HAPPY CROWBAR

冨山乙女♪

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プロローグ 腹黒眼鏡部長の無理難題な課題

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 四つ葉のクローバーは、見つけた人に幸せをくれるんだよ、と言っていた母、風香が亡くなって11年。産まれつき心臓が悪かった母は、おれ ー 椎名純を産んだことで病状が悪化したと後に聞かされた。
 おれの記憶にある母は、白だった。色白で、痩せていて、いつも病室の白の中から窓の外の白い雲を見ていた。おれが病室に行くと、いつもぎゅっと抱きしめてくれた。お日様の匂いがした。

 「・・・・パイ、・・・・センパイ、純センパイ‼」
 腹の底から響く様な一括に、雲ウォッチングをしていたおれは寝転がったまま声の主を探す。屋上の扉付近に、呆れた様にこちらを見ている女子生徒が立っていた。真新しい夢ヶ原高校の制服に身を包んだ女子生徒は、丈の短いスカートを入っているのも構わずに、大股で近づいて来る。
 おれは、腹の上に置いてあったカメラアプリを起動したままのスマホを手に取ると、そのままの姿勢で写真を撮る。
 パシャリ‼
 「ちょっ、何、勝手に撮ってるんですか‼」
 おれの側まで、近づいて来ていた女子生徒は顔を真っ赤にして怒った。怒った顔も可愛い。
 パシャリ‼
 「純センパイ‼」
 涙目になって、しゃがみ込んでしまった女子生徒 ー 牧野愛は、恨みがましい目でおれを見る。
 「入学記念だよ。そんなに怒るなよ、愛」
 おれは、身を起こしながら愛の髪に触れる。
 「・・・・・組み手10本」
 愛はぼそりとつぶやく。
 「・・・・・5本で手を打ったないか?」
 「組み手、10本‼」
 愛が勢い良く立ち上がる。
 「か、消去‼好きな方、選んで下さい‼!」
 おれの鼻先に、愛は2択だと言わんばかりにV字型の指を突きつける。おれは、目の端でスマホの画面を見る。下からのアングルで、愛のはつらつとした様子がよく撮れている。これを消すのはもったいない。
 「・・・・・組み手、10本で」
 「じゃあ、道場行きましょ。センパイ♡」
 愛は、満面の笑顔できびすを返す。歩き出そうとして、おれの荷物に気づく愛。カバンの端から、一眼レフデジタルカメラがのぞいている。
 「ピンク色の、一眼レフデジカメ・・・・?」
 愛が振り返る。黒い瞳が問いかける様に瞬く。
 「これ、センパイのお母さんのデジカメですよね・・・・?去年、実家の〈椎名写真館〉出る時に、写真辞めるからって置いてきたんじゃ・・・・?」
 「2年に進級した直後に、〈てるてる〉のバイトで晶先輩から手渡されたんだよ」
 おれは、はぁっとため息をつく。
 「いくら、じいちゃん家とおれん家が隣同士で、おれが従弟だからって不法侵入が過ぎるだろう‼」
 「心配は無用だ、純。ちゃんと、お前の義母である唯先生と大家であるじいちゃんには許可を得ている」
 いつの間にか、屋上の扉が開かれ、男子生徒がこちらに向かって来る。
 「おにいちゃん‼」
 「げぇっ‼!」
 おれは、全身に鳥肌が立つ思いだった。目の前にいるのはおれの従兄であり、幼なじみであり、おれが所属している写真部の部長である牧野晶だ。別に、警戒する必要はない相手だ。普通の相手なら、の話しだが・・・・。
 「やあ、2年生になっても部室に顔を出さない、我が従弟くん‼」
 おれは顔が引きつるのを感じた。
 「撮った写真のデーターは送ってるつもりなんですけど・・・・」
 晶は、眼鏡をすちゃりっとあげるとプリントアウトした写真をどこからか取り出した。
 「データーは受け取っているぞ、お前のやる気ゼロの雲写真がこんなにな」
 「おにいちゃん。今、どこから取り出して⁉って、そんなに撮ってたの。センパイ」
 愛が、晶から写真を受け取って見ていく。晶の眼鏡の奥の黒瞳が、おれを捕らえて離さない。おれは、逃げ出したい気持ちを必死に耐えていった。
 「・・・・・・純センパイ。これ、全部同じアングルの写真ばかり。・・・・センパイ、らしくないね」
 愛が心配そうにおれを見つめてくる。おれは、2人の視線に耐えきれず視線をそらした。
 はぁぁっー。
 晶が深いため息をついた。
 「実はな、純。次期部長にお前を推したいと考えている。だが、今のままでは他の写真部員が納得しないだろう。何より、実績がない」
 おれは苦笑する。
 「次期部長って、まだ新学期始まって1週間しか経ってないのに、晶先輩気がはやくないですか?」
 おれのツッコミを無視して、晶は話しをつづける。
 「そこでだ。純、お前に半年間時間をやろう。フォトコンテストで入賞しろ‼」
 「先輩。おれの話し、聞いてました?まだ、4月中旬ですよ。気がはやいですよ。次期部長をどうのこうの、なんて・・・・」
 晶は、眼鏡を外し、呆れたと言わんばかりに首を振る。
 「逆に遅いくらいだ。俺が部長でいられるのは、学祭がある10月末までだ」
 晶は、眼鏡をブレザーの胸ポケットに閉まった。
 「半年間で入賞を3回してみろ。断っておくが、同じ賞はカウントされないからな。それから、写真部の撮影会にも参加しろ。これは、部長命令だ‼」
 晶は言うだけ言うと、部活に戻ると言って去っていった。
 おれは手渡された『フォトコンテスト開催。詳細一覧』を、ただ眺めていた。
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