赤い髪のリリス 戦いの風

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6、レナントの城

37、苦渋の城

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「実は、覚えておりません。」

「なんと?」

「覚えて……おりません。申し訳ありません!」

一同がざわめいた。
肝心の倒した方法を、語ろうとしないリリスに数人が眉をひそめる。

「覚えていないとはどういう事か?我らはどんな呪を使ったか聞きたいだけだ。それも忘れたのか?」

「申し訳……」

頭を下げるしかないリリスは、硬く口を閉ざした。
これ以上は覚えていないで通すしかない。
絶対に知られてはならないのだ。
意を察したセフィーリアが腰を落としてリリスの肩を抱き、力づけた。

「魔導師が敵を倒すは、魔導の力以外何があろう。
ガルシアが申したことを忘れたか?リーリはまだ子供、この子を責めるは大間違いじゃ。」

ため息がどことなく漏れた。
わかっている、わかっていたが、彼らも難儀していたのだ。
ガルシアが息を吐き、そして立ち上がった。

「よい、ようわかった。
今日は下がれ、顔色が悪い。しばし美味い物でも食って休むとよい。
追々また思い出したことあれば報告するように。
ガーラントよ、リリスに付きたいと願い出でているそうだな。
よかろう、騎士として警護を頼む。
またいつ化け物が現れるか知れぬ、魔導師がこれ以上減ることは国の存亡に関わる。
心して警護せよ。」

「はっ、ありがとうございます。」

「警護?化け物?」
意外な言葉に、リリスが不思議な顔でガーラントを見る。

「さ、リーリよガーラントについて行くがよい。母は少しこの者たちと話しがあるでのう。
ガーラントはレナント出身ゆえこの城にも詳しい。なんでも聞くと良い。」

「あ、はい。では失礼します。」

リリスが一礼し、ガーラントと共に部屋をあとにする。
ガルシアはその姿を見送るとほおづえをつき、大きくため息をついた。

「残念、覚えておらぬとは、はなはだ残念。
まあ、しょうがない諦めるしかなかろう。
しかしなんであんな子供が初めて会ったこの、ろくでなしのガルシアのためになどと言う悲しい言葉をツルツル言うんだ?
アトラーナの腐った慣例か?」

「公、お言葉が悪うございますぞ。」

「子供は成人するまで子供らしく学校に行って、勉学と遊びにいそしめばよいのだ。
だいたい本城には、戦える魔導師を複数名と頼んだのだぞ。
それが何だ、魔導師は子供1人に少数精鋭の騎士30名だと。
しかも全然歯が立たなかったではないか。前途多難よ。」

「致し方ありません、この援軍はトランから使者が来る夢見の予言に対する先鋒隊。
正式な魔導師の援軍はまだ決まっていないと聞いております。ましてこの騒ぎ、ますます塔の方々の足も遠のきましょう。」

「フン、腰抜けどもが、塔の魔導師が聞いて呆れるわ。
敵の力がわからぬ今、危険を伴うのはわかっていたはず。一番身分の低い者を試しに差し出したのであろうよ。
どんなに腕の立つ騎士でも、強力な魔導師相手にたった30人で何が出来る。しかも肝心の魔導師は子供だ。
子供はこんな血生臭いことに首をつっこむことはない。笑って遊んでおればよい。」

セフィーリアが円卓につき、そしてグチっぽいガルシアに微笑む。
若いレナント公は、子供の頃から身分差別に反抗して、アトラーナの悪い風習にあまり捕らわれない。
それは早くに父親が、病から公の座を譲った今も変わらない。

「ガルシアよ、それはムリだな。
リーリは学校にも、まして普通の子のように遊んだこともない。ずっと働いていたぞ。
あれは孤児として後ろ盾の家を持たないと言う、この国でも最悪の条件に育った。
自分の下には何もない、自分以外はすべて上にあると厳しく馬鹿どもにしつけられて育ったのだ。
属する最も上に服従しようとするのは、あの子の無難な世渡り術だよ。
まあ、私は別だがな。私にとっては愛する息子、人間の決めた身分など関係ない。」

「なるほど、容姿に引け目があるからな。
皆の方々の、その恐い目つきを案じて、なんとか機嫌を取ろうとしているのであろうよ。」

「公よ、それ程我らはひどい目をしているかね?」

「ああ、まるで魔物か闇落ち精霊のようだぞ、長老ザール。
あの髪と瞳では、またこの城でも苦労しそうだな。
そう言えば、あれは王家の血族であるとベナレスや本城では噂があるそうだが、本城は余程暇と見える。」

「ああ、あれは噂の出所がまた、ベナレスにいらっしゃるフレアゴート殿とか。
まったく、たわむれが過ぎましょう。」

「私も聞きましたが……王もまともに取り合ってはおられぬご様子だとか。
心に迷いあれば、すぐにも切り捨てられましょうぞ。」

「まったく、本城はこの実情をわかっておられぬ。」

ガルシアが、皆のボヤキに苦虫をかんだように顔を歪め、大きくため息をつく。
首を振り、ポイとペンを放り投げた。

「まあ、あの少年のことは風殿にお任せしよう。
この城では親子で構わんよ。
身分はそれに準じて良しとしよう。あれで召使いのままではあまりにも動きにくかろう。

それと……
魔導師の補給が間に合わない現状により、やむなく地の神殿に巫子殿をお貸し願えるよう使いを出した。
破壊された部屋も、巫子殿に清めていただき再建に着工する。
各自城内であろうと絶対にお一人になられぬよう。」

「承知いたしました。闇に汚されしおりは、どうぞ切り捨てて下され。」

長老が、目を閉じ手を合わせる。

「諦めの早いことよ。たとえ年老いた者でも、このガルシアは見捨てはせぬ。
ネズミ一匹でも手をつくそうぞ。」

力強い言葉に、長老が顔を上げ目を潤ませる。

ガルシアのこの力強さ、そして人を惹きつける人間としての魅力が、隣国と微妙なバランスを保っているレナントを率いるに足る者として、早くに父親は公の座を譲り渡し、そして人々からも慕われていた。
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