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第4章ダイジェスト(2):2
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週が明けての月曜日。今日も朝から元気いっぱい仕事に励んでいる。
バリバリ仕事をこなし、お昼はモリモリお弁当を食べ、また午後からバリバリ仕事。
頑張って、頑張って、頑張りすぎて、午後三時には見事にガス欠状態。
「タンポポちゃん、大丈夫?気分転換に風に当たって、しゃんとしてらっしゃい」
デスクにぐったり伏せている私の頭を、留美先輩が優しく撫でる。
「はぁい」
私はモソモソと起き上がり、総務部を後にしたのだった。
社屋裏の空き地で野良猫としばし戯れて気分転換をした。
「さて、そろそろ戻ろっかな」
猫たちに手を振り、社員通用口へと向かう。
扉を開けようとしたその時、
「ユウカ先輩」
と声をかけられた。
呼びかけに振り返ると、少し離れた位置で和馬さんが軽く手を振っている。
――今、何て言った?
ビックリして固まっていると、和馬さんが優雅な足取りでやってきた。
「どうしました?ユウカ先輩」
穏やかな声で話しかけられるが、私はパニック状態のまま。
「え?え?ま、待ってください。和馬さん、今、ユウカ先輩って……」
「はい、言いましたよ。それがどうかしましたか、ユウカ先輩」
――う、う、嘘!嘘ーーー!本当に私の後輩になったの?
ドアノブを握り締めた状態で動けなくなった私に、和馬さんがフッと小さく吹き出す。
「冗談ですよ、私は社長第一秘書のままです。あなたを少しからかっただけです」
「あ、そ、そうですか。そうですよね。やだなぁ、私ったら。変な勘違いしちゃって」
体の硬直を解き、盛大に胸を撫で下ろした。
そんな私を見て、和馬さんが目を細める。
「ユウカは慌てん坊ですね。異動願いは提出してから受理されるまでに、一ヶ月はかかるんです。ですから、まだ、総務部の社員ではありません」
――なんだとーーーーー!
和馬さんの言葉に、再び固まる私。
そして和馬さんも再び笑いを零す。
「本気にしないでください。私は社長秘書を辞める気はありませんし、異動願いも出していませんから」
その目に嘘は感じられず、私はドッと体の力が抜けた。
「すみません。まさかそんなに驚かれるとは。なんだか疲れた顔をしていたので、冗談を言ってあなたを元気づけようと」
――そんな悪趣味な冗談、元気になるどころか余計に疲れが増すんですけど。
なまじ本気になれば総務部への異動をやってのけそうな和馬さんなので、信じてしまいそうになったのだ。
「ま、まぁ、いいです。でも、私、そんなに疲れているように見えます?」
和馬さんが心配するほどのことだろうか。自分の頬を手の平でグイグイ押してみる。
すると、私の手の平の上から和馬さんが左手を重ねてきた。
「いつもに比べたら、元気がないように思いました。ですが、ユウカを元気にさせるなら、冗談を言うよりもこちらの方が効果はあるでしょう」
そう言って、和馬さんは右手に持っていた小ぶりの紙袋を軽く振って見せた。
「所用で外に出たついでに、買ってきました」
和馬さんは紙袋の中に手を入れると、小さな小さなベイクドチーズケーキを取り出す。
「通りがかりに、量り売りをしている店を見つけまして。ユウカのおやつにちょうどいいのではと思ったんです」
一口サイズの楕円形をしているケーキは、全体的に濃い目の黄色をしていて、表面が薄くきつね色。見るからに美味しそうである。
「うわぁ、嬉しいです。ありがとうございます」
途端に満面の笑みとなった私。先程の冗談よりも効果テキメンだ。
「はい、どうぞ」
和馬さんが差し出してきたので、それを受け取ろうと手を伸ばす。ところが、スッと避けられてしまった。
「え?」
遠ざかったケーキと和馬さんの顔を交互に見比べていると、
「私が食べさせてあげますから、口を開けてください」
と言われた。
「は?い、いえ、自分で持って食べます」
もう一度手を伸ばすが、やはり避けられてしまう。ケーキは和馬さんの頭上高くに掲げられてしまった。
「今まで猫たちと遊んでいたのでしょう?その後、手は洗っていませんよね?」
――なぜ、それを知っている!?
和馬さんは盗聴器を私に仕掛けるどころか、盗撮用カメラを仕掛けているのではないだろうか。もう、愛ゆえに察知するといったレベルを完全に超えていると思う。
その後も『自分で食べます』、『食べさせてあげます』のやり取りを数度繰り返すうちに、いつの間にか壁際に追い込まれていた。
「さぁ、召し上がれ」
和馬さんは一向に譲る気配がない。ケーキを片手に、笑顔でジリジリと迫ってくる。
「え、えと……」
このままだと誰かがやってきて、私たちの様子を目撃するかもしれない。
誰かの目にあーん攻撃を受ける自分を晒すのならば、今、降参してしまった方が精神的ダメージは少ないだろう。
「い、いただきます……」
戸惑いと諦めと羞恥が入り混じった複雑な顔で口を開くと、和馬さんの長い指で摘まみ上げられている小さなチーズケーキがソッと口の中に押し込まれる。
「あ、美味しい」
思わず呟けば、和馬さんはフワリと笑う。
「そう言ってもらえてよかったです」
嬉しそうな彼の様子に、私もちょっと嬉しくなる。恥ずかしさは消えていなかったけどね。
赤い顔のままモグモグしていると、和馬さんが紙袋を差し出してくる。
「あと五個ほど入っていますから、後でゆっくり食べなさい。では、仕事に戻りますね」
と言って、和馬さんはその場から立ち去って行った。
私はケーキが入った紙袋を抱え、いたたまれない気持ちでその後姿を見送る。
確かに恥ずかしいのだが、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嬉しいと思ってしまう気持ちもある。
だってさ、いつでもどこでも私のことを構ってくれるのって、なんか幸せだなって。
しかし、誰にも見られていないと思っていたこのやりとりは、外出から帰ってきた後輩たちにしっかり見られていたのだった。
後輩たちが本格的に仕事を始めてから三日が経った。
水曜日はそれほど仕事が立て込むことはなく、比較的余裕がある。
久しぶりに私は公園のベンチで早々にお昼を食べ終えると、バッグからあるものを取り出した。
あるものとは、スマートフォンである。
今まで私はガラケーと呼ばれる携帯電話を使っていた。
短大入学時から使っている携帯電話に使い慣れていたので、大多数のスマートフォンユーザーに囲まれて少々肩身の狭い思いをしながらも、私は買い替えるということをしなかった。
ところが、このところ携帯電話の調子が悪い。電池パックと充電器を新しいものに変えてみても、それほど改善されていない。
これはもう買い替える時期だろうかと考えたところで、和馬さんに相談したのである。
それというのも、彼は仕事用にスマートフォンが支給されていた。スケジュールやデータを管理する上でスマートフォンの方が便利だろうということになったらしい。
和馬さんの個人用携帯は私と同じくガラケーだが、一足先にスマートフォンを使用しているのであれこれ話を聞き、先日の休みにショッピングモール内のショップに行くことにしたのである。
日曜日に手に入れたスマートフォン。和馬さんとお揃いの機種だ。そしてカバーは色違い。
「さてと、このアプリを呼び出すときは」
月、火と説明書を片手に操作を確認したので、ぎこちないながらもどうにか基本的な操作は出来る。……が、途中で分からなくなった。
「ん?あれ?このあと、どうするんだったっけ」
下手な操作をして不具合が発生すると大変だ。私はいったん画面を戻した。
その時、画面が明るい光を放ち、メールの着信を告げる。
「あ、和馬さんからだ」
たどたどしい手つきで画面を開けば、『お客様から社長への手土産で、苺のタルトを頂きました。ユウカにお裾分けします』と書いてあった。
「やったぁ!食べます、食べます!ええと、『今からすぐに向かいます』っと。送信」
メール機能だけは何とか使えるようになったので、急いで返事を送り、私は荷物を持って走り出した。
社長室に向かうと、扉の前で和馬さんが立っていた。
「社長は九州支社に電話中ですので、三階の休憩室に行きましょうか」
和馬さんは左手で私の背中を押し、先へと促す。
「お昼休みの時間でもお仕事なんて、社長はやっぱり大変なんですね」
社員はよほどのことがない限り十二時から休憩が取れるのだが、会社のトップともなれば仕事が待っていてくれないのだろう。
かわいそうだなと思っていれば、
「社長が率先して業務にあたる姿は、社員たちにとっていい刺激になるはずですよ」
と、和馬さんが返してくる。
「なるほど」
よし、社長を見習って私ももっと頑張るぞ、と心の中で息巻いている横で、和馬さんがぽそっと漏らした。
「社長は少しでも手が空くと、片想いの女性の事を考えてぼんやりなさいますからね。
馬車馬のごとく、せっせと働けばいいのですよ」
……聞かなかったことにしよう。
昼休みが始まってから三十分ほどが過ぎている今は、休憩室はそれほど混み合ってはいなかった。食後のお喋りを楽しんでいる社員たちの姿がチラホラ見える程度である。
「あちらに行きましょうか」
和馬さんが窓際の長椅子へと促す。日陰になっているので眩しくない。
私たちは横並びに腰をかけた。
「はい、どうぞ」
小さなケーキ箱を和馬さんが差し出す。
開けてみると、真っ赤な苺がきれいに並べられている手の平ほどのタルトが。
「ありがとうございます」
バッグから出したお絞りで手を拭うと、私はタルトを箱から取り出した。
「いっただきまぁす」
大きく口を開けて、いざ、かぶりつこうとしたところ、和馬さんが「ユウカ、ちょっと待ちなさい」という制止の声をかける。
「なんですか?」
「そのままの状態ですと、タルト生地がスカートに落ちますよ」
そう言って、和馬さんはスーツの上着ポケットからピシッとアイロンのかかった紺色のハンカチを取り出し、私の膝の上に広げてくれた。相変わらず、紳士な対応だ。
「これで大丈夫でしょう。遠慮なく、召し上がれ」
ニコッと笑って、和馬さんがゴーサインを出す。
「あ、ありがとうございます」
――和馬さんって、気配りも抜群だよね。さすが、社長秘書。
かっこよくて、優しくて。そんな彼に、こんなにも甘やかされていいのだろうか。
気恥ずかしさを誤魔化すように夢中になってタルトを食べていれば、和馬さんの長い指がスッと横から伸びてくる。
「ついてますよ」
私の口元にあったタルト生地のかけらを指で摘まみ、それをパクリ。そんな彼の様子に、私の顔は苺のように赤くなる。
私たちがいる場所は休憩室の中でも奥まっている所で、テーブル席の人たちからはちょっと見えにくい。
それでも、今の彼の行動は十分に恥ずかしさを与えるものだった。
食べかけの苺タルトを手に硬直する私。
「う、あ、あ……。摘まんだかけらを食べないでくださいよぉ」
涙目で睨みつつアワアワと言えば、またクスリと笑われる。
「そんなに睨まないでください。本当は舌で舐めとってあげたいところを我慢したのですよ」
「な、舐めっ!?」
ビクッと震えた私の手から、残り三分の一程となったタルトが落下。
それをすかさずキャッチした和馬さんが、スッと私に身を寄せてくる。
「舐めてもよかったですか?」
少し低めの艶っぽい声で囁いてきた。
「だ、だ、だ、駄目です!それは絶対に駄目です!」
ブンブンと首を横に振って否定する。
「ですよね。では、我慢した私を睨まないでくださいね。さあ、残りのタルトもどうぞ」
これ以上何かされないよう、差し出されたタルトを慌てて口に押し込み、ものすごい勢いで咀嚼した私だった。
食べ終えた私は、持っていたティッシュで素早く口元を拭った。モタモタしていたら、和馬さんがまた、「舐めましょうか?」発言をしそうで怖かったしさ。
借りたハンカチは洗って返すということで、バッグにしまう。
そして私は、和馬さんへのお願いを切り出した。
「スマートフォンの使い方が分からなくなっちゃって。教えてもらえますか?」
「いいですよ」
私はスマートフォンを取り出して、彼から指導を受ける。丁寧に教えてくれるので、分からなくなったこともあっという間に解決した。
「ありがとうございます。助かりました」
私の言葉に、和馬さんが優しい笑顔を浮かべた。
「まだまだ勉強不足ですが、私が分かることでしたら、いつでも教えますので」
「そんなことないですよ。和馬さんは、十分使いこなせていると思いますよ」
横にいる彼を見上げ、ニコッと笑う。
スラリと長い彼の指が画面の上を滑る様子は、なかなか素敵なのだ。器用に画面を操る様子は、いっそう彼を『出来る男』に見せている。
そんな和馬さんにコッソリ見惚れていたりするのだ。
「私にもちゃんと使えますかねぇ」
照れ隠しのように呟けば、優しい声が降ってくる。
「ユウカのために費やす時間を、大変に思うことなどありませんよ。私が手取り足取り、しっかりと教えてあげますから」
――和馬さんの手とり足とりって言うのは、文字通りだからシャレにならないんだよね!
「え、あ、あの、お手柔らかに……」
優しい笑顔の奥に危ない光を感じ取り、私の顔は少し引き攣った。
そんな私たちのやり取りに割って入る声があった。
「あの……」
掛けられた声へと顔を向ければ、スマートフォンを手にうっすらと頬を染めている数人の女性たちがいた。見たところ、総務部以外の後輩たちだ。さっきの彼の笑顔にやられちゃったのだろう。
やがて五人いるうちの、真ん中の女性が口を開いた。
「実は、私たちも最近、スマートフォンに切り替えたばかりなんです。竹若さんは使い慣れているようですから、教えていただけないかと」
和馬さんから視線を外さずに答える。
流行りの髪型、お洒落な服装、メイクも靴も可愛らしい後輩たちは、いつの間にか和馬さんを囲むように立っていた。
そんな彼女たちが、一斉に口を開いた。
「お願いします」
「教えてください」
「お時間は取らせません」
「少しでいいんです」
「お礼もしますから」
ポーッと顔を赤らめ、和馬さんにさらに近付く後輩たち。
その様子に、チクンと胸の奥が痛くなった。何だか、よくない感情がムクムクと育っている感じ。
――変だなぁ。胸焼けするほど、大食いはしてないし。
喉元の辺り一帯を手の平で撫でさすりながら、彼と彼女たちの様子を見守る。
優しい和馬さんのことだから、乞われたとおりに教えるのだろうか。お昼休みが終わるまで、まだ時間はある。
和馬さんの横顔を眺めていたら、彼の表情が冷たいものに変わった。
「でしたら、ショップの店員に聞くのが一番ですよ」
今まで私には向けられたことのない素っ気ない声で、和馬さんが言い返す。
――あれ?教えないの?
パチクリと瞬きをしながら和馬さんを見ていると、私へと向き直った彼が表情を一転させ、心配そうに見遣ってくる。
「ユウカ、どうしました?具合が悪くなりましたか?苦しいですか?それとも痛いのですか?」
「あ、いえ。別に、なんでもないです」
慌てて撫で擦っていた手を止めて下に降ろした。
「それならよかったです。ユウカは頑張り屋さんですから、無理でもしたのかと心配になりました」
彼の大きな手がゆっくりと私の髪を撫でた。
「一生懸命なユウカは大好きですが、くれぐれも無理のないように。健康だからこそ、仕事を頑張れるのですよ」
穏やかに窘められ、私はコクンと頷く。
「は、はい。気を付けます」
さっきの素っ気なさはまるで嘘のようだ。声も視線も表情も、いつもの通り。
そこに、またしても後輩たちの声が。
「竹若さん、お願いしますっ」
いっそう前のめりで和馬さんにお願いする後輩たち。
とたんに、彼の顔から表情が消えた。
「店員に聞くようにと言った私の言葉が聞こえなかったのですか?」
表情だけではなく、声から温度も消えた。
後輩たちはビクッと大きく肩を跳ね上げる。
「で、で、でも……」
「私たちは……」
「ほんの少しの時間でいいので……」
なおも食い下がろうとする後輩たちに、和馬さんはこれ見よがしにため息を吐いた。
「そうですか。あなた方には話が通じないようですね」
スッと立ちあがり、不機嫌に細めた目で後輩たちを一瞥する。なまじ顔立ちが整っている上に高い位置から見下ろしてくるので、ものすごい迫力だ。
「あなた方はスマートフォンの使い方を覚えるよりも先に、場の空気を読むことを覚えたほうがいいでしょう。ユウカ、行きますよ」
「え?は、はいっ」
私は慌てて手荷物を持って立ちあがる。
「では、失礼」
呆然とする後輩たちへおざなりに声をかけ、和馬さんは私の手を掴んで足早にその場を後にした。
彼に手を引かれるまま後をついて歩いていると、やがて、人がいない廊下の突き当りにやってきた。
無言だった和馬さんがクルリと振り返り、正面からギュッと抱きしめられる。
「……しばらく、このままでいさせてください」
元気のない彼のことが気になって望まれるままに大人しくしていると、やがて、さっきよりは落ち着いた感じのする吐息が聞こえた。
「これまでにこういったことは何度もありましたが、今年はとくに手強いようです」
呆れと疲労が混ざった力のない声で、彼がかすかな苦笑と共に漏らす。
「今まで近付いて来る後輩たちを当たり障りなく流してきましたが、もう、そういったこともできない状況になりつつあるようですね。こんなことなら、初めからきっぱりと撥ねつけるべきだったかもしれません」
とはいえ、彼女たちには悪意がないのだ。それほど邪険に扱うことも出来なかったのは仕方がない。
私は荷物を持っていない方の手を彼の背中へと回し、労うようにそっと抱き付いた。
「モテるって大変なんですね」
正直な感想を述べたところ、不貞腐れたような声が返ってくる。
「少しも嬉しくないです。こちらの気持ちを汲み取ってくださらない人間と向き合うのは、かなり骨が折れるのですから」
「そういうものですか?」
モテモテな状況がイヤだなんて贅沢な悩みだなぁと思ってクスリと笑うと、さらに強く抱き締められた。
「ええ、そうですよ。私に言い寄ってくる女性の多くは、外見ばかりに目が行っているのです。私の人となりを知らずに外側だけで判断されても、まったく嬉しくありません」
「で、でも、和馬さんは中身も素敵な人ですよ。ああ、だけど、和馬さんが中身も素敵なんだって知れ渡ったら、もっとたくさんの女性に追いかけられちゃいますね」
そうなったら余計に大変だ。私としても、きっと一秒だって心が休まらない。
「和馬さんのことをちゃんと見てくれる人が増えてほしいところですけど、それって、本人からしたら有難迷惑なんでしょうね」
「私のことは、ユウカ以外の人に知っていただかなくてもいいのです。あなただけが知っていればいいのです。恋人である、ユウカだけが」
いっそう胸に抱き込まれ、さらに切ない声で言われ、思わず胸がキュンとなった。
私は広い背中に回した手にキュウッと力を入れる。
「……私が、和馬さんのことを一番分かってあげられる人でありたいです」
和馬さんの一番そばにいて。
和馬さんに一番の笑顔を届けてあげて。
和馬さんを一番支えてあげて。
和馬さんが一番心を許せる人でありたい。
そんな願いを篭めて、強く、強く、彼のことを抱き締めた。
バリバリ仕事をこなし、お昼はモリモリお弁当を食べ、また午後からバリバリ仕事。
頑張って、頑張って、頑張りすぎて、午後三時には見事にガス欠状態。
「タンポポちゃん、大丈夫?気分転換に風に当たって、しゃんとしてらっしゃい」
デスクにぐったり伏せている私の頭を、留美先輩が優しく撫でる。
「はぁい」
私はモソモソと起き上がり、総務部を後にしたのだった。
社屋裏の空き地で野良猫としばし戯れて気分転換をした。
「さて、そろそろ戻ろっかな」
猫たちに手を振り、社員通用口へと向かう。
扉を開けようとしたその時、
「ユウカ先輩」
と声をかけられた。
呼びかけに振り返ると、少し離れた位置で和馬さんが軽く手を振っている。
――今、何て言った?
ビックリして固まっていると、和馬さんが優雅な足取りでやってきた。
「どうしました?ユウカ先輩」
穏やかな声で話しかけられるが、私はパニック状態のまま。
「え?え?ま、待ってください。和馬さん、今、ユウカ先輩って……」
「はい、言いましたよ。それがどうかしましたか、ユウカ先輩」
――う、う、嘘!嘘ーーー!本当に私の後輩になったの?
ドアノブを握り締めた状態で動けなくなった私に、和馬さんがフッと小さく吹き出す。
「冗談ですよ、私は社長第一秘書のままです。あなたを少しからかっただけです」
「あ、そ、そうですか。そうですよね。やだなぁ、私ったら。変な勘違いしちゃって」
体の硬直を解き、盛大に胸を撫で下ろした。
そんな私を見て、和馬さんが目を細める。
「ユウカは慌てん坊ですね。異動願いは提出してから受理されるまでに、一ヶ月はかかるんです。ですから、まだ、総務部の社員ではありません」
――なんだとーーーーー!
和馬さんの言葉に、再び固まる私。
そして和馬さんも再び笑いを零す。
「本気にしないでください。私は社長秘書を辞める気はありませんし、異動願いも出していませんから」
その目に嘘は感じられず、私はドッと体の力が抜けた。
「すみません。まさかそんなに驚かれるとは。なんだか疲れた顔をしていたので、冗談を言ってあなたを元気づけようと」
――そんな悪趣味な冗談、元気になるどころか余計に疲れが増すんですけど。
なまじ本気になれば総務部への異動をやってのけそうな和馬さんなので、信じてしまいそうになったのだ。
「ま、まぁ、いいです。でも、私、そんなに疲れているように見えます?」
和馬さんが心配するほどのことだろうか。自分の頬を手の平でグイグイ押してみる。
すると、私の手の平の上から和馬さんが左手を重ねてきた。
「いつもに比べたら、元気がないように思いました。ですが、ユウカを元気にさせるなら、冗談を言うよりもこちらの方が効果はあるでしょう」
そう言って、和馬さんは右手に持っていた小ぶりの紙袋を軽く振って見せた。
「所用で外に出たついでに、買ってきました」
和馬さんは紙袋の中に手を入れると、小さな小さなベイクドチーズケーキを取り出す。
「通りがかりに、量り売りをしている店を見つけまして。ユウカのおやつにちょうどいいのではと思ったんです」
一口サイズの楕円形をしているケーキは、全体的に濃い目の黄色をしていて、表面が薄くきつね色。見るからに美味しそうである。
「うわぁ、嬉しいです。ありがとうございます」
途端に満面の笑みとなった私。先程の冗談よりも効果テキメンだ。
「はい、どうぞ」
和馬さんが差し出してきたので、それを受け取ろうと手を伸ばす。ところが、スッと避けられてしまった。
「え?」
遠ざかったケーキと和馬さんの顔を交互に見比べていると、
「私が食べさせてあげますから、口を開けてください」
と言われた。
「は?い、いえ、自分で持って食べます」
もう一度手を伸ばすが、やはり避けられてしまう。ケーキは和馬さんの頭上高くに掲げられてしまった。
「今まで猫たちと遊んでいたのでしょう?その後、手は洗っていませんよね?」
――なぜ、それを知っている!?
和馬さんは盗聴器を私に仕掛けるどころか、盗撮用カメラを仕掛けているのではないだろうか。もう、愛ゆえに察知するといったレベルを完全に超えていると思う。
その後も『自分で食べます』、『食べさせてあげます』のやり取りを数度繰り返すうちに、いつの間にか壁際に追い込まれていた。
「さぁ、召し上がれ」
和馬さんは一向に譲る気配がない。ケーキを片手に、笑顔でジリジリと迫ってくる。
「え、えと……」
このままだと誰かがやってきて、私たちの様子を目撃するかもしれない。
誰かの目にあーん攻撃を受ける自分を晒すのならば、今、降参してしまった方が精神的ダメージは少ないだろう。
「い、いただきます……」
戸惑いと諦めと羞恥が入り混じった複雑な顔で口を開くと、和馬さんの長い指で摘まみ上げられている小さなチーズケーキがソッと口の中に押し込まれる。
「あ、美味しい」
思わず呟けば、和馬さんはフワリと笑う。
「そう言ってもらえてよかったです」
嬉しそうな彼の様子に、私もちょっと嬉しくなる。恥ずかしさは消えていなかったけどね。
赤い顔のままモグモグしていると、和馬さんが紙袋を差し出してくる。
「あと五個ほど入っていますから、後でゆっくり食べなさい。では、仕事に戻りますね」
と言って、和馬さんはその場から立ち去って行った。
私はケーキが入った紙袋を抱え、いたたまれない気持ちでその後姿を見送る。
確かに恥ずかしいのだが、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嬉しいと思ってしまう気持ちもある。
だってさ、いつでもどこでも私のことを構ってくれるのって、なんか幸せだなって。
しかし、誰にも見られていないと思っていたこのやりとりは、外出から帰ってきた後輩たちにしっかり見られていたのだった。
後輩たちが本格的に仕事を始めてから三日が経った。
水曜日はそれほど仕事が立て込むことはなく、比較的余裕がある。
久しぶりに私は公園のベンチで早々にお昼を食べ終えると、バッグからあるものを取り出した。
あるものとは、スマートフォンである。
今まで私はガラケーと呼ばれる携帯電話を使っていた。
短大入学時から使っている携帯電話に使い慣れていたので、大多数のスマートフォンユーザーに囲まれて少々肩身の狭い思いをしながらも、私は買い替えるということをしなかった。
ところが、このところ携帯電話の調子が悪い。電池パックと充電器を新しいものに変えてみても、それほど改善されていない。
これはもう買い替える時期だろうかと考えたところで、和馬さんに相談したのである。
それというのも、彼は仕事用にスマートフォンが支給されていた。スケジュールやデータを管理する上でスマートフォンの方が便利だろうということになったらしい。
和馬さんの個人用携帯は私と同じくガラケーだが、一足先にスマートフォンを使用しているのであれこれ話を聞き、先日の休みにショッピングモール内のショップに行くことにしたのである。
日曜日に手に入れたスマートフォン。和馬さんとお揃いの機種だ。そしてカバーは色違い。
「さてと、このアプリを呼び出すときは」
月、火と説明書を片手に操作を確認したので、ぎこちないながらもどうにか基本的な操作は出来る。……が、途中で分からなくなった。
「ん?あれ?このあと、どうするんだったっけ」
下手な操作をして不具合が発生すると大変だ。私はいったん画面を戻した。
その時、画面が明るい光を放ち、メールの着信を告げる。
「あ、和馬さんからだ」
たどたどしい手つきで画面を開けば、『お客様から社長への手土産で、苺のタルトを頂きました。ユウカにお裾分けします』と書いてあった。
「やったぁ!食べます、食べます!ええと、『今からすぐに向かいます』っと。送信」
メール機能だけは何とか使えるようになったので、急いで返事を送り、私は荷物を持って走り出した。
社長室に向かうと、扉の前で和馬さんが立っていた。
「社長は九州支社に電話中ですので、三階の休憩室に行きましょうか」
和馬さんは左手で私の背中を押し、先へと促す。
「お昼休みの時間でもお仕事なんて、社長はやっぱり大変なんですね」
社員はよほどのことがない限り十二時から休憩が取れるのだが、会社のトップともなれば仕事が待っていてくれないのだろう。
かわいそうだなと思っていれば、
「社長が率先して業務にあたる姿は、社員たちにとっていい刺激になるはずですよ」
と、和馬さんが返してくる。
「なるほど」
よし、社長を見習って私ももっと頑張るぞ、と心の中で息巻いている横で、和馬さんがぽそっと漏らした。
「社長は少しでも手が空くと、片想いの女性の事を考えてぼんやりなさいますからね。
馬車馬のごとく、せっせと働けばいいのですよ」
……聞かなかったことにしよう。
昼休みが始まってから三十分ほどが過ぎている今は、休憩室はそれほど混み合ってはいなかった。食後のお喋りを楽しんでいる社員たちの姿がチラホラ見える程度である。
「あちらに行きましょうか」
和馬さんが窓際の長椅子へと促す。日陰になっているので眩しくない。
私たちは横並びに腰をかけた。
「はい、どうぞ」
小さなケーキ箱を和馬さんが差し出す。
開けてみると、真っ赤な苺がきれいに並べられている手の平ほどのタルトが。
「ありがとうございます」
バッグから出したお絞りで手を拭うと、私はタルトを箱から取り出した。
「いっただきまぁす」
大きく口を開けて、いざ、かぶりつこうとしたところ、和馬さんが「ユウカ、ちょっと待ちなさい」という制止の声をかける。
「なんですか?」
「そのままの状態ですと、タルト生地がスカートに落ちますよ」
そう言って、和馬さんはスーツの上着ポケットからピシッとアイロンのかかった紺色のハンカチを取り出し、私の膝の上に広げてくれた。相変わらず、紳士な対応だ。
「これで大丈夫でしょう。遠慮なく、召し上がれ」
ニコッと笑って、和馬さんがゴーサインを出す。
「あ、ありがとうございます」
――和馬さんって、気配りも抜群だよね。さすが、社長秘書。
かっこよくて、優しくて。そんな彼に、こんなにも甘やかされていいのだろうか。
気恥ずかしさを誤魔化すように夢中になってタルトを食べていれば、和馬さんの長い指がスッと横から伸びてくる。
「ついてますよ」
私の口元にあったタルト生地のかけらを指で摘まみ、それをパクリ。そんな彼の様子に、私の顔は苺のように赤くなる。
私たちがいる場所は休憩室の中でも奥まっている所で、テーブル席の人たちからはちょっと見えにくい。
それでも、今の彼の行動は十分に恥ずかしさを与えるものだった。
食べかけの苺タルトを手に硬直する私。
「う、あ、あ……。摘まんだかけらを食べないでくださいよぉ」
涙目で睨みつつアワアワと言えば、またクスリと笑われる。
「そんなに睨まないでください。本当は舌で舐めとってあげたいところを我慢したのですよ」
「な、舐めっ!?」
ビクッと震えた私の手から、残り三分の一程となったタルトが落下。
それをすかさずキャッチした和馬さんが、スッと私に身を寄せてくる。
「舐めてもよかったですか?」
少し低めの艶っぽい声で囁いてきた。
「だ、だ、だ、駄目です!それは絶対に駄目です!」
ブンブンと首を横に振って否定する。
「ですよね。では、我慢した私を睨まないでくださいね。さあ、残りのタルトもどうぞ」
これ以上何かされないよう、差し出されたタルトを慌てて口に押し込み、ものすごい勢いで咀嚼した私だった。
食べ終えた私は、持っていたティッシュで素早く口元を拭った。モタモタしていたら、和馬さんがまた、「舐めましょうか?」発言をしそうで怖かったしさ。
借りたハンカチは洗って返すということで、バッグにしまう。
そして私は、和馬さんへのお願いを切り出した。
「スマートフォンの使い方が分からなくなっちゃって。教えてもらえますか?」
「いいですよ」
私はスマートフォンを取り出して、彼から指導を受ける。丁寧に教えてくれるので、分からなくなったこともあっという間に解決した。
「ありがとうございます。助かりました」
私の言葉に、和馬さんが優しい笑顔を浮かべた。
「まだまだ勉強不足ですが、私が分かることでしたら、いつでも教えますので」
「そんなことないですよ。和馬さんは、十分使いこなせていると思いますよ」
横にいる彼を見上げ、ニコッと笑う。
スラリと長い彼の指が画面の上を滑る様子は、なかなか素敵なのだ。器用に画面を操る様子は、いっそう彼を『出来る男』に見せている。
そんな和馬さんにコッソリ見惚れていたりするのだ。
「私にもちゃんと使えますかねぇ」
照れ隠しのように呟けば、優しい声が降ってくる。
「ユウカのために費やす時間を、大変に思うことなどありませんよ。私が手取り足取り、しっかりと教えてあげますから」
――和馬さんの手とり足とりって言うのは、文字通りだからシャレにならないんだよね!
「え、あ、あの、お手柔らかに……」
優しい笑顔の奥に危ない光を感じ取り、私の顔は少し引き攣った。
そんな私たちのやり取りに割って入る声があった。
「あの……」
掛けられた声へと顔を向ければ、スマートフォンを手にうっすらと頬を染めている数人の女性たちがいた。見たところ、総務部以外の後輩たちだ。さっきの彼の笑顔にやられちゃったのだろう。
やがて五人いるうちの、真ん中の女性が口を開いた。
「実は、私たちも最近、スマートフォンに切り替えたばかりなんです。竹若さんは使い慣れているようですから、教えていただけないかと」
和馬さんから視線を外さずに答える。
流行りの髪型、お洒落な服装、メイクも靴も可愛らしい後輩たちは、いつの間にか和馬さんを囲むように立っていた。
そんな彼女たちが、一斉に口を開いた。
「お願いします」
「教えてください」
「お時間は取らせません」
「少しでいいんです」
「お礼もしますから」
ポーッと顔を赤らめ、和馬さんにさらに近付く後輩たち。
その様子に、チクンと胸の奥が痛くなった。何だか、よくない感情がムクムクと育っている感じ。
――変だなぁ。胸焼けするほど、大食いはしてないし。
喉元の辺り一帯を手の平で撫でさすりながら、彼と彼女たちの様子を見守る。
優しい和馬さんのことだから、乞われたとおりに教えるのだろうか。お昼休みが終わるまで、まだ時間はある。
和馬さんの横顔を眺めていたら、彼の表情が冷たいものに変わった。
「でしたら、ショップの店員に聞くのが一番ですよ」
今まで私には向けられたことのない素っ気ない声で、和馬さんが言い返す。
――あれ?教えないの?
パチクリと瞬きをしながら和馬さんを見ていると、私へと向き直った彼が表情を一転させ、心配そうに見遣ってくる。
「ユウカ、どうしました?具合が悪くなりましたか?苦しいですか?それとも痛いのですか?」
「あ、いえ。別に、なんでもないです」
慌てて撫で擦っていた手を止めて下に降ろした。
「それならよかったです。ユウカは頑張り屋さんですから、無理でもしたのかと心配になりました」
彼の大きな手がゆっくりと私の髪を撫でた。
「一生懸命なユウカは大好きですが、くれぐれも無理のないように。健康だからこそ、仕事を頑張れるのですよ」
穏やかに窘められ、私はコクンと頷く。
「は、はい。気を付けます」
さっきの素っ気なさはまるで嘘のようだ。声も視線も表情も、いつもの通り。
そこに、またしても後輩たちの声が。
「竹若さん、お願いしますっ」
いっそう前のめりで和馬さんにお願いする後輩たち。
とたんに、彼の顔から表情が消えた。
「店員に聞くようにと言った私の言葉が聞こえなかったのですか?」
表情だけではなく、声から温度も消えた。
後輩たちはビクッと大きく肩を跳ね上げる。
「で、で、でも……」
「私たちは……」
「ほんの少しの時間でいいので……」
なおも食い下がろうとする後輩たちに、和馬さんはこれ見よがしにため息を吐いた。
「そうですか。あなた方には話が通じないようですね」
スッと立ちあがり、不機嫌に細めた目で後輩たちを一瞥する。なまじ顔立ちが整っている上に高い位置から見下ろしてくるので、ものすごい迫力だ。
「あなた方はスマートフォンの使い方を覚えるよりも先に、場の空気を読むことを覚えたほうがいいでしょう。ユウカ、行きますよ」
「え?は、はいっ」
私は慌てて手荷物を持って立ちあがる。
「では、失礼」
呆然とする後輩たちへおざなりに声をかけ、和馬さんは私の手を掴んで足早にその場を後にした。
彼に手を引かれるまま後をついて歩いていると、やがて、人がいない廊下の突き当りにやってきた。
無言だった和馬さんがクルリと振り返り、正面からギュッと抱きしめられる。
「……しばらく、このままでいさせてください」
元気のない彼のことが気になって望まれるままに大人しくしていると、やがて、さっきよりは落ち着いた感じのする吐息が聞こえた。
「これまでにこういったことは何度もありましたが、今年はとくに手強いようです」
呆れと疲労が混ざった力のない声で、彼がかすかな苦笑と共に漏らす。
「今まで近付いて来る後輩たちを当たり障りなく流してきましたが、もう、そういったこともできない状況になりつつあるようですね。こんなことなら、初めからきっぱりと撥ねつけるべきだったかもしれません」
とはいえ、彼女たちには悪意がないのだ。それほど邪険に扱うことも出来なかったのは仕方がない。
私は荷物を持っていない方の手を彼の背中へと回し、労うようにそっと抱き付いた。
「モテるって大変なんですね」
正直な感想を述べたところ、不貞腐れたような声が返ってくる。
「少しも嬉しくないです。こちらの気持ちを汲み取ってくださらない人間と向き合うのは、かなり骨が折れるのですから」
「そういうものですか?」
モテモテな状況がイヤだなんて贅沢な悩みだなぁと思ってクスリと笑うと、さらに強く抱き締められた。
「ええ、そうですよ。私に言い寄ってくる女性の多くは、外見ばかりに目が行っているのです。私の人となりを知らずに外側だけで判断されても、まったく嬉しくありません」
「で、でも、和馬さんは中身も素敵な人ですよ。ああ、だけど、和馬さんが中身も素敵なんだって知れ渡ったら、もっとたくさんの女性に追いかけられちゃいますね」
そうなったら余計に大変だ。私としても、きっと一秒だって心が休まらない。
「和馬さんのことをちゃんと見てくれる人が増えてほしいところですけど、それって、本人からしたら有難迷惑なんでしょうね」
「私のことは、ユウカ以外の人に知っていただかなくてもいいのです。あなただけが知っていればいいのです。恋人である、ユウカだけが」
いっそう胸に抱き込まれ、さらに切ない声で言われ、思わず胸がキュンとなった。
私は広い背中に回した手にキュウッと力を入れる。
「……私が、和馬さんのことを一番分かってあげられる人でありたいです」
和馬さんの一番そばにいて。
和馬さんに一番の笑顔を届けてあげて。
和馬さんを一番支えてあげて。
和馬さんが一番心を許せる人でありたい。
そんな願いを篭めて、強く、強く、彼のことを抱き締めた。
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