稲荷神社の御使い狐を助けたら、お礼に願いを叶えてくれるというので喫茶『さくらんぼ』ごと、異世界に引っ越しました。

冨山乙女♪

文字の大きさ
4 / 9
第壱章 冒険喫茶『さくらんぼ』本日開店

異世界到着 波乱の新生活スタート Ⅰ

しおりを挟む
 「カナデ。カナデ、起きなさい‼」
 ナズナの声で目を覚ましたカナデ。
 「????」
 目の前には、7歳の少女。カナデは記憶が混乱していた。
 ナズナはカナデの動揺を知る由もなく、何処からか昔の自分の洋服の入った、段ボールを持って来て、ファッションショーを開催している。
 「子供の頃の洋服、取っておいて良かったわ。カナデ、何してるの?早く、着替えなさい。皆さん、待っておられるんだから⁉」
 母のひと言でカナデは我に返る。慌てて、閉まったままだったカーテンを開けると、そこには多種多様な人達がいって、突然顔を覗かせたカナデに驚いていた。
 「本当に、異世界に来たんだな⁉」
 カナデは頬をつねる。夢ではない。
 「ほら、早く。何か、『冒険者ギルド』っていう建物の上に、家が降って来て『冒険者ギルド』を全壊させた、とか言われてるのよね」
 「・・・・・・!⁉」
 大事になっていった⁉
 カナデは、タートルネックのトレーナーに、黒のデニムジャケット、ジーンズに着替えながら、「犠牲者は?」と聞いた。
 「『ギルドマスター』?さんが、下敷きになったって。そんなことより、カナデ。わたしは、『母さん』じゃなくて、妹の『ナズナ』よ♡」
 下敷きになっている人間の事より、自分をどう認識させるかに、拘るナズナにカナデはげんなりする。
 そんなナズナと、外に出るカナデ。
 その場にいった、全員がカナデに鋭い視線を向けてきた。

 「それじゃあ、ギルドマスターさんは亡くなってはいないんですね⁉」
 カナデは全身を、重鎧(ブレードアーマー)に包み、背中に斧(アックス)を提げている坊主頭の厳つい大男に確認する。
 「ああ。というか、酔っぱらってギルドの前の道で、大の字になって寝てただけだって。先、そちらのお嬢ちゃんには話したんだがな‼」
 話しに食い違いがあるようだ。カナデはナズナを睨めつける。ナズナはあらぬ方を向き、口笛を吹いている。
 「しかし、困ったなぁ⁉ギルドが無いんじゃあ、仕事にならねぇよ‼」
 「ギルド本部から受けてるクエストもあったわよね?」
 坊主頭の大男の後ろで、エルフ風の麻の胴衣に、短剣(ダガー)を腰紐に差して、麻のズボンのポケットに、手を突込みながら、こちらに迷惑そうな視線を向けている優男とウィッチハットに、ウィッチローブ、両手首にはタリスマン付のリストバンド、手には使い込まれていそうな杖を持ち、空いている方の手を腰にあてている見るからに魔女という雰囲気のお姉さんが、聞こえよがしに詰ってくる。
 (ラノベ風の世界でも、こういうねちっとした奴いるのか。はあああぁ~。面倒臭え‼!)
 カナデは内心でため息をついた。
 (さて、どうする?)
 カナデは思案顔になる。
 なるべくなら、穏便に平和的に解決したい。どうするべきだろうか?
 途方に暮れるカナデを見て、ナズナはふぅっと息を吐く。
 (昔から、この子は優柔不断というか。肝っ玉が小さいのよね)
 ナズナは大男に、「ちょっといいかしら?」と声を掛ける。
 「ん?なんだい、お嬢ちゃん」
 「その、『ホームギルド』って変更とか出来るの?」
 「ああ。ギルド本部、もとい、『ギルド会館』で登録すれば、変更可能だよ」
 ナズナは一つ頷くと、大きく両手を広げ、「じゃあ、おじさん達みーんな、ここに住んでここをホームギルドにすればいいと思うよ♡」と爆弾発言。
 カナデは身を屈め、ナズナの耳元で囁く。
 「何、勝手に話をまとめにかかってるんだよ‼子供みたいな喋り方して。第一、ここをホームになんて出来る訳無いだろう?」
 「あら。穏便に平和的にって考えてたんでしょう?それに今のわたしは、お子さま。子供みたいな喋り方して、何が悪いの?それと、わたしとあんたの2人しかいないし、部屋ムダに多いから、ホームギルドにしても問題無いでしょう?」
 「・・・・・」
 カナデは黙るしかなかった。ナズナの言う通り、ナズナがナズナの祖父から譲り受けたこの家は、ムダに部屋が多く、カナデとナズナ2人で生活するには広すぎた。
 だが、カナデは賛成出来ないでいた。もし、ホームギルドにしてナズナの事がバレたら?
 そう思うと、ナズナの提案を受け入れる事が出来ない。
 「別にバレても問題無いでしょう?」
 「大アリだ‼40歳代のおばちゃんが、よく分からん術で7歳の子供になったなんて、言えないだろう?」
 ナズナは自分の姿を見下ろして、カナデに視線を戻す。
 「元の姿に戻るにしても、情報も無いし。情報、集めないと前に進めないでしょ?」
 「兄妹間の話し合いはもういいか?」
 大男が尋ねてきた。カナデも、ナズナも気が付かなかったが、いつの間にか大男の傍に、獣人の恰幅のいいオッサンが立っている。
 「ギルド『無手の籠手』代表、ハッサンだ。よろしく」
 握手を求められる。
 「カナデです。こっちは、母さ ー じゃなくて、妹のナズナです」
 ナズナが黙って会釈する。
 「で、コルタから聞いたがここをホームギルドにしても構わないって言うのは、本当か?」
 ハッサンは坊主頭の大男を指して、カナデに問いかける。
 (あの大男、コルタっていうのか)
 カナデは大男コルタに目を向ける。カナデの視線に気づいたコルタが、片手を挙げる。気さくな性格の様だ。
 「本当よ。お兄ちゃんとわたしだけじゃあ、広すぎるの。良かったら、貴方達の家を壊したお詫びに使ってちょうだい」
 ナズナは続けて、「家の中、案内しましょうか?」と声を掛ける。
 「ああ。部屋の数を知りたい。それと、何かの店をやっているのか?」
 ハッサンは家の正面、喫茶『さくらんぼ』を見てカナデに問いかけの視線を向ける。
 「喫茶店です。お茶とか、軽食を出す店」
 「ほう。カナデが、切り盛りしているのか?」
 「い、いや。店は母さ、ナズナがやってて・・・・」
 まだ慣れない。カナデはしどろもどろで説明する。
 「こんな小さい子が??」
 先程、ねちっと嫌味を言ってくれた魔女のお姉さんが驚きの声を出す。
 「お前ら、何者だ?」
 エルフの優男が鋭い質問を投げてくる。
 「わたし達、『タイムトラベラー』なの⁉手違いで、磁気嵐?っていうのに巻き込まれちゃって・・・・」
 ナズナはしれっと嘘をならべる。カナデは別の意味で、母親に尊敬の眼差しを送った。

 「で、後は3階なんだけど・・・・。階段が途中で抜け落ちて、上がれないのよね⁉」
 ナズナの説明に、ハッサンが頷く。
 「3階には何部屋あるの?」
 魔女風のお姉さん、アニイターが問いかけてくる。
 「2部屋だけよ。まぁ、一部屋24畳の広さがあるから、壁をぶち抜いて2部屋繋げると44畳の大部屋になって、ギルドマスターさんの執務室兼寝室に丁度いいかもね‼」
 ナズナはハッサン達の質問に、一つ一つ丁寧に答えていく。
 カナデは交渉役をナズナに任せるしかなかった。
 「となると、全部で12部屋か。本当に、大工を入れて改修して良いのか?」
 「ええ。構わないわ。お店も、改修してくれるっていうし、こちらに反対する理由はないわ。ただ、先も話した通り、わたし達は貴方達の国に着いたばかり。この国の通貨を持っていない。改修工事の請求をされても、困るから。そのつもりで・・・・」
 エルフの優男、キリオスが苦笑しながら、「ちゃっかりしてるなぁ。おチビちゃん‼」とナズナの交渉術の高さに賛辞を送る。
 話がまとまったところで、ナズナは喫茶スペースで全員にコーヒーをふるまった。
 「⁉、な、何、これ?」
 「に、苦っ⁉」
 アニイターとキリオスが、一口含んでカップの中を凝視する。
 「コーヒー、飲んだこと無い?」
 カナデはコーヒー豆を見せながら、聞く。
 「ふむ、ブラック・ビーンズに似ているなぁ‼」
 ハッサンの言葉に、カナデは苦笑する。
 (ブラック・ビーンズって。直訳すると、黒豆⁉なんじゃそりゃ‼)
 「しかし、この飲み物も不思議だが、建物も変わった造りだな?」
 コルタの言葉に、カナデは焦った。ナズナはしれっと、「ジバング式だから」と返す。
 ナズナは最後の交渉に入る。
 「じゃあ、大工さんの手配ヨロシク。いろいろな手配にはお兄ちゃん、連れていっていいから。この国の事も知っておきたいしね⁉」
 「ああ。じゃあ、早速出かけるか?カナデ。アニイターとキリオスは、採集クエストを進めておいてくれ。他の者は、瓦礫の片付けと物資の補充。コルタとマルスは一緒に来てくれ‼」
 名前を呼ばれた、冒険者見習いのマルスは嬉しそうにやって来て、カナデに頭を下げる。
 「ボク、マルスです。職業は、司祭(ビショップ)。レベルは、15のまだまだ駆け出しですけど、宜しくお願いします‼」
 「こちらこそ。よろしく・・・・」
 カナデとマルスが挨拶を交わし終えると、4人は外へ出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...