速達配達人 ポストアタッカー 新1 〜ポストアタッカー狩り〜

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第52話 自分達の問題は、自分でカタを付けろ!

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道のはるか先に、女の姿が見える。
傍らに馬を止めて、こんな荒野のまっただ中に1人ポツンと、石に座って誰か来るのを待っていた。

まるで恋人と待ち合わせでもするように、時々立ち上がってデリーの方を見て心待ちにしている。
そんな、一見普通の女だ。
これほど撃ち合っている騒ぎにも気がついていない。
もう、耳も聞こえないんだろう。
満身創痍で、それでもまだ復讐に取り憑かれているのか。
哀れな、なんて哀れな女だ。

恐らくあいつは、地雷を仕掛けている。
近寄ってくるガイド達を引き寄せ、笑って一緒に死ぬつもりだ。

ここからナイフを打ってもいい。
俺ならこの距離でも、立ち止まっても殺せる。

だが、

あいつにずっと苦しめられたのは俺じゃない。
家族のような仲間を殺されたのは俺じゃない。

サトミが手綱を引いてベンを止めた。
岩山を向き、雪雷を抜いて女を指す。
ダンクは見ている。
俺を見ている。

俺は人を殺したくないと言うあいつに、無言で指示した。

自分でカタを付けろと。



突然サトミが馬を止めた。
ゆっくりと、こちらを向いて長いナイフで女を指し示す。

ダンクが、そのサトミの姿を見て愕然とした。

「なんで?!

何で??俺に殺せというのか?!

俺は人を殺したくないんだ!
なんで!なんでわかってくれないんだよ!

お前が!!
お前が殺せば!


殺せば、


…………いい、じゃないか……」


ダンクがうつむいて大きく息を吐いた。

そうだ。

サトミが殺してくれればいいと思っていた。
殺してしまえと、思っていた。

自分は、手を、汚したくない、から。

自分の手を見て、ギュッと握りしめる。
自分の本心が気持ち悪い。醜悪だ。クソ野郎だ。

「何なんだよ、

俺は、

俺はいつから?

いつから、俺はあの、くそったれの監視役と同じ事をサトミにしてたんだ?」

少年兵だったとき、監視役の兵隊は俺に次々と指示をして、そして俺はその指示通りに殺していた。

今、俺はサトミに、何を望んでいたんだ?
あいつは入局したばかりじゃないか。
死んだリードの顔さえ知らない。
きっかけを作ったエイデンの顔さえ知らない。

石を掴んで、バッと投げた。
腹立たしい。
本当に、自分に腹が立つ。

ガキのあいつの方が、うんと目標をしっかり捕らえて判断してる。
あいつは、俺達に自分でカタを付けろと言ってるんだ。

ダンクが女に向けて銃を向ける。
その時、

キュンッ! 「はっ!」

銃の先に何かが弾いた。

「ヤバいヤバいヤバい!」

慌てて森側の山肌からてっぺんに這い上がる。

バシッ!チュンッ!

「ひいい!マジかよ!!どっちだ?!」

キュンッ!ギインッ!

跳ね方から方向が読めた。
そっと顔を出して下を見ると、道はずれからサトミのいる方角へ真っ直ぐに砂煙を上げて車が走っている。

あいつだ!
あいつがサトミに向かいながら、車から撃ってくる!
すげえ!運転しながら撃ってくる!恐らく何かでハンドル固定してるんだ。
揺れる車から、俺をしっかり狙ってくる!なんて奴だ。


バシッ!バシッ!

地面のへりに当たって小石が跳ねる。

「くっそ!」

銃を向け、男のクールフェイスを狙い、やめてボディを狙った。

タンッ!タンッ!タンッ!

スッと、ハンドル切って逃げられる。
そうしている間に、デリー側からガイド達の姿が見えた。

「えっ?!」

しかも、見通しのいい一本道で、サトミの起こす騒ぎに気がついたのか、凄い勢いで馬を飛ばしている。
女との距離はどんどん近くなり、ガイド達は女に意識が向いていない。

地雷の被害範囲ってどのくらいなんだ?
もし、女がスイッチを押せば、どこまでベアリングは飛ぶんだ?

ダンクの胸が、ざわめいて女のどこを撃つべきか迷う。

どこを、

「どこを、何を撃てばいいんだよ!」

ダンクが唇を噛みしめ、目をこらして地雷を探した。




サトミが、ダンクを狙うエンプティに気がつき、ベンをそちらへと向かわせた。

「俺の敵はお前だろ!なあエンプよ!」

ナイフを放り、エンプティの乗る車へと打ち込む。

カーーーーン!

……  ガッ!

思わず手で顔を覆ったエンプティだったが、フロントガラスに打ち込まれたナイフは防弾ガラスに容易に弾かれた。

「ヒハッ!!ヒヒヒヒ!ハハハハハ!!」

冷や汗を流しながらもホッとしたエンプティは、ゲラゲラ笑いながら真っ直ぐにサトミに向けて車を走らせる。

「隊長!隊長!!許さない、許さない!俺から逃げるなんて許せない!」

パンパンパンパンッ!

窓からハンドガンを出して、撃つ。
だが、サッとベンを左に流し、周囲を見回した。
道から離れ、戦争の残骸の残る場所をベンが避けながら回り込む。
ベンにとって草地は残骸さえ無いと、かえって掴みやすい土壌が走りやすい。
道路は整地された土ではあるが、硬く締まりすぎている。

それを追って、エンプが追うように車を向ける。
笑う顔が、狂気に満ちて腹立たしい。

「エンプよ、防弾の車がそれほど楽しいかよ。
ぬるい奴だぜ、この世界に安全なんて、あって無いようなものだろ?」

パンパンパンパンッ!

エンプは狂ったようにサトミに向けて撃ちまくる。
サトミはまた、1本のナイフを取り、エジソンの付けたスタンガンのスイッチを入れ放り上げた。


「アハハハハ!!ナイフなんか無意味だ!!無意味だ!!」

サトミが腰を上げ、グッと柄を握る手に力を込める。
風を切り、雪雷がひらめき、全力で帯電したナイフの柄を叩いた。


カーーーンッ!!


それは、柄の部分が変形するほどに叩かれ、車の左側へと落雷のように落ちて行った。

どこを狙って…………

エンプが笑ってナイフの軌跡を目で追う。

ナイフは土が流れて顔を出した地雷の横っ腹に深々と突き刺さり、パッと火花が弾ける。
そして、彼が何を狙ったかを気がついた時、彼の車は爆音に包まれていた。
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