22 / 200
(20)SIDE:奏太
しおりを挟む
ようやく達せたことで、僅かに頭の中心がクリアになる。
だけど発情期真っただ中のオメガは、一度イッた程度では正気に戻れないらしい。
それが証拠に先ほどの射精が呼び水となり、僕の思考にはいっそう霞がかかる。落ち着くどころか、ますます先輩が欲しくてたまらなくなった。
――まだ熱い……。もっと欲しい……
僕の最奥に精を放った先輩は、僕に圧し掛かったまま浅い呼吸を繰り返している。彼の両腕は僕を抱き締めていて、耳にかかる吐息がくすぐったい。
僕は怠い腕を動かし、薄く汗ばんでいる広い背中に回す。
もっとしっかり抱き付きたいけれど、今の僕には腕を乗せるだけで精いっぱい。
それでも先輩には僕の気持ちが伝わったようで、強い力で抱き締めてくれた。
「奏太」
呼びかけに答えられるほど呼吸が整っていない僕は、パチリと一回だけ瞬きをする。
少し顔を持ち上げて僕の顔を覗き込む先輩の表情は、とにかく幸せそうに笑っていた。おまけに軽く乱れた前髪が、かっこよさを跳ね上げている。
そんな先輩の様子に頬を熱くしていると、チュッと音を立てて唇を吸われた。
「ちゃんとイケたな」
嬉しそうに言われて、さらに頬は熱くなった。そんなこと、至近距離で、しかも笑顔で言わないでほしい。
口をパクパクと開閉して照れまくっていると、またキスされた。
「ホント、奏太って可愛いな」
見た目は平凡で、オメガとしては出来損ないの僕を、そんな優しい目で見ないでほしい。いたたまれなさが、勢いよくこみ上げてしまうではないか。
ところが、先輩はさらに言葉を重ねてくる。
「真っ赤になった顔も、快感に蕩けた目も、すごく可愛いよ」
形のいい目を細めて微笑んだ先輩は右手を僕の額に移動させ、張り付いている前髪を指先で払った。
「これで、もっとよく奏太の瞳が見えるようになった」
顔を近付けてきた先輩が、左右の目尻に唇をソッと押し当ててくる。そしてふたたび僕の目を覗き込んできた。
「綺麗な色だな」
陶然と囁く先輩の漆黒の瞳のほうが、何倍も綺麗だと思う。
そう伝えたいのに、いまだに呼吸が整わないせいで、見つめ返すことが精いっぱいだ。
しばらく僕と見つめ合っていた先輩は片手をシーツについて上半身を起こし、おもむろに僕のお腹辺りに視線を向ける。
それから、ブツブツと独り言を零した。
「いったんシャワーを浴びるか拭けばいいんだろうが、まだ奏太を抱き足りないからな。どうせ綺麗にしたところでまたドロドロになるから、お互いに落ち着くまではいいか……」
動いているのか分からないほど低速運転の僕の頭でも、先輩がなにを言っているのか把握できた。
――嬉しい。また、僕を抱いてくれるんだ……
頬を緩めると、今度はそこにキスされる。
「なにを笑っているんだ?」
ようやく呼吸が落ち着いたので、僕は先輩の問いに答える。
「だって、ぼくをだくって、いってくれたから」
呼吸は整っても舌がうまく回らないようで、幼い子供のような答えを返してしまった。
それでも、先輩は馬鹿にするどころか、目を細めて嬉しそうに笑う。
「ああ、もちろんだ。何度も奏太を抱いて、何度も気持ちよくさせてあげるからな。精いっぱい頑張るって、俺は言っただろ?」
余裕たっぷりに笑う彼の様子に、さすがはアルファだとつくづく感心する。持久力が半端ない。
そんな彼の言葉に喜びを感じつつ、あることが気になった。
「ときは、ちゃんと、きもちよかった?」
自分だけが爆発的な気持ちよさを享受していたら申し訳ないと思い、つい、そんな言葉が口を衝く。
すると彼は口角を上げ、艶っぽい笑みを浮かべた。
「当然だ。ほら、聞こえるか」
そう言って、先輩は腰を緩やかに前後させる。
彼のペニスはそのまま僕の後孔に収まっているので、動きに合わせてクチュクチュという水音が響いてきた。
「自分でも驚くほど、たっぷり出したよ。奏太のおかげで、すごく気持ちよかった」
先輩は徐々に腰の動きを早く、大きくしていく。
僕の体の奥でくすぶっていた快感の炎は、瞬く間に勢いを増した。頭の中心が、全身が、トロリと蕩ける。
おかげで、「番同士だから、こんなにも気持ちよくて、こんなにも満たされるんだな」と呟く先輩の言葉を、僕の耳が拾うことはなかった。
僕の後孔内に放たれた精液量を知らせるために腰を動かしていたので、僕に快感を与えるような激しいものではない。
その程度の動きでは僕が満足できないと分かっている先輩は、程なくして動きを止めた。
僅かに芯を持ったペニスを引き抜くと、彼は両手を僕の背中とシーツの間に差し込み、弛緩している体を軽々と持ち上げる。
丁寧な仕草で僕をうつ伏せにさせ、腰だけを高くした体勢を取らせた。
右頬をペタリとシーツに押し当てている僕は、途端に寂しさを募らせる。
「とき、とき……」
シーツを握り締めながら弱々しい声で先輩の名前を呼ぶと、僕の背中に逞しい胸が重なった。
「どうしたんだ?」
穏やかな声と体温。それでも、寂しさは消えてなくならない。
「このかっこう、やだ。ときのかお、見えない。手も、つなげない……」
迷子になった子供が泣き出す寸前のような声を零したら、先輩の両腕が僕のお腹に回されて、しっかりと抱き締められる。
「大丈夫、俺はここにいるよ」
「でも……、でも……」
「奏太」
グズグズと鼻を鳴らし始めた僕のうなじに、先輩はしっとりと唇を押し当ててきた。
些細な仕草なのに、それだけで妙に安心できる。
とはいえ、彼の顔が見えず、手も繋げない状況は、やはり心もとない。
「やだ……。さっきみたいに、前からして……」
ボロリと大粒の涙を零した瞬間、先輩の右手が僕のペニスをやんわりと握ってきた。
「ふ、あっ……」
突然のことに驚いて、涙が止まる。
「とき、なにするの?」
痛いくらいに首を捻って背後を窺うと、先輩は小さく笑った。
「奏太が前を触れと言った時に、また今度って約束しただろ。それが今だ」
そう言って、先輩が右手を静かに前後させる。
射精したせいでクッタリしていた僕のペニスが、とたんにムクムクと頭を擡(もた)げ始めた。
「うん、いい反応だ」
満足そうに呟いた先輩は、慎重に力を込めた右手を大きく前後させる。竿部分をすっぽり包み込んで動かされると、ペニスがググッと硬さを増した。
それを手の平で感じ取った先輩は、ますます動きを速めてくる。
「あ、あぁ……、んっ、ん、くっ……」
最大の性感帯である最奥を突かれる快感に勝るものはないけれど、ココを弄られて気持ちよくならない男はいない。
しかも、僕は先輩の手が好きなのだ。
おかげで、ペニスがすっかり芯を持つまでにかかった時間は、本当に短いものだった。
だけど発情期真っただ中のオメガは、一度イッた程度では正気に戻れないらしい。
それが証拠に先ほどの射精が呼び水となり、僕の思考にはいっそう霞がかかる。落ち着くどころか、ますます先輩が欲しくてたまらなくなった。
――まだ熱い……。もっと欲しい……
僕の最奥に精を放った先輩は、僕に圧し掛かったまま浅い呼吸を繰り返している。彼の両腕は僕を抱き締めていて、耳にかかる吐息がくすぐったい。
僕は怠い腕を動かし、薄く汗ばんでいる広い背中に回す。
もっとしっかり抱き付きたいけれど、今の僕には腕を乗せるだけで精いっぱい。
それでも先輩には僕の気持ちが伝わったようで、強い力で抱き締めてくれた。
「奏太」
呼びかけに答えられるほど呼吸が整っていない僕は、パチリと一回だけ瞬きをする。
少し顔を持ち上げて僕の顔を覗き込む先輩の表情は、とにかく幸せそうに笑っていた。おまけに軽く乱れた前髪が、かっこよさを跳ね上げている。
そんな先輩の様子に頬を熱くしていると、チュッと音を立てて唇を吸われた。
「ちゃんとイケたな」
嬉しそうに言われて、さらに頬は熱くなった。そんなこと、至近距離で、しかも笑顔で言わないでほしい。
口をパクパクと開閉して照れまくっていると、またキスされた。
「ホント、奏太って可愛いな」
見た目は平凡で、オメガとしては出来損ないの僕を、そんな優しい目で見ないでほしい。いたたまれなさが、勢いよくこみ上げてしまうではないか。
ところが、先輩はさらに言葉を重ねてくる。
「真っ赤になった顔も、快感に蕩けた目も、すごく可愛いよ」
形のいい目を細めて微笑んだ先輩は右手を僕の額に移動させ、張り付いている前髪を指先で払った。
「これで、もっとよく奏太の瞳が見えるようになった」
顔を近付けてきた先輩が、左右の目尻に唇をソッと押し当ててくる。そしてふたたび僕の目を覗き込んできた。
「綺麗な色だな」
陶然と囁く先輩の漆黒の瞳のほうが、何倍も綺麗だと思う。
そう伝えたいのに、いまだに呼吸が整わないせいで、見つめ返すことが精いっぱいだ。
しばらく僕と見つめ合っていた先輩は片手をシーツについて上半身を起こし、おもむろに僕のお腹辺りに視線を向ける。
それから、ブツブツと独り言を零した。
「いったんシャワーを浴びるか拭けばいいんだろうが、まだ奏太を抱き足りないからな。どうせ綺麗にしたところでまたドロドロになるから、お互いに落ち着くまではいいか……」
動いているのか分からないほど低速運転の僕の頭でも、先輩がなにを言っているのか把握できた。
――嬉しい。また、僕を抱いてくれるんだ……
頬を緩めると、今度はそこにキスされる。
「なにを笑っているんだ?」
ようやく呼吸が落ち着いたので、僕は先輩の問いに答える。
「だって、ぼくをだくって、いってくれたから」
呼吸は整っても舌がうまく回らないようで、幼い子供のような答えを返してしまった。
それでも、先輩は馬鹿にするどころか、目を細めて嬉しそうに笑う。
「ああ、もちろんだ。何度も奏太を抱いて、何度も気持ちよくさせてあげるからな。精いっぱい頑張るって、俺は言っただろ?」
余裕たっぷりに笑う彼の様子に、さすがはアルファだとつくづく感心する。持久力が半端ない。
そんな彼の言葉に喜びを感じつつ、あることが気になった。
「ときは、ちゃんと、きもちよかった?」
自分だけが爆発的な気持ちよさを享受していたら申し訳ないと思い、つい、そんな言葉が口を衝く。
すると彼は口角を上げ、艶っぽい笑みを浮かべた。
「当然だ。ほら、聞こえるか」
そう言って、先輩は腰を緩やかに前後させる。
彼のペニスはそのまま僕の後孔に収まっているので、動きに合わせてクチュクチュという水音が響いてきた。
「自分でも驚くほど、たっぷり出したよ。奏太のおかげで、すごく気持ちよかった」
先輩は徐々に腰の動きを早く、大きくしていく。
僕の体の奥でくすぶっていた快感の炎は、瞬く間に勢いを増した。頭の中心が、全身が、トロリと蕩ける。
おかげで、「番同士だから、こんなにも気持ちよくて、こんなにも満たされるんだな」と呟く先輩の言葉を、僕の耳が拾うことはなかった。
僕の後孔内に放たれた精液量を知らせるために腰を動かしていたので、僕に快感を与えるような激しいものではない。
その程度の動きでは僕が満足できないと分かっている先輩は、程なくして動きを止めた。
僅かに芯を持ったペニスを引き抜くと、彼は両手を僕の背中とシーツの間に差し込み、弛緩している体を軽々と持ち上げる。
丁寧な仕草で僕をうつ伏せにさせ、腰だけを高くした体勢を取らせた。
右頬をペタリとシーツに押し当てている僕は、途端に寂しさを募らせる。
「とき、とき……」
シーツを握り締めながら弱々しい声で先輩の名前を呼ぶと、僕の背中に逞しい胸が重なった。
「どうしたんだ?」
穏やかな声と体温。それでも、寂しさは消えてなくならない。
「このかっこう、やだ。ときのかお、見えない。手も、つなげない……」
迷子になった子供が泣き出す寸前のような声を零したら、先輩の両腕が僕のお腹に回されて、しっかりと抱き締められる。
「大丈夫、俺はここにいるよ」
「でも……、でも……」
「奏太」
グズグズと鼻を鳴らし始めた僕のうなじに、先輩はしっとりと唇を押し当ててきた。
些細な仕草なのに、それだけで妙に安心できる。
とはいえ、彼の顔が見えず、手も繋げない状況は、やはり心もとない。
「やだ……。さっきみたいに、前からして……」
ボロリと大粒の涙を零した瞬間、先輩の右手が僕のペニスをやんわりと握ってきた。
「ふ、あっ……」
突然のことに驚いて、涙が止まる。
「とき、なにするの?」
痛いくらいに首を捻って背後を窺うと、先輩は小さく笑った。
「奏太が前を触れと言った時に、また今度って約束しただろ。それが今だ」
そう言って、先輩が右手を静かに前後させる。
射精したせいでクッタリしていた僕のペニスが、とたんにムクムクと頭を擡(もた)げ始めた。
「うん、いい反応だ」
満足そうに呟いた先輩は、慎重に力を込めた右手を大きく前後させる。竿部分をすっぽり包み込んで動かされると、ペニスがググッと硬さを増した。
それを手の平で感じ取った先輩は、ますます動きを速めてくる。
「あ、あぁ……、んっ、ん、くっ……」
最大の性感帯である最奥を突かれる快感に勝るものはないけれど、ココを弄られて気持ちよくならない男はいない。
しかも、僕は先輩の手が好きなのだ。
おかげで、ペニスがすっかり芯を持つまでにかかった時間は、本当に短いものだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,243
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる