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(14)やっぱり……、これ、夢じゃないのかな?
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それから少し経ってから、「本当に、いいの?」と、エディフェルドは一段と優しい声で問いかけた。
すると、シリルがモゾリと小さく動く。
「……俺がなにも言わないと、ルドは自分に都合よく解釈するんだろ?」
恥ずかしがり屋なシリルなりの肯定に、エディフェルドは身もだえする。
「ああ、もう! シリルが可愛すぎる! シリル、最高!」
ギュウギュウとシリルを抱き締めながら、エディフェルドが歓喜の声を上げた。
だが、シリルは顔を伏せたまま、下唇を噛んでいる。
――あれ? うるさいとか、腕を緩めろとか、言われると思ったんだけど。
怪訝に思ったエディフェルドは、手を移動させてシリルの頬をソッと包み込む。
次いで、徐々に力を込め、シリルの顔を上げさせた。
戸惑いと寂しさを混ぜたような表情を目にしたエディフェルドは、首を傾げる。
「シリル、どうしたの?」
「やっぱり……、これ、夢じゃないのかな?」
「え?」
ポツリと呟かれた言葉に、エディフェルドはさらに首を傾げた。
――夢じゃないってことは、さっき理解したと思ったんだけど。
なぜ、ここで蒸し返してきたのか、エディフェルドには分からなかった。
「ねぇ、シリル。どうして、夢だって思うの? ほら、僕の手、ちゃんとあったかいでしょ。これは現実だよ」
「うん……」
一言だけ返したシリルは、ゆっくりと瞬きをする。
数回、口を開閉したのち、シリルが小さな声で話し始めた。
「ルドは俺のどこを好きになったのかなって改めて考えたら、分からなくて……」
「そんなの、全部に決まってるでしょ」
「だからさ、それが分からないんだよ。だって、俺は見た目も中身も平凡で……」
「僕は、シリルが家族思いの優しい人だって知ってるよ。それに努力家で、まっすぐな性格だってことも。髪と瞳の色はこの国で一般的なものだけど、僕からしたら、誰よりも魅力的な色に見えるし、コロコロ変わる表情も可愛いと思ってる」
真剣な視線は、エディフェルドの言葉が本気であることを伝えていた。
それでも、シリルの心の中から「どうして?」という疑問が消えない。
「ルドは、俺が泣きそうになっている顔に一目惚れしたんだよな?」
「そうだよ。あの時のシリル、本当に可愛かった」
笑顔で告げられた言葉に、シリルは眉根を寄せた。
「絶対、変な顔だったと思う。そんな顔に一目惚れするなんて、普通はありえない」
笑顔や真面目な顔に心を惹かれたと言うなら理解できるが、泣きそうになっている顔に一目惚れというのは、『自分は平凡代表』と思っているシリルにとってまったく理解できないものだ。
そんなシリルの眉間にエディフェルドが口付けを落とした。
「人を好きになるきっかけって、些細なことだと思うよ。だって、明確な基準はないんだし。顔がいいから、好きになるの? 背が高いから、好きになるの? 力が強いから、好きになるの? 成績がいいから、好きになるの? 家柄がいいから? 資産家だから? そういう理由がないと、人を好きになったらいけないの?」
矢継ぎ早に問いかけられ、シリルはオロオロと視線をさまよわせるばかりだ。
「いや……、そういうことじゃないと、思うけど……」
「たしかに、僕はシリルの泣きそうな顔を見て好きになったけど、それだけじゃないからね。ずっと、ずっと、シリルを見ていて、色々なことを知ったよ。八年間の間に、シリルのいいところをたくさん発見したんだ」
「ずっと……、見ていて……、八年間の間に……?」
エディフェルドの言葉を、シリルが怪訝な顔で繰り返す。
「そのことも説明しないとね。でも、その前に朝ごはんにしようか。お腹、空いたでしょ?」
エディフェルドが声をかけると、シリルのお腹がクルルッと鳴った。
「シリル、移動するのはつらいよね。それに、まだ眠そう。僕が食堂まで抱き上げて行ってもいいんだけど」
「……それは、恥ずかしいから嫌だ」
「そうだよね。じゃ、食堂で、朝ご飯をもらってくるよ。ちょっと、待っててね」
エディフェルドがそのように告げた時、部屋の扉がドンドンと叩かれた。
「いい加減、起きたほうがいいと思うぞ」
聞こえてきたのは、ビクトリオの声だった。
「起きてるよ」
やや大きめの声で答えたエディフェルドは、スルリと寝台を抜け出した。
いつ用意したのか、彼は寝巻をしっかりと着込んでいた。
シリルも、いつもの寝巻をまとっている。もちろん、下着も。
「先に着替えておいて正解だったね。あ、シリルの体はちゃんと拭いておいたから」
その言葉の通り、潤滑油と互いの精液でベタベタだった体がさっぱりしている。
今の今までそのことに気付かなかったことを、シリルが眉尻を下げて謝った。
「ルド……、色々と迷惑をかけて、ごめん……」
しょんぼりしているシリルの髪を、エディフェルドがワシワシと掻き混ぜる。
「僕が好きでシリルのお世話をしたんだから、謝らないでよ。むしろ、役得だったし」
ニンマリと笑うエディフェルドの様子に、シリルが首を傾げた。
「役得って?」
「薄く汗ばんだシリルの体がすごく色っぽくて、思わずじっくり眺めちゃったよ。後孔から精液を掻き出す時は、意識がないのに可愛い声でたくさん喘いでくれたんだよね。ホント、いい時間だったなぁ」
それを聞いて、『その時の記憶がなくてよかった!』と、心の底から思ったシリルである。
そこに、ふたたびドンドンと扉を叩く音が聞こえてきた。
「早く、扉を開けてくれ。エディフェルドたちの朝食を持ってきたんだ」
「それは、ありがたい。おかげで、シリルと離れずに済むね」
嬉しそうに微笑みながら、エディフェルドは扉へと向かう。
今しがた聞かされた言葉に、シリルの顔が赤く染まる。
この部屋から食堂まで、どんなにのんびり行っても往復で十分とかからない。二人分の朝食を用意してもらう時間を考えても、三十分ほどだ。
――そんな短い時間でも、俺と離れていたくないのか。
さりげなく聞かされた言葉だからこそ、エディフェルドの飾らない気持ちそのものなのだろう。
嬉しくて、照れくさくて、シリルは掛け布団を頭から被ってミノムシ状態になった。
ほどなくして、ビクトリオを伴ったエディフェルドが戻ってくる。
「シリル、どうしたの?」
優しく声をかけ、盛り上がっている掛け布団を優しく叩く。
だが、返事はない。
どうしたのかと思ったエディフェルドが、ソッと布団の端をめくる。
すると、シリルは眠りに落ちかけているところだった。
布団の中が温かく、また、エディフェルドの香りが残っているので、心地よかったのだ。
しかも、体はかなり疲弊していて、空腹より眠気が勝っていたのである。
エディフェルドとしても寝かせてやりたりところだが、少しはなにか食べておかないと体力の回復が遅れるし、水分補給は大事だ。
「シリル、起きて」
寝癖が付いている髪を撫でながら声をかけるが、シリルは「……ん、分かったぁ」と答えながらも起きる様子はない。
苦笑を漏らしたエディフェルドは寝台に乗り上げて胡坐を組むと、掛け布団ごとシリルを抱き上げて自身の膝に乗せた。
まともに動けないシリルは、自分で食器を持つことすらできないだろう。
もともとシリルに食べさせるつもりだったエディフェルドにとって、なに一つ不都合はない。
「その状態で、食べるのか?」
大きなカゴを持ったビクトリオが、やや呆れ気味に声をかける。
「うん、これならシリルは寒くないし」
頭のてっぺんから足の先まで、シリルは大きめの掛け布団に包まれていた。見えているのは、顔だけである。
――体を冷やさないようにってこともあるだろうが、俺に見せたくないんだろ。
昨日、エディフェルドがなにをしようとしていたのか、ビクトリオは事前に聞かされていた。
そのため、この状況に驚きはしないが、エディフェルドの溺愛ぶりと独占欲に呆れるばかりのビクトリオだった。
すると、シリルがモゾリと小さく動く。
「……俺がなにも言わないと、ルドは自分に都合よく解釈するんだろ?」
恥ずかしがり屋なシリルなりの肯定に、エディフェルドは身もだえする。
「ああ、もう! シリルが可愛すぎる! シリル、最高!」
ギュウギュウとシリルを抱き締めながら、エディフェルドが歓喜の声を上げた。
だが、シリルは顔を伏せたまま、下唇を噛んでいる。
――あれ? うるさいとか、腕を緩めろとか、言われると思ったんだけど。
怪訝に思ったエディフェルドは、手を移動させてシリルの頬をソッと包み込む。
次いで、徐々に力を込め、シリルの顔を上げさせた。
戸惑いと寂しさを混ぜたような表情を目にしたエディフェルドは、首を傾げる。
「シリル、どうしたの?」
「やっぱり……、これ、夢じゃないのかな?」
「え?」
ポツリと呟かれた言葉に、エディフェルドはさらに首を傾げた。
――夢じゃないってことは、さっき理解したと思ったんだけど。
なぜ、ここで蒸し返してきたのか、エディフェルドには分からなかった。
「ねぇ、シリル。どうして、夢だって思うの? ほら、僕の手、ちゃんとあったかいでしょ。これは現実だよ」
「うん……」
一言だけ返したシリルは、ゆっくりと瞬きをする。
数回、口を開閉したのち、シリルが小さな声で話し始めた。
「ルドは俺のどこを好きになったのかなって改めて考えたら、分からなくて……」
「そんなの、全部に決まってるでしょ」
「だからさ、それが分からないんだよ。だって、俺は見た目も中身も平凡で……」
「僕は、シリルが家族思いの優しい人だって知ってるよ。それに努力家で、まっすぐな性格だってことも。髪と瞳の色はこの国で一般的なものだけど、僕からしたら、誰よりも魅力的な色に見えるし、コロコロ変わる表情も可愛いと思ってる」
真剣な視線は、エディフェルドの言葉が本気であることを伝えていた。
それでも、シリルの心の中から「どうして?」という疑問が消えない。
「ルドは、俺が泣きそうになっている顔に一目惚れしたんだよな?」
「そうだよ。あの時のシリル、本当に可愛かった」
笑顔で告げられた言葉に、シリルは眉根を寄せた。
「絶対、変な顔だったと思う。そんな顔に一目惚れするなんて、普通はありえない」
笑顔や真面目な顔に心を惹かれたと言うなら理解できるが、泣きそうになっている顔に一目惚れというのは、『自分は平凡代表』と思っているシリルにとってまったく理解できないものだ。
そんなシリルの眉間にエディフェルドが口付けを落とした。
「人を好きになるきっかけって、些細なことだと思うよ。だって、明確な基準はないんだし。顔がいいから、好きになるの? 背が高いから、好きになるの? 力が強いから、好きになるの? 成績がいいから、好きになるの? 家柄がいいから? 資産家だから? そういう理由がないと、人を好きになったらいけないの?」
矢継ぎ早に問いかけられ、シリルはオロオロと視線をさまよわせるばかりだ。
「いや……、そういうことじゃないと、思うけど……」
「たしかに、僕はシリルの泣きそうな顔を見て好きになったけど、それだけじゃないからね。ずっと、ずっと、シリルを見ていて、色々なことを知ったよ。八年間の間に、シリルのいいところをたくさん発見したんだ」
「ずっと……、見ていて……、八年間の間に……?」
エディフェルドの言葉を、シリルが怪訝な顔で繰り返す。
「そのことも説明しないとね。でも、その前に朝ごはんにしようか。お腹、空いたでしょ?」
エディフェルドが声をかけると、シリルのお腹がクルルッと鳴った。
「シリル、移動するのはつらいよね。それに、まだ眠そう。僕が食堂まで抱き上げて行ってもいいんだけど」
「……それは、恥ずかしいから嫌だ」
「そうだよね。じゃ、食堂で、朝ご飯をもらってくるよ。ちょっと、待っててね」
エディフェルドがそのように告げた時、部屋の扉がドンドンと叩かれた。
「いい加減、起きたほうがいいと思うぞ」
聞こえてきたのは、ビクトリオの声だった。
「起きてるよ」
やや大きめの声で答えたエディフェルドは、スルリと寝台を抜け出した。
いつ用意したのか、彼は寝巻をしっかりと着込んでいた。
シリルも、いつもの寝巻をまとっている。もちろん、下着も。
「先に着替えておいて正解だったね。あ、シリルの体はちゃんと拭いておいたから」
その言葉の通り、潤滑油と互いの精液でベタベタだった体がさっぱりしている。
今の今までそのことに気付かなかったことを、シリルが眉尻を下げて謝った。
「ルド……、色々と迷惑をかけて、ごめん……」
しょんぼりしているシリルの髪を、エディフェルドがワシワシと掻き混ぜる。
「僕が好きでシリルのお世話をしたんだから、謝らないでよ。むしろ、役得だったし」
ニンマリと笑うエディフェルドの様子に、シリルが首を傾げた。
「役得って?」
「薄く汗ばんだシリルの体がすごく色っぽくて、思わずじっくり眺めちゃったよ。後孔から精液を掻き出す時は、意識がないのに可愛い声でたくさん喘いでくれたんだよね。ホント、いい時間だったなぁ」
それを聞いて、『その時の記憶がなくてよかった!』と、心の底から思ったシリルである。
そこに、ふたたびドンドンと扉を叩く音が聞こえてきた。
「早く、扉を開けてくれ。エディフェルドたちの朝食を持ってきたんだ」
「それは、ありがたい。おかげで、シリルと離れずに済むね」
嬉しそうに微笑みながら、エディフェルドは扉へと向かう。
今しがた聞かされた言葉に、シリルの顔が赤く染まる。
この部屋から食堂まで、どんなにのんびり行っても往復で十分とかからない。二人分の朝食を用意してもらう時間を考えても、三十分ほどだ。
――そんな短い時間でも、俺と離れていたくないのか。
さりげなく聞かされた言葉だからこそ、エディフェルドの飾らない気持ちそのものなのだろう。
嬉しくて、照れくさくて、シリルは掛け布団を頭から被ってミノムシ状態になった。
ほどなくして、ビクトリオを伴ったエディフェルドが戻ってくる。
「シリル、どうしたの?」
優しく声をかけ、盛り上がっている掛け布団を優しく叩く。
だが、返事はない。
どうしたのかと思ったエディフェルドが、ソッと布団の端をめくる。
すると、シリルは眠りに落ちかけているところだった。
布団の中が温かく、また、エディフェルドの香りが残っているので、心地よかったのだ。
しかも、体はかなり疲弊していて、空腹より眠気が勝っていたのである。
エディフェルドとしても寝かせてやりたりところだが、少しはなにか食べておかないと体力の回復が遅れるし、水分補給は大事だ。
「シリル、起きて」
寝癖が付いている髪を撫でながら声をかけるが、シリルは「……ん、分かったぁ」と答えながらも起きる様子はない。
苦笑を漏らしたエディフェルドは寝台に乗り上げて胡坐を組むと、掛け布団ごとシリルを抱き上げて自身の膝に乗せた。
まともに動けないシリルは、自分で食器を持つことすらできないだろう。
もともとシリルに食べさせるつもりだったエディフェルドにとって、なに一つ不都合はない。
「その状態で、食べるのか?」
大きなカゴを持ったビクトリオが、やや呆れ気味に声をかける。
「うん、これならシリルは寒くないし」
頭のてっぺんから足の先まで、シリルは大きめの掛け布団に包まれていた。見えているのは、顔だけである。
――体を冷やさないようにってこともあるだろうが、俺に見せたくないんだろ。
昨日、エディフェルドがなにをしようとしていたのか、ビクトリオは事前に聞かされていた。
そのため、この状況に驚きはしないが、エディフェルドの溺愛ぶりと独占欲に呆れるばかりのビクトリオだった。
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