173 / 212
悠久の王・キュリオ編
ダルド、キュリオとの出会いⅦ
しおりを挟む
――雨に濡れたキュリオが見慣れぬ青年を抱え城に戻ると、待機していた大臣や家臣、女官や侍女たちが一斉に頭を下げ両脇へ並んだ。
『お帰りなさいませ! キュリオ様!!』
たいぶ夜も深まった時刻だというのに皆主の帰りを待ち、出迎えをと顔を揃えていたのだ。
『皆、遅くにすまない。詳しいことは明日説明するが、彼の名はダルド。私の友人だ』
『ようこそダルド様!』
ダルドの変わった容姿にも眉をひそめることなく、警戒心のない笑顔を向けてくれた人間にさえ戸惑ったダルドは早々に口籠ってしまった。
『……え、えっと……』
数多の眼差しを受けた彼は自分の意志とは無関係に強張る体と彷徨う視線に抗いながらも、勇気を振り絞ってこの場にふさわしい言葉を探しながら顔を上げた――が、決定的なもの目にしたダルドは一瞬にして凍りついてしまった。
『……っっ!! ……ぼ、ぼくっ……』
『……?』
声を震わせ、一歩二歩と後ずさりするダルドに気づいたキュリオ。
(……なにを怯えている?)
人型聖獣の彼の視線を追って目の当たりにしたのはキュリオにとっても身近なものであり、この国を守る立場にある者ならば必要不可欠なものだった。
(……原因は門番の腰にある剣か……)
『彼を客室へ案内しておくれ』
『かしこまりましたっ!』
弱った彼を刺激せぬよう、この場から遠ざけることに決めたキュリオの声に進み出た侍女へついて行くようダルドに言い聞かせる。
黒髪の侍女は歓迎の意を込め満面の笑みでダルドに一礼したが、ダルドはまるで……すがりつくように寂しげな瞳でキュリオに訴える。
『い、いやだ……っ、……キュリオと離れたくない……っ!』
『ダルド、君が怯える理由はわかっている。
しかし、人の世を理解してもらうためには通らなくてはならない道があるんだ』
『……り、りかい……?』
『あぁ。だから私を信じてくれたように、ここにいる者たちを信じてもらえないだろうか?』
『…………』
(キュリオを信じたように、皆を……)
――目の前に広がった小さな波紋はまるで自身の心をうつしたように揺らめいて、ダルドは複雑な気持ちを拭い去るように湯の中に全身を沈めていく。
彼はまだ迷いの中にいた。
あの時キュリオが助けに来てくれなければ、猟師(キニゴス)たちにこの身は囚われ……力のないダルドはいとも容易くその命の灯を消されていただろう。
(ぼくは……人間がこわい……彼らのもつ剣も弓もっ……)
暗闇の中、ギラリと不気味に光る猟師(キニゴス)たちの刃を思い出し、またダルドの体は小刻みに震えてしまう。
(……どうしたら、いいの……っ……)
零れ落ちた涙はキュリオの力が満ちたこのあたたかい湯に溶けて、傷ついた彼の心と体を慰めるように優しく包み込んでいく。
(……ごめん、キュリオ……)
――ごめん――……
『お帰りなさいませ! キュリオ様!!』
たいぶ夜も深まった時刻だというのに皆主の帰りを待ち、出迎えをと顔を揃えていたのだ。
『皆、遅くにすまない。詳しいことは明日説明するが、彼の名はダルド。私の友人だ』
『ようこそダルド様!』
ダルドの変わった容姿にも眉をひそめることなく、警戒心のない笑顔を向けてくれた人間にさえ戸惑ったダルドは早々に口籠ってしまった。
『……え、えっと……』
数多の眼差しを受けた彼は自分の意志とは無関係に強張る体と彷徨う視線に抗いながらも、勇気を振り絞ってこの場にふさわしい言葉を探しながら顔を上げた――が、決定的なもの目にしたダルドは一瞬にして凍りついてしまった。
『……っっ!! ……ぼ、ぼくっ……』
『……?』
声を震わせ、一歩二歩と後ずさりするダルドに気づいたキュリオ。
(……なにを怯えている?)
人型聖獣の彼の視線を追って目の当たりにしたのはキュリオにとっても身近なものであり、この国を守る立場にある者ならば必要不可欠なものだった。
(……原因は門番の腰にある剣か……)
『彼を客室へ案内しておくれ』
『かしこまりましたっ!』
弱った彼を刺激せぬよう、この場から遠ざけることに決めたキュリオの声に進み出た侍女へついて行くようダルドに言い聞かせる。
黒髪の侍女は歓迎の意を込め満面の笑みでダルドに一礼したが、ダルドはまるで……すがりつくように寂しげな瞳でキュリオに訴える。
『い、いやだ……っ、……キュリオと離れたくない……っ!』
『ダルド、君が怯える理由はわかっている。
しかし、人の世を理解してもらうためには通らなくてはならない道があるんだ』
『……り、りかい……?』
『あぁ。だから私を信じてくれたように、ここにいる者たちを信じてもらえないだろうか?』
『…………』
(キュリオを信じたように、皆を……)
――目の前に広がった小さな波紋はまるで自身の心をうつしたように揺らめいて、ダルドは複雑な気持ちを拭い去るように湯の中に全身を沈めていく。
彼はまだ迷いの中にいた。
あの時キュリオが助けに来てくれなければ、猟師(キニゴス)たちにこの身は囚われ……力のないダルドはいとも容易くその命の灯を消されていただろう。
(ぼくは……人間がこわい……彼らのもつ剣も弓もっ……)
暗闇の中、ギラリと不気味に光る猟師(キニゴス)たちの刃を思い出し、またダルドの体は小刻みに震えてしまう。
(……どうしたら、いいの……っ……)
零れ落ちた涙はキュリオの力が満ちたこのあたたかい湯に溶けて、傷ついた彼の心と体を慰めるように優しく包み込んでいく。
(……ごめん、キュリオ……)
――ごめん――……
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】
リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。
これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。
※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。
※同性愛表現があります。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる