162 / 212
悠久の王・キュリオ編
鍛冶屋(スィデラス)・ダルドⅡ
しおりを挟む
キュリオのように長い命を持つ彼はさすが聖獣と言われるだけあって、日頃から人目を避けて静かな森の中でひっそり暮らしている。
そしてその高貴な彼の姿を知る人物は極わずかで、悠久の城に仕える上位者たちはこれに該当する。
ダルドは清らかな川底で光る目当ての物を道具を使い丁寧に砕く。彼は手の平に収まるほどの石を日の光へ翳し、くもりなく七色に反射したのを見届けると満足そうに頷いた。
「うん。これも一級品だ」
悠久の地でしか採れない貴重な鉱物を使い慣れた鞄の中に仕舞いこむと、ダルドは風のように森の中を駆けていく。
「大丈夫。僕のほうがはやく家に着く」
ひとり納得したように呟くと彼は棲家である山小屋へと向けて速度を上げる。
(……たぶん五人。城のほうからやってくる。キュリオ王の使いに違いない)
並外れた嗅覚と聴覚が彼に細やかな情報を与え、人型聖獣となって過ごした数十年の経験がその先の予測を立ててくれた。
「……修理か武器の新調か……」
一人住まいとしては十分な広さを持つ小屋へあっという間にたどり着くと、採取してきたいくつもの純度の高い貴重な鉱物を鞄の中から取り出し、修理に最適な紫色の鉱物を作業部屋の棚の中から幾つか持ち出してきた。
さらにダルドはキュリオに何を注文されてもいいよう、愛用の手帳とインク、羽ペンを用意する。
「あとは……」
いよいよ近づいてきた気配に窓の外を見ると、馬に乗った身なりの良い男たちが人の乗っていない馬を引き連れてこちらに向かっている姿が確認できた。
「具体的に要望があれば教えてくれるよね」
彼らの服装からキュリオの家臣であることを確信したダルドはお手製のクローゼットから特別に誂えられた外套を手繰り寄せ、とりあえず手身近な椅子に座って待つ。
(……前にキュリオ王に呼ばれたのはいつだっけ……)
鍛冶屋(スィデラス)の彼が呼ばれるのは、大抵はキュリオの腹心たちが昇格した時やそれに見合った実力を備えた者たちに与えられる武器を生成するときだった。
ダルドは武器を生み出す才能に突出しており、それを必要としている相手を一目見ただけで何がその者に向いているのかを見極めることができる。
そして噂では料理長のジルが愛用している包丁なども彼が作ったという話もあり、なにをさせても難なく仕上がってしまう程に多才である事は間違いない。
ぼんやりと悠久の城でのやりとりを思い出していると、馬の鳴き声と共に人の足音が近づいてきた。
――コンコン
扉を叩く音がして礼儀正しい男の声が響いた。
『失礼いたしますダルド様。キュリオ様よりご依頼でございます』
「うん。開いているよ」
すでに待ち構えていたダルドが返事をかえすと、ゆっくり扉が開いた。
「今回はどんな用件? 急がないならいいけど、早急だったらある程度準備したいのだけど」
ダルドは立ち上がり、手元の鞄にポンポンと手をのせると家臣に話を促す。
「ハッ!
期限は明日の朝、ご依頼の内容はキュリオ様より預かって参りましたこちらに御目通し願うよう仰せつかっております」
「明日の朝か……」
顎に手をあて考え込む彼は、受け取った書簡に目を通しながら鞄を手に奥の部屋へ戻る。
見慣れたキュリオの文字からレシピを考案するように分厚い魔導書といくつかの鉱物、さらに小首を傾げながら別の棚で煌めく桃色の石を布で包んで鞄へとしまう。
「……武器じゃないものがひとつ……」
(珍しい……)
いままでの依頼に一度としてなかった女性物の装飾品をあらわす言葉にダルドは疑問を持ったが、それがどう使われるか、誰に渡る物なのかは想像できなかった。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
バサッと羽織ったダルドの外套には銀細工のブローチがついている。これはキュリオが彼に直々に手渡した、城の外に住まいながらも自由に城への出入りを許されている者の証だった。
彼は数人の家臣に誘導された気品あふれる一頭の馬へと跨り、手綱を引いた。
(本当は僕が走ったほうが速いかもしれないけど……)
内心本音をもらしたダルドだが、こうしてひとりの人間として扱ってくれるキュリオの心遣いが少し嬉しくもあった――。
そしてその高貴な彼の姿を知る人物は極わずかで、悠久の城に仕える上位者たちはこれに該当する。
ダルドは清らかな川底で光る目当ての物を道具を使い丁寧に砕く。彼は手の平に収まるほどの石を日の光へ翳し、くもりなく七色に反射したのを見届けると満足そうに頷いた。
「うん。これも一級品だ」
悠久の地でしか採れない貴重な鉱物を使い慣れた鞄の中に仕舞いこむと、ダルドは風のように森の中を駆けていく。
「大丈夫。僕のほうがはやく家に着く」
ひとり納得したように呟くと彼は棲家である山小屋へと向けて速度を上げる。
(……たぶん五人。城のほうからやってくる。キュリオ王の使いに違いない)
並外れた嗅覚と聴覚が彼に細やかな情報を与え、人型聖獣となって過ごした数十年の経験がその先の予測を立ててくれた。
「……修理か武器の新調か……」
一人住まいとしては十分な広さを持つ小屋へあっという間にたどり着くと、採取してきたいくつもの純度の高い貴重な鉱物を鞄の中から取り出し、修理に最適な紫色の鉱物を作業部屋の棚の中から幾つか持ち出してきた。
さらにダルドはキュリオに何を注文されてもいいよう、愛用の手帳とインク、羽ペンを用意する。
「あとは……」
いよいよ近づいてきた気配に窓の外を見ると、馬に乗った身なりの良い男たちが人の乗っていない馬を引き連れてこちらに向かっている姿が確認できた。
「具体的に要望があれば教えてくれるよね」
彼らの服装からキュリオの家臣であることを確信したダルドはお手製のクローゼットから特別に誂えられた外套を手繰り寄せ、とりあえず手身近な椅子に座って待つ。
(……前にキュリオ王に呼ばれたのはいつだっけ……)
鍛冶屋(スィデラス)の彼が呼ばれるのは、大抵はキュリオの腹心たちが昇格した時やそれに見合った実力を備えた者たちに与えられる武器を生成するときだった。
ダルドは武器を生み出す才能に突出しており、それを必要としている相手を一目見ただけで何がその者に向いているのかを見極めることができる。
そして噂では料理長のジルが愛用している包丁なども彼が作ったという話もあり、なにをさせても難なく仕上がってしまう程に多才である事は間違いない。
ぼんやりと悠久の城でのやりとりを思い出していると、馬の鳴き声と共に人の足音が近づいてきた。
――コンコン
扉を叩く音がして礼儀正しい男の声が響いた。
『失礼いたしますダルド様。キュリオ様よりご依頼でございます』
「うん。開いているよ」
すでに待ち構えていたダルドが返事をかえすと、ゆっくり扉が開いた。
「今回はどんな用件? 急がないならいいけど、早急だったらある程度準備したいのだけど」
ダルドは立ち上がり、手元の鞄にポンポンと手をのせると家臣に話を促す。
「ハッ!
期限は明日の朝、ご依頼の内容はキュリオ様より預かって参りましたこちらに御目通し願うよう仰せつかっております」
「明日の朝か……」
顎に手をあて考え込む彼は、受け取った書簡に目を通しながら鞄を手に奥の部屋へ戻る。
見慣れたキュリオの文字からレシピを考案するように分厚い魔導書といくつかの鉱物、さらに小首を傾げながら別の棚で煌めく桃色の石を布で包んで鞄へとしまう。
「……武器じゃないものがひとつ……」
(珍しい……)
いままでの依頼に一度としてなかった女性物の装飾品をあらわす言葉にダルドは疑問を持ったが、それがどう使われるか、誰に渡る物なのかは想像できなかった。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
バサッと羽織ったダルドの外套には銀細工のブローチがついている。これはキュリオが彼に直々に手渡した、城の外に住まいながらも自由に城への出入りを許されている者の証だった。
彼は数人の家臣に誘導された気品あふれる一頭の馬へと跨り、手綱を引いた。
(本当は僕が走ったほうが速いかもしれないけど……)
内心本音をもらしたダルドだが、こうしてひとりの人間として扱ってくれるキュリオの心遣いが少し嬉しくもあった――。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】
リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。
これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。
※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。
※同性愛表現があります。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる