速達配達人 ポストアタッカー 新1 〜ポストアタッカー狩り〜

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第41話 1000フィートの戦い

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アタッカーたちが恐れるそのポイントは、恐らくは元々岩棚が続きとなっていただろう場所だ。
ロンド側から見ると、左に一段高く岩棚が広がり、崩れたような崖があって10mほどの道幅が広がり、そして岩棚と同じくらいの高さの岩山がある。
岩山の裏には小さな森が扇状に広がって、その先の木を伐採して広い道が作ってあった。
ここの道幅の広さは、難所だけあって逃げ場を作る為だ。
森を迂回する道は、目の前の最短ルートを通り過ぎるだけにストレスになる。

まったく、彼らにとっては苦々しい遠回りでしか無かった。


岩棚の上のRV車の中で、ジンが助手席をリクライニングさせて両手を腹の上で組む。
退屈そうに足をダッシュボードの上に載せて、大きなあくびをした。

「めんどくせえ事やってねえでよぉ~」

「うるさい」

エンプティがパソコンを操作して至る所に仕込んだカメラを繋ぐ。

「お前が皆に逃亡者の首を晒したせいで、みんな恐怖で硬くなってしまった。
これで成功率がガクンと落ちる。お前は一体何をしにきた。」

「何言ってやがる、逃げた奴が悪い。俺は悪くねえ。」

「どうしてお前は首を切って晒すんだ。
アレでみんな自然体で向かうことが出来なくなってしまった。
あれほどサトミが怒り狂ったのに、お前はまったく進歩がない野蛮人だ。」

顔色1つ変えず、キーボードに打ち込みながら静かに怒りを表すエンプに、ジンが邪悪な顔で笑う。

「バーカ、人間って奴は恐怖で支配するのが一番なんだ、お前も知ってるだろ?キヒヒヒ」

「貴様など、どこへなりとも消えろ。邪魔でしか無い。」

「へえ!そんな事言っていいのかよ。サトミを殺せるのは俺くらいだぜ?
手を貸してやろうって言うんだ。ありがたく思え、クソ野郎。」

チラリとエンプがジンを見る。
無言で、無表情の鉄仮面が一瞬鼻で笑った。



「山です、準備できました。」

岩山に登り、据わりのいい所にライフルを準備して通信機に話す。
エンプの抑揚の無い声が返答した。

『指示を待て』

「了解」

岩山のてっぺんに寝そべり、スコープを森の先に見える荒野に調節する。
銃にはバイポットと言う、2点支持の足が付いているので、ブレが無く狙いやすい。
直線距離で約1000から1300フィート(約300-400m)と言うところか。
MK20ってアサルトライフルらしいが、練習でも扱いやすくて、スコープは高性能の光学式だ。
素人に毛が生えた程度でも、このくらいなら狙える。

こんな物使うのは初めてで、見え方が段違いで狙いやすいので驚いた。
ちょうど2頭立ての乗合馬車が通って行く。
照準を合わせると、中の乗客が見える。
まるで、軍のスナイパーになった気分だ。山での狩りとはまったく違う。

森では、仲間が他に3人準備している。
軍人らしい男に成功報酬は一人1万ドルと札束を見せて言われ、みな何も不満は無い。
無かったはずなのに、もう1人男の仲間が増えた。
そいつがヤバかった。
思い出してもゾッとする。

そいつは、次第に逃げ腰になって夜中逃げた奴の首をぶら下げてきたのだ。
それで札束を目当ての、ただ一発当てるつもりで来ていた奴らの空気が変わった。
だらりとぶら下がった死んだ奴の顔が忘れられない。
あんなもの戦時中に見てきたはずなのに、あのヤバい男はひどく嬉しそうでゾッとした。
こんな仕事、さっさと終わらせて1万ドルだ。

『森、準備オッケーです』

『指示を待て』

イヤホンから下で連絡を取っている声が聞こえる。
軍の装備は便利だ。
普通の住民は電話も使えず難儀してるのに、軍ばかり贅沢して反吐が出る。

この国は共和国で大統領はいるが、軍が主導しているだけに軍に優先的に金が流れていく。
軍事費は派手だが、いつまでも人々は貧乏で、インフラは犠牲になる。

『来たぞ、準備しろ』



岩山を左手に見ながら小さな森の方角を目指す。
山を越えると道の左右に緑が増えて、そして木が増えて行く。
ここは荒野の小さなオアシスで一番大きい難所だ。
安全に大きい作戦をやろうというなら、ここしか無い。

リッターが速度を落とし、ゆっくりと森の手前で走る。
やがて右手を挙げて、ガイドにサッと手を振り、一気に森越えのポイントに突入した。



「なに??!!」


スナイパーポジションの男が焦る。
どちらに照準を合わせれば良いのかわからない。
リッターとガイドは、その距離を大きく離してその場に現れた。

『森!手前の白人に投げろ!山、後ろを撃て!』

「わかった!」

タタタンッ!タタタンッ!

2頭の馬が道幅いっぱいに放れて駆け、遠くに軽い銃声が響き始める。

『右と左は白人を狙え、森を援護しろ。先に白人を落とす』

『わかった』
『了解した』

他の指示を聞きながら、男が慌てて照準をガイドに向ける。
スコープに映るガイドは、しかしすでにこちらへ銃を向けている。

「え?!なに?!」

『相手は馬に揺られている、当たらんよ、撃て!』

「そうか!」

タタタンッ  タタタンッ!

複数の銃声が激しく聞こえるが、2人はまだ無傷だ。
早く俺も仕事をしなきゃよぅ!

馬に乗って、高速で走らせながらこちらを狙うガイドに再度狙いを向ける。
相手は動く、追うのは難しい。
狙いを定めて引き金を引くと、もうそこにはいない。
だが、ガイドから見れば、自分は動くが目標は動かない。
二人が互いに狙い合う。
男が何度も引き金を引いた。当たらない。
舌打ちして照準をガイドの前にずらし、引き金を引く次の瞬間、

バシッ!

バシッ!バシッ!

「え」

男の頭に衝撃が走り、その場に突っ伏した。
エンプの見るパソコンのカメラ映像が、一つブラックアウトする。
それは山にセットしたカメラだ。
ガイドは男の横で光を見つけ、とりあえず撃った。

「 ……は ? 」

バンッ!
ドアを開け放し、横向きに座っていたエンプが腹立たしそうに背もたれを殴る。

「早すぎる。コマにもならない。」

「ヒャハハハハハハ!!もう1人やられてやんの!」

「うるさい!」

なんで準備されていたんだ?!
情報が漏れた?いや、読まれたんだ。

エンプティは苦々しい顔で駆け抜ける白人、リッターに目を移した。
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