赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
85 / 303
10、隣国からの使者

84、内政干渉

しおりを挟む
両断されたと思った手紙は元の姿のまま床に落ち、短剣をしまったセレスが指で挟んで拾い上げる。

「さて、お読みになりますか?」

「そうだな。」

ニヤリと笑うガルシアがうなずき、呆然と見ていた傍らのレイトがあわててその手紙を受け取ってガルシアに差し出す。

「御館様……」

レイトの手が心配なのか少し震えている。
ガルシアは大丈夫だと手を握り、そして何事もなく受け取った。
手紙を広げ、ガルシアが無言で目を通す。
やがて手紙から視線をはずし、騎士に訪ねた。

「手紙の内容は聞いたかね?」

「はい、素性のわからぬ魔導師を何とか排除できぬかと、城のこれからを王女は危惧しておいでです。
私も、今の城の現状は良いものとは思えません。」

「なるほど、トラン王はひどく気に入っておいでだと手紙にはある。
どうも、今回の騒ぎは原因がはっきりしているようだな。」

「私も、こちらの現状に驚きました。
ますますあの魔導師に不信感がつのります。
ですが、王と王子は最近ご不幸が続きまして、お話を聞いていただける状態ではないのです。
まして、城内でのリューズ様のお力は大きくなるばかり、しかもあの方のことを調べようとする者は、何故か不幸に見舞われます。
トランであの方に意見する者はありません。
どうか、アトラーナのお力添えがいただければと……」

「わかった、こちらも検討はしてみよう。
だが、他国が内政に関わることは、下手をすれば戦になる。
その覚悟も王女はおありなのかね?」

びくっと騎士の手が震え、唇をかむ。
戦……の覚悟……
それは、助けを借りようとしているこの国と。

「そ……れは……」

セレスは腕を組み、壁にもたれる。
じっと、騎士の言葉を待った。

沈黙の重さは、判断の付かない事の重大さに比例する。
答えない騎士に、ガルシアがフフッと笑った。

「言葉で何と言おうと、誰しも平穏な毎日を望んでいる。
戦いを望まぬ気持ちを信じよう。
それは貴方らを大した武装もなくよこした、トラン王の人選を見ればよく分かる。
王女の手助けができるかどうかは分からぬ、だが、現状のままで良しとするには、こちらはすでにあまりにも犠牲が大きいのだよ。
王女には落ち着いて行動されるようお伝え願おう。
貴重な情報、助かった。」

「王女に、返事はいただけませぬか?」

「そうだな、検討するとだけ書いて置こう。
手紙を魔導師にも知られた今、具体的なことを書くのは王女にも危険が及ぶ可能性がある。
貴方もそのことは頭に留め置いたが良かろう。」

「は、元よりこの手紙を預かりましたときから、死は覚悟しております。」

ギュッと唇をかむ騎士は、厳しい顔をして余裕もないのだろう。
それほどリューズという魔導師に対する恐怖は計り知れないのだ。

「命がけか、大儀な事よ。」

ガルシアが、腕を組んで目を閉じる。
そしてペンを取り、サラサラとペンを走らせて一枚書くと、横のレントに渡した。
レントはそれをたたみ、封筒に入れて蝋で封をする。
騎士はその手紙を受け取り、ホッとした様子で頭を下げ部屋をあとにした。

「まあ、想像通りではあるが、どうした物かな。」

騎士が去ったあと、ガルシアが大きくため息をついて目を閉じる。

「さて、どう考えても、その魔導師はこちらとあちらを戦わせたい様子。
いっそ戦いますか?」

クスッとセレスが笑う。
ガルシアはひょいと肩を上げ、ため息を漏らし椅子にもたれて首を回した。

「まったく、俺は剣が苦手なんだ。レントを担いで山にでも逃げるか。」

「ご冗談はここだけになさいませ。
私は遠慮いたします。」

レントが笑うに笑えず、複雑な顔でセレスに椅子を薦めてグラスを用意し、軽い果実酒を注いだ。
今日はひどく足が痛い。でも、それをひたすら隠しているつもりなのに、ガルシアには簡単に見破られてしまった。
確かに、自分は担がれでもしなければ山などはとても無理だろう。

不甲斐ない。

うつむくレイトに、ガルシアがまた肩を揉めと指で誘う。
レイトはホッと微笑み、彼の背後に回って肩を揉み始めた。

「はてさて、どうしたものか。
兵を連れて王宮魔導師をやめさせろと怒鳴り込むと、戦争になるかな。」

「なりますね。間違いなく。
トランは大国と接しているので、兵も魔導師もかなりの戦力ですよ。
アトラーナの平和ボケの兵や、精霊と共にのんびり魔導の勉強している魔導師とは全然違います。」

「ひどい言われようだ。
まあ、精霊の国と言われるこの国は精霊王の加護があったからな。
皆どこか、最後は精霊王がと心の中で思っている節がある。
今まで攻め込まれたことがないのも、運が良かったんだろうな。」

「この国は聖域ですから、ヴァシュラム様もお怒りになるとどんなしっぺ返しが来るか分かったものではない。
その辺、どなたもおわかりです。だからこそ、そのリューズという魔導師の真意も分かりません。
もしかしたら……
リューズという魔導師、魔導師ではないかもしれません。」

「魔物かね?」

「さあ、誰かが誰かに操られているのか……会えば分かるんですが。」

ガルシアが、大きくため息をついた。
相手が魔物だろうが何だろうが、こちらに災いしていることははっきりしている。
しかも、それが王の意志ではなく、魔導師が一人でやっているらしいことが自体をややこしくしているのだ。

「こういう時……彼なら、どう答えるかね?」

「彼?」

首を傾げ、セレスが天を仰ぐ。

「まさか、またリリに答えを聞く気ですか?」

少々呆れながらも、リリスの資質に気がついたガルシアに目をやった。

「フフ……本城があの子をいらんというなら、俺が養子に貰おうかな。
あれは磨けばもっと光る、そこらの魔導師で終わるには惜しい。」

「おやおや……でも、それも、いいかもしれませんね。」

セレスが果実酒を一口飲んで息をつく。
神殿に来るときのリリスは、ルランにいるときのリリスとはまったく違うと、昔セフィーリアは残念そうに話していた。
いかにルランというところが緊張を強いられるか、生まれついてとは言え、監視付きの下働きは想像以上に辛かっただろう。

王子であると認めないなら、また別の王族に引き取られるのもいいかもしれない。
このガルシアなら、ルランの意向などまったく無視して思うように実行するだろう。

本城の奴らは歯がみして嫌がらせするかもしれないけど……

想像すると面白い。
でも、その前にセフィーリアという大きな壁が立ちはだかっているな。

セフィーリアがリリスにしがみついて離さない様子を思い浮かべ、セレスはクスッと笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

処理中です...