【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

文字の大きさ
194 / 212
悠久の王・キュリオ編

望み、生み出されるもの

しおりを挟む
 ダルド帰還の知らせを受けたキュリオは広間の一角、ロイが籠る部屋の扉を叩いた。

「ロイ、君を夕食に招きたいのだが、そろそろどうだろう?」

『あっ! お待ちくださいキュリオ様っ!! すぐ開けますので!!』

 返事とともにバタバタと駆け寄る彼の足音が近づいてくる。

――ガチャッ

「もうそんな時間なんですね。お誘いいただいて恐縮ですが、間もなくドレスが完成いたしますので私はもう少しここで作業を続けます」

 キュリオが同席する食事など身に余る光栄だがロイにはやるべきことがある。それは他でもない自分に任された仕事があるからだ。
 彼の真面目な性格をよく知るキュリオは大人しく頷きながら提案する。

「あぁ、わかった。ダルドも戻ったばかりだからね。いまちょうど湯浴みをしているところなんだ。食事は皆揃ってからはじめようと思う」

「……あ、ありがとうございますキュリオ様……!」

 嬉しそうに頭を下げたロイにキュリオは笑みを浮かべると"では、またあとで"と言葉を残し去って行った。

 さらにやる気に満ちたロイは可憐に輝くドレスの細部へと針を通す。
 首元を柔らかく包んで揺れるのは純白の鳥の羽だ。そしてその周りを縁取るのは銀の刺繍。裾は波打つフレアのように広がりを見せて輝いている。

 ――銀の刺繍に羽――
 王のみが許される銀の刺繍に羽ともなれば、もはやこれは現王キュリオそのものを意味している。一見、それは咎められるべき恐れ多いデザインをあえてロイはキュリオに提案してみせたのだった。そして彼女の存在を誰よりも愛している彼は快く承諾し、とても気に入ってくれた。

 キュリオがこのドレスに天使らしさを感じたのも恐らくこの羽と全体に漂う柔らかな雰囲気によるものだろう。

「……あとはここだ」

 ロイの血族が生み出す美しいシルエットと繊細な技術は、紛れもなくこの若い仕立屋ラプティスにも受け継がれている。そして王へ寄り添い、彼の想いを汲み取る能力に長けているのも大きな特徴と言える。

 ――キュリオは広間から退出し、アオイを抱いたまま長い通路を歩いていく。手入れが行き届いた品の良いオブジェやいろどり鮮やかな花々が至る所に飾られており、明かりが少なくとも寂しさをまったく感じさせない悠久の城。

 おそらく五大国でもっとも色彩に恵まれているのがこの<悠久の国>だ。穏やかな気候は力の持たない人間たちにとってとても過ごしやすい環境にあり、人の集まる場所は必然的に栄える。そうして元より豊かな自然に囲まれたこの雄大な大地には、ひとの手によって新たな色が生まれていったのである。

 同じく自然に恵まれた国といえば<精霊の国>だが、"人間"は存在していない。
 そこに生きるあらゆる命がありのままの姿を見せ、共存する精霊たちもそれに手を加えたりはしない。現・精霊王であるエクシスが住まう彼の神殿も太古の時代の王が建造したものをそのまま使用しているというから驚きだ。

 彼ら曰く、『"物体"にはあまり感心がなく、生命を持つ"生命体"の素の部分に触れることこそが魅力』なのだという。つまりは精霊たちにとって、彼らの住む<精霊の国>こそが理想であり神聖なのだ。そしてその環境はここ悠久にも似たような場所がたくさん残っている。さらには気候も似ていると理由からか、精霊たちがよく羽を伸ばしに訪れ、そのまま居続けるものもいる。

(……そういえばエクシスの言った通りだったな……)

 アオイを救いたい一心で未知なる領域へと初めて足を踏み入れたキュリオ。エクシスから聞いていた"似ている"の意味がわかったような気がする。

("惑わされる"と忌み嫌われていた部分もある<精霊の国>は閉ざされていたわけではなかった。一体いつから……)

 ふと、素朴な疑問が浮かんだキュリオだったが、人見知りのエクシスを見ていれば何となく理解できる。

(……おそらく、彼らは他国との関わりを拒んでいた)

 元はひとつの大地で共存していたとされる五大国。
 太古の精霊たちは人との交流に憧れ、何度も試みたに違いない。彼らはとても純粋で、好奇心に満ちあふれた美しいエネルギーの塊なのだ。しかし、ひとつ大きな障害がある。

 ――精霊は人に触れることが出来ない――……
 一向に埋まらぬ距離、寿命の違い、そして……伝わらぬ温もり……

 一度は歩み寄った精霊と人間はいつしか努力に疲れ、次第に疎遠になり……とうとう別々の道を歩んでしまったに違いない。だからこそ気持ちの優しい"光の精霊"や"水の精霊"は現実と夢の狭間はざまで長い時を生きる<精霊王>エクシスと唯一交流を続けるキュリオのことをとても頼りにしているのだ。そして多くを語らぬ精霊王や<精霊の国>には謎が多く、さらに<夢幻の王>と呼ばれる精霊王にはさまざまないわれがあった。

 歴代の精霊王たちはいずれも長く王座に君臨していたことから、<夢幻の王>を<無限の王>と例えることも多々あったと聞く。王の持つ力に比例してその命が長らえることは覆ることのない事実で、偉大な王を生み出すことで名を馳せる<精霊の国>ですらようやく誕生した千年王は実に数万年ぶりだと聞く。

 伝説級と謳われる千年王の力がどれほどのものかは誰にもわからない。

『世界が"何か"を望んだとき、その力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして――』

『その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない』

 現王キュリオによく似た容姿を持つ先代の言葉が蘇る。あどけなさを残した当時のキュリオは、なかなか呑み込めない彼の貴重な言葉を何度も繰り返し呟いたものだった。

「"世界"が望んだものが"千年王の力"でなければ良いのだが……」

 この時代に伝説級の千年王が誕生したのがただの偶然であることを強く願うキュリオは愛しい娘を抱く腕に無意識に力を込め、長い廊下へと差し込む暮れる日を見つめボソリと呟いた。


 ――そしてそれは<冥王>マダラにも言えることだった。

『これは唯一無二のお前の神具だ。この鎌がどう形を成すか……ちょっとした逸話がある』

『平穏な代に即位した王の鎌は美しく癖のない形を……』

 しかし、禍々しいまでのマダラの神具は……どうみても戦いに向いた不気味なかたちをしている。

『お前の代はきっと何かが起きる』

 若き次代の王を案じた先代冥王だが、その言葉をこの上なく歓迎したマダラは不穏な笑みを浮かべていた――。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。 これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。 ※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。 ※同性愛表現があります。

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...