り出す彼と一緒に辺りを見回す。
何か、いいようのない甘い香りが漂って、クンクン鼻を立て、思い出したようにリリスは横を行く戦士に叫んだ。
「戦士様!魔物の花に惑わされております!風を呼びますので風に向かって風上へ走って下さい!」
「なに?!それは確かか?」
「この香り、ラベンナという方向を狂わせる花の香りです。東の国の魔術師が目くらましに使うと聞いたことがあります!お早く!」
「あいわかった!皆、魔導師がいるかもしれん!注意せよーーっ!!」」
叫びながら戦士が樹の間を走り、先頭へと急ぐ。
「ヨーコ様、風を呼びますから飛ばされぬよう馬車の中でお待ち下さい。」
「わかった。リリス!気をつけて!」
リリスは馬車の中を走り、ミュー馬を操る御者の横に立って両手を高く掲げる。
「風よ!風よ!我が声を聞け!
レナントの風よ!この地に漂う、我らを惑わせし花の香をすみやかに消し、迷いし我らの行くべき道を指し示せ!
フィード・フェナ・ファルファ!
フィード・レン・ラナファルト!」
リリスの手から風が巻き起こり、遠くから風の音が近づいてきた。
ゴォォォォオオオオオ!!
「頭を下げよ!風が来るぞ!」
ビョオオオオ!!
「うおっ!」
どこからか声が上がり、それと同時に突風が右斜めから吹き荒れた。
あれほど濃かったもやが晴れ、山道をはずれているのが目に見える。
「風上に向かって走るぞ!」
「おお!風上へ!」
「おお!」
声が上がり、一気に馬たちが走り出す。
しかし回りの木がグニャリと動き、馬や兵士達を絡め取った。
「な!なんだこれは!」
「うおお!」
剣を振り、木を切ろうとする手にもツタが巻いてくる。
リリスの乗る馬車にもそのツルははい回り、隣にいる御者の男を捕まえリリスの足に這い上がってきた。
「なんだこりゃあ!ひいっ、た、助けてくれ!」
御者の男が思わず恐怖にリリスの袖を掴む。
リリスは構わず手で印を結び、呪文を詠唱しながら微動だにしない。
とうとう袖が肩から裂け、男はようやくそこで手を離した。
「……ラクレル・レン・ルーナ、命を育む大地の王、ヴァシュラムドーンの精を受けし木々の精霊よ、心鎮め我が声を聞け。我が名は風のリリス。
ラクレル・レン・ラーナ、よこしまな者の声より解放され、静粛なる世界の元に大いなる抱擁を持って我らを見守りたまえ。
ヴァシュラ・セラ・レ・ルーン!我が声を持って、静粛なる者よ解放されよ!」
ザアアア………
突風が吹いて森をゆらし、急激に伸びたツタが急に力を失い地に落ちた。
兵達がそれを振り払い、急いで開けた道へと出る。
「助かった!」横で小さく震えていた御者も、あわてて馬を走らせる。
まだ、まだだ。
術者が近くにいる!
リリスは動き始めた馬車の御者台の上に立ち、術者の姿を探した。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。
幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。
しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。
それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。
母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。
そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。
そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる