赤い髪のリリス 戦いの風

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9、決意と暴露と

70、王家の掟

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2年前王子の旅立ちの時……
赤い髪を隠す厚いベールで、顔を見られなかったのが残念でならなかった。

ザレルの申し出を、気がつかぬうちに待っていたのだろうと思う。
初めて顔を見たリリスの、そのりりしい顔と力強い意志を秘めた視線。
何故か初めて顔を見た瞬間、安堵が心に浮かび、そして愕然とした。

たとえ風に庇護されようと、使用人の中でも最下の身分でさげすまれ、人から疎まれ、時にはムチ打たれる事もあっただろう。
おどおどと人の顔色をうかがうような、猜疑心で心をねじ曲げてしまった子供を思い浮かべていた。

そう言うものだ。
人が生まれつき虐げられ、理不尽に叩かれ続けて育って真っ直ぐに育つはずがない。


それが……何という真っ直ぐな視線。


これは、子を捨てた罰に違いない。

そう、思うほかなかった。
あれこそ……あれこそが……王の…………


「兄上?お加減がお悪いので?」


ハッと王が我に返り、弟の心配そうな顔を見る。
馬鹿な事を、ほんの少し会って何がわかるというのだ。

「いや、なんでもない。
王子の後押しを頼む。わしはできるだけあの子の意見に耳を貸すとしよう。
あの子の政治的位置も、確立していかなければならない時期だ。」

「ええ、そうですね……」

なにやらじっと考える兄の顔に、サラカーンがにやりと笑った。

「本当は……会いたかったんでしょう?」

「誰とだ?」
知っていて、知らない振りで目を閉じた。

「さあ」

じろり、苦い顔で白を切る弟をにらみ、大きくため息をつく。

「意地悪だな、悪い弟だ。わしにはろくな弟がいない。」

「ベルクは手紙で言ってましたよ、ろくな兄はいないとね。」

「それはお前のことだろうさ。」

「彼に兄は二人います。」

「では、どちらを指すのか今度わしから聞くとしよう。」

二人、静かに笑い合う。
閉めたはずの窓がほんの少し開いて風が吹き、揺れるカーテンにふと目が引きつけられる。
サラカーンが窓を閉め、ため息をつき思いをはせた。

あの子等が生まれたとき……
赤い髪を呆然と見つめる兄は、2人の子を産み疲れ切ったリザリア殿にこの子は死んだと告げて別室へとあの子を連れて行った。
赤い髪の子は生まれれば殺すのが密かな掟。

しかし……あの子は簡単に殺すことができなかった。

赤子でありながら騎士の剣でさえはね付け、殺意を持って手を伸ばせばその腕は燃え上がった。
あれを守護する古霊を恐れれば、どこかの塔へ幽閉しかなかったのだ。
だが、セフィーリアがそこに現れた。

あの子を彼女が引き取るならば、拾い子の使用人として育てるのが約束。
だからこそ、キアナルーサが不安に思うほど強く育ったのであろう。
しかしあれは……あの子を守護していた者は一体何であったのだろう……

二人がリリスのことを語るのは、セフィーリアに託した後これが初めてのような気がする。
それほど禁句であったのだ。
ラグンベルクにしてみれば、リリスを目の当たりにして彼を死者として扱う王家の、それが許せなかったのだろう。
だが、それも仕方がない。

「あれについてはこのまま、レナントに足止めさせるよう取りはからいましょう。
この城に帰ってこられても、また貴族どもが裏でコソコソ動いて迷惑なだけだ。
よろしいか、兄上。」

「うむ……」

王は目を閉じ、しばし考えている。
即答しない兄にため息をついて、サラカーンは小さく首を振った。

「すでに指輪を持たぬ魔導師としても働いているようですし、今では色に捕らわれて虐げられることもないでしょう。
騎士長が養子にと言う話もあったようですが、身分が上がるのは良しとしませんし……のちのち子でも残されても困りますから、機を見て…………」

弟の王家を思っての厳しい言葉に、王が眉をひそめる。
だが、それが本当の道だろう。
王は絶対であらねばならぬ。
先々代が城外に落胤を落として継承者騒ぎを起こしたことは、小さい頃からしつこく聞かされている。
結局、騒ぎがあれば血を流す結果となるのだ。

「もともと死ぬ運命の子だったのです。
それがここまでセフィーリアに育てられて大きくなった。十分ではありませんか。
こうして城に上り父や弟の顔も見て、もしや復讐なども考えているかもしれません。
ガルシアには、この騒ぎが収まりましたら勅命で、密かに始末するよう伝えましょう。」

「うむ…………」

「今更あの子を王家に迎えるなど、間違っても申されませんよう。
赤い髪の子は殺すのがしきたりです。」

「……それは……心得ておる、案ずるな。
あれのことは、お前に任せる。」

今更王家になどと……そんな事が、できるはずもない……
親としては、すでに顔向けできぬ。
今でもこうして殺す算段をしている親に、ほとほと愛想を尽かすことだろう。

「風が、強うなってきましたな。」
窓がガタガタ音を立て、夜風が音を上げて吹き抜ける。



その中を風など関係がないように青い蝶が窓辺に留まり、じっと二人の話を聞いていた。


『宰相は、赤毛を殺す気か……だが、気乗りしない王が気になる。
目の当たりにして情がわいたか。
甘い事よ』


青く輝く鱗粉をまき、風など無いようにふわふわと飛び立つ。
そして夜空の闇に、溶けるように消えた。
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