その香り。その瞳。

京 みやこ

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(36)SIDE:奏太

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 斗輝の仕事振りを見守っているうちに、体の奥がジンジンと疼いているのを感じる。
 トクトクと脈を打つ音が耳に響き、心なしか呼気まで熱い。
 斗輝に迷惑をかけたらいけないと可能な限り背筋を伸ばしていたものの、時間を追うごとに体から力が抜けていく。
 気付いた時には、逞しい胸にダラリともたれかかっていた。
「奏太?」
 名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
「ご、ごめんなさい、仕事の邪魔をしちゃって……」
 慌てて身を起こそうとするけれど、それよりも早く斗輝の腕が僕を抱き締めた。
「もう終わったから、心配するな」
 そう言って、彼は唇が届く範囲にたくさんのキスをしてくる。
「随分と力が抜けているが、眠いのか?」
 上から覗き込んでくる彼に、フニャリと笑い返した。
「そういう訳ではないんですけど、なんだか変な感じで」
 僕が答えると、彼は右手で首筋をスッと撫でてくる。
 途端に快感が背筋を駆け抜け、ブルリと体が震えた。
「あっ……」
 甲高い声を小さく漏らしたら、斗輝はやわらかく微笑む。
「少しも変じゃないさ、一時的に抑えられていた発情症状がぶり返したんだよ」
「え?」
 ポヤンとした顔で彼を見つめると、斗輝はたやすい様子で僕の体勢を変え、向き合うように変えた。
 僕は彼の足をまたいで座っているのだが、この時には頭の芯が既に蕩け始めていて、体を隠していた肌掛けが大きく乱れていることを理解していなかった。
 肝心な部分がまったく隠れていないことに気付いていない僕は、ぼんやりと首を傾げる。 
 すると斗輝は僕の背中に添えていた右手を下へ移動させ、お尻の合間に侵入させた。
 ワレ目の奥に息づく後孔の入り口に中指の先を当て、その辺りでクルクルと円を描いたり、指先を挿入したりする。
 その動きに合わせて、クチクチと微かな水音が聞えてきた。
「は、あ……、なん、で……」
 浅く喘ぐ僕に、斗輝が声をかける。
「アルファの精液がオメガにとって鎮静効果をもたらすというのは、さっき説明したよな?」
 コクリと頷き返すと、彼はゆっくりと中指を押し込んできた。
 僕の様子を注意深く窺いながら、長い指を慎重に根元まで呑み込ませる。
「痛いか?」
 問われて、僕はユルユルと首を横に振った。
 そんな僕の様子に、彼はホッと息を吐く。
「それなら、問題ないか」
 そう零した斗輝は中指を引き抜き、両腕でしっかりと僕を抱き締めてきた。
「話の続きだが、アルファの精子による鎮静効果は、長時間は続かないんだ。だから、数時間おきに番と体を重ねる必要がある。奏太が目を覚ましてから三時間近く経っているから、そろそろぶり返してもおかしくないんだよ」
 自分の体がおかしい訳ではないと分かり、僕は安心した。
「よかったです……。こういうところまで、出来損ないなのかと思って、不安になりました……」
 エヘヘと照れ笑いを浮かべたら、下唇に斗輝が噛み付いた。
「奏太は出来損ないじゃないと、俺は何度も言っただろ? 奏太は、最高の番なんだよ」
 少し怒ったような口調で窘められるが、唇を噛まれたことも気持ちよくて、鼻にかかった喘ぎ声を漏らしてしまう。
「く、ふ……、で、でも、なんだか信じられなくて……」
 疼きが段々と体に広まり、僕はカクリと頭を後ろに反らした。
 すると、目の前にさらされた首筋に斗輝が唇を押し当てる。
「だったら、奏太が信じてくれるまで、何度でも言うしかないか」
 彼の唇の感触と呼気が肌を擽り、それが快感に変わる。
 同時に、後孔から分泌液が滲み出たのを感じた。
「んっ……」
 ギュッと目を閉じ、唇の動きを感覚で追う。
 斗輝は僕の首筋を柔らかく食み、鎖骨に舌を這わせた。
 ほんの些細な刺激でも、途端に快感に摩り替る。
「斗輝……、それ、駄目です……」
 このままでは、溢れる分泌液で彼が纏うバスローブを汚してしまう。
 仰け反った体勢を必死に戻し、斗輝のバスローブにしがみついた。
 彼は僕を宥めるように左手で頭を撫で、今度は頬に唇を押し当ててくる。
「まだ、口調が変わらないな。グズグズになって可愛くなるまでもう少し時間がかかりそうだから、今のうちに風呂に入れるか」
 そう言って、斗輝は僕をしっかり抱き締めると、少し反動をつけて立ち上がった。
 僕は急に視界が高くなったことに驚いて、両足で彼の胴を挟み込み、さらに強くバスローブを握り込む。
 そこで、斗輝は左手でポンポンと僕の背中を軽く叩いた。
 この時は肌掛けが床に落ちていて、僕はなにも纏っていない状態である。
 だけど、時間を追うごとに発情症状が強くなり、自分の状況に羞恥を感じるよりも、体の奥の疼きをどうにかしてほしいという思いが強かった。
 リビングを出ていこうとする彼に、僕はオズオズと話しかける。
「あ、あの……、寝室には行かないんですか?」
 チラリと彼に視線を向けると、チュッと鼻先にキスをされた。
「後でな。風呂でいったん筋肉を解したほうが、奏太の体に負担が少ないんだよ。初めてのセックスで、体のあちこちに普段使わない力が入っていただろうからな」
 そこまで気遣ってもらうことに、いたたまれなさを感じる。
 それに、彼に早く抱いてほしいという思いは、一秒ごとに強くなっているのだ。 
 もちろん、自分の体のこともあるが、彼の体のこともある。
 さっき、向き合って座っていた時、お尻に勃ち上がり始めた斗輝のペニスが当たっていたのだ。
 オメガの僕が発情したら番のアルファもそれに引っ張られるだろうから、彼だってつらいはず。
「で、でも、別に、僕の体なんて……」
 いくら慣れないセックスで体が痛くなっても、それはただの筋肉痛が原因だから、放っておけばそのうち治る。
 そんなに大事にしてくれなくても、彼の愛情は十分に理解していると伝える前に、斗輝の舌が口内に侵入してきた。
 優しく甘く、ちょっぴり激しい舌の動きは、まるで彼が怒っているかのようだ。
 事実、キスを解いた後、黒曜石の瞳がジッと僕を見据えていた。
「こら、自分を粗末に扱うような発言は、たとえ奏太自身であっても許さないぞ」
「いえ、あの、そういうつもりでは……」
 一切なかったのだが、いままで出来損ないとばかり思っていたから、無意識にそういったことを言ってしまうのだろう。
 彼に睨まれて肩を竦めたら、「怒ってない」と、左頬にキスをされた。
「奏太のクセみたいなものだから、仕方がないんだろうってことは分かっているさ。それに、自分に自信がない奏太だからこそ、ベッタベタに甘やかして、めちゃくちゃ可愛がってあげたいんだよな」
 クスクスと笑いながら楽しそうに告げる様子に、僕もつられて嬉しくなる。
 だけど、彼に抱かれるほうがもっと嬉しい。
 僕は笑っている彼の頬に自分の頬を擦り付ける。
「だったら、早く、ベッドに行こうよ……」
 飼い主に甘える猫のようにスリスリと頬ずりしていたら、なぜか彼の足取りが忙しなくなった。
「だいぶ蕩けてきたみたいだな。早いうちに、風呂に入れないと」
「なんで、そんなにお風呂に入れたがるの?」
 彼の呟きに問いを返すと、いつの間にかお風呂場に来ていた僕はマットの上にソッと下ろされる。
 斗輝は半開きになっている浴室のドアから脱ぎ捨てたバスローブとボクサーブリーフを放り投げ、ドアを手早く締めた。
 そして、マットにペタリと座り込んでいる僕を膝立ちの状態で抱き締めてくる。
「俺とのセックスで、ほんの少しでも苦しみや痛みを残したくないんだよ」
「でも、筋肉痛って、仕方がないことでしょ?」
「それでも、可能な限り、奏太には気持ちいい思いだけをしてほしいんだ。万が一にも、俺とのセックスの後は体がつらいから、もう嫌だなんて言われたくないし」
「そんなこと、言わないと思うよ」
 心配性にも程がある斗輝の発言にクスリと笑みを零したら、体に回されている腕に力がこもった。
「奏太のことだから、言わずに我慢しそうだしな。それはそれで、精神的に俺がきつい」
 ひとしきり僕を抱き締めた彼は、優しく腕を解く。
「とにかく、奏太のことを思う存分可愛がりたいんだ。あと少しの時間だけ我慢して、俺の頼みを聞いてくれないか?」
 まっすぐに僕を見つめてくる瞳には、優しさと情欲が浮かんでいる。
 惚れ惚れするほどかっこいい表情に、僕はコクリと頷き返した。
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