168 / 200
(166)SIDE:奏太
しおりを挟む
浅見さんがスーツを着ていなかったことに目を奪われ、同時に斗輝の気遣いに感動していた僕は、「奏太?」と名前を呼ばれてハッと我に返る。
「は、初めまして、安藤奏太です!どうぞ、よろしくお願いします!」
ガバッと頭を下げ、浅見さんにあいさつした。
――これじゃ、呆れられるかも……。
大学生にもなって、なにをやっているんだと、ボンヤリしていた自分が情けなくなる。
オドオドと姿勢を元に戻したら、穏やかな微笑みを浮かべている浅見さんと目が合った。
「斗輝様や、先輩方がおっしゃるように、奏太様は可愛らしい方ですね。見た目もそうですが、中身も大変可愛らしく思います」
どうやら、シャキッとできない僕のことを呆れたりはしないらしい。
仕事だから、どんな相手を護衛しても丁寧に接するものだろうけど、浅見さんの笑顔はすごく柔らかい。
また、まっすぐに向けられる視線から、嘘は言っていないのだと思えた。
そのことにホッと胸を撫で下ろしていると、隣に立っている斗輝が一歩前に出る。
「浅見、その口調なんだが」
すると、浅見さんがサッと表情を強ばらせた。
「失礼がありましたでしょうか?」
その反応に、斗輝が苦笑を浮かべる。
「いや、そうではない。実は、奏太の希望で、名前の呼び方や口調を澤泉の者に対する場合と変えてもらいたい」
「……と、おっしゃいますと?」
そんなことを言われると思っていなかったらしく、浅見さんが僅かに戸惑いを見せた。
斗輝は苦笑を深め、改めて口を開く。
「特例として認めるから、奏太には兄のような感覚で接してくれ」
浅見さんはまだ戸惑いから抜け出せないのか、パチパチと瞬きを繰り返した。
「斗輝様、本当によろしいのですか? 正式に番関係を結んでいないとはいえ、奏太様は斗輝様のお相手です。それ相応の接し方をするべきではありませんか?」
浅見さんの話を聞いた僕は、「見た目よりも、真面目な人なんだな」という感想を抱きつつ、大人しくしていた。
本当なら、こういった話は本人である僕が切り出すべきかもしれないけれど、斗輝に任せておいたほうがいいと思う。
口が上手くない僕がどんなに頑張って伝えようとしても、浅見さんは、「それはいけません」と言ってきそうである。
斗輝には申し訳ないと思いつつ、僕はそのやり取りを静かに見守ることにしていた。
どこか不安そうにしている浅見さんに、斗輝が改めて話しかける。
「かしこまった話し方をされると、奏太がひどく緊張してしまうんだ。友人同士のように砕けた口調にする必要はないが、敬語をできる限り控えてくれ」
「本当に、よろしいのですか?」
相変わらず戸惑った表情のまま、浅見さんが訊き返した。
そんな彼に、斗輝がゆっくりと頷く。
「ああ、構わない。これは、深沢も承知のことだし、隊長には俺から連絡を入れておく。だから、浅見の態度が悪いと注意されることもない」
浅見さんは斗輝の後ろに立っている深沢さんをチラリと見る。
僕の視界の端では、深沢さんが大きく頷いている様子が写り込んだ。
その反応を見て、浅見さんが「……かしこまりました」と、ぎこちなく返事をする。
「他に、条件はございますでしょうか?」
浅見さんの問いかけに、斗輝が落ち着いた様子で返す。
「それと、奏太のことは、『様』を付けずに呼んでくれ」
「……えっ?」
あまりにも意外だったのか、浅見さんは目を丸くして固まった。
驚かせてしまって悪いけれど、これは絶対に譲れない。
敬語を使われることよりも、『奏太様』と呼ばれるほうが落ち着かないのだ。
――慣れないことをさせてしまって、ごめんなさい。
心の中で謝っていると、浅見さんがこちらに視線を向けた。
なので、僕はゆっくりと大きく頷き返す。
そんな僕の様子に、浅見さんはふいに困ったような笑みを浮かべた。
どうやら、戸惑いは消えたみたいだ。
「斗輝様のご命令とあらば、そのようにいたします」
そう返した浅見さんはフッと短く息を吐くと、僕に話しかけてきた。
「では、奏太君と呼びますね」
その言葉に、僕はニコッと笑って「はい!」と、元気よく返事をした。
浅見さんが納得してくれたおかげで、僕は無駄に緊張せずに済みそうだ。
よかった、よかったと安心していると、そろそろ一限の講義が始まる時間が迫っていることに気付いた。
「斗輝、そろそろ行かないと」
この駐車場から講義棟まで少し離れているのだ。
声を掛けると、斗輝が「そうだな」と返し、次いで、僕の右手を自身の左手でソッと繋ぐ。
大学でそんなことをされるとは思っていなかったので、驚いた僕はとっさに手を引こうとした。
もちろん、反射神経でも力の強さでも彼に敵わない。
「あ、あの……」
チラリと斗輝を見上げたら、切れ長の目が柔らかく弧を描く。
「俺の番が奏太であることを、徐々に広めていくつもりだ。わざわざ言って回ることはしないが、こうして手を繋ぐだけでも十分なアピールになる」
その言葉に、これまで発言しなかった清水先輩が静かに口を開く。
「斗輝様は、どのようなオメガともご自分から触れることがありませんでした。ですから、手を繋がれている奏太様が斗輝様にとってな特別な存在だと、自然と知らしめることになります」
「俺としては、奏太の腰を抱いて歩きたいが……。奏太には、恥ずかしいだろ?」
ほんのちょっとだけ意地悪そうな視線を向けられ、僕は即座にブンブンと首を縦に振った。
「是非とも、手繋ぎでお願いします!」
そんな僕の反応に、少し離れたところに立っている深沢さんと浅見さんがクスッと笑う。
「奏太様の反応がとても初々しくて、胸が温かくなるな。下心を持って斗輝様とお近付きになろうとされる方々には、奏太様のようには振舞うのは無理だろう」
「ええ、そう思います。話に聞いていた以上に、奏太君は可愛らしいですね。奥様といい、奏太君といい、澤泉家のアルファの心を捕える方というのは、心がお綺麗だ」
人前で手を繋ぐだけで戸惑い、「腰を抱かれるなんて、とんでもない」と慌てる僕に呆れることのない護衛さんたちの言葉に、僕はムズムズと気恥ずかしい思いを味わっていた。
「は、初めまして、安藤奏太です!どうぞ、よろしくお願いします!」
ガバッと頭を下げ、浅見さんにあいさつした。
――これじゃ、呆れられるかも……。
大学生にもなって、なにをやっているんだと、ボンヤリしていた自分が情けなくなる。
オドオドと姿勢を元に戻したら、穏やかな微笑みを浮かべている浅見さんと目が合った。
「斗輝様や、先輩方がおっしゃるように、奏太様は可愛らしい方ですね。見た目もそうですが、中身も大変可愛らしく思います」
どうやら、シャキッとできない僕のことを呆れたりはしないらしい。
仕事だから、どんな相手を護衛しても丁寧に接するものだろうけど、浅見さんの笑顔はすごく柔らかい。
また、まっすぐに向けられる視線から、嘘は言っていないのだと思えた。
そのことにホッと胸を撫で下ろしていると、隣に立っている斗輝が一歩前に出る。
「浅見、その口調なんだが」
すると、浅見さんがサッと表情を強ばらせた。
「失礼がありましたでしょうか?」
その反応に、斗輝が苦笑を浮かべる。
「いや、そうではない。実は、奏太の希望で、名前の呼び方や口調を澤泉の者に対する場合と変えてもらいたい」
「……と、おっしゃいますと?」
そんなことを言われると思っていなかったらしく、浅見さんが僅かに戸惑いを見せた。
斗輝は苦笑を深め、改めて口を開く。
「特例として認めるから、奏太には兄のような感覚で接してくれ」
浅見さんはまだ戸惑いから抜け出せないのか、パチパチと瞬きを繰り返した。
「斗輝様、本当によろしいのですか? 正式に番関係を結んでいないとはいえ、奏太様は斗輝様のお相手です。それ相応の接し方をするべきではありませんか?」
浅見さんの話を聞いた僕は、「見た目よりも、真面目な人なんだな」という感想を抱きつつ、大人しくしていた。
本当なら、こういった話は本人である僕が切り出すべきかもしれないけれど、斗輝に任せておいたほうがいいと思う。
口が上手くない僕がどんなに頑張って伝えようとしても、浅見さんは、「それはいけません」と言ってきそうである。
斗輝には申し訳ないと思いつつ、僕はそのやり取りを静かに見守ることにしていた。
どこか不安そうにしている浅見さんに、斗輝が改めて話しかける。
「かしこまった話し方をされると、奏太がひどく緊張してしまうんだ。友人同士のように砕けた口調にする必要はないが、敬語をできる限り控えてくれ」
「本当に、よろしいのですか?」
相変わらず戸惑った表情のまま、浅見さんが訊き返した。
そんな彼に、斗輝がゆっくりと頷く。
「ああ、構わない。これは、深沢も承知のことだし、隊長には俺から連絡を入れておく。だから、浅見の態度が悪いと注意されることもない」
浅見さんは斗輝の後ろに立っている深沢さんをチラリと見る。
僕の視界の端では、深沢さんが大きく頷いている様子が写り込んだ。
その反応を見て、浅見さんが「……かしこまりました」と、ぎこちなく返事をする。
「他に、条件はございますでしょうか?」
浅見さんの問いかけに、斗輝が落ち着いた様子で返す。
「それと、奏太のことは、『様』を付けずに呼んでくれ」
「……えっ?」
あまりにも意外だったのか、浅見さんは目を丸くして固まった。
驚かせてしまって悪いけれど、これは絶対に譲れない。
敬語を使われることよりも、『奏太様』と呼ばれるほうが落ち着かないのだ。
――慣れないことをさせてしまって、ごめんなさい。
心の中で謝っていると、浅見さんがこちらに視線を向けた。
なので、僕はゆっくりと大きく頷き返す。
そんな僕の様子に、浅見さんはふいに困ったような笑みを浮かべた。
どうやら、戸惑いは消えたみたいだ。
「斗輝様のご命令とあらば、そのようにいたします」
そう返した浅見さんはフッと短く息を吐くと、僕に話しかけてきた。
「では、奏太君と呼びますね」
その言葉に、僕はニコッと笑って「はい!」と、元気よく返事をした。
浅見さんが納得してくれたおかげで、僕は無駄に緊張せずに済みそうだ。
よかった、よかったと安心していると、そろそろ一限の講義が始まる時間が迫っていることに気付いた。
「斗輝、そろそろ行かないと」
この駐車場から講義棟まで少し離れているのだ。
声を掛けると、斗輝が「そうだな」と返し、次いで、僕の右手を自身の左手でソッと繋ぐ。
大学でそんなことをされるとは思っていなかったので、驚いた僕はとっさに手を引こうとした。
もちろん、反射神経でも力の強さでも彼に敵わない。
「あ、あの……」
チラリと斗輝を見上げたら、切れ長の目が柔らかく弧を描く。
「俺の番が奏太であることを、徐々に広めていくつもりだ。わざわざ言って回ることはしないが、こうして手を繋ぐだけでも十分なアピールになる」
その言葉に、これまで発言しなかった清水先輩が静かに口を開く。
「斗輝様は、どのようなオメガともご自分から触れることがありませんでした。ですから、手を繋がれている奏太様が斗輝様にとってな特別な存在だと、自然と知らしめることになります」
「俺としては、奏太の腰を抱いて歩きたいが……。奏太には、恥ずかしいだろ?」
ほんのちょっとだけ意地悪そうな視線を向けられ、僕は即座にブンブンと首を縦に振った。
「是非とも、手繋ぎでお願いします!」
そんな僕の反応に、少し離れたところに立っている深沢さんと浅見さんがクスッと笑う。
「奏太様の反応がとても初々しくて、胸が温かくなるな。下心を持って斗輝様とお近付きになろうとされる方々には、奏太様のようには振舞うのは無理だろう」
「ええ、そう思います。話に聞いていた以上に、奏太君は可愛らしいですね。奥様といい、奏太君といい、澤泉家のアルファの心を捕える方というのは、心がお綺麗だ」
人前で手を繋ぐだけで戸惑い、「腰を抱かれるなんて、とんでもない」と慌てる僕に呆れることのない護衛さんたちの言葉に、僕はムズムズと気恥ずかしい思いを味わっていた。
10
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる