赤い髪のリリス 戦いの風

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8、隣国の脅威

56、友達とは

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「でも、その方は私と同じ下働きの方で魔導の力はありませんし。」

「無いと言い切れる物か、何という名だ調べさせる。あの紐のせいでリリは死にかかったんだぞ。」

「いえ、大丈夫です。きっとご存じなかったのだと思います。」

「だから何という奴だ、そいつに聞けばわかるだろう。」

だんだん強い口調になるイネスに、戸惑いながら指をかむ。
嫌われ者の自分が、初めて身分を気にせず、気安く呼び合える人を見つけたのだ。
リリスはどうしても、メイスを失うようなことをしたくない。信じたかった。

「それは私からお聞きします。大切な友人なのです。どうかおわかり下さい。」

大切な友人……

イネスの頭にカッと血がのぼる。
ベッドを飛び降り、突然イネスがリリスを怒鳴った。

「俺より大事だというのか?その友人とやらが!」

「そ、それは……本当に、親しい友人なのです。どうか……」

「無礼な!お前は俺をないがしろにしても、そいつが大事なんだな!」

「違います、そんな……どうか、お許し…」

突然激高したイネスに、リリスが驚いた。
ヨーコも驚いて、はらはらと二人を見守る。

たった今まで仲が良かったのに、急に威圧的な態度でリリスを怒鳴りつけるなんて。
これほど激しい性格には見えなかったのに。

しかも身分の違いが叩き付けられているようで、そのイネスの激変ぶりにはついて行けなかった。

「巫子である俺を馬鹿にするか!」

「とんでもございません、どうか、どうかお許し下さい。」

リリスが血相を変えて、慌ててベッドを降りて床にひれ伏した。
気が短い彼でも、リリスを怒鳴ることは今までほとんど無い。
長年親しくして貰っているイネスが、高位の巫子であることを不意に突きつけられた気がして、ひたすら頭を下げた。

「申し訳ありません、どうかご無礼をお許し下さい。失礼をいたしました。」

リリスの反応にイネスも驚いて、思わず数歩下がる。
何故怒鳴ってしまったのか、自分でもひどく後悔した。

「俺はリリがひれ伏すのなんて見たくない。
なんで俺が怒ると、お前は急に身分を思い出すんだ。今まで並んで話していたのに、なんでそうやって……」

イネスの目に涙が浮かぶ。
そんなつもりじゃなかったのに、リリスを思って言ったのに。

知らない奴を、大事な友達なんて言うから……
俺は、なにかそれがイヤなんだ

横で見ていたヨーコが、見ていられずに思わず飛び立ち声を上げた。

「チュッチュッ!
リリスの、友達!友達!
初めての友達なの!許してあげて!」

二人の頭上を飛び回り、そしてリリスの肩に留まった。
リリスはひどく動揺しているようで、言葉を探して落ち着きがない。

「なんだその鳥は…ヴァシュラム様の気配がする。
イヤ、その前になんだ?初めての友達って、誰が?!そいつが?!」

「あの……それは……」

否定しないリリスの態度に、イネスの顔が愕然と変わる。

『初めての友達』

『は、じ、め、て、の、と、も、だ、ち』

はじめて???そいつが?!

じゃあ、じゃあ、俺は??
もっと、ずっと子供の時から友達だって思ってたのに……


頭にガンガンとその言葉が何度も繰り返され、イネスの身体がふらふら泳ぐ。

「イネス様?どうなさいました?ご気分が?」

「俺……俺……」

リリスがそうっと彼をのぞき込むと、イネスは真っ白になってギクシャクと手と足をそろえ部屋を出て行った。

バタン

ドアを閉めると、そこにサファイアが控えている。
イネスに一礼すると、聞いていたのか聞いてなかったのか神妙な顔でささやいた。

「遅くなりましたが、お食事はどうなさいますか?」

イネスの目から、ダーッと涙と鼻水が流れる。
滝のような涙と鼻水に、サファイアが落ち着いてタオルを差し出した。

「イネス様、汗が。」

「汗じゃない~~
お、ま、えはーーいつもいつもーーう、う、わーーんっ!」

ダダダッ!ドターーンッ!

駆け出す彼の足がもつれ、顔から思い切り転んだ。

「イネス様、転ぶと痛いかと存じますが。」

サファイアが後ろから、冷静に告げる。

「わかってる!お前なんか嫌いだ!ひいっく!」

鼻とおでこが痛い。
腹立たしさにバッタリ倒れたまま、サファイアの足をドカッと蹴った。
飛び起き、また泣きながら廊下を走り去る。
やがてドアからそうっと顔を出したリリスに、サファイアが軽く頭を下げた。

「あたし見てくる」

二人のことをよく知らず、軽々しい言葉に責任を感じたヨーコは夜の見えにくい中、ろうそくやランプの明かりを頼りにイネスを追って飛び立つ。
リリスは戸惑いながら、サファイアに深く頭を下げた。

「申し訳ございません。イネス様のご気分を害してしまいました。」

「リリス殿……」

サファイアがイネスの消えた方向を見て、そしてリリスにため息をついた。

「あの方は、目覚めたとき一人では可愛そうだと、ずっとあなたについていらっしゃいました。
お優しい方です。」

ハッとリリスが息をのみ、イネスを追って走り出した。

「ごめんなさい!」

サファイアは手を上げクスリと苦笑して、その背を見送りつぶやいた。

「あの方には、あなたは大切な友人なのです。
身分にとらわれるのは周りの方のみ。あなたがとらわれる必要はありません。」

それをリリスはいつになったらわかってくれるのか。
サファイアは二人を案じながら、ゆっくり後を追い始めた。
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