赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
103 / 303
11、アトラーナの秘め事 2

第101話 火の指輪

しおりを挟む
リリスが、暗闇の中で目を閉じ、じっと立ちつくす。
ふと、人の気配に目を開けると、赤く燃える髪の美しい女性が優しく微笑んでいた。

「あなた様は、リリサレーン様でございますね。」

女性はゆっくりうなずいて、細い手でそっとリリスの顔を包み額にキスをする。
そして自分の手から、赤く透き通った石が付いた指輪をはずし、リリスの右手の人差し指に付けた。

『私はお前の内にあり、お前の心の声をずっと聞いてきた。
我が罪の重荷を負ってしまったお前には、わらわは詫びねばならぬ。
悲しみを負わせ、すまぬ事をした。』

「私は……あなたの生まれ変わりなのでしょうか?
ならば、私は……」

『セフィーリアはお前を、フレアにあまり近づけようとはしなかった。
それは私のような目に会わせとう無いという、親心であったろう。
だが、時はすべてを整えつつある。
お前はお前の道を進まねばならぬ。

良いか、この指輪は私の物。
お前の世ではこの指輪は幻、本来の力を持つお前の指輪はきっとルランの城にあろう。
これを取り戻さねばならぬ。』

「これは?」

『これは代々継がれしもの、そしてわれら火の眷族である印(しるし)じゃ。
これとフレアの額の目を取り戻せ。
さすれば道は開けよう。

迷えし巫子の内に封じられていた我が下僕、火の化身キュアは、地の巫子により自身を取り戻した。
お前はまだ指輪を持たぬが、この私の指輪でキュアとも語れよう。
あれは風より早く飛び、きっとお前の助けになる。
だが、お前の下僕ではない。じき消えると覚悟せよ。

お前はお前の僕(しもべ)を手に入れるのだ。
お前は心を鍛え、そして苦境にもかかわらずわらわ以上に修練してきた。
きっとこの苦難にも立ち向かえる力を持っている。』

「なぜ……なぜ隣国の魔導師様は、このような事をなさるのですか?
なぜアトラーナに害を……まさか、本当に隣国は攻めてくるのですか?」

リリサレーンは首を振り、どこか遠くを見るように宙を見つめる。
そして、寂しそうな顔でリリスを見下ろした。

『我は先見では無い。
だが、すべてが、あるべき所にあるべき物を戻そうと動き始めている。
時が来たのだ。
わらわに出来なかったこと、お前がやってくれると信じておる。
どうか、皆と手を合わせ、この国を救っておくれ。
……‥どうか、ガラリアに、可愛そうなあの子に手を貸して……‥』

「リリサレーン様、教えて下さい。どうか」

消える彼女に手を伸ばす。
その手を、突然誰かが握った。
ハッと目を開くと、そこはガルシアの執務室兼謁見室で、自分はソファーに寝かされている。
そして膝枕をしてくれているイネスが、しっかりと手を握って心配そうにのぞき込んでいた。

「大丈夫か?リリ。」

「あ……はい、あっ申し訳ございません。
えと、あの……あの、メイスは?メイスはいかがしました?」

慌てて起き上がり、真っ先にメイスの事が浮かんだ。
イネスがため息をついて、リリスの髪を指でかき上げる。

「大丈夫、気を失っているけど生きてるよ。
兄様が預かって、今はルビーとカナンが付いてる。」

「ああ、良かった、ありがとうございます。」

ホッとして見回すと、向かいのソファにはセレスに魔導師のルネイ、執務机にはガルシア、その横には側近のクリスがいる。
そしてドアの脇には、ガーラントの姿もあった。
慌てて立ち上がろうとするリリスを、イネスが制して座らせる。

「よい、ゆっくり座っておれ。」

うなずいてガルシアが、チリンとベルを鳴らす。
静かに部屋の奥のドアが開き、穏やかな表情の青年が頭を下げた。

「レイト、魔導師殿に茶を。頭がはっきりするようにな。
子供だから酒は入れるなよ。」

「承知しました。」

隣室とは中で繋がっているらしく、レイトは同じドアに向かい、すぐに茶器を持ってやってくる。

「どうぞ、熱いから気をつけて。」

「ありがとうございます。」

リリスに差し出すカップからは、さわやかな柑橘系の甘酸っぱい香りが広がった。
受け取ろうとしてふと見ると、右手の人差し指に赤い石の指輪が透けて見える。
それは先ほどのことが夢ではないのだと、教えてくれた。

「ああ、いい香りですね。」

リリスが一口飲み、ふうっと息を吐く。
それを待っていたかのように、セレスがくつろいだ様子でニッと笑って言った。

「リリサレーンと、対話は済んだかい?」

「えっ」

「何を聞いた?隣国の魔導師の情報は?」

ガルシアも、身を乗り出して聞いてくる。
つまり、自分の中にリリサレーンがいることは、すでに皆に知られてしまったと言うことか。
何をどう話すべきか。
茶をもう一口飲む。

「リリサレーン様は、隣国の魔導師のことはあまりお話になりたくないようです。
……そう、感じました。」

「つまり、何も聞けなかったと?」

「はい、ただ、自分に出来なかったことをして欲しいと……
つまり、リリサレーン様と私たちが魔物と称している物は、見知った間柄ではなかったのかと存じます。」

セレスが、一瞬目を見開き、そして顔をそらした。
イネスがそれを見て、怪訝な目で唇をかむ。
兄巫子は、どこか正体不明だ。

数百年前を生きたリリサレーンとも、驚くことに親しい間柄に見えた。
昔の名を持っている……しかし、自分は確かに兄巫子と共に成長した覚えがある。
何かの生まれ変わりで、前世の記憶を持っているとしか思えない。
しかし、それをここで聞いていいのだろうか。

「それはそうだろうな、伝承ではその魔物に取り憑かれて暴れ回ったと聞く。
見知った仲でもおかしくあるまい。
で、他には?何か聞けたことは?」

リリスが、右手を前に差し出した。
そこには幻の指輪が確かに存在している。
だが、それが皆に見えるのかわからない。

「指輪を……探せと。」

「指輪?どう言う指輪だ?」

「あの……私には見えるのですが……」

「私にも見えるよ。赤い石の指輪。」

「俺にも、見える。」

巫子二人には見えるらしいが、ガルシアが眼を細め、そして見開いてみる。

「うーむ、お前の人差し指にぼんやり赤い炎が見えるような……お前には見えるか?クリス。」

「はい、私にも人差し指に小さな火がぼんやり見えます。」

「同様に。」皆がうなずく。

「なるほど、巫子殿には赤い石の指輪で我らには炎に見えるワケか。
その指輪を探せとは?」

「はい、これはリリサレーン様の指輪で、私には私の指輪があると仰いました。
これは代々受け継がれる物で、火?の、眷族の印と……‥すいません、頭がボンヤリして……
実物は本城にあると。」

「つまり、その指輪があればどうなるというのだ?」

「それは……それで、何がどうなるとは…………」

それで、この事態がどう変わるのか、核心が見えない。
返答に困って、視線を落としじっとただ幻の指輪を見つめる。
隣に座るイネスが、たまらず声を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...