上 下
1 / 19

第1幕 怪しげなバイトの正体とは...

しおりを挟む
ーーーーここは東の国ヒーストリアの王宮の奥の奥ーーーー。

「ちょっと待ってください!!!そんなこと聞いてないんですが!?」

    静かな空間の中で、女性の声が響き渡る。

(ーーーー夢なら早く覚めて...)

     さっきからそうずっと願っているが全く覚める気配がない。

   むしろ国王の第一補佐官の『琉  按司(る・あじ)という、体つきの線は細く、メガネをかけた男は、自らの眼鏡をクイ、と人差し指を当ててかけ直しながら、話を淡々と進める。

「ですから、先程から申した通り、貴女にはここで働いて頂きたいのです。」

「宜しいですか?李  零(リ・レイ)殿。『国王の偽物の花嫁』としてーーーー。」

        ◆   ◆   ◆

ーーーーそれから数日...
    
    零はここ、ヒーストリアの後宮で案内された部屋の椅子にポツンと1人座り考え込む。

(どうしよう...大変なことになってしまった...)

    後宮というのは王宮の中でも区分された女の花園ーーーー。

    男子の立ち入りは一切禁じられており、入れるのは国王とその血縁者、後は『宦官』という大事なアレを失った元男性のみである。

    零は、父親からとても割の良いバイトがあると聞いてここに来たのだ...が、

(王宮の掃除とか、そんな仕事かと思ったらまさかの花嫁!?意味が分からないわよ!?)

    零は怪しいとはおもったが、町娘が王宮でする事といえば、掃除。

     だから零は、掃除で稼げる上手い話と思ったが、現実は違った。

    現実は花嫁役ーーーー。

    按司が言うには、この国の国王は全く妃を娶るつもりが全くないが、縁談が後を絶たないため、その縁談よけとしてのこのバイトだと言う。

(しかも...)と零は思う。

ーーーーしかも、相手があの冷酷と有名な『百  珠羅(びゃく  しゅら)』陛下なんて聞いてないんですが...

   珠羅は、国中の女性から美しいと思われているが、反面、冷徹なことでも知られている。

   例えば挨拶をしなかったら牢入りとか、起床時間までに起きれなければ即刻重罰が与えられるとか、そんな彼の噂は後を絶たない。

    更にはこの後宮は常に静かすぎて逆に落ち着かず、広すぎて移動にも時間がかかり効率が悪い。

   (ここにいる人達も皆良い人達でいいと思うけどいつ、ヘマをして無礼だ!!と言って殺されるのか分からない...)

   そうもんもんとしばらく考えていていると零は、拳をぎゅっと強く握り、椅子から立ち上がる。

(よし、やっぱり辞めるって言ってこよう!!)

    と部屋のドアに手をかけた時、

(けど、今更辞めるって言った方が危ないんじゃないかしら...?)

    ゾッと零の血の気が引き、もう一度椅子に座って考えてみる。

(だ、大丈夫よね?だって仮にも国王だし!!)

    そう思ってみるが、今まで町で聞いてきた噂がどんどん脳内で再生されていく。

(よし、やっぱりーーーー!!)

    と、席を立ち出口のドアへと手をかけるが、どうしても言ったあとの陛下の反応が恐ろしく、

(どうしても私には無理だわ...!!)

    と椅子へと戻って座ってしまう。そんなことを更に2、3度繰り返しているその時だった。

   背後からクスッと笑い声が聞こえ、零は振り替えって目を大きく見開く。

   なんとそこに立っていたのは私の麗しい偽物の婚約者、珠羅だった。





しおりを挟む

処理中です...