71 / 303
9、決意と暴露と
70、王家の掟
しおりを挟む
2年前王子の旅立ちの時……
赤い髪を隠す厚いベールで、顔を見られなかったのが残念でならなかった。
ザレルの申し出を、気がつかぬうちに待っていたのだろうと思う。
初めて顔を見たリリスの、そのりりしい顔と力強い意志を秘めた視線。
何故か初めて顔を見た瞬間、安堵が心に浮かび、そして愕然とした。
たとえ風に庇護されようと、使用人の中でも最下の身分でさげすまれ、人から疎まれ、時にはムチ打たれる事もあっただろう。
おどおどと人の顔色をうかがうような、猜疑心で心をねじ曲げてしまった子供を思い浮かべていた。
そう言うものだ。
人が生まれつき虐げられ、理不尽に叩かれ続けて育って真っ直ぐに育つはずがない。
それが……何という真っ直ぐな視線。
これは、子を捨てた罰に違いない。
そう、思うほかなかった。
あれこそ……あれこそが……王の…………
「兄上?お加減がお悪いので?」
ハッと王が我に返り、弟の心配そうな顔を見る。
馬鹿な事を、ほんの少し会って何がわかるというのだ。
「いや、なんでもない。
王子の後押しを頼む。わしはできるだけあの子の意見に耳を貸すとしよう。
あの子の政治的位置も、確立していかなければならない時期だ。」
「ええ、そうですね……」
なにやらじっと考える兄の顔に、サラカーンがにやりと笑った。
「本当は……会いたかったんでしょう?」
「誰とだ?」
知っていて、知らない振りで目を閉じた。
「さあ」
じろり、苦い顔で白を切る弟をにらみ、大きくため息をつく。
「意地悪だな、悪い弟だ。わしにはろくな弟がいない。」
「ベルクは手紙で言ってましたよ、ろくな兄はいないとね。」
「それはお前のことだろうさ。」
「彼に兄は二人います。」
「では、どちらを指すのか今度わしから聞くとしよう。」
二人、静かに笑い合う。
閉めたはずの窓がほんの少し開いて風が吹き、揺れるカーテンにふと目が引きつけられる。
サラカーンが窓を閉め、ため息をつき思いをはせた。
あの子等が生まれたとき……
赤い髪を呆然と見つめる兄は、2人の子を産み疲れ切ったリザリア殿にこの子は死んだと告げて別室へとあの子を連れて行った。
赤い髪の子は生まれれば殺すのが密かな掟。
しかし……あの子は簡単に殺すことができなかった。
赤子でありながら騎士の剣でさえはね付け、殺意を持って手を伸ばせばその腕は燃え上がった。
あれを守護する古霊を恐れれば、どこかの塔へ幽閉しかなかったのだ。
だが、セフィーリアがそこに現れた。
あの子を彼女が引き取るならば、拾い子の使用人として育てるのが約束。
だからこそ、キアナルーサが不安に思うほど強く育ったのであろう。
しかしあれは……あの子を守護していた者は一体何であったのだろう……
二人がリリスのことを語るのは、セフィーリアに託した後これが初めてのような気がする。
それほど禁句であったのだ。
ラグンベルクにしてみれば、リリスを目の当たりにして彼を死者として扱う王家の、それが許せなかったのだろう。
だが、それも仕方がない。
「あれについてはこのまま、レナントに足止めさせるよう取りはからいましょう。
この城に帰ってこられても、また貴族どもが裏でコソコソ動いて迷惑なだけだ。
よろしいか、兄上。」
「うむ……」
王は目を閉じ、しばし考えている。
即答しない兄にため息をついて、サラカーンは小さく首を振った。
「すでに指輪を持たぬ魔導師としても働いているようですし、今では色に捕らわれて虐げられることもないでしょう。
騎士長が養子にと言う話もあったようですが、身分が上がるのは良しとしませんし……のちのち子でも残されても困りますから、機を見て…………」
弟の王家を思っての厳しい言葉に、王が眉をひそめる。
だが、それが本当の道だろう。
王は絶対であらねばならぬ。
先々代が城外に落胤を落として継承者騒ぎを起こしたことは、小さい頃からしつこく聞かされている。
結局、騒ぎがあれば血を流す結果となるのだ。
「もともと死ぬ運命の子だったのです。
それがここまでセフィーリアに育てられて大きくなった。十分ではありませんか。
こうして城に上り父や弟の顔も見て、もしや復讐なども考えているかもしれません。
ガルシアには、この騒ぎが収まりましたら勅命で、密かに始末するよう伝えましょう。」
「うむ…………」
「今更あの子を王家に迎えるなど、間違っても申されませんよう。
赤い髪の子は殺すのがしきたりです。」
「……それは……心得ておる、案ずるな。
あれのことは、お前に任せる。」
今更王家になどと……そんな事が、できるはずもない……
親としては、すでに顔向けできぬ。
今でもこうして殺す算段をしている親に、ほとほと愛想を尽かすことだろう。
「風が、強うなってきましたな。」
窓がガタガタ音を立て、夜風が音を上げて吹き抜ける。
その中を風など関係がないように青い蝶が窓辺に留まり、じっと二人の話を聞いていた。
『宰相は、赤毛を殺す気か……だが、気乗りしない王が気になる。
目の当たりにして情がわいたか。
甘い事よ』
青く輝く鱗粉をまき、風など無いようにふわふわと飛び立つ。
そして夜空の闇に、溶けるように消えた。
赤い髪を隠す厚いベールで、顔を見られなかったのが残念でならなかった。
ザレルの申し出を、気がつかぬうちに待っていたのだろうと思う。
初めて顔を見たリリスの、そのりりしい顔と力強い意志を秘めた視線。
何故か初めて顔を見た瞬間、安堵が心に浮かび、そして愕然とした。
たとえ風に庇護されようと、使用人の中でも最下の身分でさげすまれ、人から疎まれ、時にはムチ打たれる事もあっただろう。
おどおどと人の顔色をうかがうような、猜疑心で心をねじ曲げてしまった子供を思い浮かべていた。
そう言うものだ。
人が生まれつき虐げられ、理不尽に叩かれ続けて育って真っ直ぐに育つはずがない。
それが……何という真っ直ぐな視線。
これは、子を捨てた罰に違いない。
そう、思うほかなかった。
あれこそ……あれこそが……王の…………
「兄上?お加減がお悪いので?」
ハッと王が我に返り、弟の心配そうな顔を見る。
馬鹿な事を、ほんの少し会って何がわかるというのだ。
「いや、なんでもない。
王子の後押しを頼む。わしはできるだけあの子の意見に耳を貸すとしよう。
あの子の政治的位置も、確立していかなければならない時期だ。」
「ええ、そうですね……」
なにやらじっと考える兄の顔に、サラカーンがにやりと笑った。
「本当は……会いたかったんでしょう?」
「誰とだ?」
知っていて、知らない振りで目を閉じた。
「さあ」
じろり、苦い顔で白を切る弟をにらみ、大きくため息をつく。
「意地悪だな、悪い弟だ。わしにはろくな弟がいない。」
「ベルクは手紙で言ってましたよ、ろくな兄はいないとね。」
「それはお前のことだろうさ。」
「彼に兄は二人います。」
「では、どちらを指すのか今度わしから聞くとしよう。」
二人、静かに笑い合う。
閉めたはずの窓がほんの少し開いて風が吹き、揺れるカーテンにふと目が引きつけられる。
サラカーンが窓を閉め、ため息をつき思いをはせた。
あの子等が生まれたとき……
赤い髪を呆然と見つめる兄は、2人の子を産み疲れ切ったリザリア殿にこの子は死んだと告げて別室へとあの子を連れて行った。
赤い髪の子は生まれれば殺すのが密かな掟。
しかし……あの子は簡単に殺すことができなかった。
赤子でありながら騎士の剣でさえはね付け、殺意を持って手を伸ばせばその腕は燃え上がった。
あれを守護する古霊を恐れれば、どこかの塔へ幽閉しかなかったのだ。
だが、セフィーリアがそこに現れた。
あの子を彼女が引き取るならば、拾い子の使用人として育てるのが約束。
だからこそ、キアナルーサが不安に思うほど強く育ったのであろう。
しかしあれは……あの子を守護していた者は一体何であったのだろう……
二人がリリスのことを語るのは、セフィーリアに託した後これが初めてのような気がする。
それほど禁句であったのだ。
ラグンベルクにしてみれば、リリスを目の当たりにして彼を死者として扱う王家の、それが許せなかったのだろう。
だが、それも仕方がない。
「あれについてはこのまま、レナントに足止めさせるよう取りはからいましょう。
この城に帰ってこられても、また貴族どもが裏でコソコソ動いて迷惑なだけだ。
よろしいか、兄上。」
「うむ……」
王は目を閉じ、しばし考えている。
即答しない兄にため息をついて、サラカーンは小さく首を振った。
「すでに指輪を持たぬ魔導師としても働いているようですし、今では色に捕らわれて虐げられることもないでしょう。
騎士長が養子にと言う話もあったようですが、身分が上がるのは良しとしませんし……のちのち子でも残されても困りますから、機を見て…………」
弟の王家を思っての厳しい言葉に、王が眉をひそめる。
だが、それが本当の道だろう。
王は絶対であらねばならぬ。
先々代が城外に落胤を落として継承者騒ぎを起こしたことは、小さい頃からしつこく聞かされている。
結局、騒ぎがあれば血を流す結果となるのだ。
「もともと死ぬ運命の子だったのです。
それがここまでセフィーリアに育てられて大きくなった。十分ではありませんか。
こうして城に上り父や弟の顔も見て、もしや復讐なども考えているかもしれません。
ガルシアには、この騒ぎが収まりましたら勅命で、密かに始末するよう伝えましょう。」
「うむ…………」
「今更あの子を王家に迎えるなど、間違っても申されませんよう。
赤い髪の子は殺すのがしきたりです。」
「……それは……心得ておる、案ずるな。
あれのことは、お前に任せる。」
今更王家になどと……そんな事が、できるはずもない……
親としては、すでに顔向けできぬ。
今でもこうして殺す算段をしている親に、ほとほと愛想を尽かすことだろう。
「風が、強うなってきましたな。」
窓がガタガタ音を立て、夜風が音を上げて吹き抜ける。
その中を風など関係がないように青い蝶が窓辺に留まり、じっと二人の話を聞いていた。
『宰相は、赤毛を殺す気か……だが、気乗りしない王が気になる。
目の当たりにして情がわいたか。
甘い事よ』
青く輝く鱗粉をまき、風など無いようにふわふわと飛び立つ。
そして夜空の闇に、溶けるように消えた。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。
幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。
しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。
それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。
母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。
そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。
そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる